シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「LION/ライオン ~25年目のただいま~」(2016年アメリカ映画)

2017年04月21日 | 映画の感想・批評


 受賞には至らなかったが、今年のアカデミー賞6部門にノミネートされた話題作である。5歳のインドの少年が迷子となり、孤児院に預けられ、遠くオーストラリアに養子に出される。成人し、自分の生まれ故郷をグーグルアースで見つけ出し、実母と再会する実話をベースにした物語である。
 自分が「迷子」(「迷子」という言葉は5歳では理解出来ないが)であると理解した瞬間、優しそうに見えた人が実は腹黒い人と気付いた瞬間、養子(「養子」という言葉は5歳には理解出来ないが)になった瞬間、それぞれの瞬間に、5歳には過酷過ぎる絶望と諦めと、そして、安堵が入り混じった子供の複雑な表情にとても力があり(この子役(サニー・パワール)は素晴らしかった)、且つ、インドでは、こういったケースが多くあるのだろうと想像する(実際には8万人以上/年)と、涙無しでは観られなかった。
 そして、後半は、自分の本当の親は「生みの親」か「育ての親」なのかというテーマに進んでいく。更に、自分はどこの何者なのかという問いに発展する。優劣の問題ではなく、どれだけ親はその子に愛情を注いでいるのか。また、それを子供はどれだけ感じているのか。「生みの親」からの命名に対する一途な想いと、「育ての親」からの「家族だから」という献身的な愛情に溢れた言葉に心打たれた。また、「生みの親」が名付けた主人公の「サルー」という名前に関してのエンドロールのテロップにも、感動した。テロップが流れた瞬間の映画館全体の雰囲気も気付きと感動に包まれ、とても優しい気持ちになれた。是非、大好きな人と観てもらえればと思う。
 一方、エンドロールにて、現状のインドの迷子事情は、上記のように8万人/年とテロップが流れた。広い世界では、人口減で大きな社会問題になっている国(我が国?)と人口爆発で止まらない国がある。何と不均衡な世界なのか。
(kenya)

原題:「LION」
監督:ガース・ディヴィス
製作:イアン・カニング、エミール・シャーマン、アンジー・フィールダー
脚本:ルーク・デイヴィス
撮影:グレイグ・フレイザー
編集:アレクサンドル・デ・フランチェスキ
出演:デヴ・パテル、ルーニー・マーラ、デウィッド・ウェンハム、ニコール・キッドマン、サニー・パワール、アビシェーク・バラト、ディープティ・ナバル、プリヤンカ・ボセ、ディヴィアン・ラドワ他

「SING / シング」 (2016年 アメリカ映画)

2017年04月11日 | 映画の感想・批評


 「ラ・ラ・ランド」「モアナと伝説の海」そして「ドラえもん」と、ヒット作が相次ぐ春休み興行だが、激戦の中、頭一つリードしそうなのが「SING/シング」だ。「ミニオンズ」シリーズで名を馳せたイルミネーション・エンターティンメントが贈るこの新作は、ビートルズからレディ・ガガ、そして最新のヒットソングまで、いつかどこかで聴いたことがある名曲が60曲以上も登場する、うきうきする春にふさわしい、そして音楽好きにはたまらない、愛と笑いに満ちたアニメーションだ。
 主人公は倒産寸前の『ムーン劇場』の支配人、コアラのバスター。父から譲り受けた劇場を何とか立て直したい一心で思いついたのが、かつてない歌のコンテストをこの劇場で開催すること。自分の人生を変えるチャンスと、多額の賞金(?)を目当てに集まってきた大勢の参加者の中から、予選を勝ち抜いたメンバーたちは揃いもそろってユニーク。ビッグマウスで自己チューなジャズシンガー、ネズミのマイク。家事と子どもの世話に追われる主婦、ブタのロジータ。歌手の夢を捨てきれないギャング一家の息子、ゴリラのジョニー。彼氏の浮気に傷ついたパンクロッカー、ヤマアラシのアッシュ。超ハイテンションなエンターティナー、ブタのグンター。そして歌唱力抜群なのにとっても内気な少女、ゾウのミーナ。それぞれ悩みはあるけれど、共通しているのは歌が大好きだということ。
 このキャラクターを演じている声優陣がまた豪華。アカデミー賞受賞歴もあるマシュー・マコノヒーをはじめ、スカーレット・ヨハンソン、リーズ・ウィザースプーン・・・、日本語吹替え版でも内村光良やMISIA,長澤まさみ等々。さて、誰がどの役で出てくるかはお楽しみだが、皆さんとっても歌がうまい!!
 歌うこと、夢見ること、すごくシンプルな内容なのだが、個性豊かな動物たちが与えてくれる優しい愛に加え、歌うことの喜びと高揚感が何度も味わえる、まさにザッツ・エンターティンメントな作品に仕上がっている。特筆すべきは笑いを誘うトカゲのおばあちゃん秘書、ミス・グローリーをガース・ジェニングス監督自身が演じていること。これはもう一度、字幕版を観なくては!! 
 (HIRO)

監督:ガース・ジェニングス
脚本:ガース・ジェニングス
編集:グレゴリー・パーラー
音楽:ジョビィ・タルボット
キャラクター・デザイン:エリック・ギヨン
声の出演:マシューマコノヒー、リーズ・ウィザースプーン、スカーレット・ヨハンソン、セス・マクファーレン、タロン・エガートン、トミー・ケリー、ニック・クロール、ガース・ジェニングス
日本語版声の出演:内村光良、MISIA,長澤まさみ、大橋卓弥(スキマスイッチ)、斉藤司(トレンディエンジェル)、山寺宏一、田中真弓、宮野真守、坂本真綾、大地真央




「わたしは、ダニエル・ブレイク」(2016年、イギリス=フランス=ベルギー映画)

2017年04月01日 | 映画の感想・批評
第69回カンヌ国際映画祭で金賞に選ばれたケン・ローチの秀作である。前評判に違わず、これはローチのこれまでの数々の社会派秀作群の中でもひときわ輝く代表作となるだろう。
 ローチは傑作とされる「ケス」(69年)を撮った後、日本未公開の「ファミリー・ライフ」(71年)のあとはもっぱらテレビに活躍の場を移し、再びスクリーンに戻って来て日本で注目されるのは90年代に入ってからであった。「麦の穂をゆらす風」(06年)がカンヌの金賞を射止めて以降は押しも押されもせぬ巨匠の域にあった。
 そのかれが現代英国を蝕む格差と貧困の問題に鋭く斬り込んだのがこの映画である。
 主人公のダニエルは英国北東部の町でひとりで暮らす初老の大工である。心臓発作を起こして医師から仕事を禁じられており、就労困難から助成金の申請をして却下されてしまう。それで、異議申し立ての手続きをしようとするが、ネットでないと受け付けないといわれる。かれは何度も福祉事務所に通い、現状を説明しようとするがまともに取り合ってもらえない。求職して失業手当をもらうほうが早いとアドバイスされるけれど、それはそれでまた色々と複雑な手続きが必要で心底疲れてしまう。
 かれは福祉事務所で同じような冷たい対応を受ける若い女性ケイティと知り合う。かの女は子どもふたりを抱えるシングルマザーで、ロンドンのアパートを追われて流れ着いて来たのがこの町だった。正業に就けず通信制の大学で履修資格をとろうとしているが、電気代も払えない生活苦に喘いでいる。ダニエルとこの家族の交流が温かく描かれるのも束の間、それぞれに冷厳な現実が直面するのである。
 正直に誠実に働いてきた男が人生の黄昏時といってもよい時期に来て病気の妻を介護して看取った果てに失業し、十分な福祉の手も差し伸べられず虫けらのように扱われて社会から棄てられて行く。「俺は税金を払ってまじめに働いてきた。俺は人間だ、犬じゃない。少しは敬意を払え」というダニエルの憤懣やるかたないセリフが胸を突くのである。(健)

原題:I, Daniel Blake
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァーティ
撮影:ロビー・ライアン
出演:デイヴ・ジョンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・マキアナン、ブリアナ・シャン