猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

アモーレス・ぺロス

2019-08-29 22:02:47 | 日記
2000年のメキシコ映画「アモーレス・ぺロス」。

・強盗で金を作り、破滅的な生活を送る兄ラミロ(マルコ・ぺレス)の妻スサナ
(バネッサ・バウチェ)を愛してしまった青年オクタビオ(ガエル・ガルシア・
ベルナル)。兄との生活の不満を打ち明ける義理の姉に贈り物をして喜ばせよ
うと、愛犬を闘犬に仕立て、金を作る。やがて、オクタビオは彼女との駆け落
ちを決意する。
・人気モデルのバレリア(ゴヤ・トレド)は、家庭のある男ダニエル(アルバロ
・ゲレロ)と不倫関係にある。ダニエルは家庭を捨て、彼女の愛犬と共にマン
ションでの生活を始める。
・常に数匹の犬と行動し、ごみ収集をしている初老の男エル・チーボ(エミリ
オ・エチェバリア)。外見は怪しいが、実は彼は名うての殺し屋だった。殺人
の依頼が舞い込み、そのターゲットの周辺を調査し始めるが、その一方、離れ
て暮らす娘を見守る父親でもあり、時に彼女の部屋へ侵入する。

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作品。メキシコ・シティを舞台
とし、同時に進行する3つのストーリーで構成されている。「アモーレス・ぺ
ロス」とは「犬のような愛」という意味で、どの物語にも犬が重要な役割を担
って登場する。そして、一見無関係に見える3つの物語はつながっている。最
初の物語で主人公のオクタビオは愛犬を闘犬にするのだが、このことが2つ目、
3つ目の物語に大きく関わってくる。
よくできた映画だと思った。どの物語でも人間のずるさ、悲哀、破滅といった
ものが描かれ、あまり救いはない。特にバレリアとダニエルの物語では、2人
は大きすぎる不倫の代償を支払うことになり、衝撃的なラストである。この2
人はこの先どうやって生きていくのだろう。ダニエルはバレリアから離れられ
ない運命になってしまった。
私が1蕃おもしろかったのはエル・チーボの物語である。彼が何故あのような
行動をとったのかわからない部分もあるのだが、この物語には多少の救いがあ
った。別れた妻によって、娘は幼い時から父親は死んだと聞かされ、娘の中で
は父親は存在しない。でもエル・チーボは遠くからずっと娘を見守ってきた。
娘を見かけても父親だと名乗れない。それがとても悲しく切ない。ラストシー
ンも良かった。
見応えのある、おもしろい映画だった。


良かったらこちらもどうぞ。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作
品です。
レヴェナント 蘇りし者
21グラム




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永遠に僕のもの

2019-08-24 21:48:30 | 日記
2018年のアルゼンチン・スペイン合作映画「永遠に僕のもの」を観にいった。

1971年、ブエノスアイレス。真面目で善良な父(ルイス・ニェッコ)と優しい
母(セシリア・ロス)は、息子カルリートス(ロレンソ・フェロ)が盗みを繰り
返していることに気づいていたが、まだやり直しができると信じて息子を転
校させる。カルリートスは新しい学校で出会ったラモン(チノ・ダリン)とい
う青年にいきなりケンカを売るが、それは彼の気を引くためだった。彼の野
性的な魅力に、一目で心を射抜かれたのだ。ラモンもまた、カルリートスが
美しい姿で平然と罪を犯す、そのギャップに強く魅せられる。ラモンはカル
リートスを、自分の父親ホセ(ダニエル・ファネゴ)に引き合わせる。カルリ
ートスは、裏社会に生きる前科者のホセに臆することなく盗みを持ち掛け、
ラモンと3人で銃砲店に侵入、大成功を収める。ホセは「あのガキは天才だ
」とカルリートスに舌を巻きながらも、ルールを無視して無謀な行動に走る
カルリートスに危険も感じていた。

17歳で連続殺人や強盗などの罪を犯した少年の実話を基にした映画。少年
はブロンドの巻き毛、小柄で童顔の美少年という容貌を持ち、マスコミから
「黒い天使」「死の天使」などと呼ばれた。カルリートスは盗みや殺人に何
の迷いも罪悪感も持っていない。ラモンと組んだ犯罪は次第にエスカレート
していく。真面目で善良な両親の元で育ちながら、何が彼をそこまで駆り立
てたのだろう。
カルリートスとラモンの関係は、ゲイとは言えないが、愛には違いないと思
う。カルリートスはラモンに裏切られたと知った時(先に裏切ったのはカル
リートスなのだが)、激しい嫉妬を覚え、衝撃的な行動に出る。その辺りの
描写は興味深かった。カルリートスはラモンが自分から離れていくなどと想
像もしていなかったのだ。
カルリートスが踊るシーンもいい。本当に童顔で美少年でセクシーなのだ。
カルリートスを演じたロレンソ・フェロの映画初出演とは思えぬオーラがす
ごい。邪悪な天使になりきっている。また、ラモンはカルリートスとは違う
男性的なセクシーさを持っている。この2人の組み合わせが良かった。アル
ゼンチンで知らぬ者はいないと言われる程の少年犯罪者をモデルにしたこの
映画、とてもおもしろかった。ラストシーンも印象的。



ノエルのせいでうちの椅子はボロボロ(;∀;)
















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ウィッカーマン

2019-08-20 22:04:50 | 日記
1973年のイギリス映画「ウィッカーマン」。

スコットランド・ハイランド地方西部の警察に勤める巡査部長ニール・ハウイー
(エドワード・ウッドワード)は、ヘブリディーズ諸島のサマーアイルという孤島
で行方不明になった少女ローワン・モリソンを捜して欲しいという匿名の手紙を
受け取った。ハウイーが飛行艇で向かった先で見たものは、島の領主サマーアイ
ル卿(クリストファー・リー)の元でキリスト教の普及以前のケルト的自然崇拝や
多神教が復活していた風景だった。彼らは太陽を信仰し、子供たちに生殖と豊作
を願うための性的なまじないを教え、大人たちは裸で性的な儀式に参加していた。
ハウイーは厳格なキリスト教徒であったため、これらの風習に衝撃と嫌悪を隠せ
なかった。そして、島の誰もがローワンという少女はいない、見たことがないと
口を揃えるのだった。

これもカルト的な人気がある映画らしい。2006年にアメリカでリメイクされて
いる。サマーアイルという孤島から行方不明の少女を捜して欲しいという手紙を
受け取った警官ハウイーは、現地へ向かうが、そこで目にしたものは衝撃的な光
景だった。キリスト教の信仰以前の自然崇拝や多神教、そして行われている儀式
などは、厳格なキリスト教徒であるハウイーには淫乱なものに思えた。ハウイー
は手紙に同封されていた少女の写真を島の人々に見せるが、皆一様にこんな少女
はいないと言う。不審なものを感じたハウイーは島の宿に泊まることにする。
とにかく奇妙な映画だった。奇妙な宗教、奇妙な慣習、奇妙な踊り。島はのどか
で美しいが、島民の行動はおかしいのである。こんな島に来たら、キリスト教徒
でなくても気が変になりそうだ。皆から慕われている領主役にクリストファー・
リーがぴったりである。吸血鬼俳優の彼だが、紳士的な領主役がとても似合って
いる。本人の素顔も典型的なイギリス紳士だったそうだ。
ハウイーが捜査を続けていく中で、少女は豊作を願ういけにえにされた、あるい
はこれからされるのではないかという疑念が生じる。恐ろしいことだ。ハウイー
は何とかして少女を助けるために、手がかりを掴もうとする。ハウイー役のエド
ワード・ウッドワードの演技もいい。孤立無援の中で少女を救おうと奔走する様
子が迫真である。
おもしろく、恐ろしい映画だった。イギリスってたまに変わった映画を作るなあ。
何とも衝撃的で後味の悪い物語だった。


ピーター・フォンダが亡くなった。つい最近「ユージュアル・ネイバー」という
映画でかっこいいおじいさん役を見たばかりだったのに。私は彼の代表作「イー
ジー・ライダー」は観ていないのだが、「世にも怪奇な物語」が印象に残ってい
る。長身で脚が長くてスリムで、端正な顔立ちの素敵な人だったなあ。




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地下室の魔物

2019-08-15 21:14:27 | 日記
1973年のアメリカ映画「地下室の魔物」。

片田舎の豪壮な屋敷に越してきた夫婦。妻のサリー(キム・ダービー)は地下室で
封印された暖炉を見つける。その暖炉を気に入り、使用したいと思ったサリーは、
大工の老人の警告を聞かずに掃除用の扉をこじ開けてしまう。それによって閉じ
込められていた魔物たちを解き放ってしまったことにサリーは気づいていなかっ
た。サリーを闇の世界へ引きずり込もうとする魔物たち。やがて家の中での怪異
に気づいたサリーだが、夫のアレックス(ジム・ハットン)は彼女の話を相手にせ
ず、孤独なサリーは次第に追い詰められていく。

カルト的な人気のあるホラー映画らしい。怖いというより不気味。大きな屋敷に
引っ越してきた夫婦。妻のサリーは地下室の暖炉がコンクリートや鉄で塗り固め
られ、封印されていることに興味を抱く。地下室にその暖炉がよく合っていると
思ったサリーは、大工の老人に開けてくれるよう頼むが、彼は「世の中には安易
に触れてはいけないものがある」と言って断る。サリーは好奇心から暖炉の掃除
用の扉をこじ開けてしまうが、そこには魔物たちがうごめいていたのだ。それか
らサリーは何か得体の知れない気配を感じたり、小人のようなものの姿を見るよ
うになるが、夫は彼女の妄想だと言って相手にしてくれない。
家の中で怪異や超自然現象が起きているのに、家族がそれを信じてくれないとい
うのはよくあるパターンだが、ノイローゼ状態になっていく主人公を見ていると
こちらまで追い詰められていくような気分になっていく。魔物たちは自分たちを
開放してくれたサリーを仲間にしようとしているのだ。そしてそんな時に夫が出
張で家を空けることになるという、これまた妻の不安や恐怖に拍車をかけるシチ
ュエーションである。所々にちらっと現れる魔物の姿、サリーの悲鳴、緊張感は
高まっていく。
ラストシーンはトラウマものである。絶望と恐怖。大工の老人の言った言葉を聞
いておけば良かったのに。なかなかおもしろかった。




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かくも長き不在

2019-08-10 22:11:45 | 日記
1960年のフランス映画「かくも長き不在」。

パリ郊外でうらぶれたカフェを経営するテレーズ(アリダ・ヴァリ)は、ある日町に
現れた浮浪者の男(ジョルジュ・ウィルソン)に目を止める。その男は16年前にゲシ
ュタポに連行され、行方不明になっていた彼女の夫アルベールにそっくりであった。
テレーズはその男にコンタクトを取るが、男は記憶喪失だった。

第14回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品。重厚な人間ドラマの傑作である。
カフェを経営するテレーズは、ある日町にふらりと現れた浮浪者を見て驚く。16年
前ゲシュタポに連行されたまま行方不明になっていた夫のアルベールにそっくりな
のである。しかし人相がすっかり変わってしまっている上にその男は記憶喪失だと
いうことがわかり、自信が持てない。テレーズは男に食事をふるまい、昔話をし、
レコードをかけてダンスを踊る。男の記憶は全く戻らないが、テレーズは男が夫で
あると確信する。親戚は瞳の色や身長が違う、アルベールではないと言う。町の人
々も気にしている。しかしテレーズは確信していた。
浮浪者の男を夫であると信じ、何とか記憶を蘇らせようとするテレーズの一生懸命
な姿が悲しい。テレーズはカフェを経営しながら、ずっと夫の帰りを待っていたの
だ。そこへ現れた夫そっくりの男。男は夫なのか。16年も夫を待ち続けるなんて並
大抵のことではないと思う。それほどテレーズの夫への愛は深いのだ。しかし男は
記憶を取り戻してはくれない。自分が誰なのかわからないのだ。
ラスト近くの男の行動は重たい。戦争はこんなにも人の心を傷つけるものなのだ。
戦争さえなければテレーズとアルベールは今も仲良く暮らしていたに違いない。戦
争は悲しみしか生み出さないものであると改めて思う。ラストシーンはあまりにも
辛く悲しい。




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