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「カラフルな魔女」(2024年 日本映画) 

2024年02月21日 | 映画の感想・批評


 ジブリアニメにもなった代表作「魔女の宅急便」で知られる児童文学作家・角野栄子。何とも楽しげで、何とも美しく、そして何とも若々しい。とても88歳とは思えない、まさに“魔女”の日常を4年間にわたって密着撮影したドキュメンタリー作品。すでに2020年から22年にかけてNHKのEテレで「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれるくらし」として放送された番組をもとに、新しく撮影したものを再編集して完成。Eテレの放送でファンになった方には、なつかしいエピソードがいっぱい出てくるに違いない。
 まずはその暮らしぶりから見てみよう。とにかく何をやっても楽しそう。料理もお好きなようで、お得意のトマトソースを使ったスパゲティの何とも美味しそうなこと。新鮮な野菜をたっぷり使い、赤いトマトと緑の青菜が見た目も鮮やかで食欲をそそる。娘さんの大好物だとか。他にも時間がないときに作る「バタバタバターライス」や「キャベツだけサラダ」をはじめとする「○○だけ料理」は、シンプルながらも自分が大好きな料理だから、美味しく栄養になるっていうもの。
 食べることと共に元気の源となっているのが歩くこと。66歳の時に移り住んだ場所がよかった。鎌倉だ。源頼朝が幕府を開いた歴史ある街の小径を、仕事を終えた夕方、行き先を決めることなく散歩することが日課となっている。名付けて“いたずら歩き”。たまには迷子になることがあるそうだが、それも楽しんでいるみたいだ。鎌倉という街は南に向かえば必ず海に出られるから、すぐに居場所がわかるようで、その道中でカフェに寄ったり、ぼーっと海を眺めたり、そういう豊かな時間が希なる発想力を生み出し、執筆活動に役立っているのは間違いない。その時必ず持って行くのが“黒革の手帖”。自由気ままに、出かけた先で目についたものや、心にとまったものを言葉やイラストで書き留める。ここに長年作家を続けてこられた証がある。もう50冊にもなっているそうだが、書いた言葉やイラストの一つひとつから、とてつもない想像力で角野ワールドが広がっていくのだろう。
 「人と違ってもいいから、自分の『好き』を大切にする」というのが角野さんのモットー。そのスタイルが生まれたのは幼い頃に戦争を経験したからだという。終戦は小学校5年生の時だったそうだが、それまで我慢、がまんで窮屈な時代だったから、そこから解放されて得られた自由な気分は、絶対に放したくないと思ったそうだ。そして自分が好きなものを自分で選んでいく自由が加わり、めがねにワンピース、アクセサリーと、どんどんカラフルなもので身の回りがいっぱいになり、今に至っているという。この超カラフルが相手を笑顔にさせ、心を弾ませてくれる。まるで魔女が放った魔法に見事にかかってしまったかのように。
 溢れんばかりの好奇心と冒険心が実を結び、作家・角野栄子を誕生させるきっかけとなったのがブラジルでの体験だ。1959年、結婚直後の24歳の時に渡ったブラジルで、彼女は運命的な出会いをする。同じアパートに住むルイジンニョ少年だ。慣れない異国での生活で落ち込んでいた時に、一緒に買い物に行ったり、ポルトガル語を教えてもらったりして心の支えになった少年。作家としてのデビュー作「ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて」のモデルともなったこの少年との再会が、新しいエピソードとして最後を盛り上げる。もういいお爺ちゃんとお婆ちゃんなのに(失礼)、62年ぶりに再会を果たした二人のワクワク感がたまらない。
 昨年オープンした、いちご色で統一された「魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)」はぜひ訪れてみたいものだが、まずは作品を読むところから始めよう。幸い(?)児童文学なので、童心に返って短時間で味わえる。さあ、角野ワールドへ突入だ!!
 (HIRO)

監督:宮川麻里奈
撮影:高野大樹
語り:宮崎あおい




 



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