シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「決戦は日曜日」(2022年 日本映画)

2022年01月26日 | 映画の感想・批評
二代目議員で政治のことを何も知らない女性候補(宮沢りえ)が父親からの指名(病気により立候補断念)に依って立候補することになり、それを支える政治の世界を知り尽くしている秘書(窪田正孝)との物語である。
 冒頭のエピソードから、実際の政治での話題がパロディ化され失笑。その後も、実際にあった事件を基にしたエピソードが登場する。そんな事件もあったなあと思い返しながら観てしまう。改めて、色々あるなという印象。それでも、政治は動く。世の中は動く。政治の貢献度はどれくらいのものなのだろうかと改めて感じる。
 だた、それではドラマは生まれないので、二代目議員と秘書が本音をぶちまけて、今回の選挙で、世の中を変えてやろうとするが、力及ばず。ただ、次の展開に期待を持たせる終わり方。私的には、久し振りのオリジナル脚本で、脚本術に沿ったように、よく考えて練られて好印象。秘書の面々や後援会の面々は典型的なタイプなので分かり易い。安心して観られる。ただ、秘書(窪田正孝)が小さな娘の寝顔を見て、このままではいけないと思って、一念発起するシーンは少し弱い印象が残った。困った時の口癖には毎回笑った。
 選挙当日は日曜日で、「決戦は日曜日」というタイトルだと思うが、その日曜日への盛り上がりは無い。劇中でも無い。結論がある程度見えていたのと、今の政治への期待感だろうか。実際のところは、日曜日に向けて、高揚感があるような選挙があれば良いのだろうか。
 全体的に、多くの問題提起があり、深い問題を秘めている部分に突き進むも、スケジュール(?)や予算の関係(?)なのか、サラッとコンパクトに纏められた印象。監督の本音としてはもう少し描きたかったかと思うが、エンターテイメントに徹したのと、「今回はこれまで」と決めていたのではないかと。本心はもどかしさもあるのでは。勝手な話ですが、所謂、大作であれば、色々描けたのでは・・・。次回作に期待。
 公開2日目に観たが、宮沢りえと窪田正孝のダブル出演と謳われていたが、座席はガラガラ。ちょっとショック。他の大作公開が近い作品(スパイダーマン、サンダーバード、コンフィデンスマン、次週のイーストウッドやレディー・ガガ等)の影響もあったかも。次週には1日の上映回数も減っていた。残念。
(kenya)

監督・脚本:坂下雄一郎
撮影:月永雄太
出演:窪田正孝、宮沢りえ、赤楚衛二、内田慈、小市慢太郎、音尾琢真

2021年ベストテン発表

2022年01月19日 | BEST


 新年が明け、読者のみなさまには初春のお慶びを申し上げます。
 一昨年以来の新型感染症の災厄はいっこうに衰えの様子を見せず、期待されたワクチン開発による抑制も一時的なものに過ぎなかったようで、変異の速度についていけないわれわれはオミクロン株とやらの猛威の前に為す術もなく切歯扼腕。しかし、様々な危機と脅威を克服してきたのが人間の歴史であると信じたい。
 毎年同じ台詞の繰り返しになりますが、今年こそよい年でありますようにとの切なる声が天に届くことを願って、執筆者のベスト(最大10本まで選考)を発表します。(健)

◇久
【日本映画】
1位「由宇子の天秤」(春本雄二郎)
2位「護られなかった者たちへ」(瀬々敬久)
3位「騙し絵の牙」(吉田大八)
4位「先生、私の隣に座っていただけませんか?」(堀江貴大)
5位「痛くない死に方」(高橋伴明)
6位「パンケーキを毒味する」(内山雄人)
【外国映画】
1位「私は確信する」(アントワーヌ・ランボー、Une intime conviction、フランスほか、2018年)
2位「モーリタニアン 黒塗りの記録」(ケヴィン・マクドナルド、The Mauritanian、英・米、2021年)
3位「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」(フランソワ・ジラール、The Song of Names、加・英・独ほか、2019年)
4位「グレタ ひとりぼっちの挑戦」(ネイサン・グロスマン、I Am Greta、スウェーデンほか、2020年)
5位「悪なき殺人」(ドミニク・モル、Seules les bêtes、仏・独、2019年)
6位「ファーザー」(フロリアン•ぜレール、The Father、 英・仏、2020年)
7位「1秒先の彼女」(チェン・ユーシュン、消失的情人節、台湾、2020年)
8位「茲山魚譜 チャサンオボ」(イ・ジュニク、자산 어보、韓国、2021年)
9位「名もなき歌」(メリーナ・レオン、Canción sin nombre、 ペルーほか、2019年)
10位「ブータン 山の教室」(パオ・チョニン・ドルジ、Lunana: A Yak in the Classroom、ブータンほか、2019年)


◆HIRO
【日本映画】
1位「すばらしき世界」(西川美和)
2位「ヤクザと家族 The family」(藤井道人)
3位「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介)
4位「心の傷を癒すということ 劇場版」(安達もじり・松岡一史 ・中泉慧 )
5位「梅切らぬバカ」(和島香太郎)
6位「劇場版 きのう何食べた?」(中江和仁)
7位「護られなかった者たちへ」
8位「竜とそばかすの姫」(細田守)
9位「痛くない死に方」
10位「孤狼の血 LEVEL2」(白石和彌)
【外国映画】
1位「ファーザー」
2位「ノマドランド」(クロエ・ジャオ、Nomadland、アメリカ、2020年)
3位「MINAMATA―ミナマタ―」(アンドリュー・レヴィタス、Minamata、英・米ほか、2020年)
4位「逃げた女」(ホン・サンス、도망친 여자、韓国、2020年)
5位「ライトハウス」(ロバート・エガース、The Lighthouse、アメリカほか、2019年)
6位「ブータン 山の教室」
7位「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(キャリー・ジョージ・フクナガ、No Time to Die、英・米ほか、2021年)
8位「この世界に残されて」(バルナバーシュ・トート、Akik maradtak、ハンガリー、2019年)
9位「マトリックス レザレクションズ」(ラナ・ウォシャウスキー、The Matrix Resurrections、アメリカ、2021年)
10位「グレタ ひとりぼっちの挑戦」


◆kenya
【日本映画】
1位「先生、私の隣に座っていただけませんか?」
2位「すばらしき世界」
3位「ヤクザと家族 The Family」
4位「そして、バトンは渡された」(前田哲)
5位「茜色に焼かれる」(石井裕也)
6位「孤狼の血 LEVEL2」
【外国映画】
1位「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」
2位「ノマドランド」
3位「クーリエ:最高機密の運び屋」(ドミニク・クック、The Courier、英・米、2021年)
4位「モーリタニアン 黒塗りの記録」
5位「オールド」(M・ナイト・シャマラン、Old、アメリカ、2021年)
6位「テーラー 人生の仕立て屋」(ソニア・リザ・ケンターマン、Raftis、希・独・白、2020年)
7位「アウシュヴィッツ・レポート」(ペテル・べブヤク、The Auschwitz Report、スロヴァキアほか、2020年)


◇アロママ
【日本映画】
1位「空白」(吉田恵輔)
2位「映画 太陽の子」(黒崎博)
3位「花束みたいな恋をした」(土井裕泰)
4位「劇場版 きのう何食べた?」
5位「るろうに剣心 最終章 The Beginning」(大友啓史)
6位「キネマの神様」(山田洋次)
7位「街の上で」(今泉力哉)
8位「騙し絵の牙」
9位「すばらしき世界」
10位「護られなかった者たちへ」
【外国映画】
1位「モロッコ、彼女たちの朝」(マリヤム・トゥザニ、Adam、モロッコほか、2019年)
2位「ファーザー」
3位「ドント・ルック・アップ」(アダム・マッケイ、Don't Look Up、アメリカ、2021年)
4位「ステージ・マザー」(トム・フィッツジェラルド、Stage Mother、カナダ、2020年)
5位「ブラックバード 家族が家族であるうちに」(ロジャー・ミッシェル、Blackbird、米・英、2019年)
6位「ディア・エヴァン・ハンセン」(スティーヴン・チョボスキー、Dear Evan Hansen、アメリカ、2021年)
7位「レンブラントは誰の手に」(ウケ・ホーヘンダイク、Mijn Rembrandt、オランダ、2019年)
8位「シカゴ7裁判」(アーロン・ソーキン、The Trial of the Chicago 7、米・英、2020年)


◇春雷
【日本映画】
1位「街の上で」
2位「ヤクザと家族 The Family」
3位「あのこは貴族」(岨手由貴子)
4位「空白」
5位「偶然と想像」(濱口竜介)
6位「草の響き」(斎藤久志)
7位「痛くない死に方」
8位「ひとくず」(上西雄大)
9位「砕け散るところを見せてあげる」(SABU)
10位「花束みたいな恋をした」
【外国映画】
1位「少年の君」(デレク・ツァン、少年的你、中国・香港、2019年)
2位「クーリエ:最高機密の運び屋」
3位「MINAMATA―ミナマタ―」
4位「ファーザー」
5位「ミナリ」(リー・アイザック・チョン、Minari、アメリカ、2020年)
6位「羊飼いと風船」(ペマ・ツェテン、気球、中国、2019年)
7位「返校 言葉が消えた日」(ジョン・スー、返校、台湾、2019年)
8位「PITY ある不幸な男」(バビス・マクリディス、Oiktos、ギリシャ・ポーランド、2018年)


◆健
【日本映画】
1位「孤狼の血 LEVEL2」
2位「偶然と想像」
3位「ヤクザと家族 The Family」
4位「空白」
5位「護られなかった者たちへ」
6位「すばらしき世界」
7位「キネマの神様」
8位「草の響き」
9位「あのこは貴族」
10位「街の上で」
【外国映画】
1位「ノマドランド」
2位「ドント・ルック・アップ」
3位「逃げた女」
4位「ファーザー」
5位「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(ジェーン・カンピオン、The Power of the Dog、イギリスほか、2021年)
6位「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」(トッド・ヘインズ、Dark Waters、アメリカ、2019年)
7位「The Hand of God」(パオロ・ソレンティーノ、È stata la mano di Dio、伊・米、2021年)
8位「悪なき殺人」
9位「クーリエ:最高機密の運び屋」
10位「アンモナイトの目覚め」(フランシス・リー、Ammonite、英・豪・米、2020年)

編集注記:原則として2021年1~12月に京阪神で劇場公開された作品を対象とした。日本映画作品名のあとの括弧書きには監督、外国映画作品名のあとには監督、原題、製作年・製作国を入れた。日本公開題名・人名表記はキネマ旬報映画データベース、外国映画の原題・製作年・製作国はInternet Movie Databaseを参考とした。(健)

「偶然と想像」(2021年 日本映画)

2022年01月12日 | 映画の感想・批評
 冬の京都は底冷えという表現がぴったりで芯から冷える。にも拘らず京都出町座は満席だった。この作品が第71回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞したこと、三つの物語からなる短編集であることなど話題性があった。
 偶然をテーマにした物語は一つの作品の上映時間が約40分程。ちょうどドラマを1本見る長さである。第一話は「魔法(よりもっと不確か)」。タクシーの中で仲の良いつぐみ(玄理)から最近出会った男性の話を聞かされたモデルの芽衣子(古川琴音)は、その男性が自分の元彼カズ(中島歩)であると気づきある行動を起こす。第二話は「扉は開けたままで」。作家で大学教授の瀬川(渋川清彦)に単位取得を認められず就職内定が取消しになったゼミ生の佐々木(甲斐翔真)が、同級生の奈緒(森郁月)を利用して瀬川とのスキャンダルを起こさせようとする。奈緒は瀬川を誘惑するが…。第三話は「もう一度」。高校の同窓会に参加するため地元へ戻って来た夏子(占部房子)は、駅のエスカレーターで偶然学生時代に交際していた女性とすれ違う。二人は20年ぶりの再会に興奮し、あや(河井青葉)の自宅へ向かい思い出話で盛りあがる。
 日常生活の中で起こる単なる偶然を必然にかえて私達は物語を紡いでいる。偶然の出来事に意味を持たせることで人生のストーリーを作りあげていく。しかし第二話では偶然は想像の域をこえて思わぬ方向にいく。奈緒が瀬川との録音データを送信する時に佐川急便の配達があり、夫や子どものはやしたてる声に煽られ瀬川を佐川と打ち間違えてしまう。誘惑に動じない瀬川の強い意志により奈緒が自分の人生を見つめ直すかに見えたが、そういう展開にはならなかった。
 第一話では芽衣子が二人の前から立ち去るという肩すかしにあい、第二話では思わぬ展開に唖然とし、第三話では赤の他人という元々成立していない関係から物語が立ちあがる様子に、不思議な感動を覚える。この作品はフィクションである映画を観るという体験に想像の域をこえた新たな視点を与えてくれる。
 冒頭から映像が鮮明で画面が引き締っている。シューマンの「子どもの情景」が軽快に流れる。俳優達が各々に役にはまっていて魅力的だ。なかでも渋川清彦が秀逸。研究室で奈緒が彼の小説を朗読しながら意図的にドアを閉める。そのドアをそっと開けにいく姿に何ともいえない可笑しみがある。まさに緊張と緩和を彷彿とさせる場面だ。他にも思わず笑いがこみあげる箇所があり、作品にはコメディ要素がちりばめられている。
 映画を観終わってフロアに出た時、そこに佇む一人の人物の姿に足が止まる。私の記憶のなかに住む人物だが誰だかわからない。振りきって帰ろうとしたが後ろ髪がひかれるとはこのことだ。名前もそもそも関係性すらわからない。思いきって近づき「あの…」と恐る恐る声をかけた。場外で「偶然と想像」の第四話が始まろうとしていた。(春雷)

監督・脚本:濱口竜介
撮影:飯岡幸子
出演:古川琴音、中島歩、玄理、渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、占部房子、河井青葉

「劇場版 きのう何食べた?」(2021年 日本)

2022年01月05日 | 映画の感想・批評


成人コミック誌「モーニング」に現在も連載中という人気コミックが2019年にドラマ化され、大好評となり、2020年には正月スペシャル版も放映された。視聴者の要望も高く、満を持して映画化されたのが本作品。最近は全くコミックを読まなくなったので、ドラマが話題になっていた頃からこの世界観を知ったので、劇場版もとても楽しみにしていた。
とかく、劇場版となると余計なシーンが盛り込まれて、その世界感が崩されてしまう事も多々ある。男性同士のカップル、恋愛観を描いたのでは先に話題になった「おっさんずラブ」、あちらのドタバタ感も確かに面白かったが、本作は本当に心地よい時間と空間、そして味覚までもがくすぐられる、五感を大いに刺激してくれた。
いわく、お腹がすく映画!
内野聖陽の乙女感が素晴らしい。直前までの朝ドラマ「おかえりモネ」の好感度満載の父親像も楽しかったが、いったいどれだけの引き出しをこの人は持っているのだろうと、変幻自在な役への憑依ぶりに圧倒される。ただただ、可愛い!今の時代、とかく女性らしさとか男性らしさという言葉は口にしにくくもあるが、本当に見習いたくなるくらい。

中年男性カップル、弁護士の史朗、通称シロさん(西島秀俊)と美容師のケンジ(内野聖陽)。シロさんがケンジの誕生日祝いのために企画してくれた京都旅行。東京を離れて堂々と一緒に歩ける、ケンジはそれだけでも嬉しくて仕方がない。でも、楽しい旅行のはずが「シロさん、優しすぎる、何か隠してる!病気なの?死んじゃうの?」とあらぬ妄想にとらわれてしまう。
お互いを思いやるあまり、本音を言い出しにくくなることはよくあること。

「息子がゲイのカップルであることを両親が、特に母親がどう思っているのか」
受け入れようとしても受け入れがたい事実として、史朗の家族が苦悩してきたことがドラマ版でも描かれてきて、いったんは受け入れたと思っていたら・・・・・
悩んだ末に出した結論、梶芽衣子が演ずる母親の言葉が深い。「あなたの家族を大事にしてね」

老親のこと、自らの老いのこと、ここに描かれるテーマは何処にでもあるごくごく普通の事。
それがたまたまゲイのカップルであるというだけで、特別なことは何もない。
誰かのために美味しいものを作ってあげる、喜んでくれる姿を思い起こしながら作られる食事のすばらしさ。一緒に「これ、おいしい!」と感動しながら食事ができること、それが一番の幸せであることがしみじみと画面から伝わってくる。

ドラマ版ではほとんど描かれなかったかと思うが、シロさんの弁護士業の様子が少し触れられていた。ホームレスの男性が犯したという殺人事件の裁判員裁判。「この役者さん、誰だったっけ!」そこに気を取られてるうちに、何となくあやふやな結論で終わってしまったようで、本作品で唯一残念だったところ。

心が疲れているとき、ぜひ見てみてください。
隣にいる人を大事にしよう、一緒に美味しいもの作って食べようと思えます。
ほのぼのとした、温かい気持ちになれます。
そして、やっぱり京都に行きたくなる!私には懐かしい南禅寺、水路閣!
コロナ禍よ、早く静まってほしい!安心して過ごせる年になりますように、祈ります。
(アロママ)

監督:中江和仁
脚本:安達奈緒子
原作:よしながふみ
撮影:柴崎幸三
出演:西島秀俊、内野聖陽、梶芽衣子、田山涼成