シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「パトリオット・ディ」(2016年アメリカ映画)

2017年06月21日 | 映画の感想・批評


 「パトリオット・ディ」とは、「愛国者の日」という意味で、その日に開催されるボストンマラソンには、多くの人が参加する歴史あるイベント日でもある。が、2013年のその日に、爆弾テロが発生し、多数の死傷者が出た痛ましい実話を基にした映画である。
 前半は、主人公であるボストン警察ののんびり感が漂う警察官を中心に、マラソン前日から、時間に沿って、テロ発生後に事件解決に向け奔走する人々と、犯人の動きを平行して映し出し、緊迫感を高めていく手法は映画らしく、観ていて引き込まれていく。同じピーター・バーグ監督の前作「バーニング・オーシャン」でも、そのような時間操作を編集とうまく絡み合わせる演出は、流石だと感じた。結果を分かっていても、緊張感が高まってくる。一流のサスペンスである。そして、後半は、犯人逮捕に向けて、前述ののんびり警官が、人が変わったように動き出し、大勢の警官やFBI、そして、ボストン市民も一丸となって、事件解決に向かうドキュメンタリー風になっている。
 上述のように、映画自体は纏まっているのだが、肝心な点が足りない。それは、何故、犯人がテロを実行するに至ったのかは、触れられていないのである。犯人の妻が逮捕され、夫の事前の行動を見ていたけれども、テロリストの目的というのか掟というのか、勝手に目指しているものに対する忠誠心なのか、決して、口を割らないシーンあり、辛うじて、テロを仕掛ける側の心理に触れる程度で、一番の問題点を表すシーンが無かったのが残念だった。ただ、それを入れてしまうと、作風が変わってしまう結果になってしまうが・・・。でも、テロを題材にしたのであれば、そこを描かないと、勧善懲悪ストーリーで完結してしまった印象は否めない。
 事件当時の恐怖、緊張感、犯人逮捕までの市民の一体感は凄かっただろう。リンカーンの名言に准えて、本作品は、「ボストン市民の、ボストン市民による、ボストン市民のための映画」という所だろうか。
(kenya)

原題:「PATRIOTS DAY」
監督・原案:ピーター・バーグ
脚本:ピーター・バーグ、マット・クック、ジョシュア・ゼトゥマー
撮影:トビアス・シュリッスラー
編集:コルバー・パーカー・JR
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
出演:マーク・ウォールバーグ、ケヴィン・ベーコン、ジョン・グッドマン、J・K・シモンズ、ミシェル・モナハン他

「美女と野獣」(2017年 アメリカ映画)

2017年06月11日 | 映画の感想・批評


 18世紀のフランスで誕生した「美女と野獣」の物語は、時代を超えて文学や映画、TVドラマ、舞台、バレエなど様々な形で感動を生み出してきたが、なかでも印象深いのは1991年に公開されたディズニーのアニメーション版。アカデミー賞作品賞にノミネートされたほか、オリジナル作曲賞,主題歌賞の2部門を受賞。その曲はブロードウェイミュージカルとして舞台化された時にも使われ、今回の完全実写版で3度目のご披露となるが、全く色あせることはなく、だれもが親しみを込めて口ずさんでしまう。♪BEAWTY AND THE BEAST~~♪と。これぞまさしく名曲だ。
 主役のベルを演じるのはエマ・ワトソン。ハリー・ポッターシリーズのハーマイオニー役として10年間活躍し、エマ・ワトソン=ハーマイオニーという感があったが、27歳のレディに美しく成長した現在、このベル役も、彼女の代表作として人々の記憶に深く残ることになるだろう。それほど役になりきっている。また、野獣に扮するダン・スティーヴンスをはじめ、ルーク・エヴァンス、ユアン・マクレガー、イアン・マッケラン、エマ・トンプソンなど、イギリス出身の舞台経験が豊富な演技派たちが脇を固めていて、この作品の重厚度を高めている。
 4半世紀も前のアニメ作品が今なぜ実写化なのか、監督のビル・コンドンは、それはこの25年間の映像テクノロジーの進化が与えてくれたものだと語っている。今が絶好のタイミングだというのだ。特にあの野獣が実写化されたらどのようになるのか興味津々だったのだが、何でも野獣に関しては、同じシーンを体全体の動きと、顔の表情だけに分けて2度撮影し、デジタル処理したそうで、何とも自然な仕上がりに感心させられた。その青い瞳に吸い込まれるように魅了されていくベルに共感しつつ、ラストはベルの愛を受け止めて、原作通りイケメン王子にめでたく変身!別に野獣のままでも十分心は通じ合っていたはずだが・・・、そこは定石破りとはいかなかったようだ。
 とにもかくにも、興行的には大成功で、興行収入も本年度初の100億円を突破。さあ、どこまで記録を伸ばせるか楽しみだ。
(HIRO)
 
原題:BEAUTY AND THE BEAST
監督:ビル・コンドン
脚本:ステファン・チボスキー、エヴァン・スピリオトプロス
撮影:トビアス・シュリッスラー
作曲:アラン・メンケン
作詞:ハワード・アシュマン、ティム・ライス
出演:エマ・ワトソン、ダン・スティーヴンス、ルーク・エヴァンス、ケヴィン・クライン、ユアン・マクレガー、イアン・マッケラン、エマ・トンプソン

「メッセージ」(2016年アメリカ映画)

2017年06月01日 | 映画の感想・批評


 アカデミー賞の作品賞にノミネートされ、注目を集めたSF大作であるが、見世物的なおもしろさを期待して行くと返り討ちに遭うような真剣な問題作である。
 日本を含む世界の12箇所に得体の知れない米粒型の巨大な未確認飛行物体が現れ、静止したまま立ち去る気配が無い。優秀な女性の言語学者の家に特命を帯びた軍の幹部が突然やって来て、エイリアンとの交信記録を聞かせ、翻訳できないかと迫る。
 モンタナ州の上空に浮かんだまま静止する飛行物体は18時間ごとに酸素を取り入れるため底の部分の出入り口を開放する。これを利用して、くだんの言語学者と物理学者のふたりがエイリアンとの交渉役に選抜され、飛行物体の内部に送り込まれるのである。かくして、基礎的な単語からはじめてエイリアンの言語と英語を対応させる地道な作業に入る。なるほど、未知の言語を翻訳するとはこういうことなのかと納得される。そうして、かれらがなぜ地球にやってきたのか、その目的を聞き出そうというのである。一方で、中国やロシアはアメリカの試みに疑問を呈し、エイリアンの意図を侵略だと主張して飛行物体への攻撃に転じようとしていた。
 これで地球は破滅するのか、とハラハラさせられるのだが、土壇場で主人公がかれらの驚くべき目的を解明するところは感動的である。まさに、いまの国際関係に対するみごとな警鐘というか、警告の意味を持っていて一本やられたと思った。こう見ると地球の誕生が46億年前というから、人間などたかだか数十万年の歴史しか持たぬ野蛮で低レベルの生き物だと考えさせられる。
 あるいはまた、この映画が教えるもうひとつの大切なことは安全保障というものが決して武力や威嚇では解決できず、優れたコミュニケーション力、交渉力と外交術によってのみ担保され、そこに建設的な未来が開かれるのだといっているように思った。
 ところで、冒頭に言語学者の娘が小児がんか何かで早世するエピソードが語られ、終盤では元気だった頃の幼い娘が粘土で宇宙人を作って遊んでいる回想場面が何気なく挿入されたりするのだが、実はここにちょっとした時制のトリックが仕掛けてあることにご注意を。(健)

原題:Arrival
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:エリック・ハイセラー
原作:テッド・チャン
撮影:ブラッドフォード・ヤング
出演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、マイケル・スタールバー  グ、ツィ・マー