シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「いしぶみ」(2016年 日本映画)

2016年08月21日 | 映画の感想・批評
 1945年8月6日午前8時15分、広島上空に達したB29戦闘機エノラゲイは原子爆弾を投下し、一瞬にして市街地を壊滅させ、人類史に類例のない十数万人の非戦闘員を巻き込むmassacre(大虐殺)を敢行した。それから71年目の当日、アメリカ合衆国大統領バラク・オバマは平和記念公園で核兵器廃絶の誓いを立てた。むろん、それに対しては様々な意見もあろう。ついに多くの犠牲者に対する謝罪の言葉は聞かれなかったとして、キューバのカストロ前議長はオバマ演説を非難した。たしかにそのとおりである。
 しかし、オバマは残り5か月と迫った任期の間に「核の先制不使用宣言」の検討という画期的な方策を打ち出したが、日本や韓国、欧州の同盟国が乗り気でないと推測される中、ワシントンポスト紙が驚くべき内幕を報道した。世界で唯一の被爆国日本の内閣総理大臣、安倍晋三がこともあろうにハリス米太平洋軍司令官に「核先制不使用宣言に反対する」と伝えていたというのだ。首相はそんな事実はないと白を切っているらしいが、野党はこの問題にきっちり白黒をつけるべきだろう。もし、本当ならとんでもない話だ。
 映画「いしぶみ」は是枝裕和監督の「海街Diary」と並ぶ畢生の代表作になるだろう。8月6日、建物疎開の作業を行っていた県立広島第二中学校1年生321名と教師ら全員が犠牲となった。その関係者の証言をまとめたドキュメンタリが69年に地元テレビ局で制作され文集「いしぶみ」にまとめられ、今般それをもとに映画が作られた。映画の大半は地元出身の綾瀬はるかの朗読で占められる。ややもすれば退屈となるかもしれない朗読の場面で館内からすすり泣きが漏れるという緊張!それはそうだろう。たった12~13歳でこの世の地獄を味わい命を奪われた少年達の無念を思うと、もはや平常心ではおられない。世界の指導者たちは、こころしてこの映画を見よ、といいたい。
 栄養失調のため休まざるを得なかったとか、電車に乗り遅れたとかで学校の作業に行けなくなって助かった生徒たちもいた。そういう生き証人を訪ねて池上彰がインタビューする。一様にかれらがいうことは、生きながらえたことへの複雑な心境、助かったという安堵より自分たちだけが助かったという後ろめたさ。戦争とは、生き残った側にも残酷な思いを強いるのである。
 二度と戦争を起こしてはならない。日本は特別な国のままでいい。「普通の国」「戦争のできる国」になる必要など断じてないのだ。(健)

監督:是枝裕和
原案:薄田純一郎
原構成:松山善三
撮影:山崎裕
出演:綾瀬はるか、池上彰

「ターザン:REBORN」(2016年アメリカ映画)

2016年08月11日 | 映画の感想・批評


 「元ターザン」で、今は貴族として日々を送っている主人公が、「現ターザン」として復帰するという発想が今風で面白い。だから、副題が「REBORN」なのだ。経済界等ではよくある話で、一度引退を表明した人物でも、再度、表舞台に駆り出される今の時代が生んだ流れであろうか。ただ、そこは映画(=虚構)の世界。復帰後のターザンは、手強い相手に苦労しながらも、最後は、愛する人を守り、自然を守り、動物達を守り切るストーリーである。
 勧善懲悪パターンなので、安心して観ていれるが、欲を言うのであれば、もっともっと、ターザンが、自然を愛し、動物を愛し、奥様を愛しているのかを表しているシーンがあれば、それを奪おうとする者達に対する怒りや憎しみが感じられ、ターザンに感情移入出来たのではないかと思えた。その方が、葛藤があり物語的には面白いと思うが、その辺は、あっさりと描かれている感じがして、少し残念だった。「ターザン」=「熱血漢溢れる人」という印象があっただけに、肩透かしを食らった印象である。
 でも、CGは素晴らしかった。とてもリアルでゴリラとの対決シーンは迫力満点。2Dで観たが、3Dの方が迫力は更に上積みされていただろう。まだ、観ておられない方には、3Dをお勧めする。
 それにしても、ターザンを助ける役のサミュエル・L・ジャクソンが銃を構えると、「ヘイトフルエイト」とダブってしまい、ターザンとゴリラとの対決シーンは、レオナルド・ディカプリオの「レヴェナント 蘇えりし者」とダブってしまうという、製作された方々には大変申し訳ないが、本筋ではない部分で「REBORN?」してしまった作品であった。
(kenya)

原題:「The Legend of Tarzan」
監督・製作総指揮:デウィッド・イェーツ
撮影:ヘンリー・ブラハム
ストーリー・脚本:クレイブ・ブリュワー、アダム・コザット
出演:アレクサンダー・スカルスガルド、サミュエル」・L・ジャクソン、マーゴット・ロビー、ジャイモン・フンスー、ジム・ブロードベント、クリストフ・ヴァルツ

「ファインディング・ドリー」(2016年 アメリカ映画)

2016年08月01日 | 映画の感想・批評


 最近、物忘れがひどい。さっきまで次はこれをしようとしっかり決めていたのに、何か違うことに気が移ると、「あれ、今何をしようとしていたんだっけ??」と立ち止まることがしばしば。ついに認知症の表れかと気が気ではない。さて、これからの仕事に支障が出ないか、ちょっと心配な面も・・・。
 グレート・バリア・リーフの美しいサンゴ礁の海で暮らすカクレクマノミのニモとマーリンの奇跡の大冒険から1年後の世界(映画は13年も前なのだが…。)が今回の舞台。主人公はちょっと前に話したことでもすぐに忘れてしまう、ナンヨウハギのドリ-。今の自分にそっくりのドリーに親近感を覚えながら、ドリーの家族を探す感動の旅にお付き合い。
 ドリーのいいところはどんな苦境にぶつかっても、明るく前向きにとらえられることだ。それにピクサー作品では毎度のことながら、主人公にかかわるキャラクターたちが個性豊かでホントに魅力的。今作はそれぞれのキャラたちが何かしらのハンディキャップを持っているのも大きな特徴だ。例えばニモは右ひれが小さいし、ドリーは健忘症。ミズダコのハンクは7本足で海嫌い。ジンベイザメのディスティニーは視力が弱くて泳ぐのが苦手・・・等々。でもそのことをしっかり受け止め、お互いに認め合い、助け合って苦難を乗り越えていくところが共感を呼ぶ。忘れん坊のドリーが幼いころの記憶をもとに生まれ故郷にたどり着くところでは思わず涙。物忘れが激しくても、何らかのきっかけで思い出すこともあるだろうし、ぜひあってほしいと願いたい!!
 今、自分も症状がこれ以上悪化しないように心掛けていることがある。一つは大切だと思ったことはすぐにメモをして、目に着くところに貼っておくこと。もう一つは1日を振り返って、手帖にその日あったことを記録しておくことだ。これ、思い出すのになかなか効果あり。ちなみに手帖はキネマ旬報社発行の「キネノートDIARY」を使っている。映画好きにはすごく使い勝手が良くて便利だ。話がそれたが、ドリー、勇気と安心をありがとう!
(HIRO)

原題:FINDING DORY
監督:アンドリュー・スタントン、アンガス・マクレーン
脚本:アンドリュー・スタントン、ヴィクトリア・ストラウス
撮影:ジェレミー・ラスキー、イアン・メギベン
声の出演:エレン・デジェネレス、アルバート・ブルックス、ヘイデン・ローレンス
日本語版声の出演:室井滋、木梨憲武、菊池慶、上川隆也、中村アン
同時上映:「ひな鳥の冒険」(監督:アラン・バリラーロ)