シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ミニオンズ フィーバー」(2020年 アメリカ映画)

2022年07月27日 | 映画の感想・批評


 2010年「怪盗グルーの月泥棒」で初登場し、そのユニークな形状と可愛さからファンを増やしてきたミニオンたち。この12年間で,映画「ミニオンズ」&「怪盗グルー」シリーズは、回を追うごとに興行収入が増加し、今やイルミネーション社は世界有数のアニメーションスタジオに成長。我が日本でもUSJに「ミニオン・パーク」が誕生するなど、その人気は衰えることを知らない。
 今回は「ミニオンズ」シリーズの第2弾、舞台は1970年代。グルーはまだ11歳の少年で、当時の大悪党集団「ヴィシャス・シックス」に憧れ、彼らの一員になることを夢見ていた。リーダーのワイルド・ナックルズは無敵の龍の力が得られる伝説の石、ゾディアック・ストーンのありかがわかる地図を手に入れ、5人のメンバーと一緒に中国奥地に向かい、一度はそれを自分の物にしたのだが、5人の裏切りにより谷底へ落とされてしまう。ヴィシャス・シックスの新メンバー募集に応募したものの、まだ子どもだと相手にされず、悔し紛れにゾディアック・ストーンを盗み出したグルー、ミニオンの一人にその石を託したのがもとで、ハチャメチャな騒動が巻き起こる。
 初登場の時は、ミニオンっていったい何者⁈という素朴な疑問が生まれ、まさかシリーズ化するなんて、夢にも思わなかったのだが、ミニオンの中にもスター級に愛されるキャラが出現。言葉は話せないのだが、それぞれ個性あふれる可愛さで、ファンの心をつかんでいる。今回はオットーという新たなミニオンも登場し、大事なストーンをお気に入りの別のストーンにためらわず交換してしまうという天然さや、歯列矯正中ということで、時たま見えるワイヤーが何ともチャーミング。またまたファンが増えそうだ。
 1970年代を舞台にしているのも本作の特徴だが、往年の世代には懐かしいエピソードが満載だ。まずは映画館で上映されているのは「ジョーズ」で、あのドキドキわくわく感を例の曲で思い出し、ヴィシャス・シックスのリーダーはベル・ボトムと聞いて、ベルボトムならボブソンだよなと、高いヒールのサンダルを履いて闊歩していた時のこと、カンフーの弟子になると聞いて、ジャッキー・チェンやブルース・リーが活躍したカンフー映画のシーンをまねておどけてみせたりしたことなど、記憶にあることを探せばキリがない。そしてそれに輪をかけるのが70年代に流行した名曲の数々が聞けること。アース・ウインド・アンド・ファイアー等、ディスコで踊ったノリノリの曲もあれば、カーペンターズ、サイモン&ガーファンクル等のしっとり系の曲もある。クライマックスはローリング・ストーンズの代表曲「無情の世界」だ。カイル・バルダ監督の好みがしっかりわかる、まさに題名通りのフィーバー、フィーバーなのだ。
 ここまで来るとこの作品、単なる子ども向けではなく、親子で、あるいは3世代で楽しめるアニメ作品になっていることがよくわかる。この夏休みはぜひお子さん、あるいはお孫さんと一緒に観て、フィーバーしてみてはいかがかな。
 (HIRO)

原題:Minions:The Rise of Gru
監督:カイル・バルダ
脚本:マシュー・フォーゲル
声の出演:スティーヴ・カレル、ピエール・コフィン、アラン・アーキン、ミシェル・ヨー、ジュリー・アンドリュース、ジャン=クロード・ヴァン・ダム
日本語版声の出演:笑福亭鶴瓶、市村正親、尾野真千子、渡辺直美、田中真弓、大塚明夫、LiSA

「仮面/ペルソナ」  (1966年 スウェーデン映画)

2022年07月20日 | 映画の感想・批評
 プロローグ。スクリーン上で映写機のカーボンライトが点灯し、様々な映像が脈絡なく流れてくる。アニメーション、男性性器、蜘蛛、無声映画のスラップスティック・コメディ、羊の屠殺(生贄)、掌に打ち付けられた釘(キリストの磔刑)、老婆の顔、壁に投影された女の顔に手を差し伸べる少年・・・深層心理に潜む性的トラウマや破壊衝動、罪悪感や贖罪意識が比喩的に表現され、母親の愛を渇望する子供の姿がリアルに象徴的に描かれている。
 タイトルバックの後、舞台は病院になる。看護師のアルマは女医に呼ばれ、失語症に陥った女優のエリーサベットを担当するよう指示される。自意識に縛られているエリーサベットは何を言っても嘘をついているように感じ、あらゆる仕草が演技をしているように思えてしまう。沈黙すれば嘘をつかなくてもいいので失語症のふりをしているが、自分をさらけだしたいという強い欲望を抱いている。エリーサベットが安心できるのは演技をしている時だけであり、いずれ失語症の芝居をやめるだろうと女医は考えていた。
 エリーサベットはアルマと共にサマーハウスで転地療養をすることになった。アルマは初めて信頼し合える人と出会えたかのように、心の中に秘めていたものをエリーサベットに打ち明けた。婚約者がいるにもかかわらず、行きずりの少年と性関係を持ち妊娠し堕胎したこと。堕胎を後悔し、罪悪感に苛まれていること。苦悩するアルマをやさしく愛撫するエリーサベット。同性愛的な感情に満たされ、アルマの心はエリーサベットに取り込まれていった。アルマは自分の中に2つの人格があると感じた。
 ある朝、アルマはエリーサベットが女医に宛てた手紙をこっそり読んでしまう。手紙にはアルマの告白の内容(少年との性交や堕胎の事実)が書かれており、「アルマを観察して楽しんでいる」と綴られていた。アルマは激しい憤りをエリーサベットにぶつけるが、彼女を嫌いになることはできなかった。エリーサベットの夫がサマーハウスを訪ねて来た時、エリーサベットは面会を拒み、アルマに夫の相手をさせる。夫はアルマをエリーサベットだと思い込み、アルマはエリーサベットの役を演じて夫と一夜を共にする。エリーサベットに取り込まれ、同化し、思うままに操られている自分にアルマは不安を感じていた。
 アルマはエリーサベットが息子に対して抱く複雑な感情を分析し、彼女に話して聞かせた。「女としても、女優としても素晴らしいが、母性に欠けている」と知人に言われたことに傷つき、エリーサベットは子供を作ろうとして妊娠する。親としての責任や仕事の中断を恐れて堕ろそうとするが、堕胎は失敗。死産を望んだが、結局、赤ん坊が生まれてしまった。子供を親類に預けて仕事に復帰したが、息子は母親に会いたがった。会うたびに疲れ果て、まとわりつく息子を殴りたくなった。どうしても息子を愛せなかった。・・・アルマの説明に動揺するエリーサベット。白い画面上ではアルマの顔の半分とエリーサベットの顔の半分が合体しようとしている。その時、アルマは言った。
「私はあなたじゃないわ。看護師のアルマよ。同じにはなれない。子供が欲しいの。私は子供を愛せるわ」

 『鏡の中にある如く』(61)、『冬の光』(62)、『沈黙』(63)は「神の沈黙」三部作と呼ばれ、神の存在を問うた作品として高く評価されているが、ベルイマンはこれらの作品以前から「神の沈黙」をテーマとした作品を作り続けていた。『第七の封印』(57)では死期迫る主人公は「何故、神は五感でとらえられないのか・・・教義や空想ではなく、手を差し伸べ、顔を見せ、言葉を下さる神がほしい」と叫ぶ。『処女の泉』(60)は娘を強姦殺害された父親が犯人に復讐する時に、間違って無実の少年を殺してしまい、神の看過と無慈悲を嘆く。『鏡の中にある如く』や『冬の光』では神を感じることはできなくても、「愛することは神そのものだ」といって、主人公たちは神の存在を肯定する。ベルイマン映画の登場人物はどれほど困難に会おうとも、神が手を差し伸べてくれなくても、神への信仰を捨てることはない。
 『冬の光』までの作品には確かな家族愛や隣人愛があるが、『沈黙』になると神や信仰の話は一切出てこず、愛の存在すらあやしくなる。姉と妹は憎みあっていて、姉妹愛は完全に崩壊している。それでも妹には息子がいて、親子の愛情だけはかろうじて保たれている。本作『ペルソナ』(66)になると母親(エリーサベット)は息子を愛することができず、親子の愛情も夫婦愛ももはや存在しない。「愛は神なり」が真実なら、もはや神は存在しないことになる。それでも唯一の救いはアルマがエリーサベットと決別し、結婚して出産し、愛する家族を持ちたいと考えていることだ。ここに一条の神の光を見ることができるかもしれない。(KOICHI)

原題:Persona
監督:イングマール・ベルイマン
脚本:イングマール・ベルイマン
撮影:スヴェン・ニクヴィスト
出演:ビビ・アンデショーン  リヴ・ウルマン
グンナール・ビョルンストランド


トップガン マーヴェリック(2022年 アメリカ映画)

2022年07月13日 | 映画の感想・批評
 

 36年前公開された1作目「トップガン」の続編。本作は副題に「マーヴェリック」が付いている。トム・クルーズの役名だ。前作より、役柄にスポットを当て、製作にも名を連ね、自分自身が歩んできた人生になぞらえて、集大成的な作品と捉えているのではないか。並々ならぬ意気込みを感じる。
 前作を未観でも、都度、振り返りシーンがあり、楽しめると思う。私は観ていたので、冒頭で、前作と同じ音楽を聴くだけでもワクワク。トム・クルーズは年輪が積み重なった表情だが、まだまだ元気一杯。戦闘機とバイクで並走もするし、2階の窓からも軽々と抜け出す(ネタばれ)。前作で、敵対していたアイスマンも登場する。だが、今は”アイスマン”ではなく、よき理解者として、手を差し伸べる。昔の相棒の息子も登場する、等々、前作へのオマージュ感が半端ない。エンドロール最後にもその気持ちが表現されている。
 物語は、結末を心配する必要はなく、映画館の座席に身を任せ、ポップコーンとジュースと映像と音楽に戯れる。何と幸せな空間・時間か。細部を気にする必要はない。これぞ往年の「THE HOLLYWOOD」である。アメリカ人のためのアメリカ人によるアメリカ映画である。いえ、トム・クルーズのためのトム・クルーズによるトム・クルーズの映画である。主人公が、目標を達成する為に頑張ろうとするが、それを様々な理由で邪魔をする人々が現れる。だが、主人公は、自らの血の滲むような努力と周りの暖かい支えで、それらを克服し、成功を掴み取るサクセスストーリー。正に、彼自身だろう。そこに、手に汗握るアクションが盛り込まれ、映画館で観る映画に昇華される。是非、映画館で観ることをお薦めします。
 CGを使わず、撮影されたらしい。確かに、戦闘機を操縦するシーンは「G」が掛かる生々しさが強く伝わる。思わず、自分も息を止めて力が入る。
 残念なのは、今は、否応が無しに、敵対する相手は、ロシアになってしまう事だ。相手の飛行機の国籍もパイロットの顔も表情も分からないようにしているが、あの人の顔が出てきてしまう。この時期の公開で気の毒というところか。もう1点。終盤のアクションはちょっと無理があるのでは。イーサン・ハント(イーサン・ハントも彼自身なのだろう。もしかして、混同した???)もビックリの身体を張ったシーンの連続で、少し引いてしまった。007もランボーも呆気にとられるに違いない。「トップガン」ってそんな映画でしたっけ?
(kenya)

原題:Top Gun : Maverick
監督:ジョセフ・コシンスキー
脚本:アーレン・クルーガー、エリック・ウォーレン・シンガー、クリストファー・マッカリー
撮影:クラウディオ・ミランダ
出演:トム・クルーズ、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、グレン・パウエル、ヴァル・キルマー、エド・ハリス

「ベイビー・ブローカー」(2022年 韓国映画)

2022年07月06日 | 映画の感想・批評
 物語の始まりは雨。夜空にうかぶ教会の十字架の下、赤ちゃんポストの前の路上に赤ん坊を置き去りにする若い女性ソヨン(イ・ジウン)。「必ず迎えに来ます」と書いた手紙を添えて。その直後、車中からその様子を見ていた女性刑事スジン(ぺ・ドゥナ)が赤ん坊をポストに入れる。ポストがある施設で働くドンス(カン・ドンウォン)はこの赤ん坊をこっそり連れ去り、クリーニング店を営みながらも裏稼業はベイビーブローカーというサン匕ョク(ソン・ガンホ)の元へ。二人は裏稼業仲間である。翌日思い直して戻って来たソヨンと共に彼らは養父母探しの旅に出ることになる。彼らを現行犯逮捕しようとスジンと後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)も後を追っていく。
 クリーニング店のオンボロワゴン車でのロードムービーが始まる。最初の養子縁組候補の夫婦からは「眉毛が薄い」とクレームがつき破談。3組目の死産したばかりの女性からは「お乳をあげてもいいですか」と聞かれ、この場面は胸をつく。養子縁組はうまくいかないまま、ドンスが育った児童養護施設に立ち寄った一行は、子ども達から大歓迎をうける。ドンスは良き兄貴分だが、その広い背中には言い知れぬ寂しさがつきまとう。彼もまた「必ず迎えに来ます」と書かれた手紙とともに捨てられたのだ。翌日施設の少年ヘジン(イム・スンス)がワゴン車に闖入。ワゴン車の後部ハッチが壊れていたからだが、このワゴン車の家には誰をも受け入れる寛容さがある。ヘジンが加わり遊園地で遊ぶ疑似家族の姿は楽しそうで微笑ましい。この後は…‥決して甘い結末ではないが、作品に込められた生への肯定は強く心に残る。
 是枝監督が韓国の俳優・スタッフとタッグを組んだこの作品、2013年の「そして父になる」と対をなす作品といえる。スジン刑事の心の変化に注目したい。「捨てるくらいなら産むな」と吐き捨てるように言った彼女だが、疑似家族を追跡し見張るうちに、やがてそれは見守る視線に変わっていった。一方ソヨンには、子どもを育てられないある重大な理由があった。
 ソヨンの息子は旅の途上で体幹もしっかりし、みるみる大きくなっていく。作品が順撮りされているのがわかる。皆で面倒をみているのだが、サン匕ョンの扱いが慣れて安定感がある。演じるソン・ガンホにとって、きっと最年少の共演相手だろうが、そんな相手とも息のあった演技を見せるこの俳優は本当に魅力的だ。
 冒頭の赤ちゃんポストは2000年4月にドイツで設置されたのが始まりである。日本では2007年に熊本慈恵病院に設置され当時大きな話題となる。韓国では2009年にソウル市内の教会に設置され、近年法制度の問題で一気に人数が増加している。
 この作品を観たその日に「プラン75」を観る。近未来の日本で満75歳から自らの生死を選択できる制度が国会で可決・施行され‥‥というお話。誕生から人生の終焉まで、『命』について思いを巡らせる一日となった。(春雷)

原題:BROKER
監督・脚本:是枝裕和
撮影:ホン・ギョンピョ
出演:ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ぺ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨン