シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ジュラシック・ワールド」 (2015年 アメリカ映画)

2015年08月21日 | 映画の感想・批評


 22年前、スティーヴン・スピルバーグが生み出した世界が、懐かしい音楽と共によみがえった。あの時は実現に至らなかったテーマパークが、時を経て、さらにダイナミックにオープンしたのだ。Welcome to “Jurassic World”!!
 ヴェロキラプトルの調教をしているのは今回の主人公・オーウェン。目と目で心が通うほどに、相手は生きた恐竜にしか思えない。ここまで映像テクノロジーは進化したのだ。
 恐竜たちもまた進化した。それも人間たちによる遺伝子操作という形で。そういえば「ハリー・ポッター」のアトラクション投入で入場者がぐんと増えたというUSJの結果でもわかるように、パークをビジネスとして成功させるには、毎年新しい種の恐竜を作り出す必要があったのだ。もっと凶暴で、もっと歯の数の多い恐竜を!!人間の欲はとどまることを知らない。
 今回初登場となる「インドミナス・レックス」もその一つ。最強最大の肉食恐竜で知られるティラノサウルス・レックスをベースに、様々な恐竜たちのDNAを含む遺伝子構造を持つ、最も強大で、賢い恐竜が生み出された。そんな恐ろしい竜が檻から逃げ出したらどうなるか。今回は2万人を超える入場者たちがパーク内にいるのだ。折りしもパークのマネージャーをしているクレアは、姉から甥っ子兄弟を預かって、案内役を引き受けたばかり。その二人は「ジャイロスフィア」というアトラクションに乗って園内を回っている。人間が恐竜の獲物と化したパニック状態の中、クレアはオーウェンと協力して二人の救出に向かう。
 ここでもお分かりの通り、本作はシリーズ第1作「ジュラシック・パーク」へのオマージュ的作品となっている。人物設定、カメラワーク、恐竜の姿等々、コリン・トレボロウ監督やスタッフたちのスピルバーグへの敬愛の念は相当なもの。第1作を見た方は細部にわたって記憶が蘇ること請け合いだ。今回はシリーズ初の3D映像も体験できる。ぜひ劇場の大スクリーンで新たなジュラ紀の恐竜の世界へ!!
(HIRO)

原題:JURASSIC WORLD
監督:コリン・トレボロウ
脚本:リック・ジャッファ&アマンダ・シルヴァーand
   デレク・コノリー&コリン・トレボロウ
撮影:ジョン・シュワルツマン
出演:クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード、イルファン・カーン、タイ・シンプキンス、ニック・ロビンソン、インドミナス・レックス、モササウルス、ヴェロキラプトル、プテラノドン、ティラノサウルス・レックス

「人生スイッチ」(2014年アルゼンチン=スペイン合作)

2015年08月11日 | 映画の感想・批評
 まるで、ロアルド・ダールやサキの名短編を読むようなオムニバス映画の逸品である。
 冒頭アルゼンチンの空港を飛び立った飛行機の中で美人モデルと中年男が通路を挟んで隣同士となり、いつしか会話がはずむ。男はクラシックの音楽評論家だという。女性が昔つきあっていたパステルナークという作曲家志望の男がコンクールに落選したことがあると話すと、男は自分が審査委員長を務めたコンクールだからその彼氏なら覚えているといい、それにしてもひどい作品だったとこきおろす。前に座っていた老女がパステルナークなら私の教え子だと話に加わり、とんでもない問題児だったという。すると前方から若い男が自分は同級生だと名乗り出る。堰を切ったようにあちらこちらからパステルナークの知り合いが現れる。という具合で「そんな馬鹿な」と思っていると、これがとんでもない落ちにつながって観客は唖然とするのだ。クリスティの「そして誰もいなくなった」を想起させるこの短いエピソードの次にタイトルとなる。
 全部で6つのエピソードから成る(原題は「ワイルドな物語」という意味)。それがどれも強烈な印象を残し、悲惨で残酷な物語をブラック・ユーモアで包み込むという手法。ラテン気質というか、喜怒哀楽が激しく曖昧さを嫌い、ことに復讐となると「目には目を歯には歯を」の精神である。
 たとえば三つ目のエピソードはスピルバーグの名作「激突!」のバリエーションといえばよいか。高級新車に乗る男が郊外の道をのろのろ走るおんぼろ車に苛立ち、追い抜きざまに悪態をつく。しばらくしてパンクに気づいた男が道端に車を停めタイヤ交換に四苦八苦していると、そこへ例の車が追いついて来る。あとはご想像にお任せしよう。恐らく映画は皆さんの想像を遥かに超える結末へと進む。
 そうして、最後のエピソードで観客はまたしても裏をかかれる羽目になるのだが、それは見てのお楽しみだ。(健)

原題:Relatos salvajes
監督:ダミアン・ジフロン
脚本:ダミアン・ジフロン
撮影:ハヴィエル・ジュリア
出演:リカルド・ダリン、リタ・コルテセ、ダリオ・グランディネッティ、フリエタ・ジルベルベルグ、レオナルド・スバラーリャ、オスカル・マルティネス

2015年上半期ベスト5発表!

2015年08月01日 | BEST
 当ブログ恒例の上半期に公開された作品のベスト5の選出です。「久」さんがずっとお休みされている関係で、今回は座談会形式を取りやめ、各自コメント方式としました。今年の上半期もまたすばらしい映画でいっぱいでした(健)。


【HIROさんのベスト5】

日本映画
1位「百円の恋」」(武正晴監督)
安藤サクラのファイトシーンに思わず力こぶしが入りました。ラストは完全に女の子に戻っていましたが・・・。それもいい!

2位「海街diary」(是枝裕和監督)
見ているだけで心がうきうきしてくる四姉妹の一挙一動。今年の梅は豊作でした。

3位「あん」(河瀬直美監督)
徳江(樹木希林)さんに教えてもらって、あのテカテカに光るあんを自分も作ってみたい。

4位「きみはいい子」(呉美保監督)
高良健吾演じる岡野先生、ぜひ来年度はウチの小学校に赴任してきてもらいたい。

5位「神様はバリにいる」(李闘士男監督)
仕事を辞めたら、こんな楽園のようなところでの~~~んびり暮らすのもいいかも。


外国映画
1位「パレードへようこそ」(マシュー・ウォーチャス監督、2014年イギリス)
ゲイの解放運動に炭鉱の労組のおばちゃんたちが加わるなんてすごい!!それも実話だとか。安保関連法案強行採決に対するデモを見て、また思い出してしまった。

2位「おみおくりの作法」(ウベルト・パゾリーニ監督、2013年英伊)
真面目な中年男に初めて訪れたロマンス!!しかし・・・。ラストのお見送りでさらに涙があふれ出ました。

3位「アメリカン・スナイパー」(クリント・イーストウッド監督、2015年アメリカ)
英雄視された実在のスナイパーも、心の中には埋めようにも埋められない空間ができてしまったようで。やはり人を殺すって、よくないよ。

4位「バードマン あるいは〈無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督 2014年アメリカ)
かつて初代「バットマン」を演じて一世を風靡したマイケル・キートンが「バードマン」になって帰ってきた!!さすがオスカー作品と納得。

5位「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(ジョージ・ミラー監督 2015年豪米)
30年ぶりの新作、ジョージ・ミラー監督健在!どころか御年70歳にしてますます熱くなってる!!「ゴーン・ガール」を蹴落としての5位。



【健のベスト5】

日本映画
1位「海街diary」
実父を亡くした少女が葬儀で腹違いの三人の姉たちと出会い、引き取られて行くという非日常的な出来事のあとは、この四人姉妹が鎌倉を舞台に織りなす何気ない日常を優しい目線でスケッチする。何と快い時間と空間に身をゆだねることができる至福よ。日本映画の大きな収穫である。

2位「百円の恋」(武正晴監督)
どうしようもないぐうたらな女が近くのボクシングジムで見かけた若者に一目惚れし、突如ボクシングに目覚めてジム通いを始めるという成り行きがおもしろおかしく語られ、やがてぶよぶよだった安藤サクラの身体がRIZAPのCMみたいに引き締まってくるのがすごい。

3位「さよなら歌舞伎町」(廣木隆一監督)
親には一流ホテル勤務と偽って連れ込みホテルで働く今風の若者とそれを取り巻く人々の私生活をのぞき見るような興味といえばよいか。多様な性風俗の坩堝と化した巨大都市の生態が生々しい。ことに時効まであと何日と指折り数えてアパートの一室に潜む夫婦のエピソードが素敵だ。

4位「駆込み女と駆出し男」(原田眞人監督)
徳川末期の江戸の風俗と緊縮財政を推し進めようという時代の空気や市井の人々の生き生きとした生活が丁寧に描かれる。軽佻浮薄な主人公が上滑りしそうな話を原田監督はオーソドックスで重厚な演出を駆使してじっくり見せるのだ。

5位「イニシエーション・ラブ」(堤幸彦監督)
いっぱい食わされたというか、本来なら中村義洋監督が得意とする分野だが、堤の思わせぶりな演出は堂に入ってまんまとだまされた。

外国映画
1位「セッション」(デミアン・チャゼル監督、2014年アメリカ)
名門音楽学校で自らの演者としての夢を若者たちに託そうというのか、学生をしごきにしごいて、さしずめアカハラの限りを尽くす鬼教師と、必死について行こうとする現代気質の若者の決闘は如何に。最後に笑う者はどっちだ。

2位「パリよ永遠に」(フォルカー・シュレンドルフ監督、2014年仏独)
パリを破壊せよとのヒトラーの命令に背けば故国に残した妻子に危険が及ぶというナチのパリ占領軍司令官と、欧州の宝石であるパリを何とか救おうとする中立国スウェーデン領事の息をのむ駆け引きが展開されスリル満点。外交の何たるかを痛感させる秀作である。

3位「パレードへようこそ」
テレビ・ニュースで警官隊に弾圧される炭鉱労働者のストライキを見たゲイの若者が自分たちと同じ痛みを感じて連帯しようと決意する。最初は差別と偏見の目で彼らを見ていた労働者たちがやがてその心意気に感謝して・・・とこの映画は本当に心が癒される。

4位「おみおくりの作法」
身寄りがなく引き取り手がない遺骨を保管してわかる限り縁者を探し、それでも引き取り手が現れない場合は葬儀から埋葬までを丁寧に行うことを天職のように考えている孤独な市役所事務員。この男の律儀で誠実な人柄が一挙手一投足から感じられる演出に目を奪われていると、英国映画らしい皮肉な結末が待ち受けている。

5位「アメリカン・スナイパー」
反戦反軍映画ではないにしても戦争が人を狂わせ精神を破綻させるという真実をついて強烈である。安倍政権は憲法を蔑ろにして武力の行使範囲を広げることで平和が担保されるという詐欺まがいの法案を通そうとしている。だまされてはいけない。武力は所詮武力を誘発するだけだ。