シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

そして父になる(2013年日本)

2013年10月21日 | 映画の感想・批評

 
 子どもは親を選べないという。では、親は子どもを選ぶことができるのだろうか。
 カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した是枝監督の「そして父になる」は、福山雅治が初の父親役を演じた話題作だ。大手建設会社のエリート社員の良多の6歳になる一人息子が、出産時に取り違えられていたということが判明したことから物語は展開していく。
 良多とみどりに育てられた慶多と、雄大とゆかりに育てられた琉晴。突然降ってわいた話に二つの家族が困惑するのは当然だ。血のつながりに重きをおくか、過ごした時間に重きをおくか、どちらの選択が正しいなどとは簡単にいえない。週末に慶太と琉晴を交換して、少しずつ慣れていく二つの家族。やっぱり血のつながりは否定できないのかと思いつつ、生まれてからの6年間を無かったことにできるのか、自分が当事者だったらどうするだろうと問い続けながら観ていた。
 映画がどちらの選択をしても、納得できたと思う。それぞれの夫婦がどちらの子どもを選んでも、この出来事を通じて家族の絆が深まったはずだ。特に自身の子ども時代の体験から家族より仕事優先だった良多が、子どもと向き合い家族を大切にするようになったことがいい。折角だから親戚付き合いを始めたら、なんて思うのは無責任だろうか。
 スピルバーグ監督が、この映画をハリウッドでリメイクしたいといっている。個人的にはこれにはあまり興味はないが、病院のミスで取り違えられたイスラエルとパレスチナの青年とその家族を扱った「もうひとりの息子」というフランス映画には興味がある。京都での公開日程は未定だが、観たいと思っている。(久)

監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
出演:福山雅治,尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー、樹木希林

「熱波」(2012年ポルトガル、ブラジル、ドイツ、フランス合作)

2013年10月11日 | 映画の感想・批評
 前半(第一部)は、リスボンのアパートメントに住む我がままで気位の高い老女と黒人のメイド、その隣人の中年女性との交流が描かれる。老女は認知症気味でメイドとの間にいざこざが絶えない。ひとり娘がいて、金銭的援助はしてもなぜか姿を現すことはない。やがて老女が倒れて「会いたい」と願った男を隣人の女性が見つけ出すが、臨終に間に合わず葬儀に参列したところで第二部が始まる。すなわち、この謎の男、今は見る影もないやつれた老人だが、往年は颯爽としたダンディな美男子だった男と、気性は激しいが美貌に恵まれた若き日の老女の不倫を描く。この映画の真骨頂はここからで、舞台はリスボンから遠く離れたアフリカのポルトガル領タブー山麓に飛ぶ。原題の「タブー」はここから来ており、もちろん禁忌の含意だが、監督によるとタブー山麓という地名は存在しない。戦前ドイツ映画の鬼才F・W・ムルナウがハリウッドに渡って撮った遺作「タブウ」にあやかった題名だそうだ。
 女は父の仕事の関係でアフリカの地に身を置くが、そこで知り合った若き実業家と結ばれ、子どももできる。そこへ流れ者のくだんの男が現れて平穏だった生活が一変する。人間の本性のまま奔放に生きようとするふたりは、ついに駆け落ちを決行するのである。
 第一部の現代は物憂げなドラマが、主人公の中年女性の禁欲的な生き様さながらに淡々と進行する。打って変わって第二部の回想場面は主人公が若き日の老女と老人に交替して情熱的だ。構成もがらりと変わって、老人のナレーション以外は登場人物の台詞もなく、ドキュメンタリー・タッチで描かれるあたりがムルナウへのオマージュか。
 現代を含めて半世紀以上も昔のアフリカでの禁じられた恋物語が、モノクロームの映像に映し出される。第62回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞等を受賞したポルトガルの俊英ミゲル・ゴメス監督の秀作である。(ken)

原題:Tabu
監督:ミゲル・ゴメス
脚本:ミゲル・ゴメス、マリアナ・リカルド
撮影:ルイ・ポッサス
出演:テレーザ・マドルーガ、ラウラ・ソヴェラル、アナ・モレイラ、カルロト・コッタ、エンリケ・エスピリト・サント

「怪盗グルーのミニオン危機一発」 (2013年 アメリカ映画)

2013年10月01日 | 映画の感想・批評


 あのかわいいキャラクターたちはいったい何!?黄色い単純な形、大きな目とゴーグル、オーバーオールの表情豊かなデザインが世界中で大人気。その名はミニオン!!高い評価を得た前作「怪盗グルーの月泥棒3D」から3年、本場アメリカでは、「モンスターズ・ユニバーシティ」をしのぐ、3億ドル以上の興収をあげて、現在も記録を更新中だ。
 かつて月を盗んだこともある世界最強の怪盗グルーは、足を洗い、養女にした孤児三姉妹とミニオンたち、そしてミニオンを作り出した天才科学者ネファリオ博士と一緒に平穏な日々を送っていた。ある日ミニオンたちが何者かに誘拐されてしまう。いったい誰が、何のために?!最強の仲間ミニオンたちを救い出すために、グルーと三姉妹がタッグを組んで誘拐犯と立ち向かう。
 一連のハリウッド・アニメとは一線を画すこの世界観は、スペインとフランスの血を引く監督と脚本家により、フランスのアニメスタジオで製作されたからなのだろうか。他にも主人公グルーのキャラは、ボンドを生み出したイギリス風。プロレスが盛んなメキシコやロシア、そして“踊る”日本のカルチャーティストも加わって、何ともグローバルだ!!
 今回グルーが恋心を抱くルーシーの声を担当するクリスティン・ウィグと、グルー役のスティーヴ・カレルとはアメリカのバラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」でもおなじみで、その掛け合いが受けているそうだが、いかんせん日本では吹き替え版が席巻。笑福亭鶴瓶が担当した関西弁のグルーも悪くはないが、できれば字幕版で本家本元の声が聞きたかった。
   (HIRO)

監督:クリス・ルノー、ピエール・コフィン
脚本:シンコ・ポール、ケン・ダウリオ
声の出演:スティーヴ・カレル、クリスティン・ウィグ ベンジャミン・ブラット
      笑福亭鶴瓶、中島美嘉、中井貴一、芦田愛菜