シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ギリシャに消えた嘘」(2014年、英仏米合作)

2015年04月21日 | 映画の感想・批評
 久しぶりにヒッチコック・サスペンスの佳作に出会ったといっていい。原作はパトリシア・ハイスミス女史の「殺意の迷宮」。「見知らぬ乗客」「太陽がいっぱい」で知られる犯罪心理小説を書かせては右に出る者なしといわれた人だから、一筋縄ではいかない展開を見せる。
 ギリシャの観光地、観光ガイドの若者は大学生の女性の案内を買って出るのだが、先程来なにやら見知らぬ中年夫婦の夫のほうが気になるようだ。夫のほうも若者の視線に気づいて、妻に「あの男がさっきから君を見ている」というが、妻は既にお見通しで「あなたを見ているのよ」という。そうして、ついに若者はこのアメリカから観光に来たという夫婦に取り入って、ふたりのガイドに雇われる。実はこの若者はアメリカ人で、厳格で優秀な父親に強い劣等感を感じていて亡父の葬儀にも帰国しなかったという背景があり、中年男性に向ける視線はその代償を求めてのことだろう。これが重要な伏線となるのだ。周知のとおり「見知らぬ観客」も「太陽がいっぱい」も男同士の微妙な愛憎をモチーフとするが、それがハイスミスの特質である。
 夫婦はホテルについて一息入れようとするそのとき、怪しげな男が訪れて夫を脅す。夫は投資詐欺師で多額の株式を売りつけた相手に大損をさせ、ギリシャくんだりまで逃げて来たらしい。その相手がやばいスジだったようで、取り立てを依頼された探偵が取り返しに来たのだ。銃を突きつけられた夫が逆襲に出て探偵を殴ると、探偵は打ち所が悪くて息絶えてしまう。そこへ偶然現れたガイドの若者が行きがかり上、夫婦の逃避行を手伝う羽目になる。その逃避行の道すがら、妻は若者と深い仲になって三角関係の悲劇に至るというわけだ。
 監督のアミニはイラン出身の脚本家で、この映画は長編監督デビュー作だという。ハイスミスの小説は二転三転して観客の予測を裏切り続けるところに妙味があって、監督はその点をうまく料理している。ヒッチコック映画に出てくるような思わせぶりなカメラワークと音楽が心憎い。 (健)

原題:The Two Faces of January
監督・脚色:ホセイン・アミニ
原作:パトリシア・ハイスミス
撮影:マルセル・ザイスキンド
出演:ヴィゴ・モーテンセン、キルスティン・ダンスト、オスカー・アイザック
 

「6才のボクが大人になるまで。」 (2014年 アメリカ映画)

2015年04月12日 | 映画の感想・批評
 

 緑の芝生に寝転がりながらどこまでも広がる空を見上げている6才のボク。大きくなったらどんな大人になっているのかな・・・。アカデミー賞を逃したとはいえ、昨年末公開されるや、かつて見たことのない傑作と、息の長い興行を展開中。上映館は今も客足が絶えない。
 「長い」というのはこの作品の最大のポイント。上映時間も長いが、何と12年もかけて1つの作品を完成させたところがすごい。その間、相次ぐ引越しに両親の離婚、再婚と、大人の都合に巻き込まれながらもボクは大きくなっていく。しなやかに、そしてたくましく。
 「ビフォアシリーズ」3部作では、恋人たちの変わりゆく姿を描き話題をさらったが、同時期にさらに長い時間をかけてもう一つの作品を作っていたなんて、リチャード・リンクレイター監督って本当に型破り。また、完成を信じて参加したスタッフ、キャストたちの決意も相当なものだ。それだけ信頼できる監督だということか。
 主人公のメイソンに、エラー・コルトレーン。あどけない少年が、数々の試練を乗り越えて思春期を通り過ぎ、一人前の青年となって親の元を巣立っていく。ああ、アメリカも、テキサスも、日本と同じなんだなあと自らの体験を確かめるように振り返る。成長しているのは子どもたちだけではない。シングルマザーになった母親は何と大学に入って勉強をし直し、修士課程を卒業。そのまま大学の講師になる。母子と離れ、アラスカで自由な暮らしをしていた父親も、再婚した後は保険外交員に。新しく子どももできた。大人だって成長しているのだ。イーサン・ホークとパトリシア・アークエットという一流スターが、こんなにも長期にわたり出演し続けたのも、この作品とかかわる楽しさを体感していたからに違いない。姉のサマンサを演じているのは監督の娘、ローレライ。自分の娘の12年間も1本の映画の中に生き生きと収めてしまうなんて・・・。
 大学入学の日に友人たちと山に向かうメイソン。あの6才の時のように、夕日を見つめながらつぶやく。「一瞬とは・・・」。目指すはプロのカメラマン、一瞬をとらえるアーティスト、人生は一瞬の積み重ねだ。大人の入り口に立ったメイソンの瞳に映った未来とは・・・。
 (HIRO)

原題:Boyhood(少年期)
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
撮影:リー・ダニエル、シェーン・ケリー
出演:エラー・コルトレーン、イーサン・ホーク、パトリシア・アークエット、ローレライ・リンクレイター
 
 
 

「イミテーション・ゲーム」(2014年アメリカ・イギリス映画)

2015年04月01日 | 映画の感想・批評


 アカデミー賞の作品賞にノミネートされた力作だ。ある日、数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)の家に賊が入り、犯人を捕らえた警察が数学者を訪れると、本人は盗まれたものなどないから帰ってくれと取りつく島もない。何か変だと睨んだ刑事は、数学者がスパイ活動をしているのではないかと疑う。
 話はずっと遡って、第二次世界大戦下の英国。破竹の勢いのナチス・ドイツはヨーロッパ大陸を席巻し、英国に侵攻しようとしていた。そこで、英国はドイツの暗号を何とか解読して攻撃に備えようと、優秀な人材を募る。ドイツのローター式暗号機「エニグマ」は深夜に暗号のコードを更新する。したがって、朝に傍受した暗号を1日かけて解読したとしても深夜の0時過ぎにはリセットされ、翌朝の解読には役に立たないというわけだ。
 暗号解読チームの中に、自分を天才と疑わぬ若き日のアランがいた。不遜で協調性に欠けるアランは同僚や上司と何度もトラブルを起こし確執を深めるのだが、やがて仲間とも打ち解けるようになり、ようやく共同作業が実を結んで暗号解読に成功する。こうして英国はドイツの毒牙から逃れるのである。
 そうして戦後、話は冒頭の事件に戻り、刑事は調査を進めるうちにアランのぎこちない態度の理由はスパイ活動ではなく私的な秘密にあると気づく。とうとう知られざる性癖を告白したアランは起訴され、収監か薬物療法のどちらを選択するかを迫られて後者をとるのだ。実話をもとにしたこの物語はここで終わるけれど、1954年にアランは41歳の若さで自ら命を絶ったという。その後「ウォルフェンデン報告」を受けて英国が同性愛を合法化したのは1967年のことであると字幕に出る。
 わが国ではようやく渋谷区で同性同士のパートナーシップ証明書を発行する条例が成立したそうだ。いわれなき差別どころか罪人として扱われた多くの人びとに神の祝福あれ!(健)

原題:The Imitation Game
監督:モルテン・ティルドゥム
原作:アンドリュー・ホッジェズ
脚色:グレアム・ムーア
撮影:オスカル・ファウラ
出演::ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、ロリー・キニア