シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「枯れ葉」(2023年 フィンランド、ドイツ映画)

2024年01月31日 | 映画の感想・批評

 
 フィンランドの首都、ヘルシンキ。スーパーマーケットで働くアンサと工場労働者のホラッパは、カラオケバーで会い互いに惹かれ合うものを感じるが、名前も聞かずに別れてしまう。アンサは廃棄処分となったパンを盗んだためにスーパーを解雇され、次に見つけたパブの仕事も店主が警察に逮捕されて失ってしまう。生活苦に陥ったアンサは工場の肉体労働に従事するようになる。一方、ホラッパはアルコール依存症で酒瓶をいつも内ポケットに入れており、勤務中の飲酒が原因で何度も職場を解雇されている。
 アンサと再会したホラッパはゾンビ映画を見に行き、二人の距離感はぐっと縮まるが、アンサのケータイの番号を書いた紙を落としてしまい連絡ができない。映画館の前で何日も立ち続け、ようやくアンサと会うことができた。ディナーに招待されたホラップはアンサと親密なひとときを過ごすが、内ポケットに忍ばせた酒を飲んでいるところを見つかり、「アル中はごめんだ」と言われて、怒って出て行ってしまう。ホラッパは飲酒が原因で次々に職を失い、ついに酒を断つ決心をする。ホラッパは酒を辞めたことを電話で告げ、胸躍らせてアンサの家に向かうのだが・・・

 カウリスマキの映画の登場人物は極端なまでに表情を抑制し、喜怒哀楽の感情をほとんど出さない。そのため時折見せる感情表現がとても有効に機能している。いつも物思いに沈んだ表情をしているアンサが、ラストで見せるウインクに観客は救われたような思いがするのはそのためだろう。セットもまるでアマチュア映画のように簡素だ。シンプルであることをコミカルなまでに徹底している。これがカウリスマキのスタイルであり、このスタイルをデビューから40年間続けてきた。カウリスマキのファンはこのスタイルに惹かれて劇場に足を運ぶのではないか。
 カウリスマキ映画の特徴を更に挙げてみると、左右対称の構図、台詞の少なさ、簡素なセット撮影、わかりやすいストーリー・・・etc. カメラアングルもサイズも安定していて、極端なローアングルやハイアングルはなく、ズーム・インもアウトもないし、移動撮影もあまり使わない。カットの長さは大体同じで、長回しはせず、フラッシュのような短いカットつなぎもない。固定ショットの積み重ねで、映像効果には関心がない。過剰な演技や演出、複雑なストーリー展開を嫌い、映画のリズムやバランスを一番大事にしている。シンプルで調和のとれた静謐な映画空間を志向しているところは、カウリスマキが敬愛する小津安二郎とよく似ている。
 たびたび画面に登場する映画のポスター(「逢びき」「若者のすべて」「気狂いピエロ」等)はカウリスマキが愛する映画へのオマージュであり、映画愛の表れである。「枯れ葉」というタイトルや主題曲の「枯れ葉」はノスタルジックで、時代錯誤感があるが、これは生真面目で誠実な時代遅れの恋愛とイメージを一致させているからと思われる。やや陳腐ともいえるストーリーも二人の平凡な愛を象徴しているかのようだ。

 「枯れ葉」には労働のシーンが多く、登場人物が次々に職を失い困窮していく展開に、一見リアリズム映画のような印象を持つが、実はそれほどリアリティを追及しているわけではない。アルコール依存症であるホラッパがあんな簡単に酒を止められるわけがない。リアリズムを追求するなら、「失われた週末」のように酒を断つまでの苛酷なプロセスを描くはずだが、監督の関心はそこにはないようだ。カウリスマキが描きたいのはあくまでも恋愛ファンタジーであり、目を背けたくなるような現実を描くことではない。「枯れ葉」は困難を乗り越えて愛が成就するというストーリを、カウリスマキ好みの映画空間の中で開花させた一種のおとぎ話である。
 映画の中でラジオから何度もロシアによるウクライナ侵攻のニュースが流れる。思えばカウリスマキの母国フィンランドはロシアと長い国境線を有し、何度もロシアに占領された悲しい歴史をもっている。ウクライナ侵攻は他人事ではない。ここには恋愛ファンタジーとは異なるカウリスマキのリアルがある。(KOICHI)

原題: kuolleet lehdet
監督:アキ・カウリスマキ
脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:アルマ・ポウスティ  ユッシ・バタネン

「ポトフ 美食家と料理人」(2023年 フランス映画)

2024年01月24日 | 映画の感想・批評
 19世紀末のフランスの片田舎が舞台。料理人夫婦(ウージェニー:ジュリエット・ビノシュ、ドダン:ブノワ・マジメル)の物語。
 二人の料理の評価はヨーロッパ各国に広まっていた。そんなある日、ユーラシア皇太子から晩餐会に招かれたドダンは、長時間に渡る大量の料理にうんざりしてしまう。そこで、自らは、シンプルな家庭料理の“ポトフ”で皇太子をもてなす提案をする。だが、周りは、賛成しない。ウージェニーも最初は戸惑うが、ドダンの料理への情熱に感銘し、後押しすることになる。ただ、そんな中、ウージェニーが倒れてしまう。落ち込んでしまうドダンは、自分の手で作る渾身の料理で、ウージェニーを元気付けようと決意するが・・・。
 一心不乱に料理に打ち込むシーンは、丁寧で音やカメラワークも間合いも心地良い。料理人同士の適格な指示に背筋がピンとする。ずっと観ていられる。実際に食することは出来ないことは承知しながらも、「美味しい」と思えてしまう。これは監督の演出力だと思う。どう表現すれば、どう捉えられるのか、撮影しながら、頭の中で把握されている。カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞受賞も納得。
 絶対音感ならぬ絶対味覚をもつ少女が、ジュリエット・ビノシュからのバトンタッチ(劇中もそうだし、演劇界も)を表しているのか、今後の展開も元気付けられる。決して、昔をないがしろにせず、新しい時代を作っていく。その気持ちが表現されている。料理という題材をベースに、お互いがお互いを「想う」心と、次の世代への「想う」気持ちを掛け合わせている。
 その監督は、「青いパパイヤの香り」「シクロ」「夏至」他のトラン・アン・ユン監督。特に、「シクロ」は大好きな1本。新作公開と分かった時点で必ず観に行こうと思った。劇場が明るくなるまで観てほしい。エンドロールの最後に、『イェン・ケーに捧ぐ』と映し出される。鑑賞後調べると、監督の奥様と分かる。奥様は、監督デビュー作の1993年の「青いパパイヤの香り」に出演されていて、それ以降、タッグを組んでいるとのこと。こんな壮大なラブストリーがあるだろうか。劇中の物語とスタッフのプライベートな物語を含めて、物語が折り重なった重厚な恋愛映画。決して、嫌味感過ぎることなく、すんなり観られる。
 本作は、ご夫婦やカップルにお勧め。是非、ご一緒に観て頂ければ、幸せな時間を共有出来るのではないかと思います。
 ただ、ラストの言葉は、この監督らしくもあるが、個人的にはもう一方の選択の方がしっくりくる。それは個人的な意見だが・・・。それは、観て頂いてのお楽しみということで・・・。
(kenya)

監督・脚本:トラン・アン・ユン
原題:The Pot-au-Feu
撮影:ジョナタン・リケブール
出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル、エマニュエル・サランジェ、パトリック・ダスンサオ、ガラテア・ベルージ、ヤン・ハムネカー、フレデリック・フィスバック、ボニー・シャニョー・ラポワール

「PERFECT DAYS」(2023年 日本映画)

2024年01月17日 | 映画の感想・批評

 
 役所広司が第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した作品である。監督は小津安二郎監督を敬愛するドイツのヴィム・ヴェンダース。アカデミー賞の国際長編映画賞の日本代表にも選出され、世界各国での公開が決まっている。
 平山(役所広司)は東京渋谷区の公衆トイレの清掃員として働き、古ぼけたアパートで一人静かに暮らしている。早朝、近所の女性が掃き掃除をする竹箒の音で目を覚まし、薄い布団をたたみ、歯をみがき髭を整え、清掃のユニフォームに身を包み部屋を出る。空を見上げて笑みを浮かべ、自販機で缶コーヒーを買い、ライトバンに掃除道具を積み仕事に向かう。カセットテープを押しこんだカーステレオから流れてくるのはアニマルズの「朝日のあたる家」。こうして平山の一日が始まる。
 いくつもの公衆トイレを回り、平山は黙々と仕事を片付けていく。壁の隙間にゲームのようなメモを見つけると、くすっと笑い書きこみをした後に元の場所に戻す。まるで秘密のラブレターのように。昼休みには神社でサンドイッチを食べ境内の木々を見上げ写真を撮る。仕事を終えると自転車で銭湯に行き、居酒屋でいつものメニューを注文する。スタンドの明りで文庫本を読み、静かに眠りにつく。そしてまたいつもの朝が来る。平山の暮らしは、まるで修行僧のようだ。
 姪のニコ(中野有紗)の出現により、平山の過去がかいま見える。ニコを迎えに来た平山の妹(麻生祐未)が運転手付きの車に乗っていたことから、裕福な暮らしぶりがうかがえる。しかし、平山の過去がどうであれ、それを超越したところに今の生活がある。平山は自らの手で独自の美学を持ったこの穏やかな暮らしを手に入れたにちがいない。
 平山と友山(三浦友和)の二人きりのシーンが素敵だ。友山は平山が日曜日だけ通い、ほのかな恋心を抱く小料理屋の女将(石川さゆり)の元夫。癌が転移し元妻にありがとうを伝えに来たのだと言う。「わからないことはわからないまま結局終わってしまう」と呟く横顔には諦観の美があり、これを共有する二人の短い友情が切ない。昨年京都の映画館で観た「台風クラブ」(相米慎二監督、1985年)では30代前半の三浦友和がちょっといい加減な中学教師役で弾けていたが、正統派二枚目俳優としてデビューした後の年の重ね方が端正で美しい。
 平山にも老いが忍び寄っている。銭湯場面での背中や肉の弛みは隠せない。平山を見ていると、人生の意味や人間の成熟という言葉に行き当る。
 ラストシーンの平山の姿には思わず引き込まれ余韻が残る。そこには確かな人生の肯定がある。
 作品に登場する公共トイレが素晴らしい。渋谷区の公共プロジェクトと聞くが世界的な建築家やクリエイター達が参加している。気になった斬新なトイレは、未使用の時は中が透明で、鍵を閉めると不透明になり、中が全く見えなくなるというもの。安全性も美観にも優れている。渋谷区に行く機会があれば、是非トイレ巡りをしてみたい。トイレが観光名所になるなんて、何て素敵なことだろう!(春雷)

監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬
撮影:フランツ・ラスティグ
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和

2023年度ベストテン発表

2024年01月10日 | BEST
年頭にあたってメンバー7名による恒例のベストテンを発表します。
2023年に関西において公開された新作の日本映画、外国映画それぞれのベスト作品を(事情により新作をあまり見られなかったメンバーには昨年1年間に見た旧作の中から)10本まで順位をつけて選んでもらいました。みなさんのベスト作品と比べてみてください。
題名表記、原題、製作国はKINENOTE、IMDBに依拠しています。基本的に製作年を表示しましたが作品によっては公開年となっているものもあります。(健)

♧久
【日本映画】
1位「せかいのおきく」(阪本順治)
2位「福田村事件」(森達也)
3位「怪物」(是枝裕和)
4位「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース)
5位「波紋」(荻上直子)
【外国映画】
1位「いつかの君にもわかること」(ウベルト・パゾリーニ、Nowhere Special、20年伊=英ほか)
2位「イニシェリン島の精霊」(マーティン・マクドナー、The Banshees of Inisherin、22年英=米=愛)
3位「別れる決心」(パク・チャヌク、헤어질 결심22年韓国)
4位「パリタクシー」(クリスチャン・カリオン、Une belle course、仏=白)
5位「ロスト・キング 500年越しの運命」(スティーヴン・フリアーズ、The Lost King、22年イギリス)
6位「小さき麦の花」(リー・ルイジュン、隠入塵煙、22年中国)
7位「理想郷」(ロドリゴ・ソロゴイェン、As bestas、22年西=仏)
8位「蟻の王」(ジャンニ・アメリオ、Il signore delle formiche、22年イタリア)
9位「青いカフタンの仕立て屋」(マリヤム・トゥザニ、Le bleu du caftan、22年モロッコほか)
10位「燃えあがる女性記者たち」(リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュ、Writing with Fire、21年インド)

♣HIRO
【日本映画】
1位「怪物」
2位「BAD LANDS バッド・ランズ」(原田眞人)
3位「福田村事件」
4位「エゴイスト」(松永大詞)
5位「せかいのおきく」
6位「こんにちは母さん」(山田洋次)
7位「愛にイナズマ」(石井裕也)
8位「君たちはどう生きるか」(宮崎駿)
9位「首」(北野武)
10位「ゴジラ-1.0」(山崎貴)
【外国映画】
1位「ザ・ホエール」(ダーレン・アロノフスキー、The Whale、22年アメリカ)
2位「フェイブルマンズ」(スティーヴン・スピルバーグ、The Fabelmans、22年アメリカ)
3位「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」(クリストファー・マッカリー、Mission: Impossible - Dead Reckoning Part One、23年アメリカ) 
4位「パリタクシー」
5位「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート、Everything Everywhere All at Once、22年アメリカ)
6位「人生は美しい」(チェ・グッキ、인생은 아름다워、22年韓国)  
7位「すべてうまくいきますように」(フランソワ・オゾン、Tout s'est bien passé、21年仏=白)
8位「CLOSE クロース」(ルーカス・ドン、Close、22年蘭=仏=白)
9位「マイ・エレメント」(ピーター・ソーン、Elemental、23年アメリカ)
10位「エンドロールのつづき」(パン・ナリン、Chhello Show、21年印=仏)

♣ kenya
【日本映画】
1位「ヴィレッジ」(藤井道人)
2位「月」(石井裕也)
3位「怪物」
4位「アナログ」(タカハタ秀太)
5位「正欲」(岸善幸)
6位「ミステリと言う勿れ」(松山博昭)
7位「ラーゲリより愛を込めて」(瀬々敬久)
8位「劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室」(松本彩)
9位「ほつれる」(加藤拓也)
10位「市子」(戸田彬弘)
【外国映画】
1位「バービー」(グレタ・ガーウィグ、Barbie、23年アメリカ)
2位「ポトフ 美食家と料理人」(トラン・アン・ユン、La passion de Dodin Bouffan、23年仏=白)
3位「ティル」(シノニエ・チュクウ、Till、23年アメリカ)
4位「非常宣言」(ハン・ジェリム、비상선언、22年韓国)
5位「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
6位「ダンサー イン Paris」(セドリック・クラピッシュ、En corps、22年仏=白)
7位「ノック 終末の訪問者」(M・ナイト・シャマラン、Knock at the Cabin、23年アメリカ)
8位「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」
9位「ヴァチカンのエクソシスト」(ジュリアス・エイヴァリー、The Pope's Exorcist、23年米=英=西)
10位「フェイブルマンズ」

♧アロママ
【日本映画】
1位「せかいのおきく」
2位「福田村事件」
3位「怪物」
4位「君たちはどう生きるか」
5位「映画 窓ぎわのトットちゃん」(八鍬新之介)
6位「正欲」
7位「こんにちは、母さん」
8位「アナログ」
9位「ゴジラ-1.0」
10 位「BLUE GIANT」(立川譲)
【外国映画】
1位「生きる LIVING」(オリヴァー・ハーマナス、Living、22年イギリス)
2位「パリタクシー」
3位「ナポレオン」(リドリー・スコット、Napoleon、23年アメリカ)
4位「TAR/ター」(トッド・フィールド、Tár、22年アメリカ)
5位「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」(マーティン・スコセッシ、Killers of the Flower Moon、23年アメリカ)
6位「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」(ケネス・ブラナー、A Haunting in Venice、23年アメリカ)
7位「オットーという男」(マーク・フォースター、A Man Called Otto、22年アメリカ)

♣KOICHI
【日本映画】
1位「福田村事件」
2位「怪物」
3位「シャイロックの子供たち」(本木克栄)
【外国映画】(昨年見た旧作のみから選考)
1位「パリ、テキサス」(ヴィム・ヴェンダース、Paris, Texas、84年仏=米)
2位「大人は判ってくれない」(フランソワ・トリュフォー、Les Quatre Cents Coups、59年 フランス)
3位「サンセット大通り」(ビリー・ワイルダー、Sunset Boulevard、50年アメリカ)
4位「ラ・ラ・ランド」(ディミアン・チャゼル、La La Land、16年アメリカ)
5位「キャロル」(トッド・ヘインズ、Carol、15年米=英)
6位「ミツバチのささやき」(ヴィクトル・エリセ、El Espiritu de la colmena、73年スペイン)
7位「スティング」(ジョージ・ロイ・ヒル、The Sting、73年アメリカ)
8位「ティファニーで朝食を」(ブレイク・エドワーズ、Breakfast at Tiffany’s、61年アメリカ)
9位「欲望」(ミケランジェロ・アントニオーニ、Blowup、67年英=伊=米)
10位「バージニア・ウルフなんかこわくない」(マイク・ニコルズ、Who’s Afraid of Virginia Woolf? 、66年アメリカ)

♧春雷
【日本映画】
1位「雑魚どもよ、大志を抱け!」(足立紳)
2位「PERFECT DAYS」
3位「1秒先の彼」(山下敦広)
4位「せかいのおきく」
5位「福田村事件」
6位「怪物」
7位「正欲」
8位「エゴイスト」
9位「ヴィレッジ」
10位「658km、陽子の旅」(熊切和嘉)
【外国映画】
1位「聖地には蜘蛛が巣を張る」(アリ・アッバシ、HoIy Spider、22年丁=独ほか)
2位「ロスト・キング 500年越しの運命」
3位「トリとロキタ」(ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、Tori et Lokita、22年白=仏)
4位「ぼくたちの哲学教室」(ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ、Young Plato、21年愛=英ほか)
5位「理想郷」
6位「ティル」
7位「パリタクシー」
8位「対峙」(フラン・クランツ、Mass、21年アメリカ)
9位「To Leslie トゥ・レスリー」(マイケル・モリス、To Leslie、22年アメリカ)
10位「ボーンズ アンド オール」(ルカ・グァダニーノ、Bones and All、22年伊=米)

♣健
【日本映画】
1位「PERFECT DAYS」
2位「せかいのおきく」
3位「怪物」
4位「福田村事件」
5位「アンダーカレント」(今泉力哉)
6位「愛にイナズマ」
7位「Winny」(松本優作)
8位「BAD LANDS バッド・ランズ」
9位「エゴイスト」
10位「首」
【外国映画】
1位「キラーズ・オブ・フラワームーン」
2位「バビロン」(デイミアン・チャゼル、Babylon、22年アメリカ)
3位「逆転のトライアングル」(リューベン・オストルンド、Triangle of Sadness、22年スウェーデンほか)
4位「TAR/ター」
5位「フェイブルマンズ」
6位「理想郷」
7位「アシスタント」(キティ・グリーン、The Assistant、19年アメリカ)
8位「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」
9位「対峙」
10位「崖上のスパイ」(チャン・イーモウ、悬崖之上、21年中国)

「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」(2023年 日本映画)

2024年01月03日 | 映画の感想・批評

 
 魔夜峰央の同名漫画の映画化で、予想もしない(?)大ヒットを記録した前作の続編。自虐的な埼玉県ディスの連発が地元で受け、大きなうねりとなって全国的なヒットへと繋がっていったのだが、日本アカデミー賞では最優秀監督賞をはじめ、12部門で賞を獲得。続編を期待する声が高まり、ついに伝説の第Ⅱ章が完成した。
 今回の主な舞台は関西。東京都民から迫害を受けていた埼玉県人は、麻実麗率いる埼玉解放戦線の活躍によって自由と平和を手に入れたが、更なる平和を求めて「日本埼玉化計画」を推し進める中で、越谷に海を作ることを計画。白浜の美しい砂を求めて和歌山へとやってくる。そこで麗は滋賀解放戦線の桔梗魁と運命的な出会いを果たすことになるのだが・・・。
 関西にもひどい地域格差や通行手形が存在し、大阪には粉もので日本全国を大阪植民地化しようという計画もあり、我が滋賀県民は奈良、和歌山と共にディスられの頂点にさらされていた。普段は琵琶湖以外これといって注目されていない滋賀県なのだが、今回の映画化ではその存在を全国に知ってもらう絶好の機会ということで、三日月知事も全面協力。埼玉県知事と共にTV出演をしたり、独自のチラシを作ったりしてPRに余念がない。前作の大ヒットに気を良くしたのか、制作費も相当羽振りがよかったはずで、CGのレベルは上がり、登場人物やエキストラの数、美術品へのこだわりなど、前作より数段スケールアップした内容となっている。
 また今回のGACTO、二階堂ふみ、加藤諒らの埼玉勢に加え、彼らと共に戦うキーパーソン滋賀解放戦線の桔梗魁役に、宝塚歌劇のオスカルを思い起こさせる杏。関西のドン大阪府知事に片岡愛之助、神戸市長に藤原紀香、京都市長に川崎麻世と、実際の出身地の代表としてこの上ないキャスティングは大成功。関西色いっぱいの自然な笑いに頬は緩みっぱなしだ。
 うれしかったのは滋賀県出身の俳優たちが頑張っていたこと。TVドラマ「たとえあなたを忘れても」の主演で注目された我が長浜市出身の堀田真由は滋賀解放戦線の近江美湖役で登場。眉を滋賀ナンバーの車同様ゲジゲジ眉にするところなんか、滋賀出身であることを誇っているようで、その吹っ切れた表情には更なる飛躍を予感させた。お笑い芸人でありながら画家、ミュージシャンとしても活躍中の野性爆弾のくっきー!も、俳優としての可能性を一段と高めたような気がした。他にも滋賀のジャンヌ・ダルク役として高橋メアリージュン、滋賀解放戦線員役としてダイアンの津田篤宏と、滋賀を愛するメンバーが続々登場。前作でも盛り上がった出身地対決のシーンでは、やっぱり出たか!と思える関西出身の有名人の顔写真が次々と掲げられ、思わず出身県の人物を応援している自分に郷土愛を感じてしまうのも確かだ。
 ご当地スーパー平和堂のカードやテーマソング、とびだしとび太の看板、うみのこ学習船等、滋賀県人ならわかるネタ、パロディ、オマージュなど実際にあるものがたくさん散りばめられていて、それを見つけ出すのもなかなか楽しい。ただ琵琶湖でのロケが少なかったのか、島の位置などで違う湖に見えてしまったり、とび太の看板がゴミと化すシーンでは、少し興ざめしてしまった。これも滋賀と美しい琵琶湖をこよなく愛するからこそ出てくる感情からなのだろうか。
 伝説の舞台は関西に移ったとはいえ、映画の題名は「翔んで埼玉」。現代パートの舞台は引き続き埼玉だし、大宮と浦和のライバル関係や、薄い横の繋がりを解決するJR線の紹介と、埼玉愛も引き続き健在。とはいえこの作品、ディスられても耐えられる力がある地域だからこそ成り立つというもので、第3弾の可能性は果たして・・・?!
(HIRO)

監督:武内英樹
原作:魔夜峰央
脚本:徳永友一
撮影:谷川創平
出演:GACTO、二階堂ふみ、杏、片岡愛之助、藤原紀香、川崎麻世、堀田真由、くっきー(野性爆弾)、加藤諒、天童よしみ、和久井映見、アキラ100% 瀬戸康史、高橋メアリージュン、津田篤宏(ダイアン)、モモコ(ハイヒール)、山村紅葉