シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「007 スペクター」 (2015年 イギリス映画)

2015年12月21日 | 映画の感想・批評


 1962年の「ドクター・ノオ」から始まって今年で何と53年。007といえばセクシーでスタイリッシュな大人のスパイアクション映画として、長年映画ファンを楽しませてくれているが、24作目となる今作も期待を裏切らない最高の出来上がり。これほどまでに長く現在も続いているシリーズ映画は他になく、主人公ジェームズ・ボンドを演じているのはショーン・コネリーから始まって、ダニエル・クレイグで6人目。この6代目ボンドが単なる諜報部員ではなく、自らのアイデンティティの問題に踏み込み苦悩する人間味も持ち合わせていて何とも興味深い。
 監督は前作「007スカイフォール」に続き、サム・メンデスが当たっている。さすが「アメリカン・ビューティ」でアカデミー賞監督賞を受賞しただけあって、007映画の質をここまで高めたという功績は大きい。そして今作では“スカイフォール”につながる少年時代の生家で焼け残った写真の謎を明らかにしたり、古き良き007シリーズにおいて数々の悪役を生み出してきた犯罪組織「スペクター」を復活させたり、名作へのオマージュをいっぱいちりばめて、往年のファンへのサービスも怠らない。
 お楽しみのボンド・ガールはイタリアの熟女モニカ・ベルッチに、フランスの新星レア・セドゥが加わって大満足。もちろんボンドは二人ともしっかりものにしてしまうのだが、超かっこいいダニエル・クレイグが相手なんだから当然かと納得。その上愛車はアストンマーティン、時計はオメガ、トム・フォードがデザインした衣装を颯爽と着こなしてメキシコ、イタリア、オーストリア、モロッコ、そしてイギリスと世界中を駆けめぐって活躍するボンド。これってすべて世の男性諸君の憧れの象徴に他ならないのでは・・・。
 悪役はやはり強い印象がなくては話が盛り上がらないが、スペクターのトップ、オーベルハウザーを演じるクリストフ・ヴァルツは迫力十分。最後の対決シーンではボンドの苦悩も最高潮に…。ダニエルはもう今作で最後にしたいらしいが、25作目もぜひ“My name is Bond,James Bond"と名乗ってほしい。まだまだ若いんだから!!
(HIRO)

原題:「SPECTRE」
監督:サム・メンデス
脚本:ジョン・ローガン、ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、ジェス・バターワース
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
出演:ダニエル・クレイグ、クリストフ・ヴァルツ、レア・セドゥ、モニカ・ベルッチ、レイフ・ファインズ

「黄金のアデーレ 名画の帰還」(2015年イギリス映画)

2015年12月11日 | 映画の感想・批評
 クリムトの名画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」に関わる感動の実話というふれ込みに惑わされてはいけない。これはサスペンスの秀作である。
 冒頭、ユダヤの徴(しるし)が刻印された棺が墓穴に下ろされ、老女(マリア)が姉の死を悼んで最後の別れを告げる。うまい出だしだ。この姉妹の伯母アデーレがクリムトの名画のモデルであり、もう何十年もむかし、オーストリーのウィーンで一族が暮らしていたアパートメントの一室にその絵が鎮座していたのである。
 ところが、ヒットラーが政権を取ってオーストリーを併合すると、すでに独身の伯母は亡くなっていて、危険を察知した伯父すなわち姉妹の父の長兄は国外に脱出する。ウィーンに残った姉妹の一家もやがてナチの魔の手によって目ぼしい財産を奪われ、クリムトの絵も没収されるのだ。もはやユダヤ系住民は移動を禁じられ、国外どころか外出さえままならない状況となっていた。既に結婚していたマリアは両親を残して夫とふたりで決死のウィーン脱出を図るのである。ここのところは、まさしくヒッチコック・サスペンスそのものであり、ナチの官憲に追われながら危機一髪の間隙を縫って飛行機で脱出する場面はなかなか手馴れた演出である。
 そういう事情があって、今は夫と姉に先立たれたマリアがウィーンの美術館に収蔵された絵の返還を求めてオーストリー政府を相手に闘いを挑むのである。
 ことにマリアが野心まんまんの若手弁護士からウィーンに乗り込もうと促されて、命からがら逃げてきた悪夢の街に二度と足を踏み入れるものかと頑なに拒絶するところは痛々しい。結局、彼女は二度もウィーンに足を運ぶハメになるのだが、最後の評決を待つ間、弁護士らとたたずむ公園の背後には巨大観覧車が見える。ご存知!連合軍占領下のウィーンに不敵な笑みを浮かべたオーソン・ウェルズが颯爽と現れて乗り込むあの観覧車だ。キャロル・リード監督へのオマージュか。
 カーティス監督がサスペンスとしてこの映画を撮ったと思しき証拠をいくつか挙げたが、そのトドメはクレジットタイトルの背後に流れる音楽だった。「感動の実話」というより紛れもなく正真正銘のスリラー・サスペンスの旋律である。  (健)

原題:Woman in Gold
監督:サイモン・カーティス
原案:E・ランドル・シェーンベルク、マリア・アルトマン
脚本:アレクシ・ケイ・キャンベル
撮影:ロス・エメリー
出演:ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール

「PAN ネバーランド、夢のはじまり」 (2015年 アメリカ映画)

2015年12月01日 | 映画の感想・批評


 かつて舞台や映画に何度も登場し、世界中に多くのファンを持つピーターパン。何と戯曲として初めて発表されて今年で111年だという。そのピーターの物語に新たな視点で誕生秘話が加わった。監督は「プライドと偏見」で鮮烈なデビューを飾ったジョー・ライト。その後も「つぐない」「アンナ・カレーニナ」等、文芸映画の名手として高い評価を得てきたが、今回取り組んだのはファンタジー。誰もが知る“空飛ぶ永遠の少年”の前日譚ともいえる物語を、新鮮でオリジナリティあふれる内容にし、ジョー・ライトらしく美しさと気品にあふれた作品に仕上げた。
 主人公のピーターを演じるのはオーディションで抜擢されたオーストラリア出身のリーヴァイ・ミラー。その透き通るような美しい少年が、飛ぶ力をだんだん発揮してくる所にまず注目。次は頑張れ!!と応援しながら思わず手に力が入る。夢の国ネバーランドを支配する悪役・黒ひげを演じるのは、同じくオーストラリア出身、X-MENシリーズの“ヴァルヴァリン”で知られるヒュー・ジャックマン。その登場シーンはまるでロック・ミュージカルを見ているようで、悪役ながらさすが大スターらしき扱いで様になっている。さらにピーターの不思議な力を目のあたりにし、自由を求めてネバーランドからの脱出を図るのが、のちのピーターの宿敵ともなるフック(船長)だというのも面白い。他にもティンカーベルやニブスなどおなじみのメンバーも出てくるし、原作ファンには嬉しいエピソードがいっぱい詰められている。
 そして最もわくわくさせてくれるのが、空飛ぶ海賊船の登場シーンだ。雲の間から明るい光を浴びてやってくる18世紀の帆船の優雅な姿。そんな船が宇宙に飛び立つ時の高揚感といったら…。このシーンだけでもぜひもう一度3D上映で見てみたいものだ。
(HIRO)


原題:PAN
監督:ジョー・ライト
脚本:ジェイソン・フュークス
撮影:シーマス・マッガーベイ、ジョン・マシソン
出演:リーヴァイ・ミラー、ヒュー・ジャックマン、ギャレット・ヘドランド、ルーニー・マーラ