まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

遺す人 dona nobis pacem

2018-07-19 00:15:47 | 日記
仕事放り投げて六本木へ
サントリーホール、あの日以来かも

東京のハイソサエティに属する男性が
100人で構成する合唱団の歌って
興味ない?という誘い方もどうかと思うが
あるある、行くいく、って二つ返事なわたしもどうなんだろうか

オープニングでつらつらと喋るのは
団長の三枝成彰先生
拝見するのは二回目、ほぼ四十年ぶり
当時は全身黒ずくめでサングラスまでして髪が長くて痩せてて
「蚊」みたいな人だと思ったわたし、子供だったので許してほしい
場所は渋谷のN H Kスタジオ
金魚鉢から「今の『う』が気に入りません、もう一度」って
山田先生のちょっと怒った声が蘇る
収録したのは三枝先生がアレンジした「夏は来ぬ」
「卯の花の匂う垣根に」の「卯」ね

今回の演目、「最後の手紙」
第二次世界大戦で戦場に散った人たちの遺した手記を
三枝先生が初めて読んだのは在学中だったとか
以降ずっと、これを歌にしなきゃと思い続け50年かかったと
いうことはあの「蚊」みたいなときにはすでに
そう思っていらしたんだろう

団員は潤沢な資金を使い、この歌を引っさげて
世界中の名だたるホールで披露し、ほとんどの場所では
観客が目を赤くしながら熱心に聴いてくれたそうだが
「カーネギーで演った時、あまりに辛いからと
観客がポツポツ帰っていくのが残念だった。
アメリカは本土で戦争を経験していないから
いいとか悪いとかじゃなく、
この歌を受け入れることが出来ないのかもしれない。」
という三枝先生のコメントが印象的だった

わたしにとって戦争は間接的なものでしかない
それはとても幸せなことなんだろうとは思う
ムスメにとってはもっと遠い出来事
ただ、彼女が7歳の時パールハーバーに立ち寄った際に
「自分の国の人が過去にやったこと」を写真で見て
何の予備知識もないままざっくり傷ついたので
帰国してから二人で歴史を勉強して
「だから喧嘩しちゃいけないんだよね」と話し合った

演目は13通の手紙に曲をつけたものと
その手紙を書いた人の背景のナレーションで進んでいく
オケのマエストロは大友直人さん
いつ拝見してもカッコいい

誤解を恐れず言うと
説明してもらってるとはいえ
知らない人が理不尽な最期を迎えるにあたり
感情ほとばしるままに近しい人たちへ宛てて
書いている私信を突き出されて
「ほらどう感じる?」って言われても
同情するし涙も出てしまうけど
そもそもわたしにそんなことする権利あるのかと
思ってしまう
そうする権利があるのはあの会場で唯一
手紙を書いた人のご子息であり
その斜め後ろに座ってた
ド派手なショッキングピンクのシャツを着た
元トレンディ俳優や
その他テレビでよく見る人たちや
わたしではないだろう

曲の最後を締めくくるのは
世界の言葉で紡ぐ平和への祈り
Dona nobis pacem
無宗教なわたしがなぜか心安らぐこの詞
はるか昔からたくさんの人が
あらゆるメロディをこれに添えている

三枝先生が添えた旋律は
ふわっと柔らかく優しくしなやかだった