猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

ジャッリカットゥ 牛の怒り

2023-05-27 20:21:55 | 日記
2019年のインド映画「ジャッリカットゥ 牛の怒り」。

南インド、ケーララ州のジャングルにある村。ヴァルキ(チェンバン・
ヴィノード・ジョーズ)という男の肉屋で働いている冴えない男アントニ
(アントニ・ヴァルギーズ)が1頭の水牛を屠殺しようとすると、命の危機
を察した牛は怒り狂って脱走する。肉屋に群がっていた人々は慌てて追い
すがるが全く手に負えず、暴れ牛は村の商店を破壊し、タピオカ畑を踏み
荒らす。恋心を寄せるソフィ(シャーンティ・バーラクリシュナン)に愛想
を尽かされたアントニは、牛を捕まえてソフィに見直してもらおうと奔走。
村中がパニックに陥る中、密売の罪で村を追放された荒くれ者クッタッチ
ャン(サーブモーン・アブドゥサマド)が呼び戻されるが、アントニとクッ
タッチャンはかつてソフィを巡っていがみ合った仲だった。牛追い騒動は、
いつしか人間同士の醜い争いへと大きくなっていく。

異色のパニック・サスペンス。脱走した水牛が村を暴れ回り、男たちが捕
まえるのに奮闘するというシンプルな物語なのだが、これがなかなかおも
しろかった。最初に「あれっ、インドって牛肉食べないんじゃないの?」
と思ったのだが、インドはとにかく人口が多く、イスラム教徒やキリスト
教徒もたくさん住んでいる。ヒンドゥー教徒は牛肉を食べないがムスリム
やクリスチャンは食べるので、インドでは食用牛がかなり飼育されている
とのこと。納得。物語の中で、神父さん、教会、復活祭、といった言葉が
出てくるので、舞台の村はキリスト教徒の村のようだ。
肉屋で働く冴えない男アントニが水牛を屠殺しようとしたところ、牛が脱
走してしまう。牛は村中を暴れ回り、菜園を踏み荒らし、商店や銀行を破
壊する。村の男衆が捕まえに出てくるが、牛は暴れながら逃げ回ってなか
なか捕まらない。アントニは好きな女性ソフィに愛想を尽かされるが、汚
名返上のため何とか捕まえようとする。そして密売の罪で村を追放されて
いたクッタッチャンという強い男が呼び戻されるが、実はアントニとクッ
タッチャンはかつてソフィを取り合った仲だった。このソフィは魔性の女
と呼ばれていて、13歳の時に学校の教師と寝たと言われている。そうい
う女を取り合うのもどうかと思うが、それはまあいい。
とにかく水牛の迫力がすごい。ほぼCGなしらしいのだが、どうやって撮
影したのだろうと思った。そして村の男たちが追うシーンもすごい。画面
が暗くて(夜になるので)観にくく、明かりは男たちが持っている懐中電灯
やたいまつだけ。その上皆顔も体も泥だらけなので人の区別がつかない。
ただ、1000人くらいの男たちが牛を追っているということらしいのだが、
あの小さな村に1000人も住んでいないと思う。そしてアントニとクッタ
ッチャンのように以前から不仲だったりトラブルを抱えていたりする者た
ちが牛追い騒動に紛れて争いを始める。
次第に当初の目的を忘れて人間同士の醜い争いになっていく様子はおもし
ろい。人は追い詰められた時に本性が出るものだ。やがて死者まで出てし
まい、村は大混乱になる。ラストで人(男)の山ができるシーンは壮観だ。
人の上に人がよじ登っているのだ。逃げた水牛を男たちが追うというシン
プルな物語なのに、何だかすごい映画だった。インドで大ヒットし、色ん
な映画賞も受賞している。インドの名前って難しいなー。あらすじを書く
時大変だった。


ベルとノエル~

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哭悲 THE SADNESS

2023-05-19 22:34:12 | 日記
2021年の台湾映画「哭悲 THE SADNESS」。

台湾で感染拡大していた謎のウイルスが突然変異を起こし、人間の脳に
作用して凶暴性を助長する恐ろしい疫病が発生した。感染者たちは罪悪
感に苦しみながらも暴力衝動に抗えず、街中に殺人と拷問が横行する事
態に。感染者たちの殺意からどうにか逃げ延びた女性・カイティン(レ
ジーナ・レイ)は、数少ない生存者たちと共に病院に立てこもる。カイ
ティンから連絡を受けた同棲中の恋人・ジュンジョー(ベラント・チュ
ウ)は生きて彼女と再会するため、1人で狂気に満ちた街でさまよい始
める。


グロテスクな描写が満載のパニック・ホラー。R18なのも頷ける。謎の
感染症に長い間対処し続けてきた台湾。"アルヴィン"と名付けられたそ
のウイルスは、風邪のような軽微な症状しか伴わず、不自由な生活に不
満を持つ人々の警戒はいつしか解けてしまっていた。ある日、ジュンジ
ョーは、スマホのニュース動画を観ていた。そこではウォン博士(ラン
・ウエイホア)がアルヴィンウイルスの危険性を力説していた。司会者
は感染症の危険性を煽っているだけではないかと言うが、ウォン博士は
「アルヴィンウイルスは突然変異を繰り返しており、狂犬病に近い性質
を持っている」と主張する。
ジュンジョーにとっては大して興味のないニュースだったが、彼はベラ
ンダに出た時隣のビルの屋上に白い服の老婆が立つ姿を目撃する。不審
に思った彼が声をかけると、老婆の服は大量の血で汚れていた。驚いた
ジュンジョーだったが、カイティンが声をかけた時老婆の姿は消えてい
た。ジュンジョーは出勤するカイティンをミニバイクで地下鉄の駅まで
送るが、途中で2人はパトカーを目撃する。警官が血まみれの人物を取
り押さえ、ストレッチャーに横たわる人物にかけられた白布には大量の
血が付着していた。
凄惨な光景を見て驚く2人だったが、カイティンは仕事に向かう。その
後なじみのファストフード店に立ち寄ったジュンジョーは、そこへ先程
見た白い服の老婆が入ってきたのに気づく。老婆の目は黒くなっており
(白目がない)、老婆は店員を襲って殺害する。客たちも他の客を殺し、
何が起きているのかわからないままジュンジョーはミニバイクで逃げだ
すが、至る所で人が人を襲う惨劇を目撃する。自宅に帰ったジュンジョ
ーがテレビをつけると通常の放送は停止され、緊急事態を告げる文字が
画面に映し出されていた。
その頃地下鉄に乗っていたカイティンは座って本を読んでいたが、隣に
座った会社員風の男(ジョニー・ワン)にしつこく話しかけられ、馴れ馴
れしく「君は美人だ」などと言われ、「セクハラはやめて」と言う。そ
の言葉に男は怒り出す。カイティンは乗り込んできたマスクをした女性
リーシン(アップル・チェン)に席を譲るが、男は突然、リーシンの目を
傘の先で突き刺す。カイティンはリーシンと一緒に逃げるが、男はどこ
までも追ってくる。同時にあちこちで殺戮が起きていた。テレビの生放
送では総統までもが殺害される。
リーシンと共に台北大学病院へ逃げ込んだカイティンは、スマホでジュ
ンジョーに大学病院にいることを知らせ、ジュンジョーは必ず助けに行
くからそこを動くなと言った。病院の中は襲われて負傷した人であふれ
ており、リーシンは満足な手当てを受けられないでいたが、カイティン
はリーシンを励ます。物語としてはシンプルで、突然変異のウイルスに
感染した人々が生きている人々を襲い、あちこちで惨劇が起きるという
もので、「新感染 ファイナル・エクスプレス」や「#生きている」と
いった韓国映画に似た感じなのだが、あちらよりはるかにグロテスクで
とにかく流血シーンが多い。
感染者の目が黒くなっているのが気持ち悪かった。セクハラ男のしつこ
さもすごいし、どこまでカイティンとリーシンを追いかけるんだ、とい
う感じ。カイティンは途中でウォン博士に出会うが、彼が味方なのかど
うかもよくわからない。なかなか見応えがあっておもしろかったので、
グロテスクな描写が平気な人はお勧め。リーシン役のアップル・チェン
が顔も体型も渡辺直美そっくりだった。それとカイティンがすごいミニ
スカートのスーツを着ていて、台湾の女性はあんなミニスカートで会社
に行くのだろうか、と思った。




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午前4時にパリの夜は明ける

2023-05-14 19:50:09 | 日記
2022年のフランス映画「午前4時にパリの夜は明ける」を観に行った。

1981年、パリの街はミッテラン大統領の誕生で祝賀ムードに包まれ、
希望と変革の雰囲気に沸いていた。そんな中、エリザベート(シャルロ
ット・ゲンズブール)は夫と離婚し、大学生の娘ジュディット(メーガン
・ノータム)と高校生の息子マチアス(キト・レイヨン=リシュテル)を
1人で養うことに。深夜放送のラジオ番組の受付の仕事に就いたエリザ
ベートは、そこで出会った家出少女のタルラ(ノエ・アビタ)を自宅へ招
き入れる。そしてタルラとの交流を通して、エリザベートや子供たちの
心は徐々に変化していく。

ミカエル・アース監督による1980年代のパリを舞台にした人間ドラマ。
エリザベートは夫が不倫をして家を出ていき、離婚することになった。
1人で2人の子供を育てなければならなくなったが、ずっと専業主婦で
ほとんど働いた経験のない彼女は仕事を見つけても失敗ばかりですぐに
解雇されてしまった。やがて彼女はヴァンダ(エマニュエル・べアール)
という人気DJの深夜ラジオ番組の仕事に就くことになった。それはリ
スナー参加型の番組で、その電話の受付をすることになったのだ。エリ
ザベートはヴァンダに気に入られ、仕事は順調にできるようになる。
エリザベートの大学生の娘・ジュディットは政治に関心があり、デモに
参加したりしており、高校生の息子・マチアスはちょっと反抗的だ。そ
れでも母子は仲が良く、絆は強かった。エリザベートの父親が娘に「養
育費はもらえないのか?」「私が援助するよ」と語りかけるシーンはい
い。年老いた父親に迷惑はかけられないと思いながらも、そう言われて
嬉しいエリザベートは泣く。最初の方はエリザベートが泣くシーンが多
い。彼女は決して強い女ではなく、夫の不倫と離婚に傷つき、困惑して
いる普通の女性なのだ。シャルロット・ゲンズブールのささやくような
声がエリザベートのキャラクターに合っていると思った。
ある日エリザベートはラジオ番組で家出少女のタルラと出会い、外で寝
泊まりしているというタルラを寒空の下に放っておけず、アパートに連
れて帰り、上の階の小部屋に泊まらせる。ジュディットとマチアスはい
きなりやって来たタルラに驚くも、すぐに仲良くなる。やがてマチアス
にとってタルラは気になる存在になる。エリザベートは昼間に図書館の
パートの仕事を見つけ、そこで出会った男性と恋愛関係になる。夫の不
倫と離婚で落ち込んでいたのにすぐに次の相手を見つける辺り、フラン
ス人だなあ、と思う。
タルラは数年エリザベートのアパートで暮らすが、ある日突然姿を消す。
そしてその後また戻ってくる。まるで野良猫のようだ。それでもエリザ
ベートたちはタルラを温かく迎え入れる。しかしタルラの腕に注射の跡
を見つけたエリザベートは、「今度あれを手にしたり使ったりしたら、
叩き出す」と厳しく叱る。「私には普通の人生は無理」と言って泣くタ
ルラにエリザベートは優しく寄り添う。自分の境遇を悲観していたエリ
ザベートだったが、タルラとの出会いや子供たちの成長や、新しい恋人
との出会いや引っ越しなどによってこれまでの自分を見つめなおしてい
く。その過程が繊細に描かれていて感動的だ。1歩ずつ前へと進んでい
くエリザベートの姿がとてもいい。フランス映画らしい映画だった。久
しぶりに見たエマニュエル・べアールが年をとって太っていてびっくり
した。




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検察側の罪人

2023-05-09 21:50:05 | 日記
2018年の日本映画「検察側の罪人」。

東京地方検察庁刑事部に配属された検事の沖野啓一郎(二宮和也)は、
有能で人望もある憧れのエリート検事・最上毅(木村拓哉)と同じ部署
になり、懸命に仕事に取り組んでいた。ある時、最上と沖野は都内で
発生した犯人不明の殺人事件を担当することになった。やがて、過去
に時効を迎えてしまった未解決殺人事件の容疑者だった松倉(酒向芳)
という男の存在が浮上し、最上は松倉を執拗に追い詰めていく。最上
を師と仰ぐ沖野も取り調べに力を入れるが、松倉は否認を続け、手ご
たえがない。沖野は次第に、最上が松倉を犯人に仕立て上げようとし
ているのではないかと、疑問を抱き始める。

雫井脩介氏の小説を原田眞人監督が映画化した社会派ミステリー。新
米検事の沖野は研修時にエリート検事の最上の講義を聞いてとても感
銘を受ける。それから5年、沖野は東京地方検察庁刑事部に配属され、
最上と同じ部署になる。ある日最上と沖野は老夫婦殺害事件の担当と
なった。夫婦は工場を経営している他に、個人で金貸しをしていた。
借用書のリストから数名の容疑者が浮上するが、その中から最上は松
倉という男を最も怪しいとにらむ。しかし松倉は容疑を認めず、なか
なか逮捕することができなかった。
最上は松倉を犯人と決めつけ、捜査を続けた。そして23年前の松倉
が少年の頃に犯した事件の資料を取り寄せる。松倉は少年の頃、自分
の兄と女子高生の2人を殺害した容疑がかかっていたにも関わらず、
逮捕できないままうやむやになっていたのだった。そして今度は老夫
婦殺害の容疑。最上は今度こそ逮捕する、有罪にするという気持ちを
強くした。最上と沖野の取り調べに追い込まれ、松倉はとうとう少年
の頃に兄と女子高生を殺害したことを認める。しかし、老夫婦に関し
ては自供もせず証拠もないままだった。
そんな頃、最上の大学時代の親友で政治家の丹野(平岳大)が自殺した
とニュースで知り、最上はショックを受ける。2人はいつも正義につ
いて話していたので、松倉が人を2人も殺しているにも関わらず、少
年法や時効によって裁かれず、知られることもないことに最上は強い
憤りを感じる。その後証拠が発見され、松倉は老夫婦殺害事件で逮捕
されるが、沖野と事務官の橘沙穂(吉高由里子)は不審なものを感じる。
彼らは松倉は冤罪なのでは?と思い始める。
悲しい物語というか、やり切れない思いになる映画だった。最上と沖
野の行動や考え方を見ていると、正義とは何なのか、そして正義は正
しいのか、ということを考えさせられる。最上が絶対に松倉を有罪に
しようという思いは、もちろん正義から来るものであるが、実は私怨
でもあるのだ。最上が何が何でも松倉を犯人にしようとしているので
はないかという行動に、沖野と橘は執念のようなものを感じ、最上に
対して疑惑を抱く。それはもちろん沖野と橘にとっての正義だ。殺人
事件の被害者遺族にとって苦しみ、憎しみはずっと続くのだというこ
とを改めて感じた(最上は遺族ではないが)。ラストシーンは、沖野は
これからどういう道を進んでいくのだろうかと思った。




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幻滅

2023-05-04 21:57:10 | 日記
2021年のフランス映画「幻滅」を観に行った。

19世紀前半。恐怖政治が終わり、フランスは宮廷貴族が復活し、自由と
享楽的な生活を謳歌していた。文学を愛し、詩人として成功を夢見る田舎
の純朴な青年リュシアン(バンジャマン・ヴォワザン)は、彼を愛する貴族
の人妻・ルイーズ(セシル・ド・フランス)とパリに駆け落ちする。だが、
世間知らずで無作法な彼は、社交界で蔑まれ笑いものにされる。生活のた
めに何とか新聞記者の仕事を手にしたリュシアンだったが、先輩格で世渡
りのうまいエティエンヌ・ルストー(ヴァンサン・ラコスト)に「金のため
なら魂を売らないといけない」と言われる。先輩や同僚たちに感化された
リュシアンは、当初の目的を忘れ欲と虚飾と快楽にまみれた世界へと堕落
していく。

フランスの文豪オノレ・ド・バルザックの「人間喜劇」の1編、「幻滅-
メディア戦記」を映画化。アングレームの薬屋の息子であるリュシアン・
シャルドンは、詩人として成功することを夢見ていた。アングレーム社交
界の女王であるルイーズ・ド・バルジュトンは彼の才能を認め、支援をし
ていた。リュシアンは貴族として振る舞うように、母方の名字「ド・リュ
バンプレ」を名乗っていたが、やはり貴族になり切れる訳ではない。文芸
に関する興味が希薄な田舎の社交界を抜け出し、リュシアンとルイーズは
パリに駆け落ちする。だが結局ルイーズは庶民の出であるリュシアンの貧
しさと未熟さに愛想を尽かす。
リュシアンは彼のことを知っている者には「薬屋の息子のくせに」と見下
される。ただ1人、文壇の期待の新星と呼ばれる作家のナタン(グザヴィエ
・ドラン)だけが彼に共感を示した。金に困ったリュシアンはビストロで
給仕の仕事を見つける。そこで知り合ったジャーナリストのエティエンヌ
にリュシアンは自分を売り込む。芸術を批評する仕事に憧れるリュシアン
にエティエンヌは「俺の仕事は株主を裕福にすること。この世界では人に
恐れられるか、無視されるかだ」と言う。
エティエンヌに気に入られ、出版社の大物、ドリア(ジェラール・ドパル
デュー)が主催する会に連れて行かれるが、そこにはナタンも来ていた。
エティエンヌに仕向けられ、リュシアンはつい、ナタンの新作を読んでも
いないのに酷評し、彼を傷つける。王党派に対する自由派の新聞の編集者
は、広告主へのへつらいと、どぎつい文体で論争を起こし世間の注目を煽
ることしか頭になかった。覚えのいいリュシアンは、早速ある大衆演劇の
批評を頼まれる。その劇に出演していたまだ10代の女優、コラリー(サロ
メ・ドゥワルス)と恋に落ちたリュシアンは、彼女と一緒に暮らすように
なる。当時の女優は売春婦あがりだったり、売春婦を兼ねていたりしてい
たようだ。
自由派の新聞「コルセール・サタン」紙でエティエンヌが編集長を務める
元、リュシアンはでっちあげの記事を書き続ける。その胸には、彼のこと
を見下した貴族たちへの復讐が渦巻いていた。200年も前の物語とは思え
ないほど、違和感がなく、現代に通じるものがある。各新聞社のメディア
戦略やフェイクニュースや読者を惹きつける煽り。こんなに昔からマスメ
ディアの嘘や虚飾は横行していたのだ。リュシアンは詩人としては成功し
なかったが、新聞の批評家としては成功した。でもそれはリュシアンと恋
人のコラリーの人生を堕落させるだけだった。
貴族の衣装や社交界の様子や室内の装飾品などは素晴らしかった。ラスト
近くでナタンがリュシアンに「僕はずっと君のことを友達だと思っていた
よ」と言うシーンは良かった。そして、これからリュシアンはどうなるの
だろう、と思わせられるラストシーンもとても良かった。バルザックは読
んだことがあるが、この「人間喜劇」は未読である。200年後にも通じる
物語を書いたバルザックはやはり天才だったのかな。



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