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「ヤクザと家族 The Family」(2021年日本映画)

2021年02月17日 | 映画の感想・批評

 
 2年前の「新聞記者」で映画界を席巻した藤井道人監督が、ヤクザの世界で生きる一人の男を主人公に、ヤクザになる前、なった後、事件を起こし14年の刑期を終えて出所してきた後の3つの時代に分けて、1本の作品に仕上げた。
 主人公の山本を演じるのは綾野剛。これは観るしかない!義理人情の世界、怒号の飛び交うシーンには、「新宿スワン」や「日本で一番悪い奴ら」(警察官役だけど)でもピッタリとはまる綾野剛を観られると思って行ったが、実際はとても深いテーマの映画だった。決して、前述の映画にテーマが無いということではなく、本作品は今の時代に合わせた内容だったということである。
 もちろん、従来のヤクザ映画にあるシーンも満載だが、出所してきた後の山本の生き方に焦点が当てられた作品だと感じた。出所後、久し振りに再会した元同僚は、堅気になって元ヤクザを隠して生きている。行き付けだったお店で食事をしても、何かよそよそしい。入所する前に出会った尾野真千子演じる恋人を探し出すが、最初は、元ヤクザということで会うことを断られる。その後、一緒に暮らすようになるが、綾野剛が元ヤクザで服役していたとSNSで拡散してしまい、尾野真千子が職場を追われることになる。娘も転校を余儀なくされる。山本が戻ってきたことで、一生懸命築いてきたものが一瞬で壊されてしまった。関係していた人がどんどん去っていく。今の現実はそうなのだろう。締め付けを受ける側と、一方で、締め付けをする側でもある、事件を解決しなければならない警察からの立場も作品内で表現され、社会の抱える複雑な面を捉えている。冒頭、舘ひろしが綾野剛と親子の盃を交わすが、最初は、生活の糧が無いものの、自分の父親(設定では、綾野剛の父親は覚醒剤で命を落としていた)のこともあり、組に入ることを躊躇していた。が、舘ひろしの「行く処はあるのか?」の一言に涙するシーンがある。「ヤクザ」はこの時代はダメだけど、大事にする部分もあるのでは?と訴える。それは家族なのでは。血は繋がっていないけど、本当の家族以上の家族。出会った頃に、尾野真千子(ホステス役)が綾野剛に「なんでヤクザやっているのですか?」と尋ね、綾野剛が少し考えて、ボソッと「家族だから」と応える。そう、本作品は、所謂ヤクザ映画ではなく、「家族」をテーマにした映画なのである。だから、副題には「The Family」が付いているのでは。
更に、磯村隼人演じる「半グレ」も現代の社会問題の一つである。活動が大きくなり、寺島しのぶ演じる母親が心配するシーンがある。ここには血が繋がった「家族」があった。
 世の中、綺麗事だけでは生きられない。親子の関係、時代の変化、世間からの目、現在の社会問題等々、多方面の要素を織り交ぜ、素晴らしい脚本になっていたと思う。    
 豪華俳優陣で一つ一つのエピソードも重いので、もっと長尺でも良かったかも。引っ越ししなければならなくなった尾野真千子が、これまで耐えて耐えて頑張ってきたことが、好きな人に壊された無念さや今後の不安とが混じって流す一粒の涙や、ラストの綾野剛と市原隼との絡みもとても印象的で、記憶に鮮明に残っている。
(kenya)

監督・脚本:藤井道人
撮影:今村圭佑
出演:綾野剛、舘ひろし、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、康すおん、二ノ宮隆太郎、駿河太郎、岩松了、豊原功補、寺島しのぶ他


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2 コメント

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Unknown (アロママ)
2021-02-17 09:39:25
綾野剛は変幻自在ですね。尾野真千子との共演は朝ドラ「カーネーション」が思い出されて、それだけでせつなくなりました。
私はやはりヤクザというフィルターをぬぐいされず、入り込めない思いをしました。
SNSという、誰もが簡単に人を傷つけるツールを手に入れてしまったことに恐怖を感じます。
ラストシーン、少女と翼の会話に救いはありましたし、主人公の穏やかな顔にも。

主人公は山本でしたよ。ケンボウと呼ばれて愛されてる姿が印象的でした。
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Unknown (kenya)
2021-02-17 21:43:48
コメント有難う御座います。
原稿を書くにつれて、とても重いテーマを持った映画だと感じました。
ヤクザは私も受け入れることは出来ませんが、今の社会が抱える問題がたくさん取り上げられていたと思います。
SNSの恐さは別の映画でもありましたね。
*「山本」でしたね。また、やってしまいました。失礼致しました。
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