シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「8月の家族たち」(2013年アメリカ映画)

2014年05月21日 | 映画の感想・批評
 舞台の映画化であり、密度の濃いドラマである。
 オクラホマ州オセイジ郡。アメリカ中南部の8月はうだるように暑い。片田舎で居心地悪そうに暮らす酒浸りの詩人(サム・シェパード)はネイティブの女性を家政婦に雇ったあと失踪してしまう。あとに残された妻(メリル・ストリープ)は娘や妹夫婦を呼んであわてる。遠方に暮らす長女(ジュリア・ロバーツ)は学者の夫と反抗期の娘を連れて実家に戻って来るが、どうも母親と折り合いが悪い。しっかり者で聡明なところは父親譲りなのだろう。地元にとどまっている次女は化粧もせず物静かで、ことさら主張することもなくきわめて禁欲的に自分を抑制して生きている。ストリープの陽気な妹は亡き母のお気に入りだったようだが、ストリープ自身は母親をあまりよく思っていないらしい。この三代にわたる母娘関係の確執が物語のひとつの柱となる。
 そうこうするうちに父親が池に身を投げて発見され、葬儀が営まれる。ここで、派手な三女が軽佻浮薄そうな婚約者を伴って帰郷する。何かの手違いで葬儀に遅れた甥(妹夫婦の息子)が駆けつける。定職も持たず頼りない息子を妹は一家の恥だと思っているらしいが、亭主はそんな倅を擁護する。一族が揃った晩餐。薬漬けで神経をすり減らした母親が一同に辛辣な言葉を浴びせ、とうとう長女と取っ組み合いまで始めるのだ。
 かくして、終盤に至って、観客もびっくりのクローゼットの秘密が暴かれる。思わぬ展開に唖然となるだろう。そうなると、すべての家族関係がそれまでとは異なった様相を呈するのである。妹が駄目息子を虐げ、亭主が可愛がっている意味までが正負を逆にしてしまう。これは、みごとというほかない結末であった。
 監督はテレビ界のベテラン演出家らしいが、映画と舞台のツボをよく心得ていると見た。とりわけ、メリル・ストリープの名演は舌を巻くほどだ。(ken)

原題:August: Osage County
監督:ジョン・ウェルズ
原作・脚色: トレイシー・レッツ
撮影:アドリアーノ・ゴールドマン
出演:メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、クリス・クーパー、ユアン・マクレガー、マーゴ・マーチンデイル、サム・シェパード、ジュリアンヌ・ニコルソン、ジュリエット・ルイス、ベネディクト・カンバーバッチ

「WOOD JOB! ウッジョブ!~神去なあなあ日常~」 (2014年 日本映画)

2014年05月11日 | 映画の感想・批評


 若者の成長物語を描いたなら、この人の右に出る者はいないだろう。「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」で、高校生たちに目標を持って仲間たちとがんばることの意義と楽しさを教えてくれた矢口史靖(しのぶ)監督が、今回選んだテーマは、何と林業!!
 大学受験に失敗し、彼女にもフラれて行き場がなくなった主人公の勇気は、街でふと目にしたパンフレットの表紙を飾る美女に見惚れ、1年間の林業研修プロジェクトに参加する。ローカル線を乗り継いでたどり着いた『神去(かむさり)村』はケータイの電波も届かない超山奥。そこでの様々な体験と村人たちとの交流を通し、ノー天気な都会っ子だった勇気に少しずつ変化が…。
 勇気を演じるのは染谷将太。「ヒミズ」「悪の教典」などの屈折した青春像とはうって変わって、今回は少しとぼけたキャラクターを好演。過酷な研修で失敗を繰り返しながらも、たくましく成長していく姿に、思わず応援したくなってしまう。「がんばれ、勇気!!」パンフレットの美女・直紀に長澤まさみ。この役のためにオートバイの免許をとったそうで、その入れ込みようは相当なもの。すっぴんの地元の先生役は今までにない爽やかさだ。勇気の研修先・中村林業のエース、ヨキを演じた伊藤英明の頑張りにも目を引かれた。ちょっぴり気取った「海猿」より、こちらの方がぜったい似合っている。林業で生きる野性味あふれる青年をまさに“怪演”。
 神去村?!たしかに、そこに神様はいた!!それはクライマックスの「大山祇さんの祭り」を見ればわかる。褌姿の男たちが、先祖から受け継いだ千年桧を切り出し、山から麓へと降ろす神々しい祭り。全くCGを使わずに撮影されたというこの奇祭のシーンは、きっと映画史に残ることであろう。笑いと涙でぐしょぐしょになった後、この村を訪れたくなって思わず地図帳を取り出し、三重県のページを開いてみたら…。
 (HIRO)

監督:矢口史靖
脚本:矢口史靖
撮影:芦澤明子
原作:三浦しをん
出演:染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明、優香、西田尚美、柄本明、光石研、近藤芳正、マキタスポーツ

ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う! (2013年イギリス映画)

2014年05月01日 | 映画の感想・批評
 イギリスはニュートン・ヘイブンという町の高校を卒業した、ゲイリー、アンディ、スティーブン、オリヴァー、ピートの5人組。5人は高校の卒業式の日、12軒のパブをはしごする「ゴールデン・マイル」に挑戦するが、7軒目であえなく撃沈。アラフォーになった今は、ゲイリー以外はそれぞれに職に就き、それなりに暮らしている。
 一方、ゲイリーはといえば、「ゴールデン・マイル」の挫折が原因かどうか「アルコール中毒」治療を繰り返す日々を送っている。そんなある日、ゲイリーの招集で5人は再び「ゴールデン・マイル」に挑戦、12軒目のパブ「ワールズ・エンド」をめざして、パブ巡りを開始する。
 そんな酔っぱらいがどうして世界を救うのか、だいたい酔っぱらいが世界を救う、冗談でしょうと思っていると、意外な展開が待っている。なんと町が地球外惑星の侵略で、住民のほとんどが「ブランク(空っぽ)」な集団にかえられていたのだ。途中オリヴァー、ピートも「ブランク」に変わってしまうが、どこまでも追ってくる連中をかわしながら「ゴールデン・マイル」達成を諦めないゲイリーの執念と何よりも自由でありたいという信念が、連中の野望を打ち砕くというSFコメディになっている。
 イギリスのパブは1軒1軒それぞれに個性がある。だから5人は2軒目のパブに入った途端、様子が変だと気付く。まるでチェーン店のようになってしまっていたからだ。その時のゲイリーのセリフ「どこもかしこもスタバー化だ」に、思わずにやり。イギリスと言えば紅茶の国と思われているが、最近ではスターバックスやコスタのようなチェーンのコーヒー店が幅を利かせてきている。スーパーの棚にも紅茶よりコーヒーの方が多く並んでいる。もしかしたらこの映画はイギリスの伝統と文化の危機に警鐘を鳴らしているのかも…。 (久)

原題:The World’s End
監督:エドガー・ライト
脚本:サイモン・ペッグ、エドガー・ライト
撮影:ビル・ポープ
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、パディ・コンシダイン、ロザムンド・パイク