シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「シンデレラ」 (2015年 アメリカ映画)

2015年05月21日 | 映画の感想・批評


 ディズニーの名作アニメを、俳優でもありファンも多いケネス・ブラナー監督が実写化。はたしてどのように進化したか興味津々。興行的には大成功で、「アナと雪の女王」の続編「エルザのサプライズ」(短編)の同時上映も功を奏し、この春1番のヒットとなっている。
 ディズニー・ラブストーリーの原点にして頂点、魔法の力によって生み出されたガラスの靴にカボチャの馬車、美しいブルーの衣装。誰もが知っているシンデレラのロマンティックなイメージを大切にしながら、自ら勇気を出して行動することによって奇跡を巻き起こす新しいヒロイン像が見事に開花。
 シンデレラ(エラ)を演じるリリー・ジェームズは、役作りにおいて、ガンジーのような強い精神力を持った人たちについて書かれた本をたくさん読んだそうだが、どんな残酷な状況にあっても善良さや純粋さを忘れない、しっかり者のシンデレラになるには役に立ったのかも。対する王子役のリチャード・マッデンはアニメの世界からそのまま出てきたような優男。ダンスのシーンでもリードしているのはシンデレラの方?!こういうところにも時代が感じられて面白い。この若き二人に、冷酷でずる賢く意地悪な継母にケイト・ブランシェット、舞踏会に行く夢をかなえてくれた陽気な魔法使いフェアリー・ゴッドマザーにヘレナ・ボナム=カーターという実力派女優が脇を固めている。
 絢爛豪華な舞台や衣装と相まって、全編色彩豊かで格調高い作品に仕上げたのはさすがブラナー監督。それにイギリス出身の出演者が多いせいか、英語がとても聞き取りやすくてうれしくなった。上映館が少ないのは残念だが、中高生や日本語吹替版に慣れてしまった方たちにもぜひ字幕版で見ることをお勧めしたい。エンドロールでは懐かしいあの名曲が流れてきて、思わず口ずさみながら席を立てる。これはまさに“シンデレラ気分”!!
(HIRO)

原題:CINDERELLA
監督:ケナス・ブラナー
脚本:クリス・ワイツ
撮影:ハリス・ザンバーラウコス
出演:リリー・ジェームズケイト・ブランシェット、ヘレナ・ボナム=カーター、リチャード・マッデン、デレク・ジャコビ

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「パレードへようこそ」(2014年イギリス映画)

2015年05月11日 | 映画の感想・批評


 1984年のイギリス。保守党を率いる「鉄の女」といわれたサッチャー首相が不況対策の一環として複数の炭鉱閉鎖を決め、これに抗議する炭鉱労働組合のスト活動に対して力で押さえ込むという強硬手段に出ていた。警官隊に殴られる炭鉱労働者の姿を何気なくテレビ・ニュースで見ていた若者は自分たちも何か手伝えることはないかと考える。その日はたまたまゲイ解放を訴えるパレードがロンドンで大々的に行われる日で、この若者も実はゲイ・リブの活動家のひとりだったものだから、仲間たちに「デモをやっている場合じゃない。炭鉱労働者が官憲に虐められているのは俺たちと同じだ。何か支援しよう」と呼びかけるのだ。そこへこれまた偶然に20歳になったばかりの若者ジョーが家族には内緒でパレードの見物に来て、ちょっとしたはずみから、その活動に巻き込まれてしまう。
 それで、かれらはLGSM(炭坑を支援するレズビアン&ゲイの会)というグループを立ち上げて街頭募金をはじめ、集めた資金を炭鉱労働者の組合に寄付しようとするのだが、何しろ炭鉱労働者といえばマッチョ志向が強い人々だから、ゲイの団体と聞いて生理的な嫌悪をあらわにするのだ。そういう人々との連携の模索、確執、相互理解、再び決裂、和解の紆余曲折がまさにアウフヘーベン(正反合)の要領で描かれるのである。
 ウェールズの炭鉱町の集会所に集う老若男女のうち、いち早く若者らの真摯な支援活動を受け容れ、かれらに寄り添おうとするのが女性たちだというところも頷ける。炭鉱を陰で支える女性たち、たとえばゲイの連中とすっかり仲良くなったおばあちゃんがレズの女の子の二人組に真顔でその関係を興味津々に聞くのも笑わせるし、亭主の偏見に真っ向から異議を唱えてやがてシンパに変える若き女闘士とか、差別意識に凝り固まった良妻賢母の典型のような未亡人を罵る中年の女傑など、いずれも元気で威勢がよい。
 そうして、ラストの意外な展開が大いなる感動をもたらすこと請け合いだ。なにしろ、実話の映画化だから、「よく出来た話」ではないところがミソである。(健)

原題:Pride
監督:マシュー・ウォーチャス
脚本:スチーブン・ベレスフォード
撮影:タト・ラドクリフ
出演:ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、ドミニク・ウェスト、バディ・コンシダイン、ジョージ・マッケイ

「アメリカン・スナイパー」 (2014年 アメリカ映画)

2015年05月01日 | 映画の感想・批評
 冒頭、いきなりの戦闘シーン。ここは戦渦に巻き込まれたイラクの街の中。少年が出てきた。続いて母親らしき姿も。どうか何も起こらないでほしい・・・という願いも空しく、武器を持っていることがわかるや否や二人は容赦なく射殺される。一人のスナイパーの手によって。
 もはや巨匠という名がふさわしいクリント・イーストウッド監督が「ジャージー・ボーイズ」に続いて挑んだのは、米軍史上最多160人もの敵を射殺したという伝説のスナイパー、クリス・カイルの半生を描いた実話だ。
 2003年より始まったイラク戦争。何と彼は4回に渡り遠征を繰り返す。愛する家族がいて、良き父親でありたいという願いを持ちながら、何が彼を戦場へと駆り立てたのか。戦争というものが生み出す狂気と複雑な人間心理を、息もつかせない緊迫感の中で描いたイーストウッド。その手腕はやはり只者ではない。
 クリスを演じるのは原作「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」が気に入り、自らプロデューサーとして映画化権を獲得したブラッドリー・クーパー。そして愛する妻タヤにはシェナ・ミラーが当たった。二人は実際にクリスの家族に会って話を聞いたり、スナイパー用の訓練を受けて肉体改造をするなど役作りに専念。そのなりきりぶりは実際の二人の写真と見比べて見てもよくわかる。全くそっくりなのだ。
 脚本完成後間もなく、なんとクリス・カイル本人が狙撃練習場で殺されるという事件が起きる。相手はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っていたという元兵士。クリスが仲間として手を差し伸べようとしていたところだった。軍のセオリーに従い執り行われた葬儀。そこには「おみおくりの作法」で描かれていたような奇跡もなく、ただ言い様のない沈黙がエンドロールへと続くのみであった。
 (HIRO)

原題:AMERICAN SNIPER           
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ジェイソン・ホール
撮影:トム・スターン
出演:ブラッドリー・クーパー、シェナ・ミラー、ジェイク・マクドーマン、サミー・シーク