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「スティーブ・マーティンの四つ数えろ」(1982年アメリカ映画)

2020年06月17日 | 映画の感想・批評
 冒頭、著名な科学者が自動車事故で亡くなる。私立探偵(スティーブ・マーティン)の事務所に科学者の娘を名乗る美女(レイチェル・ウォード)が訪れ、そのときたまたま探偵が読んでいた当該事故を報じる新聞の一面記事を見て卒倒し倒れる。それをよいことにして、探偵が唇を奪うは胸をもみしだくは・・・おいおいおい・・・。いまならさしずめセクハラの犯罪行為だ。こういう卑猥なギャグは監督のカール・ライナーと共同脚本のマーティンの趣味と見た。ウォードの女優根性も大したものだ。
 娘は事故を装った殺人だと疑い、父が残したという1ドル紙幣の切れ端のメモを示す。調査の依頼を受けた探偵は科学者の事務所を調べ、机の抽斗から1枚の写真(エヴァ・ガードナー)と2枚の名簿を発見する。そこへ、殺し屋(アラン・ラッド)がやって来て探偵を撃ち、名簿を奪って去る。死んだフリをして助かった探偵が娘の自宅に赴き、鬱気味の姉が何か知っているかも知れないと聞いて電話する。姉(バーバラ・スタンウィック)は錯乱状態で父が死んだなんて嘘だと譲らない。そこで、探偵は姉の夫(レイ・ミランド)が寄宿するホテルの一室にある砂糖壺の蓋に1ドル紙幣の片割れが貼り付けてあるらしいという情報をもとにそこを訪れ、夫から酒代と引き換えに紙幣を回収すると、見事に切れ端と一致した。いやあ、これみんな往年のフィルムノワールの名場面をマーティンのカットにつないでいるのだ(順に「拳銃貸します」42年、「私は殺される」48年、「失われた週末」45年)。そういうことから全編モノクロだ。
 探偵が、手がかりを求めて酒場の歌手(エヴァ・ガードナー)に会いに行く。続いて、その愛人だった男(バート・ランカスター)のアパートに赴き、ベッドで眠る男を起こすと、そこへふたり組の殺し屋がやって来て、探偵まで巻き添えを食って撃たれる(いずれも「殺人者」46年)。
 カール・ライナーは「スタンド・バイ・ミー」のロブ・ライナー監督の父である。私などはノーマン・ジュイソンの佳作「アメリカ上陸作戦」でのコミカルな演技が印象的だが、アメリカ本国ではテレビ、映画、舞台、音楽の世界で役者、演出、台本作者、プロデューサー等を器用にこなすマルチタレントとして名高い。演技者としてのカール・ライナーは風采のあがらぬ息子とは違って端整な顔立ちのインテリ風の紳士で、私は昔からファンだった。この映画では謎めいた執事に扮している。
 さて、映画のほうは、ハンフリー・ボガートやジェームス・キャグニー、カーク・ダグラス、ラナ・ターナー、ジョアン・クロフォード、フレッド・マクマレイ等々が次々と現れて、映画ファンには堪らない。エンドマークのあとに登場したスターのカットと引用作品が示されるが、全部で18本だった。このうちで見ている作品、未見だが内容を知っている作品が15だった。「愛憎の曲」(46年)、「暗黒街の復讐」(48年)、「賄賂」(49年)という3つだけは恥ずかしながら知らない。これはフィルムノワールに詳しいKOICHI氏に聞いてみよう。
 ただ、引用作品を知らないと何が面白いのかわからない類いの映画といえばよいか。変な例えで恐縮だが、誰かがAさんという人のモノマネをしたとする。それが実によく似ていたとしよう。Aさんをよく知っている人には爆笑ものだろうが、知らない人には一向に面白くない。そういう映画である。そうした楽屋落ちに加えて、マーティンのかますギャグが総じてバカバカしくて、そういうのが苦手という人にもちょっとしんどいかも知れない。
 邦題は、いうまでもなく我が最愛のスター、ボガートが名探偵フィリップ・マーロウに扮したハワード・ホークスの名作「三つ数えろ」(46年)のもじりであり、マーティンが探偵仲間のマーロウに協力を頼むというのが笑わせる。ニヒルなボギーが出て来るだけで一見の価値があった。(健)

原題:Dead Men Don't Wear Plaid
監督:カール・ライナー
脚本:カール・ライナー、ジョージ・ガイプ、スティーブ・マーティン
撮影:マイケル・チャップマン
出演:スティーブ・マーティン、レイチェル・ウォード、カール・ライナー、ケーリー・グラント、ベティ・デイヴィス、イングリッド・バーグマン


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1 コメント

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パロディの文化 (KOICHI)
2020-06-18 22:13:09
ご指摘の3作品は私も未見ですが、
引用されている映画は、どれもフィルム
ノワール史に残る名作ばかりです。
アメリカ映画のパロディ精神が効いて
いますね。
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