シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「本能寺ホテル」(2017年日本映画)

2017年01月21日 | 映画の感想・批評
 結婚を控えた普通のOLが、京都旅行(新郎の親に挨拶をする)の際に、宿泊した「本能寺ホテル」の古めかしいエレベーターに乗った所、約400年前の「本能寺の変」の前日の本能寺にタイムスリップしてしまう処から、物語がスタートする。ちなみに、「前日」という所がポイントである。
 「タイムスリップ」ストーリーなだけに、設定はかなり無理があるが、綾瀬はるかの真面目な演技と堤真一のうまい演技に感心しつつ、職人技の演出力に引っ張られ、メッセージ色も充分含んだエンターテイメントとして成り立っている。特に、織田信長役の堤真一の演技は素晴らしく、かつ、セリフも知己に富んでおり、綾瀬はるか演じる主人公が「自我」を見つけ出すきっかけを掴む掛け合いは爽快であった。ちなみに、そのメッセージとは、「自分の出来ること」ではなく、「自分のやりたいこと」を見つけ出すことで、今まで漠然と流されて過ごしてきた人生を振り返って、それを発見していく過程に、効果的なセリフが散りばめられ、観る人の心を揺さぶるのである。紆余曲折を経て、やりたいことを見つけ出した後、ホテルをチェックアウトする際の、綾瀬はるかの清々しい顔はとても印象的であった。爽快感を味わえる映画であった。
 それにしても、主役二人(綾瀬はるかと堤真一)が出演する一昨年の「海街diary」と比べて、監督や脚本によって、同人物がこれ程、印象が変わってしまうのかと役者魂に感心させられた。また、予告編では軽めの映画のような印象だったが、脇役陣も職人タイプやベテランが揃っており、それぞれの役割を存分に発揮した良質のエンターテイメントだった。
 市内でロケも行ったようだ。撮影現場を見たかったなあ・・・(ナマ綾瀬を見たいだけですが・・・)
(kenya)

監督:鈴木雅之
脚本:相沢友子
撮影:江原祥二
編集:田口拓也
出演:綾瀬はるか、堤真一、濱田岳、平山浩行、田口浩正、高嶋政宏、近藤正臣、風間杜夫他

「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(2016年 アメリカ映画)

2017年01月11日 | 映画の感想・批評


 (注・ネタバレあり。できれば作品をご覧になってからお読みください。)
 どんどん広がる「スター・ウォーズ」の世界。ファンにとってはうれしいスピンオフ作品の登場だ。その名は「ローグ・ワン」。そもそも“ローグ”とは「はぐれ者」「反逆者」という意味があるが、すでに7作を数えるルークを軸とする〈スター・ウォーズ・サーガ〉の作品とは別の、初めてのアナザー・ストーリーであることや、幼いころ両親と離れ離れになってしまった主人公ジン(またまた女子!!)の存在はまさに”ローグ”そのもの。そしてこの粋な名前は、エピソード3と4の物語を繋ぐ重要な役割を果たした戦士たちのチーム名でもあるのだ。
 さて当時の世界とは・・・。「エピソード4・新たなる希望」の冒頭で流されるオープニング・クロールを復習してみるとよくわかる。つまりこの作品は「時は内戦のさなか。凶悪な銀河帝国の支配に反乱軍は秘密基地から奇襲を仕掛け、帝国に対して初めての勝利を収める。その戦闘の間に反乱軍のスパイは、帝国の秘密兵器の設計図を盗み出すことに成功。それは『デス・スター』と呼ばれ、惑星をも破壊するのに十分な威力を備えた、武装宇宙ステーションだった。」という中で語られていた、ファンならぜひ知りたかったデス・スターの設計図入手作戦を映像化したものなのである。
 スター・ウォーズシリーズの監督でもあり、「ローグ・ワン」のオリジナル原案者でもあるジョージ・ルーカスが、黒澤明監督のサムライ映画が大好きだったことはよく知られているが、ローグ・ワンのチームの面々も「七人の侍」や「隠し砦の三悪人」のキャラクターたちに通じるものがあるのは、日本人として嬉しいところ。正義のためなら自分の命もいとわないサムライ精神が随所に感じられ、戦闘シーンが多いにもかかわらず、哀感漂う作品に仕上がっている。そういえばギャレス・エドワーズ監督の前作は「GODZILLA ゴジラ」で、その成功で本作の監督に抜擢されたというから面白い。また多大なる犠牲の果てに、エピソード4に繋げるためにあの“時の人”を登用し「HOPE!」と言わしめたのも見事。
 ディズニーがルーカスフィルムを買収し、製作権利を得た「スター・ウォーズ」シリーズから、こういう優秀なスピンオフ作品が出てくるのは実に結構なこと。次なるアナザー・ストーリーの主人公はハン・ソロだとか?!これもまた楽しみだ。
 (HIRO)

原題:ROGUE ONE:A STAR WARS STORY
監督:ギャレス・エドワーズ
脚本:クリス・ワイツ、トニー・ギルロイ
撮影:グレイグ・フレイザー
音楽:マイケル・ジアッキーノ
主演:フェリシティ・ジョーンズ、ディエゴ・ルナ、ベン・メンデルソーン、ドニーー・イェン、マッツ・ミケルセン、チアン・ウェン、
   リズ・アーメッド、フォレスト・ウィテカー、K-2SO

2016年ベストテン発表

2017年01月01日 | BEST


あけましておめでとうございます。
昨年中はみなさまがた多くの方々に当ブログをご愛読たまわり、まことにありがとうございました。執筆者一同なおいっそう新作映画の道案内に精進を重ねる所存ですので、ことしも相変わりませず暖かいご支援をたまわりますようお願い申し上げます。
さて、恒例の執筆陣によるベストテンの発表です。2016年に関西で劇場公開された映画は1000本あまりに昇ります。その1割を見るのも大変なことなのですが、私たちが見た数少ない作品の中からこれぞという秀作を日本映画、外国映画それぞれ10本、コメントつきで選出しました。みなさんにとって何かの参考になれば幸甚です。(健)

注記:原則として2016年1~12月に京阪神で劇場公開された作品を対象とした。日本映画作品名のあとの括弧書きには監督、外国映画作品名のあとには原題、監督、製作年・製作国を入れた。日本公開題名・人名表記はキネマ旬報映画データベース、外国映画の原題・製作年・製作国はInternet Movie Database に従った。

◆Hiro
【日本映画】
1位「怒り」(李相日)
いろんな怒りが重なりあって、悲劇が生み出されて行くプロセスが面白い。モンタージュ写真を巧みに生かし、観客を惑わすところもニクい。
2位「君の名は。」(新海誠)
若者たちをいっぱい映画館に呼び寄せた功績は大。「前前前世」「なんでもないや」などの曲を提供したRADWIMPSの音楽が、今も耳に響いて鳴り止まない。
3位「ヒメアノ~ル」(吉田恵輔)
今の日本の情勢なら、こんな恐ろしい事件も現実味があると思えるところが怖い。森田剛が迫真の演技を披露。
4位「シン・ゴジラ」(庵野秀明、樋口真嗣)
現在の日本の防衛力、戦闘能力、政界が国を動かす力はこんなもんだと、脚本、編集、総監督を務めた庵野英明監督が、ゴジラの上陸を通して暗示した。さあ、これで安心できるか?!
5位「永い言い訳」(西川美和)
本木雅弘の魅力満載。そしてついにCD付きのパンフレットが登場。価格1000円は高いとみるか、お得とみるか…。まだ聞いていないが、映画の中身より気になった。
6位「オーバーフェンス」(山下敦弘)
函館の街が印象的。「フェンス」には、心の中に潜む越えられない垣根を表しているのかもしれない。そこを超えたい!!
7位「64ロクヨン/前編」(瀬々敬久)
オールスターキャストでおくる2部作の前編。1週間しかなかった昭和64年に起こった少女誘拐事件の捜査劇。なぜ後編を観る気が起らなかったのか?!
8位「母と暮せば」(山田洋次)
主演の二宮和也が各賞を総なめ。山田洋次監督が長崎の原爆投下で起きた悲劇を幻想的に表現。かねてより原爆詩の朗読を行っている母役の吉永小百合の気合いも十分。
9位「何者」(三浦大輔)
就職戦線とSNSの脅威を感じさせる今風現代劇。舞台監督でもあった三浦大輔監督の演出が冴える。
10位「海難1890」(田中光敏)
海難事故を通じて生まれた、明治時代から続く日本とトルコの友情劇。今もその繋がりがあることを再認識。


【外国映画】
1位「サウルの息子」(Saul fia、ネメシュ・ラースロー、2015年ハンガリー)
ユダヤの悲劇をリアルすぎる表現力で紹介。ラストのサウルの微笑みが意味するものは…。
2位「ハドソン川の奇跡」(Sully、クリント・イーストウッド、2016年アメリカ)
記憶もまだ新しい有名な飛行機事故を、忠実に、かつ静かな感動とともに甦らせたイーストウッド監督、やっぱりすごいとしか言いようがない。
3位「ズートピア」(Zootopia、バイロン・ハワード、リッチ・ムーア、ジャレド・ブッシュ、2016年アメリカ)
おなかがよじれるほど笑えるアニメは、「クレヨンしんちゃん」以来。登場する動物のすべてを知ってエピソードに生かしているところがいい。
4位「ルーム」(Room、レニー・アブラハムソン、2015年アイルランド・カナダ・イギリス・アメリカ)
狭くて暗い環境から生み出された希望と愛は、とてつもなく大きいものだとわかる。
5位「スポットライト 世紀のスクープ」(Spotlight、トム・マッカーシー、2015年アメリカ)
タブーとされていた宗教界の内側を暴露し、正義を貫いたジャーナリストたちの功績を描く。納得のアカデミー賞受賞作。
6位「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」(Florence Foster Jenkins、スティーブン・フリアーズ、2016年イギリス)
メリル・ストりープとヒュー・グラントだからこそできた、笑いと感動の実話劇。音痴な老婦人がカーネギーホールを満員にした!!どうやって???
7位「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」(5 Flights Up、リチャード・ロンクレイン、2014年アメリカ)
ニューヨークに住みたくなること間違いナシ。モーガン・フリーマンとダイアン・キートンが初共演ながら絶妙の夫婦愛を展開。
8位「ブリッジ・オブ・スパイ」(Bridge of Spies、スティーブン・スピルバーグ、2015年アメリカ・ドイツ)
トム・ハンクス渾身の演技。真実に基づくスパイ交換劇。監督はあのスティーヴン・スピルバーグ。まだまだ過去の人ではありません。
9位「007 スペクター」(Spectre、サム・メンディス、2015年イギリス・アメリカ)
007はやっぱりこの人、ダニエル・クレイグ!!歴代ボンドの中でもかっこよさはピカイチ!!交代はまだ早いよ。
10位「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(Star Wars: Episode VII - The Force Awakens、J・J・エイブラムス、2015年アメリカ)
年末にキャリー・フィッシャーが亡くなった。更に実の母親のデビー・レイノルズまで・・・。このシリーズ、これからどうなる?!



◆kenya
【日本映画】
1位「ハッピーアワー」(濱口竜介)
37才の女性4人の物語。離婚、仮面夫婦、不倫等々。5時間17分が短く感じるくらい、物語にのめり込んだ。まだまだ、続きが観たい気がした。プロの演技者ではないのに、スイスの映画祭で演技賞を受賞。それ程、監督(映像)に力があった。
2位「モヒカン故郷に帰る」(沖田修一)
親が子を想う心。これ程、一途なものがあるのだろうか。痴呆が入った父親が大人になった息子に、息子の名前を付けた理由や少年時代を語るシーンは感動した。
3位「嫌な女」(黒木瞳)
黒木瞳初監督作品。オーソドックスに仕上がっていて、驚いた。今後の期待を含めて、3位にした。
4位「リップヴァンウィンクルの花嫁」(岩井俊二)
綾野剛が良かった。今年は、「64ロクヨン/前編・後編」「日本で一番悪い奴ら」どれも素晴らしかった。これからも楽しみだ。
5位「SCOOP!」(大根仁)
二階堂ふみの「最低で最高の仕事ですね」のセリフに思わず、頷いてしまった。仕事ってそんな部分ありますよね。仕事への拘り、恋愛、麻薬問題等々のテーマをうまく織り交ぜていて、うまく仕上がっていたと思う。リリー・フランキーも良かった。
6位「海よりもまだ深く」(是枝裕和)
「海街diary」に続いて、基本に忠実な作品であった。俳優陣も安定していて、安心して観れた。
7位「64ロクヨン/前編」
前編の警察広報官とマスコミとの確執が解かれていく過程に惹かれた。後編は一変して、違うタイプの映画だった。前編が圧倒的に良かった。
8位「だれかの木琴」(東陽一)
単純に言えば、ストーカーの話。ストーカーする側(常盤貴子)とされる側(池松壮亮)との接点は、美容院。美容師(池松壮亮)が髪にハサミを入れるシーンは、エロティックで謎めいていて、映画全体を表現しているようで素晴らしかった。そのシーンだけでも観る価値があると思う。
9位「湯を沸かすほどの熱い愛」(中野量太)
余命2か月を宣告された宮沢りえが、死を迎えるまでにやらなければいけないことを、命を懸けて、実行していく勇気溢れる映画だった。ラストシーンも良かった。
10位「母と暮せば」
基本に忠実な教科書のような映画だった。このタイプの映画が最近少ないように思う。それで、1票入れた。そういう意味では、「家族はつらいよ」も似通っているかも。ただ、長崎の原爆を扱ったことでこちらを上位にした。

【外国映画】
1位「ボーダーライン」(Sicario、ドゥニ・ビルヌーヴ、2015年アメリカ)
自分の原点はどこにあるのか?アクションを売りにしているが実は人間を鋭く深く描いている。更に、ラストシーンに、麻薬問題の神髄が描かれているように思う。音楽も映像もどこを切り取っても、不気味な味があり、「映画」って感じだった。
2位「ザ・ウォーク」(The Walk、ロバート・ゼメキス、2015年アメリカ)
ただ単なる高所スリル映画ではなく、主人公が綱渡りを達成するまでの過程をじっくり描いていて良かった。生きる希望をくれた映画である。
3位「ブラック・スキャンダル」(Black Mass、スコット・クーパー、2015年アメリカ)
今までの演技から一枚脱皮したジョニー・デップが良かった。静かなる怒りを体現していた。「パイレーツオブカリビアン」と同一人物とは思えなかった。
4位「リリーのすべて」(The Danish Girl、トム・フーパー、2015年イギリス・アメリカ・ドイツ・デンマーク・ベルギー)
エディー・レッドメーンの手術前のあの一言。「女性」になる喜びと覚悟が感じられ、身震いした。ラストシーンもこの映画を的確に表していた。一昨年前のアカデミー賞受賞作より、素晴らしかったと思う。
5位「山河ノスタルジア」(山河故人、ジャ・ジャンクー、2015年中国・日本・フランス)
離れていても、母が我が子を想う気持ちがよく表れていた。こういった映画の公開期間が短いのが残念だ。
6位「キャロル」(Carol、トッド・ヘインズ、2015年イギリス・アメリカ・オーストラリア)
ケイト・ブランシェットが良かった。「人」を大きく包んでしまう懐の大きさを演技で感じた。
7位「ハドソン川の奇跡」
機長としての経験とカンで、乗客乗員全員の命を救った飛行機事故後をクローズアップして、「人」として何が大切なのかを訴えかける映画だった。
8位「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」(Trumbo、ジェイ・ローチ、2015年アメリカ)
自分の信念を貫く強さと不安と殺されるかもしれないという緊張感とがうまく表現されていた。言いたいことが言える時代に生まれて幸せと感じた。
9位「ヘイトフル・エイト」(The Hateful Eight、クエンティン・タランティーノ、2015年アメリカ)
タランティーノらしい押しが強く、グロテスクな映画だった。でも、心地よい。不思議な監督である。アカデミー賞助演女優候補になったジェニファー・ジェイソン・リーも良かった。
10位「ニュースの真相」(Truth、ジェームズ・ヴァンダービルト、2015年アメリカ・オーストラリア)
報道の情報源は真実なのか?これは報道番組だけではなく、何事にも通じるものである。何を信じ、何をどう発信していくのか?実話がベースとのこと。主人公達のこの事件後の行動(テロップにて)に、どれだけ報道することに命を懸けていたのかにも心打たれた。


◆健
【日本映画】
1位「怒り」
猟奇的な凶悪犯罪の容疑者が整形手術をして潜伏しているというフリがあって、素性の知れない3人の若者のエピソードが並行して語られる。ミス・ディレクションにまんまと騙されてしまった。
2位「64 ロクヨン 前編、後編」
キネマ旬報に苦言を申し立てたいのだがこの手の作品を前編、後編ふたつの作品として評価するのはいかがなものか。特にミステリは事件編と解決編が不可分一体のものであり、「ゴッドファーザー」パート1、パート2とは意味が違うのである。この映画は力強く群像劇としても優れていた。
3位「セトウツミ」(大森立嗣)
今どきの高校生の男の子ふたりが川べりで放課後のひとときを他愛ない会話で過ごすというただそれだけの話。ところが、ふたりの逢瀬のような出会いにワクワク感があって、結構はまってしまうのだ。
4位「だれかの木琴」
とても80歳の監督が撮ったとは思えない瑞々しい作品。しかも、不倫と想像させておいて実はほんのプラトニック・ラブ、擬似恋愛の域を出ないという物語をかくもスリル満点に描いた演出力がすごい。
5位「クリーピー 偽りの隣人」(黒沢清)
新居に越してきた三人家族を待ち受けていたのは奇妙な隣人であった。得体の知れない粘液質のアブノーマルな隣人を香川照之が怪演する。黒沢にはもっとこういうものを撮って欲しい。
6位「リップヴァンウィンクルの花嫁」
久しぶりに見る岩井ワールドの華麗な映像に酔いしれた。映画的感性に満ち溢れた作品。黒木華を実に可愛く魅力的に撮っているのも見どころだ。
7位「淵に立つ」(深田晃司)
町工場を営む夫婦の三人家族。そこで働いていたという前科者がふらりと戻ってきて再び住み込みとして働くのだが、やがて男は忽然と姿を消すのだ。後半が衝撃的。
8位「日本で一番悪い奴ら」(白石和彌)
ロマンチックな映画よりこういう映画が好きな私としては楽しく見せてもらった。白石は今後に期待する逸材だと思う。
9位「永い言い訳」
スランプで書けない作家が浮気している間に妻が旅行先で事故死する。妻との間には隙間風が吹いていて涙も出ない。男の本性というかダメ男を描かせてはこの人(西川)の独壇場だ。
10位「ヒメアノ~ル」
これもまた犯罪映画の佳作である。「クリーピー」と共通するサイコキラーを森田剛が熱演。

【外国映画】
1位「スポットライト 世紀のスクープ」
事件を追う側に徹してドキュメンタリタッチで最後まで押し通したところがいい。つまり神の視点ではなく、あくまで真実を追及し正義の実現を企図する記者たちの視点で貫かれているところがミソだ。
2位「ブリッジ・オブ・スパイ」
東西冷戦時代の諜報合戦。捕らえたスパイの交換交渉に狩り出された敏腕弁護士が家族にも内緒で極秘任務を遂行する。ラストが後味よくてスピルバーグらしいと思わず微笑んでしまった。
3位「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」
赤狩りが猛威を振るう中、ハリウッドで徹底的に干された反骨の脚本家がその才能ゆえに友人の助けや映画仲間のコネで名作脚本を連打してオスカーを得る。そっくりさんの登場にニンマリさせられた。
4位「ハドソン川の奇跡」
30分ほどの静かなドラマ展開のあと、後半は堰を切ったようにまっしぐら。そのドラマトゥルギーというか構成力に脱帽した。それにしても老いを感じさせないイーストウッドは怪物である。
5位「キャロル」
パトリシア・ハイスミスの自伝的小説。百貨店の売り子に一目ぼれした資産家の妻の愛の煉獄を描いて情熱的だ。それを象徴するような真っ赤な色調が全編を通して貫かれる。
6位「ブルックリン」(Brooklyn、ジョン・クロウリー、 2015年イギリス・カナダ・アイルランド)
アイルランドの貧しい一家に育った娘が最愛の母と姉を残して希望を胸に単身アメリカへ渡る。故郷で彼女を待つ良家の御曹司と新天地で出会った下層のイタリア移民の若者との相克!いい話だ。
7位「手紙は憶えている」(Remember、アトム・エゴヤン、2015年カナダ・ドイツ)
アウシュヴィッツで親族を殺された生存者がひそかに復讐を誓って、米国に逃亡したナチの残党を探し出し正義の鉄髄を下す・・・と見せておいて、大どんでん返しの衝撃のラストには唖然。
8位「シークレット・オブ・モンスター」(The Childhood of a Leader、ブラディ・コーベット、2015年イギリス・ハンガリー・フランス)
まるで天使のような金髪の美少年に振り回される周囲の大人たち。映画は整然と、粛々と、静謐と流れて行くのだが、その演出力、流麗なキャメラワーク、眼を奪う美術に只者ではない気迫を感じた。
9位「ヘイトフル・エイト」
よくもまあこれだけ曲者役者を揃えたものだが、とりわけジェニファ・ジェイソン・リーの怪演には笑ってしまった。最後に姿を現すチャニング・テイタムもけっこうおかしかった。
10位「ヴィクトリア」(Victoria、セバスチャン・スキッパー、2015年ドイツ)
140分の長丁場をワンカットで連続撮影するという快挙を成し遂げた。しかも、カーチェイスありの野外ロケなのに、ほとんどアドリブで撮ったというから驚きだ。