シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

清須会議(2013年 日本)

2013年11月21日 | 映画の感想・批評
 三谷幸喜が17年ぶりに書き下ろした小説を、自ら脚本を書き、監督した初の時代劇。出演する俳優陣の豪華さと、歴史好きには承知の展開ながら、登場人物が可笑しく繰り広げるストーリーに、2時間を越える上映時間が気にならなかった。
 1582年6月2日、天下統一をめざす織田信長が本能寺で家臣の明智光秀の謀反により殺される。信長の長男・信忠は父とともに亡くなり、残った家臣団が清須城に集まり、織田家の5宿老で会議を開き、後継者を選ぶことになる。筆頭宿老の柴田勝家は丹羽長秀とともに三男信孝を、いち早く光秀を討ちとった羽柴秀吉は次男信雄を推す。
 豪放磊落な武将ではあるが政治的センスがゼロな勝家、人心掌握の才に長けている秀吉、勝家を後ろから操縦してなんとか秀吉の台頭を防ごうとする長秀。勝家・秀長側に付くはずの滝川一益は関東に出張っていて会議に間に合わず、残るは優柔不断な池田恒興。双方とも恒興を味方につけようとあれこれと条件を提案。秀吉からの美味しい提案に比べ、政治オンチの勝家の提案に笑ってしまう。確かに美味しい提案(越前かになど)ではあるが、こんな場合相手が望んでいるのはそんなものではないはず。
 登場人物を三谷幸喜流にカリカチュアライズして“信長の後継者選びレース”を面白おかしく見せてくれた。
 織田信長という人は自ら決断し行動する人物だったが、信長亡き後の織田家の後継者決定は、織田家の重臣による話し合いで決定されるというのはなんとも皮肉である。もっとも父親が絶大な権力を持っており、周りに優秀な人材が集まっていた織田家にあっては、親族が自分たちで後継者を決めても、いずれは重臣たちの飾り物になるか、下剋上で織田家が滅亡する運命だっただろう。(久)

原作・監督・脚本:三谷幸喜
撮影:山本英夫
出演:役所広司、大泉洋、佐藤浩市、大日向文世、鈴木京香

「危険なプロット」(2012年フランス映画)

2013年11月11日 | 映画の感想・批評
 フランスのリセ(高校)――文豪フローベールの名が冠せられた学校に通う少年があるとき文学に目覚める。もともとかれは数学が得意なのだが、毎週国語の宿題に課される作文に凝り出す。長年作文指導をしている初老の教師は自宅に生徒の作文を持ち帰っては、妻を相手に近ごろの生徒の文章力の低下を嘆きながら採点しているが、くだんの生徒の作文に感心して個別指導に熱を上げるのである。
 ところが、その内容にいささか問題がある。少年は数学の苦手な級友に取り入って親友となり、その家庭の内情を作文に暴くのだ。教師も最初は興味本位でおもしろがって読んでいたが、虚実ない交ぜの作文というより少年が企図したとおりに親友の家庭が崩壊寸前に至るのを目の当たりにして、さすがに戦慄する。おまけに、この少年は美貌と頭脳と文才を武器に誰にでも取り入る術を心得ている。このあたりはフランソワ・オゾンの自家薬籠中の設定というべきだろう。教師も親友もその両親も、いや教師の妻さえも少年の魅力にほだされて虜にされる。教師は少年が親友の家庭内をかき乱すという筋書きに、「パゾリーニを気取っているのか」と皮肉る場面がある。その台詞の前に、実は私もその成り行きにテレンス・スタンプ扮する妖しい魅力をもった美青年が一家を蠱惑して滅ぼすという映画「テオレマ」を想起したが、やはり狙いはそのとおりだったわけだ。
 果たして親友一家は「テオレマ」のごとく悪魔のような美少年に翻弄されて崩壊するのだろうか。あるいは最後に代償を負うのは誰なのか?むろん、モラルの欠如以外は非の打ち所のないこの尊大な少年が負うわけがない。そうなると自ずと犠牲者は知れてしまうだろう。それは見てのお楽しみだ。
 朗読家としても有名だというファブリス・ルキーニの教師は適役だし、少年を演じた新鋭エルンスト・ウンハウアーもいい。しばらく迷走を続けていた異才オゾンの久々の秀作としてお奨めしよう。(ken)
 
原題:Dans la maison
監督:フランソワ・オゾン
原作:ファン・マヨルガ
脚色:フランソワ・オゾン
撮影:ジェローム・アルメーラ
出演:ファブリス・ルキーニ、エルンスト・ウンハウアー、クリスティン・スコット・トーマス

「陽だまりの彼女」 (2013年 日本映画)

2013年11月02日 | 映画の感想・批評


 “女子が男子に読んでほしい恋愛小説NO.1”(そんなランキングがあるんだ!)に輝く越谷オサムの大ベストセラー小説「陽だまりの彼女」を、「ソラニン」「僕等がいた」などの恋愛青春映画を手がけた新鋭・三木孝浩監督が、松本潤、上野樹里という今が旬の人気スターを迎えて映画化。初恋を経験した人なら誰もが共感できる、あったかファンタジック・ラブストーリーが、また一つ誕生した。
 中学時代初恋に落ちた真緒と10年ぶりに再会した浩介。かつてイジメられっ子だった真緒は、美しくて仕事もできる魅力的な女性に成長していた。再び恋に落ち、ついに結婚する二人。しかし真緒には誰にも知られてはいけない不思議な秘密があった。
 新人営業マンで彼女なし、鉄道オタクというおまけも付いた、今までにない役柄に挑戦した松本潤。「のだめカンタービレ」「江~姫たちの戦国~」を経て、また一段と演技に幅が出てきた上野樹里。この映画は、映像という媒体を通して、主演の二人の魅力を余すところなく引き出した、ファンにはたまらない作品となっている。
 クローズアップが多用されているため、二人がすぐそこにいるように感じられ、一瞬たりとも目が離せない。そして画面全体を淡い光で包み込んだようなソフトな映像はまさに「陽だまり」。そこにビーチボーイズの「素敵じゃないか」、山下達郎の「光と君へのレクイエム」という名曲が流れ、ファンタジックな物語にさわやかな感動を与えてくれている。
 (HIRO)

 監督:三木孝浩
 脚本:菅野友恵、向井康介
 撮影:板倉陽子
 出演:松本潤、上野樹里、玉山鉄二、夏木マリ、谷村美月、塩見三省、小藪千豊、