シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

愛、アムール(2012年/フランス・ドイツ・オーストリア)

2013年03月22日 | 映画の感想・批評
 前作「白いリボン」に続いて2作品連続でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したミヒャエル・ハネケ監督の「愛、アムール」が、先月発表された米アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した。アカデミー賞発表後の公開ということもあり、京都シネマにも多くの観客が足を運んでいた。
 パリの高級アパルトマンで暮らす音楽家の老夫婦、ジョルジュとアンヌ。穏やかで満ち足りた二人の生活は、妻アンヌの発病で大きく変わる。妻は病院での治療、老人ホームやホスピスへの入所を拒み、夫は妻の願いを聞き入れ自宅で献身的に介護する。
 誰もが避けて通れない「老い」と「死」という重いテーマを扱っている。映画を観ながら身近な肉親に思いを馳せた人もいるだろう。あるいは自分自身のこれからを想像した人もいただろう。だんだんと衰えていく肉体・体力とどのように尊厳をもって付き合っていくのか、「老い」や「死」をどう受け入れるのか、精神・気力を問われているようだった。
 一定の年令以上の人なら「ルルル…、ダヴァダヴァダ、ダヴァダヴァダ…」というテーマ音楽が懐かしい「男と女」のジャン=ルイ・トランティニャンがジョルジュ役を、「二十四時間の情事」のエマニュエル・リヴァがアンヌを演じている。2人とも80歳を越えているが、歳を重ねてもなお魅力的なのはさすがである。(久)

原題:Amour
監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
撮影:ダウリス・コンジ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ

「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012年アメリカ映画)

2013年03月11日 | 映画の感想・批評
 2時間40分に及ぶ長尺の力作である。しかし、その長丁場を感じさせないほど、この映画は緊迫感に満ちており、しかも力強い。女性とは思えないキャスリン・ビグロー監督の力わざにはいつもながら感心する。
 米国人には、いまわしい記憶としてアメリカ同時多発テロ事件(9.11テロ)がある。CIAは首謀者であるビン・ラディンの行方を血眼で捜す。担当官の女性は中東へ飛び、現地のCIA関連施設にとらわれたアルカイダの情報運び人の尋問に立ち会うが、いきなり苛酷な拷問を目の当たりにしてひるむ。しかし、そのうち、彼女自身が拷問を指示し、テロリストには人権などないとばかりに、ビン・ラディンにつながる幹部の居所を吐くよう迫るのである。度重なるテロが起きて同僚を犠牲にされ、彼女の公憤はやがて私憤へと変質して行く。ここが恐い。ビン・ラディンの隠れ家と推定される場所を特定したとき、彼女の心の中に明白な殺意があらわれ、実行部隊に必殺を指示するところは、もはや国家対テロリストの対立軸を逸脱して、個人的な怨恨が戦争を遂行するうえできわめて重要な要素であることを暴いて見せる。すなわち、国家はそうした個人的感情を利用して愛国心を煽り、国民を戦争に駆り立てるのである。
 深夜の0時30分(原題)に実行部隊が隠れ家を急襲し、ビン・ラディンと思しき人物を殺害する。彼女が死体を検分し、かれに間違いないと確認したあと、こみ上げる嗚咽を抑えきれずただ泣きくれるのだが、その姿をラストにもってきた監督の演出意図は重くて深い。彼女の涙は果たして達成感からか、それとも、底知れない喪失感からなのか。われわれに、その選択を突きつけるのである。(ken)

原題:Zero Dark Thirty
監督:キャスリン・ビグロー
脚本:マーク・ボール
撮影:グレイグ・フレイザー
出演:ジェシカ・チャスティン、ジェイソン・クラーク、ジョエル・エドガートン、ジェニファ・イーリー、マーク・ストロング

「東京家族」(2013年 日本映画)

2013年03月07日 | 映画の感想・批評


 時代とともにうつりゆく日本の家族の姿を見つめ続けてきた山田洋次監督の50周年記作となる本作は、昨年「世界の映画監督が選んだ最も優れた映画」のNO1に選ばれた「東京物語」をモチーフにしながら、今を生きる家族を描いた力作だ。
 瀬戸内海の小島で暮らす老夫婦が子どもたちに会いに東京へやってきた。開業医の長男、美容院を営む長女、舞台美術の仕事をしている次男、久しぶりに集まった家族はお互いに思いやり、夫婦は子どもたちの家で順に世話になるが、生活リズムの違いからか、徐々に溝ができてしまう。大切なのに煩わしい、近くて遠い家族の有様は,自分の場合と同調できて、何ともおかしくて切ない。
 鑑賞後、どうしても確かめたくなって、「東京物語」のDVDを借りて見た。さすが、「世界一の名作」だけあって,何度見ても飽きることはない。配役も言わずと知れた笠智衆、東山千榮子、原節子に加え、山村總、杉村春子、三宅邦子、大坂志郎に香川京子と超豪華。「小津調」と形容される独自の技法で戦後間もない時代の親子関係を淡々と描いたこの不朽の名作を、山田監督も大いに意識したことであろう。しかし、見終わった後、同じ台詞や場面がいっぱいあったのに違った印象を受けるのはなぜだろう。それはやはり妻夫木聡演じる次男とその恋人蒼井優の存在が大きい。地震後の福島の被災地で出会ったというこの二人が実に自然で爽やかで、「明るい未来」を感じさせてくれるのだ。
 「家族を思いやること」を尊び、「希望の光」を失わない、山田監督らしい作品がまた一つ誕生した。 
(HIRO)


監督:山田洋次
脚本:山田洋次・平松恵美子
撮影:近藤眞史
出演:橋爪功・吉行和子・西村雅彦・夏川結衣・中嶋朋子・林家正蔵・妻夫木聡・蒼井優