シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「シェイプ・オブ・ウォーター」 (2017年 アメリカ映画)

2018年03月28日 | 映画の感想・批評


 ヴェネチア国際映画祭で最高賞である金獅子賞を受賞した後、アカデミー賞でも最多4部門(作品・監督・美術・作曲)を受賞した話題作。愛すべきアウトサイダーたちを温かな眼差しで描いたギレルモ・デル・トロ監督が贈る、大人のためのファンタジーだ。
 時は1962年。米ソ二大強国が火花を散らしていた冷戦時代。1階が映画館という珍しいアパートに一人で暮らすイライザは、アメリカ政府の秘密機関である「航空宇宙研究センター」で清掃員として働いていた。そこで彼女は密かに運び込まれた不思議な生き物と遭遇する。アマゾンの奥地で神として崇められていたという“彼”の、奇妙だがどこか惹かれるものがある姿に心を奪われた彼女は、仕事の合間に周囲の目を盗んで会いに行くようになる。
 幼いころから声が出せなくなってしまったイライザだが、彼との交流に言葉など必要なかった。自分の大好物のゆで卵を与えて心を開かせた後は、手話を教えたり、音楽や踊りを披露したりして二人の心は急速に通い始める。しかし、彼は間もなく国家の威信をかけた実験の犠牲になろうとしていた。それを知ったイライザは同僚や隣人たちの助けを得ながら彼の救出作戦に乗り出す。
 現代と似通う「つらい時代のためのおとぎ話」を描いたと語るメキシコ出身のデル・トロ監督だが、いたるところで1960年代のアメリカを発見することができておもしろい。典型はエリート軍人のストリックランド。まさに当時の理想の父親を絵にかいたような人物で、今となっては何とも可笑しいくらい。そういえばあのころの成人映画にはボカシなるものが入っていたなあとか、「大アマゾンの半魚人」という作品もあったなあ、もしあの半魚人が生き延びていたとしたらこんな話も無きにしも非ずか…とか、懐かしく思い出してしまった。障がい者、同性愛者、黒人たちへの差別もまだ色濃く残っていて、イライザもその対象となる人物なのだが、そんな社会的に弱い者たちが力を合わせて半魚人という異形の者を救い出そうとする姿は、何とも痛快で共感を呼ぶ。
 ヒロインのイライザを演じるのはサリー・ホーキンス。惜しくもアカデミー賞は逃したが、孤独で無力だった女性が、愛するもののためにたくましく、また、魅力的に変わっていく姿を見事に演じきった。様々に表現される『水の形』が美しい。
 (HIRO)

原題:THE SHAPE OF WATER
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ、ヴァネッサ・テイラー
撮影:ダン・ローストセン
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー

「あなたの旅立ち、綴ります」(2017年、アメリカ)

2018年03月21日 | 映画の感想・批評
誰にでも訪れる最期の日々、いわゆる終活を意識しはじめた老女が、最良の訃報記事を書いてもらおうと、若い記者と出会う。そこからお互いの人生が変わっていくという、どこか深刻な話のはずが、ユーモラスに、そして最後は明るく元気になれるお話し。

ハリエット(シャーリー・マクレーン)、豪邸に暮らしていて、メイドも庭師もいるのに、彼らの仕事が気に入らず、どんどん自分でやってしまう、美容院に行っても自分で仕上げてしまう、スーパーおばあちゃん。
(うわ、こんな人に仕えたくないわ)

彼女の訃報記事を書くことになった新聞社の女性記者、アン(アマンダ・セイフライド)はハリエットから渡された友人リストをもとに、ハリエットの人物像を取材するが、その評価は劣悪、教会の神父さんにまで悪態つかれるほど。

「良い訃報記事が書けないのはハリエットの人間性にある」とまで断言するアンも凄いが、受けて立つハリエットも負けていない。完璧な訃報記事に求める4つの条件を提示してくる。
「家族や友人に愛されること」
「同僚から尊敬されること」
「誰かの人生に影響を与えるような人物であること」
「そして記事の見出しになるような人々の記憶に残る特別な何かをやり遂げること(ワイルドカード)」

誰かの人生に影響を与える人物になるために、施設にいる黒人少女ブレンダ(アンジュエル・リー)に目を付け、教育を始める。
曰く「言葉遣いが美しいと賢く見える」(そうね、見直さなきゃ)
このブレンダもなかなかにファンキーな少女。ハリエットの若かりし頃はこんなだったのかも。

「ワイルドカード」として、アンの提案もあって出かけたラジオ局でいきなりラジオのDJデビューを果たす。
そこでの選曲センスも素晴らしいが、この言葉は一番心に響いた
「いい1日を送ろうとするな。いい1日を送ろうと努力することは退屈そのもので、それよりも、意味のある1日を送ろうとすることが大事である」と。

自らの人生を生きなおそうと渦を作り出し、若い人たちも変えていくハリエット。
アンもエッセイストになりたかったという夢を実現するため、歩き出す。

ハリエットが別れた夫(フィリップ・ベイカー・ホール)を訪ね、「君と結婚したことを後悔したことはない」と言われ、そっと肩を寄せる姿はなんとも可愛いい。素直なこういう一面も見せてくれる。
アンとブレンダと3人で楽しく過ごすひととき、静かに逝ったハリエットは本当に幸せな、最高の訃報記事を自ら作り出したといえる。


見ようと思った理由は、シャーリー・マクレーンとアマンダ・セイフライド。
アマンダは「マンマ・ミーア」、「ジュリエットからの手紙」「レ・ミゼラブル」「パパが遺した物語」などを見てきたが、若手の中では注目株の大好きな女優さん。
シャーリー・マクレーン、「ダウントンアビー」のシーズン4で、シャーリーがアメリカの大富豪役を演じ、マギー・スミスとの米英の女優対決シーンがおもしろかったこと。
前作の「トレビの泉でもう一度」も良かったし、シャネルの晩年の役も良かった。
恥ずかしながら今にして知ったが、「アパートの鍵貸します」が彼女だったとは。
来月で84歳になろうという、大女優。
強い女性の代名詞的な彼女、でもキュートだし、見ていてこちらの背筋がスッと伸びる爽快感をくれる女優さん、日本にはなかなか居ないかも。
上映館が少なすぎる。観られたこと自体がありがたい。(アロママ)

原題 THE LAST WORD
監督:マーク・ぺリントン
脚本:スチュアート・ロス・フィンク
撮影:エリック・コレツ
出演 シャーリー・マクレーン、アマンダ・セイフライド、フィリップ・ベイカー・ホール、アンジュエル・リー



「去年の冬、きみと別れ」(2018年日本映画)

2018年03月14日 | 映画の感想・批評
 原作の中村文則は芥川賞作家である。芥川賞作家がミステリを書いて大成したのは松本清張が代表的だが、ほかにも五味康祐、宇能鴻一郎など純文学から娯楽小説に転身して成功した人たちがいる。そういえば、大岡昇平、坂口安吾だってミステリの名作を書いた。
 この映画は冒頭、目の不自由な若い女性が点字で手紙をしたためたあと、封をして涙を流すという意味ありげな場面ではじまる。実は、これが後半で重要な意味を持つという伏線になっている。そういう場面が多く仕掛けられていて、スリラー・サスペンスの定石を踏んでおり、そこは合格点だろう。
 フリーライターの若者(岩田剛典)がある事件の真相究明記事をさる週刊誌に売り込みに来る。モデルの盲目の女性を撮影中の火事で焼死させ死なせてしまった若手写真家(斎藤工)が保護責任者遺棄罪で執行猶予付の判決を受けるのだが、実はそれは芥川龍之介の「地獄変」に想を得た写真家の故意による焼殺事件だというのである。半信半疑で話を聞く記者(北村一輝)は編集長の頼みでとりあえずその若者の面倒をみることになる。
 ずばり見せ場は後半、話が意外な方向へ急転換するところから始まるといってよい。まあ、その間はよくある話として聞き流しておくのがいい。なにか物足りない映画だなあとさんざんひっぱっておいて、後半俄然面白くなるという仕掛けが施されているのだ。
 第一の意外な事実が明かされると、観客はある「偶然」に気がつき、ひっかかりを覚える。ミステリにとって「偶然」は禁忌だから、そこで興醒めするのだけれど、もう少し話が進展すると、実は偶然ではなく必然だったことがわかる。原作は未読だが、このようにミステリのツボをよく心得ているところに好感を持った(これ以上書くとネタバレになるのでやめる)。
 ひとつ、難点をいえば、真相を追う若者が写真家の邸宅に飾られた巨大なモノクロ写真を見て、それに惹き込まれる場面があるのだが、この写真の被写体がひと目ではよくわからないというのは私だけだろうか。のちほど改めて写真のテーマが明かされ、そこで何が写っているのかようやくわかる。アート写真の多くがモノクロだといわれればそれまでだが、ここはカラーにすべきではなかったか。(健)

監督:瀧本智行
原作:中村文則
脚色:大石哲也
撮影:河津太郎
出演:岩田剛典、山本美月、斎藤工、北村一輝、浅見れいな

The Beguiled ビガイルド/欲望のめざめ(2017年アメリカ映画)

2018年03月07日 | 映画の感想・批評
 南北戦争時代、7名しかいない女性だけの寄宿学園に、足を負傷した将兵が担ぎ込まれ、女性達の絶妙に保たれていたバランスが、少しずつ狂い始めるところから物語が始まるサスペンスで、衝撃のラストは、開いた口が塞がらない、そして、考えさせられる、そんな作品であった。
 鑑賞後、ドン・シーゲル監督、クリント・イーストウッド主演の「白い肌の異常な夜」のリメイクであることを知った。その作品は未見の為、触れることが出来ないが、恐らく、全くの別物ではないかと想像出来る。何故なら、本作は監督がソフィア・コッポラだからである。彼女の作品は、デビュー作の「ヴァージン・スーサイド」しか観ていないが、女性しか撮れない、いいえ、ソフィア・コッポラしか撮れない映画だと思った記憶があるからである。本作品もそれと同様だと思う。全編を通して、とても繊細な映像ながらも、常に、ピリッとした一本の線が通っている緊張感が走っている。特に、前述のラストシーンは、女性の強さ(こわさ)を見事に表現していると思う。主役級がたくさん揃っている中で、特に、キルスティン・ダンストは、中年の抑えた要望とその抑えた要望が破裂した後の、高揚感や満足感が表情に出ていて、流石の一言である。黙っていても、女性の強さ、自己顕示欲が画面から、ビシビシと伝わってくる。女性は怖い(ここは「強い」ではない)なあ。
 同時期に、同性のキャサリン・ビグロー監督の「デトロイト」を観た。題材の影響もあるが、同性とは思えない演出で、ガンガン押しまくる勢いに圧倒された。う~ん、女性は神秘的である。そして、男性には、絶対に理解出来ないのであろう。
 余談だが、本作品を封切直後の週末に観たが、残念ながら空席が目立った。もう少し、ポップな邦題を付けるか、邦題に「ソフィア・コッポラの~」を入れた方が、来場者数がもう少し伸びるような気がしましたが、皆さんはどうでしょうか・・・。配給会社の皆さま如何でしょうか。それにしても、女優陣の演技だけでも一見の価値がる映画であることには間違い無い。
(kenya)

原題:「The Beguiled」
監督・脚本:ソフィア・コッポラ
撮影:フィリップ・ル・スール
出演:ニコール・キッドマン、キルスティン・ダンスト、エル・ファニング、コリン・ファレル、ウーナ・ローレンス、アンガーリー・ライス、アディソン・リッキー、エマ・ハワード他