シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「マリアンヌ」(2016年アメリカ映画)

2017年02月21日 | 映画の感想・批評
 ブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの2大スターを主人公に繰り広げられる恋愛をベースにしたスパイ映画である。オープニングは1942年のカサブランカで、お互いに「スパイ」として仕事上での出会いだったが、次第に惹かれあい、ロンドンに逃げて結婚し、子供にも恵まれ、幸せそうな家庭を築いている夫婦だったが、マリオン・コティヤール扮するマリアンヌには、別の任務が極秘に与えられていた・・・という話である。
 配役、脚本、衣装等往年のハリウッド映画を目指して製作された意図があったことは容易に察することは出来るが、美男美女が登場し、ハラハラドキドキの展開、お洒落な服装が、映画全体を包み込む、一連の波に乗り切れなかったような印象が残った。唯一、衣装は鮮麗された感じは持ったが・・・。
 何故なのか?それは、監督がロバート・ゼメキスだからではないかと推測する。勝手な思い込みもあるが、ロバート・ゼメキス監督は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズに代表されるような軽いタッチだけれども、優しく暖かい気持ちになれる映画を得意としているのではないだろうか(最近は、重厚感がある作品も撮っているが・・・)それに比べると、本作品は、複雑(夫婦でスパイを仕事としている)な恋愛関係を基に、展開していくことから、別の監督が撮ったバージョンが観たいと思ってしまった。名前を挙げてしまうが、シドニー・ポラックやラッセ・ハルストレス、あるいは、リュック・ベッソンといった監督が撮った方が、配役ももっと活きたのではないとか想像してしまった。特に、マリオン・コティヤールはもっと陰のある美しさが出たかもしれない。2年前の「サンドラの週末」の演技の印象が強かっただけに期待していたが、少し残念だった。
 他の監督が同題材で撮ることは無いので、比べられないが、前作の「ザ・ウォーク」での感動があっただけに、ロバート・ゼメキス監督には、得意分野(勝手な解釈ですが・・・)での次作を是非期待したい。
(kenya)

原題:「Allied」
監督:ロバート・ゼメキス
脚本:スティーブン・ナイト
撮影:ドン・バージェンス
美術:ゲイリー・フリーマン
音楽:アラン・シルベストリ
編集:ジェレマイア・ジョンストン、ミック・オーズリー
衣裳:ジョアンナ・ジョンストン
出演:ブラッド・ピット、マリオン・コティヤール、ジャレッド・ハリス、サイモン・マクバーニー、リジー・キャプラン、マシュー・グード他

「この世界の片隅に」 (2016年 日本映画)

2017年02月11日 | 映画の感想・批評


 昨年11月、全国63スクリーンという小規模公開でスタートした本作、今週(2月11日)はなんと14週目にして289スクリーンまでに拡大。その間、客足が全く衰えないという驚きの興行を展開中だ。キネマ旬報ベストテンでは執筆者と読者選出のダブルでベストワン&監督賞を受賞。他にも数々の映画賞を受賞して、名実ともに2016年を代表する作品となった。
 原作は「夕凪の街、桜の国」などで知られるこうの史代が描いた連載漫画。戦時下、見知らぬ土地に嫁いだ少女の日常を描いたこの原作を見初めた片渕須直監督が劇場用アニメ化を切望し、こうのから快諾を得る。片渕監督といえば日大芸術学部映画学科でアニメーションを専攻。在学中に宮崎駿監督と出会い、数々のジブリ作品とかかわりながら09年に「マイマイ新子と千年の魔法」を発表したアニメ界次世代のエースだ。
 この作品のすごいところはここからで、製作資金調達のために“クラウドファンディング”という方法を実施。集まった支援金を作品への出資企業を募るためのパイロットフィルムの製作費用にあてたという。エンドクレジットにも登場するが、その数実に3374人、4000万円近くの資金が集まり、この映画の誕生に大きな力となった。
 「この映画が見たい!」という多くの人々の支援を受けた片渕監督、製作への意欲が一段と高まったのは間違いない。舞台となる広島や呉の街を徹底調査。戦前戦中の文献や写真資料を調べたり、当時住んでいた人たちに聞き取りをしたり、あらゆる手段を駆使して再現した。そして使われる言葉や当時の生活習慣、流行なども忠実に取り入れ、苦しいながらも懸命に生きる人々の姿を生き生きと表現してみせた。
 もうひとつ、集客に大いに貢献していると思われるのは、コトリンゴの音楽だ。予告編で流れる「悲しくてやりきれない」を聞くと、この映画、ぜひとも映画館で見てみたいと思わずにはいられない。すごい吸引力だ。確かに、空襲や原爆投下、家族との死別、大けがなど悲しくてやりきれないことはいっぱい描かれているのだが、それ以上に心を打つのは、どんな苦境に遭遇しても、人は生きていかなければならないということ、生きるということの力強さだ。これは自然災害や事故が続く現代にも通じることだろう。主人公・すずを担当したのんの柔らかい声が気持ちよく耳に響く。
 ありがとう、こんな素敵な映画を届けてくれて。
 (HIRO)
 
監督:片渕須直
脚本:片渕須直
原作:こうの史代
撮影:熊澤祐哉
作画監督:松原秀典
音楽:コトリンゴ
声の出演:のん、細谷佳正、小野大輔、稲葉菜月、尾見美詞、潘めぐみ、岩井七世

「沈黙 サイレンス」(2016年、アメリカ映画)

2017年02月01日 | 映画の感想・批評


 遠藤周作が長編「沈黙」を発表したのは1966年。国内では谷崎潤一郎賞を受賞したが、海外でもキリスト教文学の傑作として高く評価された。71年に篠田正浩が「沈黙 SILENCE」として映画化している。高校生だった私はこの映画を見てただひたすら暗いという印象しか持たなかった記憶があるが、キネマ旬報ベストテンでは大島渚の「儀式」に次いで2位に選出された。
 さて、現代アメリカを代表する巨匠マーティン・スコセッシは構想28年、まさに満を持してこれをリメイクした。その執念が実ったような秀作である。スコセッシ特有のスタイリッシュなケレン味もなければ、思わせぶりな演出もない。いや、私はいつものスコセッシがわりと好きだけれど、こういう自然体のドラマが撮れるのかと驚くほど、この映画のスコセッシはきわめて謙虚で禁欲的だ。それもまたいいと思った。
 キリシタン禁制の時代、先行して長崎に布教に入った神父の音沙汰が絶え、かつてかれの教えを受けた若い神父ふたりがその消息を確かめるためにマカオ経由で長崎に渡る。マカオで出会ったキチジローという男は五島の出身で、神父たちに案内役となるから一緒に国に帰らせてくれと頼み込み同行する。この男はかつてキリシタンであったが、係累を処刑された果てに自らは踏み絵に応じて生きながらえたという後ろめたい過去を背負っている。いってみれば人間とは弱い存在であり、誰もが信念を貫いて殉教できるわけではない。そういうごく一般の信者を象徴するようなキャラクターとして描かれている。聖書の中のユダの役回りだ。
 結局、神父はキチジローの密告によって役人に捕らえられ、棄教を迫られる。イノウエさまという狡猾な奉行は神父に対してことさら柔和に接し、キリシタンの村人たちを眼前で拷問にかけながら「おまえが棄教しないから信者がこんなに苦しまなければならないのだ」と一転恫喝するのだ。あるいはまた、こころの裡は誰にもわからないのだから形だけでも踏み絵に応じろ、と物わかりのよい顔をして説得を試みるのである。
 信者がかくも激烈な言語を絶する試錬に苦しんでいるのに、神は何ら救いの手を差し伸べずただ沈黙している。神を疑う気持ちがふと湧き上がる信教ゆえの苦悶を神父らはどう克服して行くのであろうか。(健)

原題:Silence
監督:マーティン・スコセッシ
原作:遠藤周作
脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ
撮影:ロドリゴ・プリエト
出演:アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライヴァー、浅野忠信、窪塚洋介、笈田ヨシ、塚本晋也、イッセー尾形