シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「母と暮せば」 (2015年 日本映画)

2016年01月21日 | 映画の感想・批評


 終戦70年を迎えた2015年は「日本のいちばん長い日」「野火」など、記念すべき作品が次々と公開されたが、その真打ちとして登場したのがこの作品。「母べえ」「小さいおうち」と、戦争を一般市民の側から描き、深い感銘を与えた山田洋次監督が今回選んだテーマは、原爆が投下された町、長崎だ。
 1945年8月9日、長崎で助産婦をしている福原伸子は長崎医科大に通っていた次男の浩二を原爆で亡くす。夫や長男にも先立たれ、たった一人になってしまった伸子が浩二のこともあきらめようとした夜、学生服を着た浩二がひょっこり伸子の前に現れる。「浩二、あんたは元気?」「僕はもう死んどるとよ・・・。」自分は幽霊であること明かした浩二は、それから度々現れては伸子と話をするようになる。浩二には母と共にもう一人心配な人がいた。生前仲の良かった町子のことだ。堅い約束を交わした二人だったが、小学校の先生になった町子にはこれからの人生がある。町子の幸せを願う浩二は、ある重大な決心を母に話す。
 「硫黄島からの手紙」で、クリント・イーストウッド監督からその演技を絶賛された二宮和也が今回も上手い。時にはユーモアを交えながら母を想う優しい医学生の役にピッタリで、本年度の「キネマ旬報ベストテン」でも見事主演男優賞に輝いた。ともすれば堅苦しく、暗い内容になりそうな題材だが、山田監督の喜劇映画作家としての味わいと、二宮のキャラクターが何とも微笑ましくコラボしていて出色の出来。母の伸子には原爆の詩の朗読をライフワークとしている吉永小百合。一つひとつのセリフに込められた思いがひしひしと伝わり、見る者の共感を誘う。そして音楽を担当したのは“核のない世界”を提唱している坂本龍一であることにも注目。ラストの長崎市民による大合唱は圧巻だ。
 この上ないキャストとスタッフを結集し、広島が舞台だった「父と暮せば」の対になる作品を自分の手でと、故・井上ひさし氏の遺志を受け継いだ山田監督の渾身作がここに誕生した。
(HIRO)

監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
撮影:近森眞史
音楽:坂本龍一
出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一、小林稔侍、橋爪功

「ブリッジ・オブ・スパイ」(2015年アメリカ映画)

2016年01月11日 | 映画の感想・批評
 

 実話の映画化である。米ソ冷戦下のアメリカ。画家を装いながらスパイ行為を働くソ連国籍の男をFBI捜査官が追いつめ拘束する冒頭から、観客の感興を鷲づかみにするスピルバーグの手法は衰えていない。
 たとえソ連のスパイといえども法治国家アメリカでは公正な裁判を受ける権利がある。司法当局は大手法律事務所に弁護を要請し、保険訴訟を専門とする敏腕弁護士(トム・ハンクス)に白羽の矢が立てられる。しかし、誤解してはならない。政府や判事が目指すのは形式的な裁判の公正さを世に示して民主主義国家としてのアリバイを作ろうという腹づもりなのだ。それで、弁護士が四面楚歌の法廷に立たされるのが前半の見せ場である。
 時を経ずして米軍はソ連に偵察機を侵入させるのだが、撃墜されたパイロットがソ連の捕虜となる事件が発生する。東独を通じてソ連のスパイと米軍パイロットの交換の提案がなされ、当時まだ東独と国交の無かった米国は、くだんの弁護士に交渉役を託す。時あたかもベルリンの壁が建設され東西分断の悲劇が訪れて、そのとばっちりを受けたアメリカ人の男子留学生が東独にスパイとして拘束される。ベルリンに渡った弁護士はそれを知り、無辜の大学生こそ救うべきだと確信して、米国政府の方針を無視しパイロットと学生のふたりを交換条件に譲らないのである。この人質交換交渉が第二の見せ場。国益より人権を重視するリベラルな弁護士の信念、一般人など放っておけという国家の論理、ソ連と東独の威信をかけた思惑がせめぎ合い、緊迫した最後の見せ場を迎えるのだ。
 脚本にコーエン兄弟がかかわったことは映画のおもしろさを確実に担保した。そうして、相変わらずハラハラドキドキさせたり笑わせたり、しんみりさせたり感動させたりと、スピルバーグの映画術は「うまい」の一語に尽きる。これを「あざとい」と感じる人もいるだろうが、私はそこがスピルバーグの持ち味だと言いたい。(健)

原題:Bridge of Spies
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:マット・チャーマン、イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン
撮影:ヤヌス・カミンスキー
出演:トム・ハンクス、マーク・ライランス、エイミー・ライアン、アラン・アルダ、オースティン・ストウェル

2015年ベストテン発表

2016年01月01日 | BEST
 恒例の執筆者ベストテンを発表いたします。HIROさん、わたくしに加えて、新年から新たに執筆陣に加わっていただくこととなったkenyaさんにも今回より参加していただきました。
 年間で日本映画400本、外国映画500本、合わせると900本もの作品が京阪神で劇場公開されました。え?そんなに、と驚かれた読者も多いと思います。その膨大な上映作品の中から我々が見ている作品も限られてきますが、さらに10本だけ選ぶことはかなりたいへんなことです。
 また、当ブログで紹介している作品など月に3本ずつですから全体の5%にも満たないのです。紹介できなかったけれど宝石のように輝くすばらしい作品が昨年もあまたあったことを申し添えて、われらがベストテンをとくとご覧ください。(健)

注記:2015年に京阪神で劇場公開された作品を対象とした。日本映画作品名のあとの括弧書きには監督、外国映画作品名のあとには原題、監督、製作年・製作国を入れた。


HIROさんの2015年ベストテン
【日本映画】
1位「百円の恋」(武正晴)
上半期と変わらずの第1位。安藤サクラの変身ぶりに脱帽です。
2位「恋人たち」(橋口亮輔)
ラストの東京の青空と、黄色いチューリップに希望を見つけ、涙しました。
3位「海街diary」(是枝裕和)
鎌倉と湘南の海が印象的。そこにあの4姉妹が生きています。
4位「あん」(河瀬直美)
あのおいしそうなどら焼き、永瀬店長の店で食べてみたい。
5位「バクマン。」(大根仁)
週連載するマンガ家の大変さを学びました。
6位「きみはいい子」(呉美保)
今の小学校の様子を端的にとらえていて面白い。
7位「神様はバリにいる」(李闘士男)
バリ島って、ほんとに住みやすくて、いいところみたいですね。
 今年の日本映画はやや不作でしょうか。これ以外に見ていないのがつらいところですが、上にあげた作品は粒ぞろいでした。

【外国映画】
1位「セッション」(Whiplash、デイミアン・チャゼル、2014年アメリカ)
今年一番の衝撃作。あのバチさばきには震えます。
2位「パレードへようこそ」(Pride、マシュー・ウォーチャス、2014年イギリス)
イギリスの炭鉱町の面々と、ゲイの若者たちのつながりが何とも愉快。
3位「おみおくりの作法」(Still Life、ウベルト・パゾリーニ、2013年英=伊)
市民のためにコツコツと働く主人公が報われるラストは、何とも哀しく美しい。
4位「マッドマックス・怒りのデスロード」(Mad Max: Fury Road、ジョージ・ミラー、2015年オーストラリア)
シャーリーズ・セロンって、こんな役もできるんだ。さすが役者根性です。
5位「マイ・インターン」(The Intern、ナンシー・マイヤーズ、2015年アメリカ)
定年後、ロバート・デ・ニーロのようにかっこよく生きたいと思うのですが・・・。
6位「アメリカン・スナイパー」(American Sniper、クリント・イーストウッド、2014年アメリカ)
戦地で多くの住民を殺しながら、家族と携帯で話す主人公。ここでもう出来上がっています。
7位「バードマン・あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)、アレハンドロ・G・イニャリトゥ、2014年アメリカ)
やっぱりバードマンは飛んでいてほしい。
8位「キングスマン」(Kingsman: The Secret Service、マシュー・ヴォーン、2014年イギリス)
『威風堂々』の曲に合わせて人間花火を打ち上げるシーンが何とも愉快で切ない。
9位「ゴーン・ガール」(Gone Girl、デヴィッド・フィンチャー、2014年アメリカ)
ラストの微笑みが女性の怖さを物語ります。
10位「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(Star Wars: The Force Awakens、J・J・エイブラムス、2015年アメリカ)
何もかもが第1作(エピソード4)と結びついてくる。3人の主要演者がよく出演を承諾したなと感心。
 今年は外国映画が充実していました。日本映画に流れていたお客さんも戻ってきているようですね。


kenyaさんの2015年ベストテン
【日本映画】
1位「海街diary」
鎌倉を舞台にした4姉妹の物語。その4姉妹はもちろんのこと、出番が少ないが、樹木希林の演技に圧倒された。画面に負けていない。大きなスクリーンであの演技が観れるだけでも価値がある。素晴らしい。出番の少なさと存在感の大きさが反比例する意味では、大竹しのぶも収穫だった。女優陣の演技合戦を楽しめた。
2位「あん」
過去の河瀬直美の印象は良くなかったが、初の原作ものということで、彼女のアクの強さが丁度よい具合に柔和され、肩の力が抜けて、一般人にも理解出来る(=商業映画)に大変身。もちろん、その理解を助けたのは、主役二人の演技だろう。1位に続き、またもや樹木希林に乾杯。
3位「きみはいい子」
呉美保監督は初めて観た。人間の弱い部分を丁寧に描写し、また、それを悲観せず、
少しでも前向きに生きていこうする人間臭さがよく表れていたように感じた。悩んだり、泣いたりして、地味だけどコツコツ生きている人間をじっくり丹念に描こうとする監督の力量が素晴らしい。
4位「駆込み女と駆出し男」(原田眞人)
1位、2位に続き、またもや樹木希林である。特に、今まで見せていた温厚な態度とは一変し、冷徹な対応をする場面は、多くを語らずに、すべてを伝える、人と人との間合いや息遣いまでもが、表現されているように感じ、鳥肌がたった。今年は、樹木希林に尽きる。
江戸の当時の時代背景を、今の時代合わせて軽妙に描く監督の力量も鮮やかだった。
5位「龍三と七人の子分たち」(北野武)
久し振りに映画館で笑った。主人公達はヤクザだが、素直な人達だと思う。根は素朴で純情なので、何事にも真っすぐに向き合ってしまい、他人とぶつかってしまい、一般社会では生活出来なくなり、ヤクザの世界しかなかったのではないか。ビートたけしの皮肉だろうか。個人的には、ヤクザ映画としては、「アウトレイジ」「アウトレイジビヨンド」の方が良かったが。
6位「繕い裁つ人」(三島有紀子)
悩みながらも細々と、でも確実に自らの人生を歩む。地に足を付けている。そんな人が主人公である。そんな生き方に憧れる。少しでも近づきたいと思う。心に温かい光を与えてくれる映画である。
7位「ジョーカーゲーム」(入江悠)
深田恭子が好きな人の為の映画である。よって、内容には特に関心はない。

【外国映画】
1位「フォックスキャッチャー」(Foxcatcher、ベネット・ミラー、2014年アメリカ)
男優3名の演技合戦。デュポンが狂気じみていく様は、異様かつ恐怖。人間の複雑な感情が細かい演技にも表れていたし、風景の移り変わりで物事の進行を表現する技法が映画らしいと感じた。
2位「妻への家路」(歸来、チャン・イーモウ、2014年中国)
チャン・イーモウとコン・リーのコンビ復活。これは観るしかないでしょ。コン・リーの演技には引き込まれる。自然で嫌味がない。変な力みがない。 是非、これからもコンビを続けてほしい。
3位「セッション」
全編を通じての子弟関係のドラマに圧倒された。何度も予想を覆された。ラストは想像を超えた。すべてが尋常ではなかった。その迫力に圧倒された。また、原題との違いに驚いた。久々に外国映画を日本でどのように動員を増やすのか、配給会社の知恵が感じられた。
4位「サンドラの週末」(Deux jours, une nuit、ジャン=ピエール・ダルデンヌ&リュック・ダルデンヌ、2014年ベルギー=仏=伊)
海外では当たり前(?)の解雇から始まり、日本の行く末を暗示している(?)ように恐ろしく感じながら観た。ラストシーンのすがすがしさが最高。主演のマリオン・コティヤールはもちろんのこと、脇役も実力を持った俳優が多く、ラストシーンの感動に繋がっている。
5位「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(Mission: Impossible - Rogue Nation、クリストファー・マッカリー、2015年アメリカ)
予想以上に違和感なく観れたので、上位に入れた。スター出演でシリーズものなので、不死身度合いが半端ない状況ではあったが、トム・クルーズ自身が製作にも関わり、完成させるぞ!アクションを見せるぞ!楽しませるぞ!という意気込みが伝ってきた。駅やレストランのシーン等も編集もうまかった。これもその意気込みか?次回作も楽しみ。
6位「ナイトクローラー」(Nightcrawler、ダン・ギルロイ、2014年アメリカ)
ネット依存社会になり、人と話をするよりも、パソコンを見ている時間の方が長いようになってくると、このような人間が生まれてくるのだろうか。ニュースで流れる映像を見ただけでは、どんなに残酷なシーンでも、痛みを感じている気分になるだけで、実際の痛みは感じない。インターネットで情報を入手することが普通という若者は主人公のどこが悪い?と言い出すのだろうか。 恐ろしや。
7位「あの日のように抱きしめて」(Phoenix、クリスティアン・ペッツォルト、2014年ドイツ)
愛していた人が振り向いてくれない寂しさに耐える主人公。長くつらい時間に別れを告げた時に、新しい人生がスタートした。ラストシーンは「諦め」ではなく、「新たな旅立ち」と理解した。女の人は強い。
8位「フレンチアルプスで起きたこと」(Turist、リューベン・オストルンド、2014年スウェーデン=デンマーク=仏=ベルギー)
この映画も女の人が強い。半端なく強い。 ラストシーンで男にも華を持たせるが、だからといって、女の人の強さは変わらない。とても怖い映画だった。
9位「人生スイッチ」(Relatos salvajes、ダミアン・ジフロン、2014年アルゼンチン=スペイン)
6つのオムニバスになっている。どの話も軽妙でクスッと笑わせ、じっくり考えさせられる。特に、1話「おかえし」と3話「エンスト」は特に面白かった。
10位「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(The Imitation Game、モルテン・ティルドゥム、2014年英=米)
何の為に、誰の為に暗号を解読するのか?この問いを主人公は片時も忘れていなかった。暗号解読の「サスペンス」ものではなく、戦争の恐ろしさや人間の本源に触れる「人間ドラマ」として観れた。


健の2015年ベストテン
【日本映画】
1位「恋人たち」
三つのエピソードが並行して語られ、それぞれを微妙に絡み合わせて人生の機微を抽出してみせる橋口監督の技法に、ほとんど無名に近い俳優たちが応えた奇跡的な一編。
2位「海街diary」
たたずまいの正しい映画である。「恋人たち」が橋口亮輔の最高傑作なら、この映画は是枝の最高傑作だといってもいい。
3位「百円の恋」
どうしようもないぐうたら女がボクシングジムに通う男に恋をして自らもジムに通いはじめる。精神の高揚が肉体の改造として現される手法がすごい。
4位「さよなら歌舞伎町」(廣木隆一)
新宿歌舞伎町の風俗を描いて飽きさせない。市井に生きる底辺の人々の活力というか、貪欲な生活力を生き生きと描いた。
5位「ピース オブ ケイク」(田口トモロヲ)
役者出身の監督らしく俳優をうまく使っているなという印象をもった。
6位「野火」(塚本晋也)
既に映画史的な評価が固まっている市川崑版の名作とはこれが同じ原作かと疑うほど隔たっていて、オリジナリティを感じさせる力作だ。
7位「駆込み女と駆出し男」
軽佻浮薄な登場人物を描いていながら、重厚でかつ丁寧な仕事ぶりに感心した。「日本のいちばん長い日」に比べて人物がよく書き込まれていて格段によくできた作品である。
8位「イニシエーション・ラブ」(堤幸彦)
この手の映画は如何に観客を上手にだますか、ラストのどんでん返しでしてやられた観客が爽やかな心地を残して帰れるか、にかかっているといってもいい。うまいと思った。
9位「あん」
あの河瀬直美にこんな正統な映画が撮れるんだと言った人が周囲にたくさんいて思わず頷いたが、たしかに意外な秀作である。
10位「ソロモンの偽証 前篇・事件、後篇・裁判」(成島出)
前篇で不可思議な謎が提示され、後篇で合理的な解決が示される。「イミテーションラブ」とは対照的な本格ミステリの正統を行く佳作として評価したい。

【外国映画】
1位「セッション」
名門音楽学校の鬼教師がドラマーを目指す若者を徹底的にしごいて、とうとう挫折させるという物語の裏に、鬼教師の過去に何があったのか想像を絶する何かが垣間見える。
2位「パリよ、永遠に」(Diplomatie、フォルカー・シュレンドルフ、20141年仏=独)
ヒトラーのパリ爆破命令を阻止しようとするスウェーデン領事。粛々と命令を実行しようとするドイツ軍司令官。ふたりの駆引きと激論が濃密なドラマを構成する。
3位「パレードへようこそ」
サッチャー時代のイギリスで炭鉱労働者のストライキにゲイ解放運動の若者たちが応援に駆けつける。実話の映画化なのにウェルメイド・プレイのような結末に感動した。
4位「おみおくりの作法」
身寄りのない遺体を誠実に丁寧に処理する役所の官吏が決まりきった動作で判で押したような毎日を送るおかしさ。ビターエンドが英国映画らしい秀作。
5位「裁かれるは善人のみ」(Leviafan、アンドレイ・ズビャギンツェフ、2014年ロシア)
バルト海に面したロシアの小さな町で土地収用をめぐる争いや家族間の確執、妻の不倫などが北海の荒波のごとく押し寄せて引いて行く。ロシアの現在を描いて痛切だ。
6位「草原の実験」(Ispytanie、アレクサンドル・コット、2014年ロシア)
見渡す限り四方が地平線の草原。ぽつんと立つ一軒家。モンゴル系の顔をした父親と少女を取り囲む長閑な日常に、ある日恐るべき兆候が。衝撃のラストに目が点になった。
7位「顔のないヒトラーたち」(Im Labyrinth des Schweigens、ジュリオ・リッチャレッリ 、2014年ドイツ)
1960年前後の西ドイツ。フランクフルトで実際にあったアウシュヴィッツ裁判に至るまでのスリリングなプロセスをサスペンスフルに描いた問題作。手慣れた演出に脱帽。
8位「アクトレス~女たちの舞台~」(Sils Maria、オリヴィエ・アサイヤス、2014年仏=独=スイス)
バックステージものの典型だが、役柄なのか真実の姿なのか見分けのつかない女優たちの火花を散らす競演を堪能した。ジュリエット・ビノシュがみごとだ。
9位「アメリカンスナイパー」
戦争が人間を変質させ破綻させる過程を描いて説得力がある。保守派のイーストウッドが戦争の本質をついて作ったところに大いなる意義がある映画だ。
10位「黄金のアデーレ 名画の帰還」(Woman in Gold、サイモン・カーティス、2015年イギリス)
ナチに資産を奪われたユダヤ人一家の生き残りの女性がクリムトの名画をオーストリア政府から奪還する実話の映画化。ヒッチコック・サスペンスの逸品である。うまい!