シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「愛がなんだ」(2019年 日本映画)

2019年05月30日 | 映画の感想・批評


角田光代さんの原作「愛がなんだ」を映像化した作品です。
岸井ゆきさん演じるテルコが、成田凌さん演じるマモルが好きすぎて周りが見えなくなり、それが原因で仕事もクビになる。出来る事ならマモルと同化してしまいたい。最後はもう好きかどうかもわからない。どんな形でもいいから一緒にいたい、そんな救いのない恋愛をしてきたひとに刺さりまくる映画だと思います。
角田光代の小説はこれまでたびたび映像化されてきて、女性ならではの感性や繊細な内面描写が大きな魅力ですが、永遠のこじらせ少年のような男性のストーリーを得意とする今泉力哉監督に本作を託したのは、ある意味大きなチャレンジであり冒険だったと思う。
印象に残るシーンは最後のテルコとマモルのフィックスでの2ショットの長回し、マモルが話があるといい、体調を崩しているテルコの部屋に上がり込みうどんをつくり、そのうどんをテルコが食べるシーン。
何気ない普通の会話のシーンなんですが、なんでしょ?飽きずに見られました。役者の力量?小道具の配置?とにかく印象に残るシーンでした。
役者で言えばナカハラ演じる若葉竜也さんですかね。
コンビニ前でテルコに葉子への気持ちを吹っ切る事を伝える所の微妙な表情が「この表情が出来るって凄いな」そう感じました
京都シネマで観たのですが、満杯でしたね。
(chidu)

監督:今泉力哉
原作:角田光代
脚本:澤井香織、今泉力哉
撮影:岩永洋
出演:岸井ゆき、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、江口のりこ,穂志もえか、中島歩、片岡礼子、筒井真理子





「初恋~お父さん、チビがいなくなりました(2019年日本映画)」

2019年05月22日 | 映画の感想・批評
 子供3人が独立し、家を出ていった結婚生活50年を迎える夫婦の物語。その夫婦には、黒猫の「チビ」が同居し、二人と一匹で、平凡な毎日を過ごしている。夫は、定年退職後、会社に顧問という形で仕事を続けているが、脱いだ洋服は脱ぎっぱなし、家事は一切せず、会話は一方的な「メシ・フロ・ネル」だけの典型的な昭和の亭主関白タイプ。一方、妻は、その状況に、大手を振って反論は出来ず、唯一の楽しみはチビとの会話である。足腰が弱くなってきているのか、動作に機敏さは見られない。
 ある日、一番下の娘が訪ねてきた時に、母親が娘に「お父さんと別れようと思っている」と呟いたことから、子供達3人が緊急招集し、母親に問いただすが、その時は、具体的な話には発展しなかった。だが、事件が発生する。既に、チビは行方不明になっていたが、ひたすら、無事の帰りを願っていた妻と、既に、死んでしまっているという夫との間で、明らかな亀裂が浮き彫りになる。妻も本当はもう死んでしまっていると思っているが、それを口にすると認めてしまうことになってしまう辛さがあるのに、それを、理解していない夫。「チビが居なくなって悲しい。そういう同じ気持ちで居てほしかった」妻の発言にハッとする夫。だが、時は既に遅く、妻から夫への「離婚してほしい」と一方的な訴え。原因が分からない夫は、一生懸命考えるが分からず、一つ一つ話を聞く中で、妻が望んでいるものが分かり、自分の気持ちに素直になり、お互いに、優しい顔になっていくのである。この映画タイトルには、原作に加え“初恋“というキーワードは追加されている。それが、ポイントであろう。
 恋愛設定は「昭和」、映画製作は「平成」、投げかけるのは「令和」ということで、3つの元号にまたがる永遠のテーマを描いた作品で、ラストには、「令和」時代にも大きな社会問題になる痴呆・介護という問題にまで踏み込んだ映画だった。
(kenya)

監督:小林聖太郎
脚本:本調有香
原作:西烔子「お父さん、チビがいなくなりました」
撮影:公表データが確認出来ず
出演:倍賞千恵子、藤竜也、市川実日子、星由里子、佐藤流司、小林且弥、小市慢太郎、西田尚美、優希美青、濱田和馬、吉川友他

「天才作家の妻ー40年目の真実ー」(2017年 スウェーデン、アメリカ、イギリス)

2019年05月15日 | 映画の感想・批評
 ノーベル文学賞が発表される10月が近づくと、日本でも村上春樹ファンが「今年こそは!」とそわそわしだす。映画の冒頭、現代文学の巨匠ジョゼフ・キャッスルもベッドから出たり入ったり、期待と不安でそわそわ。
 友人や教え子を招待した受賞報告パーティで「ジョーンは人生の宝だ。彼女なくして、私はいない」とスピーチ。しかし理想的な夫婦と思われているふたりには秘密があった。
 大学教授と学生として出会い、結婚したのは1950〜1960年代前半のアメリカ。1960年代と言えば今春公開された「ビリーブ 未来への大逆転」の主人公が、どれほど優秀であっても弁護士事務所に採用されず苦労するが、女性の社会的活躍が阻まれていた時代だった。小説家を目指していたジョーンも「女性の書いた本は読まれない」という言葉に夢を諦め、ジョゼフの原稿チェックを手伝ううちに、いつの間にかジョーンの書いたものがジョゼフの名で発表され、評価されていく。
 だが本作は、ジョーンがジョゼフのゴーストライターだったのかを追求していく物語ではない。ジョゼフの経歴を疑う記者のナサニエルがジョーンに近づき、真相を引き出そうとする場面もあるが、本来なら人々の賞賛を受けるはずのジョーンの心の葛藤に焦点が当てられている。
 自宅でのパーティ、授賞式のリハーサルで得意満面のジョゼフを見つめるジョーンの表情が徐々に厳しくなっていき、40年近くの間に醸成されてきた感情が爆発しそうになる。夫の名前でしか小説を発表できなかったが、ジョーンは創作を続けることができた。ふたりの子どもにも恵まれ、まずまずの生活を築いてきたジョーン。“夫の”ノーベル賞受賞をきっかけに、ジョーンは本当の人生を取り戻す決断を下すのか。残念ながら米アカデミー主演女優賞は逃したが、“夫を支える慎ましい完璧な妻ジョーン“の揺れ動く愛憎を、グレン・クローズが”完璧に“演じた。
 一方、妻の栄誉を自分のものにしてしまったジョゼフにも苦悩はあったはずだ。暴飲暴食、女癖の悪さなどは、コンプレックスの裏返しではないだろうか。虚構の舞台でスポットライトを浴びてひとりはしゃぐジョゼフが哀れに見えたのは、私だけだろうか。女性の才能が当たり前に認められない社会は、男性をも幸せにはしないのだと思う。
 本作が製作された2017年の文学賞は、私の大好きな映画「日の名残り」の原作者カズオ・イシグロが受賞した。そして昨年の文学賞は、スウェーデン・アカデミーのスキャンダルのため発表が見送られ、今年は昨年分も含めた発表がされるらしい。(久)

原題:THE WIFE
監督:ビョルン・ルンゲ
原作:メグ・ウォリッツァー「The Wife 」
脚本:ジェーン・アンダーソン
撮影:ウルフ・ブラントース
出演:グレン・クローズ、ジョナサン・プライス、クリスチャン・スレーター、マックス・アイアンズ、ハリー・ロイド、アニー・スターク、エリザベス・マクガヴァン

「ROMA/ローマ」 (2018年 アメリカ映画)

2019年05月08日 | 映画の感想・批評


 映画を見る手段で最近注目を浴びているのが「ネット配信」という方法だ。以前は“映画は劇場(映画館)で”が定番だったが、TV、ビデオ、DVDと映画を見る手段は次々と広がっていき、ついにここまで来たのだ。その中でも現在世界中で1億人以上が利用しているのがNetflixというオンラインストリーミングサービス。「ROMA/ローマ」はそのNetflixが製作した注目すべき作品の一つである。ネット配信作品は、カンヌ国際映画祭ではフランスでの劇場公開の予定がないとコンペティションの対象外とされていたのだが、ヴェネチア国際映画祭では、昨年ついに門戸が開かれ「ROMA/ローマ」が最高賞の金獅子賞を受賞。先日の第91回アカデミー賞でも監督賞、撮影賞、外国語映画賞の三冠を獲得するという快挙を成し遂げたのである。
 「ローマ」と言ってもイタリアではない。舞台は1970年代のメキシコ。その首都の高級住宅地に「ローマ地区」はある。物語はそこに住む医師の家族と住み込みの家政婦クレオの日常生活を軸に展開されていく。実はこの作品、アルフォンソ・キュアロン監督の自伝的作品とも言われ、撮影も担当。主役のクレオ役をキャスティングするに当たっては、自分の家で働いていた“第2の母”と慕うメイドの出身地・オアハカ州まで出かけて、本人に似た現地の俳優を捜したそうで、ヒロインのヤリッツア・アパリシオはまさにクレオにピッタリの人だったようだ。また、生まれ育った70年代のメキシコシティを再現するに当たっては、街路まで忠実にセットを作り上げたそうで、そのリアル感は並大抵ではない。水をまいて掃除をする最初の場面から、この「リアル感」がしっかり貫かれていて、観客の心をぐいぐいと画面に引き込んでいく。クレオの恋人フェルミンが全裸で武術を披露する場面、今にもにおってきそうな犬の糞を始末する場面、実際にあったデモ隊と武装集団との衝突場面、その事件に遭遇してしまったショックで破水し死産してしまう場面、そして海岸で子どもたちが波にのまれる怖い怖い場面。どれもが本当にリアルで力強く、頭に焼き付いて離れないものばかりだ。さらにキュアロンは家族の日常を描きながら人種と階級の問題にもスポットを当て、それは全世界共通の問題でもあると示唆する。
 自分は幸運にもこの傑作を劇場で見る機会を得た。昨年京都にできた新しい映画館「出町座」で。そこは書店やカフェも併設されており、「映画」にじっくり浸ることができるまさに至福の空間。明るい部屋でディスプレーを通じてより、映画「ROMA/ローマ」を見るには最もふさわしい場所なのでは、と感じたのは自分だけではなさそうだ。
(HIRO)

原題:ROMA
監督:アルフォンソ・キュアロン
脚本:アルフォンソ・キュアロン
撮影:アルフォンソ・キュアロン
出演:ヤリッツア・アパリシオ、マリーナ・デ・タビラ、マルコ・グラフ、ダニエラ・デメサ、カルロス・ペラルタ


「バイス」(2018年アメリカ映画)

2019年05月01日 | 映画の感想・批評

 
 実力派副大統領としてアメリカ史上に名を留めることとなったディック・チェイニーの一代記である。
 チェイニーを演じるのは変幻自在の怪優クリスチャン・ベール。学生時代の普通体型から政治家になっての肥満体に至るまで、これが同一人物かと思えるほどの変身ぶりだ。むかし、ロバート・デニーロがボクシング映画「レイジング・ブル」でボクサー時代の痩せた体型とでっぷり太った主人公を好演して世間をあっといわせたが、それに匹敵する役者根性である。
 チェイニーは一流大学を中退し、地元の大学に入り直して一念発起、政治学の学位をとる。やがて、政界につながりができて俄然頭角をあらわし、ニクソン政権(共和党)で要職を得たあと、それを引き継いだフォードのもとでは、国防長官に昇格したかつての上司ラムズフェルドの後釜の首席補佐官に上り詰める。しかし、共和党が野に下ると地元に帰って下院議員を務めた。再び共和党が政権を奪うや、ブッシュ・シニアから国防長官に指名される。
 話が佳境に入るのはこれからだ。民主党に政権交代してからはグローバル企業の重役に転じていたが、ブッシュ・ジュニア(サム・ロックウェルのそっくりぶりがおかしい)が大統領選に出馬するにあたって、チェイニーを副大統領候補にかつごうとする。今や功成り名を遂げたチェイニーにとって、飾り物に過ぎない副大統領などに興味はないと消極的だったが、顧問弁護士から「副大統領は行政府のナンバー2であるとともに立法府の長だ」と焚きつけられ、政策に積極的に口を出すことを条件に引き受けるのである。ちょっと解説すると、副大統領は大統領の承継順位1位であるとともに、上院の議長を兼務する決まりになっている。
 ただ、チェイニー家の押入にも骸骨があった。ふたり娘の長女が同性愛者であることをカムアウトするのだ。妻は失望し混乱するが、チェイニーはそう告白する愛娘をやさしく抱き締めるのである。周知のとおり共和党右派は同性愛や妊娠中絶に反対であり、ブッシュ・ジュニアも同様だが、チェイニーはかれら共和党仲間に「自分は同性婚に賛成だ。この点は譲れない」と明言して憚らない。そういうチェイニーの人間的一面も描かれる。
 ほかにも、パウェル国務長官やキッシンジャー補佐官のそっくりさんが登場して笑わせる。政治の世界では「一寸先は闇」、権謀術数を駆使して権力闘争が繰り返される。実によくできた政治ショーとして楽しませてもらった。 (健)

原題:Vice
監督・脚本:アダム・マッケイ
撮影:グレイグ・フレイザー
出演:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェル