シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

エイリアン:コヴェナント(2017年 アメリカ映画)

2017年09月21日 | 映画の感想・批評
 数千人規模の大規模な宇宙への植民地への移住計画を実施中に、謎の信号発信を発見し、進路を変え、その惑星に降り立ったしまったことから、宇宙船の乗組員がエイリアンの餌食をなっていくストーリーである。
 ここまで読んで頂いて、「あれっ?」と思う人は多い筈である。1979年に初代エイリアンと同じである。初代エイリアンの前日譚を描いた「プロメテウス」は未見だが、本作品で初代と違うのは、技術や倫理観が進歩そして多様化したこともあり、2点あると思う。1点は、「アンドロイドvsアンドロイド」の戦いと、あともう1点は、現代に合った「リーダー像」の設定であろう。
 1点目は、人工知能AI等の今後の可能性を喜ぶと共に、危惧する面もあると思う。アンドロイド同志が戦っても、痛みを感じなかったのは私だけではないと思料する。「ブレードランナー」の進化版とも思えた。2点目は、かつては、「リーダー」=「間違えることがない強くて優しい人物」だったのが、本作では、自分の弱い部分を認めながら、皆の意見を聞き、意思決定をしていく現代のリーダー像を描いていた点である。
 但し、それ以外で違うところは、出演者と映像技術(映像技術は格段に進歩している!)だけで、初代エイリアンの焼き直し感の印象が否めず、ラストも予想通りで、次作への布石もあり、目新しさに欠ける内容だった。
 「コベェナント」とは、検索すると、絶望の産声というキャッチコピーのようだが、キャサリン・ウォーターストーン演じる主人公の絶望の声は充分聞けたが、観客の絶望の声は、リドリー・スコットに届いたのであろうか。
(kenya)

原題:「ALIEN:COVENANT」
監督・製作:リドリー・スコット
脚本:ジョン・ローガン、ダンテ・ハーパー
撮影:ダリウス・ウォルスキー
出演:マイケル・フォスベンダー、キャサリン・ウォーターストーン、ビリー・クラブップ、ダニー・マクブライド、デミアン・ビチル他

灼熱 (2015年クロアチア・スロベニア・セルビア)

2017年09月11日 | 映画の感想・批評

 クロアチアといえば世界遺産のドゥブロブニクをはじめとする古代、中世ヨーロッパの雰囲気を残す歴史的街並み、豊かな大自然が人気で、世界中から多くの旅行者が訪れ“アドリア海の真珠”と呼ばれている。ジブリ作品の「魔女の宅急便」でもキキが箒に乗って跳び回る美しい街並みは、ドゥブロブニクが舞台といわれている。
 しかし、1989年のベルリンの壁崩壊から始まった東ヨーロッパの社会主義体制の崩壊がもたらした混乱の波が押し寄せ、1991年~95年、クロアチアではユーゴスラビアからの分離独立と、クロアチア人とセルビア人の民族対立をめぐる紛争が起きていた。昨日まで一緒に食事をしたり酒を飲んだり、歌ったり踊ったりしていた隣人同士が、民族が違うという理由で銃を向け合う事態が起きていたのだ。
 1991年クロアチア紛争前夜、セルビア人のイェレナと恋人のクロアチア人のイヴァンに訪れた悲劇。2001年紛争終結後、紛争で破壊された家に戻って来たクロアチア人のナタシャとその家を修理することになったセルビア人のアンテ。2011年平和を取り戻した現代、セルビア人のマリアのところに別れたクロアチア人のルカが会いにやってくる。3つの時代の2つの民族の1つの愛の物語を描いているが、それぞれの時代の恋人同士を、同じ俳優が演じるという斬新な表現が絶賛され、第68回カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門審査員賞を受賞した。2001年のエピソードの導入に、大きな荷物を抱えたナタシャと母親が戻ってくる道中に映し出される家々の崩壊や壁の生々しい銃弾痕は、今の観光国クロアチアからは想像もできない。破壊と混乱の後、戸惑いながらも再生を予感させるラストに、心温かいもいのを感じた。
 多感な時期に紛争を経験したダリボル・マタニッチ監督の「争いを止め、憎しみの連鎖を断ち切るのは、人間にそなわる【愛】の力だ。」というメッセージは、いまも世界中のあちこちで起きている争いを止める力が私たちの中にはあるのだよ、絶望よりも勇気を!と呼び掛けているようだ。京都では9月9日(土)~22日(金)、京都シネマで2週間だけの上映なのが、もったいない。(久)

原題:ZVIZDAN
監督:ダリボル・マタニッチ
脚本:ダリボル・マタニッチ
撮影:マルコ・ブルダル
出演:ティハナ・ラゾヴィッチ、ゴーラン・マルコヴィッチ、ニヴェス・イヴァンコヴィッチ、ダド・チョーシッチ、スティッペ・ラドヤ、トゥルピミール・ユルキッチ、ミラ・バニャッツ

「君の膵臓をたべたい」 (2017年 日本映画)

2017年09月01日 | 映画の感想・批評


 えっ?!膵臓を食べたい??これは若者向けのホラー作品か?と思って見たら大違い。実際は心洗われるヒューマンドラマだった。この衝撃的なタイトルが、作品を見終えた後は感動的な響きとなって深く脳裏に突き刺さる。そのギャップが何とも心地よい。これは一杯食わされた。
 原作は2015年に出版され、200万部を売り上げた住野よるのベストセラー。十代の若者だからこそ感じられる、恋とも愛とも友情とも違う、言葉では表現しにくい感情をこの強烈なタイトルに表したということだが、映画では原作にはない12年後の【僕】を描き、回想録という形で再び過去と向き合うという形をとっている。
 【僕】を演じるのは高校時代が若手の期待俳優・北村匠海、そして12年後は小栗旬だ。この二人、容姿的には似ているとは言い難い。12年くらいなら同じ俳優が演じてもいいのでは…とも思うのだが、話が進んでいくうちに徐々に二人が違和感なく重なり合ってくるから不思議。同じことは桜良の親友・滝本恭子を演じる大友花恋と北川景子にも言えることなのだが、お互いに相手に寄り添い、相手の印象を大事にして演じていることがよく伝わってくる。そしてヒロインの山内桜良を演じる浜辺美波の自然体の演技が、まだ高校生だという未完成の魅力にあふれていて新鮮だ。屈託のない笑顔を振りまきながらも、重い病気と向き合って、死をも受け入れようと真剣に生きる姿が清々しい。
 特筆すべきは【僕】と桜良の思い出の場所であり、過去と現在をつなぐ図書館の空間だ。撮影に使われたのは滋賀県豊郷町にある豊郷小学校旧校舎の酬徳記念図書館。ここに月川翔監督以下スタッフが一丸となって、この映画のための図書館をデザインしていったそうだが、本好き、図書館好きの面々にはたまらない、この上なく魅力的な空間が出来上がった。さらに滋賀ロケーションオフィスの協力を得て、桜が美しい彦根城をはじめ、ローカル電車や神社、学校など、見慣れた風景が次々と登場するのも滋賀県民にはうれしい限り。
 小栗旬が、彦根の街中を、走る、走る!!
 (HIRO) 

監督:月川翔
脚本:吉田智子
原作:住野よる
撮影:柳田裕男
出演:浜辺美波、北村匠海、小栗旬、北川景子、上地雄輔、