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「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」 (2018年 アルゼンチン・ウルグアイ・セルビア映画)

2020年07月01日 | 映画の感想・批評

 
 2012年、ブラジルのリオデジャネイロで開催された国連「持続可能な開発会議」で最も注目を浴びたのは、南米の小国ウルグアイの大統領が行ったスピーチだった。それは、「世界の環境危機を引き起こしている真の原因は、消費至上主義であり、経済発展は必ずしも人類の幸福に結びついていない。本当の幸せとは一体何なのか、しっかり考えていくことが大切だ。」というもの。それ以来彼は、「世界でいちばん貧しい大統領」と呼ばれ、翌年の2013年、14年と連続してノーベル平和賞の候補となり、日本のTVでもその暮らしぶりが何度となく紹介された。
 彼の名はホセ・ムヒカ。“貧しい”の根拠は、国民のよりよい生活のためには自己犠牲をいとわず、給料の9割を貧しい人たちのために寄付したり、共和制の国で選ばれし者は、上流階級のようにではなく、大多数の人々と同じように暮らすべきだと考えているため。そのような考えは一体どこから生まれてきたのだろう。資料によれば、1973年ウルグアイで軍事クーデターが発生し、軍事独裁政権が始まったとき、政府に反対する非合法政治組織「トゥパマロス」に参加していたムヒカは、人質に取られて全国の刑務所を転々とさせられ、1985年に軍事政権が倒れ解放されるまで13年近くも苦しい刑務所生活を送ってきた。その中でたくさんの書物とも出会い、農業の大切さを知り、「人は好事や成功よりも、苦痛や逆境からより多くの物を学ぶ物だ。」と悟る。また、妻となるルシアとの出会いも大きい。彼女もゲリラ組織の一員であり、同じように逮捕され、長い獄中生活を送った同士なのだ。現在の穏やかな表情の二人からは想像もできないが、長い間権力と戦って生きてきたからこそ、大統領になった後も、庶民と共にあろうという信念を持ち続けられたのだろう。酒場でタンゴの生演奏に合わせて二人が寄り添いながらしみじみと唄うところでは、その絆の深さが見てとれた。
 職務の合間にトラクターに乗って農場を耕している大統領がいることを知り、世界で腐敗していない唯一の政治家のドキュメンタリー映画を撮ろうと決心したのは、「パパは出張中!」(’85)でカンヌ国際映画祭パルム・ドール賞を受賞したエミール・クストリッツア監督。旧ユーゴスラビア出身で、ボスニア紛争の際には自宅の略奪や父親の死に直面し、自国の状況を知らせるために「アンダーグラウンド」(’95)を制作。2度目のパルム・ドール賞受賞の経歴を持つ。そんな監督だからこそ、ムヒカ大統領も安心して迎え入れたのだろう。ちょっぴり苦いマテ茶と共に。
(HIRO)


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