シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「トム・アット・ザ・ファーム」(2013年カナダ・フランス映画)

2014年11月21日 | 映画の感想・批評


 知る人ぞ知るカナダの天才美形監督グザヴィエ・ドランの長編第4作である。ドランは1989年生まれ。この映画で、ヴェネツィア国際映画祭において国際批評家連盟賞を受賞した。
 監督自身が扮する主人公トムはモントリオールから遠く離れた田園地帯へ友人ギョームの葬儀のために車を駆ってやって来る。畜産と農場を営むギョームの実家では母親と30歳になるギョームの兄フランシスがひっそり暮らしていて、周囲の人々とは疎遠な日々を送っている。いや、どうも様子がおかしいのは近隣の人々がこの一家をうとましく思って村八分にしているようなのだ。おまけに、トムとギョームがそもそもどういう関係なのか、そうした謎が謎を呼んで、思わせぶりにハラハラさせるような音楽の効果と相まってサスペンスの様相を呈してくるのである。
 リヴァー・フェニックスの遺作「ダーク・ブラッド」は荒野に迷い込んだ俳優夫婦を助けた地元の若者が妻に横恋慕してどこへも行けないように夫婦を虜にするサイコサスペンスであったが、この映画もまた「悪夢」ものというか、兄のフランシスがトムの車を取り上げてどこへも逃れられないように虜にしてしまう。やがてトムはフランシスの中にギョームを見いだし、フランシスはトムの中に弟の面影を見てしまうのである。
 フランシスはトムと弟がどういう関係であったか知っていて、絶対に母親に真実を告げてはならないと脅しつつ、自分自身もいつしかトムなしでは生きていけないと苦悶するのだ。そこからトムとギョームの関係、ギョームと兄の関係、母親と兄弟の関係がじわじわあぶり出されて行く。ただ、狂気を宿すフランシスに、トムは徐々に危険な兆候を読み取ってしまうのだが・・・  (ken)

原題:Tom à la ferme
監督:グザヴィエ・ドラン
原作:ミシェル・マルク・ブシャール
台本:グザヴィエ・ドラン、ミシェル・マルク・ブシャール
撮影:アンドレ・テュルパン
出演:グザヴィエ・ドラン、ピエール・イヴ・カルディナル、リズ・ロワ、エヴリンヌ・ブロシュ

「イコライザー」 (2014年 アメリカ映画)

2014年11月11日 | 映画の感想・批評


 昼はホームセンターの従業員、夜は世の中の不正を完全抹消する闇の「仕事」請負人。驚異的な能力を持ちつつも、それを隠して生きる陰影のある新たなヒーロー像をデンゼル・ワシントンが熱演。
 この男・イコライザーはちょっと変わっている。まず、武器を持っていない。しかし、彼の手にかかればありふれた日用品が必殺の凶器と化す。たとえば、ロシアン・マフィアの隠れ家での対決では、部屋の中にあった灰皿、ペーパーウェイト、グラス、花瓶、コルクスクリュー等を使い、強靭な男たちを次々と倒していく。その間、わずか19秒。ストップウォッチで自分の仕事のタイムを確認するところは、まるでコンピューターで動く精巧な機械のようだ。
 この男、人間的なところもある。まず、とても几帳面だ。朝の身支度から出勤するまでのよどみない動き、整えられた部屋の中、定時に帰宅し、食事も自分で用意する、などなど。それに読書家でもある。ベストセラーの100冊読破を実行中だ。今読んでいるのはあの「老人と海」。しかし不眠症らしい。今夜もティーバッグをナプキンに包んで向かうのは24時間営業の店。そこで同じ店の常連でもある娼婦のテリーと心を通わすのだが、彼女がロシアン・マフィアに痛めつけられたことで、彼の“イコライザー精神”が爆発することとなる。
 監督は「トレーニング・ディ」でデンゼルをアカデミー賞主演男優賞に導いたアントワーン・フークア。デンゼルの魅力をとことん知っている彼が、再びタッグを組んで成し得た、緊張感あふれるこの世界。SO COOL!!
(HIRO)

原題:The Equalizer
監督:アントワーン・フークア
脚本:リチャード・ウェンク
撮影:マウロ・フィオーレ、ASC
出演:デンゼル・ワシントン、マートン・ソーカス、クロエ・グレース・モレッツ、ビル・プルマン

「悪童日記」(2013年ドイツ・ハンガリー)

2014年11月01日 | 映画の感想・批評
 ハンガリー出身の亡命作家アゴタ・クリストフの原作は、ポーランドのアグニェシカ・ホランド監督(「ソハの地下水道」)やデンマークのトマス・ヴィンターベア監督(「偽りなき者」)などが映画化権を獲得しながらも映像化が実現しなかったが、作家の故郷であるハンガリーのヤーノシュ・サース監督によってようやく映画化された。
 第2次世界大戦末期、双子の兄弟は小さな町の祖母の農園に疎開してくる。祖母は人々から「魔女」と呼ばれ、双子にまき割りや水汲みなどの労働を課し、2人のことを「メス犬のこども」と呼ぶ。もっともこの映画では登場人物にはだれも固有の名前が与えられていない。双子は身体と精神を鍛え、過酷で非情な状況に耐えることを誓い合う。そして双子の目に映った真実だけを、疎開前夜に父から渡された日記に綴っていく。
 果たしてこの双子をタイトル通り「悪童」と呼んでいいのか、画面に見入りながら考えていた。
 人々から物を盗み、司祭を強請って金をせしめようとする。ある時、靴を盗もうとユダヤ人の店に押し入るが、双子の境遇に同情したユダヤ人はタダで靴をくれる。そのユダヤ人を密告した司祭館で働く娘を爆死させる。戦争が終わり町に入って来た戦勝国の兵士にレイプされ絶命した娘と、娘を憐れむ母親もろともその家に火を放つ。
 司祭の「聖書の『十戒』を読んだことがあるか」という問いに、双子は「“汝、殺すなかれ”って言うけど、みんな、殺している」と答える。おとなの方がよほど嘘つきで、狡猾で、残虐で、破廉恥ではないかと見透かしたような双子の行動は決して許されるものではないが、戦争という大罪を犯している大人に非難する資格があるだろうか。双子が「悪童」ならおとなは「極悪人」だわと思わずにいられなかった。(久)

原題:A nagy fuzet
監督:ヤーノシュ・サース
原作:アゴタ・クリストフ
脚本:アンドラーシュ・セーケル、ヤーノシュ・サース
撮影:クリスティアン・ベルガー
出演:アンドラーシュ・ジェーマント、ラースロー・ジェーマント、ピロシュカ・モルナール