シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ゴーン・ガール」(2014年アメリカ映画)

2014年12月21日 | 映画の感想・批評
 2時間半の長尺があっという間に過ぎる。ミステリアスなサスペンスを得意とするデヴィッド・フィンチャー監督の力わざというべきだろうか。
 結婚5周年の記念日に、頭脳明晰な切れ者ライターの妻(ロザムンド・パイク)が二流ライターの夫(ベン・アフレック)の外出している束の間に姿を消す。夫が帰ってみると居間の硝子製の机が粉々に砕け散っていて事件性をうかがわせた。通報を受けた警察が現場に到着して検証するうちに、キッチンの床に妻のものと思われる大量の血がルミノール反応によって検出される。何者かが妻に重傷を負わせ、その痕跡を拭き取り、生きているにせよ、死んだにせよ妻を連れ去ったということを意味していた。つまり、外部から侵入した者の犯行というより内部犯行の可能性を強くあらわしているのだ。おまけに夫に不利な状況が次々に明るみに出るに及んで、とうとう夫は妻殺しの容疑で逮捕されるのである。
 そうして、事件の真相は案外早くに明かされて次なる展開を始めるのだが、映画の構成としては、妻の失踪と夫の逮捕、冤罪の主張という前半部分、妻の失踪の真相が明かされる中程と、後半のちょっとぞっとさせる後日談の三つに分かれる。むしろこの映画のおもしろさの核となるのは中程からで、本当はそこを書かないと説明できないのだが、ネタバレになるのでずいぶん消化不良の紹介しかできないことが残念である。ヒントをいえば、要するにファムファタール(運命の魔性の女)の典型的な物語であるといえばよいか。
 しかも、この映画は余韻を残したまま終わる。運命の女の蜘蛛の巣に絡め取られた男の悲劇である。それが、何となく頼りなげなベン・アフレックによく似合っているのだ。 (ken)

原題:Gone Girl
監督:デヴィッド・フィンチャー
原作・脚色:ギリアン・フリン
撮影:ジェフ・クローンネンフェス
出演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス、タイラー・ペリー、キャリー・クーン、キム・ディケンズ

「インターステラー」 (2014年 アメリカ映画)

2014年12月11日 | 映画の感想・批評


 2000年に「メメント」を発表して以来、新作を出すたびにファンを唸らせてきたクリストファー・ノーラン監督。今回「ダークナイト・ライジング」に続き、弟ジョナサンとタッグを組んで脚本を書き、向かった先は宇宙!
 アメリカ中部の穀倉地帯。著しい環境変化によって農作物は多大な被害を受けていた。小麦はもう作れない。クーパーが今義父と作っているのはトウモロコシだが、いつまで続けられるかどうか。それほどまでに地球は崩壊寸前にまで追い込まれていた。
 クーパーはかつて腕の立つパイロット兼エンジニアとして活躍し、今も空への夢を持ち続けていた。そんな彼に再びチャンスが訪れる。地球をあきらめ、人類の未来を宇宙に求めるというプロジェクトがNASAを通じて極秘裏に進められていた。娘と共に誘われるようにその秘密施設に迷い込んだとき、クーパーはプロジェクトの中心人物であり、恩師でもあるブランド教授と出会い、宇宙探査クルーのパイロットに抜擢される。人類を救うために宇宙に飛び立つ決心したクーパーを待ち受けているのはいったい何か?そして彼は無事愛する家族の元に帰還できるのだろうか。今、前人未到の宇宙への旅が始まろうとしていた。
 主人公クーパー役を演じるのは、今最も注目を集めている実力派俳優、マシュー・マコノヒー。人類の未来と家族への愛の選択に揺れる難しい役どころを見事に演じきった。クーパーと同行する生物学者アメリアには、「レ・ミゼラブル」の好演が光るアン・ハサウェイ。ほかにも、マイケル・ケイン、ジョン・リスゴーなど名優たちが脇を固めている。
 特筆すべきは、製作総指揮に理論物理学者キップ・ソーン博士を迎え、氏が唱えるタイムマシンも実現可能な「ワームホール理論」を核として取り入れていること。そして撮影にはあえてデジタルを使わず、65mmという大型フィルムを使用したIMAXカメラを使い、宇宙の奥深さを余すところなく表現している。五次元の世界?!の描写も見どころのひとつ。ここはぜひ、劇場の大スクリーンでご堪能あれ。
(HIRO)
 

原題:INTERSTELLAR
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:ジョナサン・ノーラン
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ 
出演:マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャスティン、ジョン・リスゴー、マイケル・ケイン

「シャトーブリアンからの手紙」(2012年フランス・ドイツ合作)

2014年12月01日 | 映画の感想・批評
 1941年10月20日、ドイツ占領下のフランスのナントでドイツ人将校が共産党員に暗殺されるという事件が起きた。パリのドイツ軍司令部に事件の報告が入り、ドイツ軍の将校でありながら反ナチであるシュテルプナーゲル将軍、シュパイデル大佐、ユンガー大尉は、ベルリンからの報復命令を心配する。そこへ駐仏ドイツ大使から「総統は150人の命を要求している」という冷酷な命令が伝えられる。
 シャトーブリアン郡にあるショワゼル収容所にはドイツ占領に反対する行動をとった者や共産主義者などの政治犯が多く収容されていたため、彼らの中から銃殺者のリストが作られることになる。リストには、占領批判のビラを映画館で配り逮捕された17歳のギィ・モケが入っていた。ギィは戦後、ナチ抵抗の悲劇の象徴として、パリの地下鉄の駅の名前にもなった伝説の少年である。
 シュレンドルフ監督は、ドイツ占領下のフランス市民銃殺を報告したエルンスト・ユンガー(大尉)の記録「人質の問題について」、人質になった人々の手紙、警察記録、作家ハインリヒ・ベルの小説などを基に脚本を書き上げた。
 「報復のための銃殺」を回避したい軍司令部のドイツ人将校、シャトーブリアン郡庁の役人、銃殺を命じられたドイツ兵、それぞれ苦悩しながらも誰もヒトラーの命令に背くことはできなかった。ギィたちのために収容所に駆けつけた司祭の「命令の奴隷になるな」という言葉が胸に突き刺さる。監督の妻であるマルガレーテ・フォン・トロッタ監督は「ハンナ・アーレント」で、「思考停止に陥るな」と訴えた。二人からのメッセージを心に刻まなければいけない。
 監督は、ドイツの過去の罪といえる史実を描くことで、「歴史を記憶することこそ、過去を乗り越え和解へと向かう道筋だ。ドイツ・フランス両国の和解なくしてヨーロッパはない」という思いを結実させた。
 「日本・中国両国の和解なくしてアジアはない」ですね!!(久)

原題:LA MER A L’AUBE
監督:フォルカー・シュレンドルフ
脚本:フォルカー・シュレンドルフ
撮影:リュボミール・バクシェフ
出演:レオ=ポール・サルマン、マルク・バルベ、ウルリッヒ・マテス、ヤコブ・マッチェンツ、ジャン=ピエール・ダルッサン