シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「アサシン クリード」(2016年アメリカ映画)

2017年03月21日 | 映画の感想・批評


 記憶を無くした主人公が特別な装置で遺伝子操作を受け、自分の祖先の記憶を呼び起こされ、古代のスペインまで舞い戻り、追体験させられる。祖先は暗殺者(=アサシン)で、禁じられた秘宝「エデンの果実」を追い求めるストーリーである。
 2年前に公開された「マクベス」の監督と出演が再集結した映画である。「マクベス」は未見だが、本作品も複雑な人間関係で重厚な映画を想像していたが、実際は、意外とシンプルな物語で時空を飛び越えて、叩き込むようにストーリーが進んでいく。アクションシーンも迫力があり、圧倒されられた。
 更に、この作品は、物語が進んでくると、現在の主人公が意志を持ち始め、「科学は人間をコントロール出来るのか?」という問いも発せられる。最近は、「人工知能」という言葉をよく耳にする。「人工知能」を否定することはないが、人間の行き過ぎた欲は、平常心を失わせ、倫理観の欠如した知能操作に繋がりかねないと警鐘を鳴らしているようにも思う。
 主人公を演じるマイケル・ファスベンダーは、本作品では製作も兼ねている。俳優が製作や監督を兼務するケースは以前からあるが、最近は、そのケースが増えている。例えば、ブラッド・ピット、トム・クルーズ・ジョージ・クルーニー他。当然、それだけ、作品への想いは強いということだろうし、資金面でも優位になるであろうし、この傾向が更に増えてくると、更なる傑作が生まれる可能性が高まるようで、期待したいところである。
(kenya)

原題:「Assassin’s Creed」
監督:ジャスティン・カーゼル
製作:マイケル・ファスベンダー他6名
脚本:マイケル・レスリー、アダム・クーパー、ビル・コラージュ
撮影:アダム・アーカポー
編集:クリストファー・テレフセン
出演:マイケル・ファスペンダー、マリオン・コティヤール、ジェレミー・アイアンズ、ブレンダン・グリーソン、マイケル・K・ウィリアムズ、マリアンヌ・ラベッド、シャーロット・ランプリング他

「ラ・ラ・ランド」 (2016年 アメリカ映画)

2017年03月11日 | 映画の感想・批評
 

 開幕「シネマスコープ」の文字が現れるや、何とも懐かしい映画の雰囲気。夢をかなえるためにあこがれのLAへ向かう車の渋滞の中、はやる心を表すかのように突然踊り出す若者たち。時代は50年代?それとも70年代??街の景色は今様だけれど…。観客たちをこの作品に引き込む見事な演出に期待感でいっぱいになる。“ラ・ラ・ランド”とはLAのこと。これからいったい何が起こるんだ!?
 映画スタジオの珈琲ショップで働くミアは女優志願。しかし、何度オーディションを受けてもチャンスはなかなか巡ってこない。レストランでピアノを弾いて生計を立てるセブ。いつしか自分の店を持ち、大好きなジャズを思いっきり演奏するのが夢だが、店長の選曲に従わなかったためにクビになるという厳しい現実が襲う。運命の糸にひかれるかのように偶然に何度か出会った二人は、やがて恋に落ち、一緒に暮らし始めるが…。
 古き良き時代のミュージカル映画を彷彿とさせる、歌あり、踊りあり。さらに現代の音楽も加えてすべてがオリジナルというこの新しい形のミュージカル映画を生み出したのは、あの衝撃作「セッション」の監督、ディミアン・チャゼル。ジャズと仏映画「シェルブールの雨傘」のファンだという彼だが、音楽やダンスだけでなくドラマの部分にも力を入れ、作品に風格を持たせたのがよかった。特に最後の回想シーンでほろりとさせるところが実にニクイ。
 アカデミー賞ではエマ・ストーンの主演女優賞をはじめ、最多6部門で受賞となったが、作品賞の発表の時に前代未聞のハプニングが発生!!司会のフェイ・ダナウェイが、間違って届いた封筒だと気付かずに、「作品賞は、ラ・ラ・ラ~~ンド!!」と叫んでしまったのだ。誰もが納得の受賞と思った後で実は…、となったのだが、その後のオスカーのバトンタッチも実にドラマティックに行われたのは、さすが大人の世界。授賞式の出席者の中には、ミアとセブのような人生を送った方もいらっしゃるのでは・・・。それにしてもセブ役のライアン・ゴズリング、ピアノもダンスも3か月の特訓でマスターしたというから驚きだ。超イケメンだし、嫉妬するほどかっこいい!!
(HIRO)

原題:LA LA LAND
監督:ディミアン・チャゼル
脚本:ディミアン・チャゼル
撮影:リヌス・サンドグレン
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、J・K・シモンズ

 

「たかが世界の終わり」(2016年、カナダ=フランス映画)

2017年03月01日 | 映画の感想・批評
 カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた問題作である。子役からスタートしたグザヴィエ・ドラン監督は今や美形の俳優としてもまた気鋭の若手監督としても注目される才人だといってもいい。この映画は、ドランが監督業に徹してフランス映画界の芸達者を迎え、その俳優操縦術の点からもまた一流であることを証明した。
 作家のルイ(ギャスパー・ウリエル)は20歳を少し過ぎた頃に家を出て以来12年ぶりに実家に帰還する。具体的な言及はないが余命幾ばくもない病を得て最期の別れを告げるためである。そんなこととは知らないルイを待つ家族は不安と歓びが交錯してみんな浮き足立っている。母親(ナタリー・バイ)はハイテンションで次男坊を歓待し、幼い頃に別れた末の妹(レア・セドゥ)の次兄を見る目は憧れに近い。いっぽう、弟と年の離れた粗野な長兄(ヴァンサン・カッセル)はルイに対する劣等感のなせるわざか、和やかな空気を壊してはみんなの神経を逆なでせずにはおかない。ルイとは初対面の、長兄の控えめな妻(マリオン・コティヤール)は夫の暴走にただ困惑した表情を見せるだけ。ルイはルイでいつ言い出そうか、告白のきっかけを掴めずにうじうじしている。
 さて、いよいよルイがみんなを前にして帰って来た理由を告げようと意を決したそのとき、長兄の言動(それはこの男の意外な繊細さから出た衝動的な反応だったのだが)にその場は凍りつくのである。
 俳優たちの細かな表情を克明に追うためか、クローズアップの多用が目につく。久しぶりの再会を喜ぶ表面的な繕いとは対照的にこれまでの家族間の複雑な感情の確執が徐々に噴出し、やがて怒濤のごとく衝突するクライマックスはマイク・リー監督の秀作「秘密と嘘」を彷彿とさせる。
 因みに、ルイの回想場面にハイティーンの頃だろうか、ボーイフレンドとの情熱的な濡れ場がイメージショットして挿入されるが、ルイに自己を投影したと思しき原作者ラガルスは1995年に37歳の若さでエイズで夭折したそうだ。(健)

原題:Juste la fin du monde
監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
原作:ジャン・リュック・ラガルス
撮影:アンドレ・テュルパン
出演:ギャスパー・ウリエル、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、ナタリー・バイ、レア・セドゥ