2022年のルーマニア・フランス・ベルギー合作映画「ヨーロッパ
新世紀」を観に行った。
クリスマス直前の冬。ドイツに出稼ぎに行っていたマティアス(マリン
・グリゴーレ)が暴力事件を起こしてルーマニア・トランシルヴァニア
の村に帰って来る。しかし疎遠だった妻アナ(マクリーナ・バルラデア
ス)との関係は冷え切っており、森でのあることをきっかけに口がきけ
なくなった8歳の息子ルディ(マーク・ブレニッシ)、病気で衰弱した高
齢の父オットー(アンドレイ・フィンティ)への接し方にも迷うマティア
スは、元恋人のシーラ(エディット・スターテ)に心の安らぎを求める。
ところがシーラが責任者を務める地元のパン工場が、スリランカからの
外国人労働者を迎え入れたことをきっかけに、よそ者を異端視した村人
たちとの間に不穏な空気が流れ出す。やがて、その些細ないさかいは村
全体を揺るがす激しい対立へと発展していく。
「4ヶ月、3週と2日」でルーマニア映画として初めてカンヌ国際映画祭
のパルムドールを受賞したクリスティアン・ムンジウ監督の最新作で、
社会派サスペンス。とても考えさせられるおもしろい映画だった。トラ
ンシルヴァニア地方と言えば、吸血鬼ドラキュラで有名だが、映画にド
ラキュラは全く関係ない。鉱山の閉鎖によってトランシルヴァニア地方
の村は経済的に落ち込んでおり、出稼ぎに行く者も少なくない。クリス
マス直前の冬、出稼ぎ先のドイツで暴力沙汰を起こしたマティアスは、
トランシルヴァニアの自宅へ帰って来る。しかし、妻アナは突然現れた
マティアスに冷ややかな目を向ける。8歳の息子ルディは、つい最近、
森で恐ろしい何かを目撃し、口がきけなくなっていた。
マティアスとアナは元々うまくいっていなかった。2人ともルディを愛
していたが、マティアスはルディを男らしく育てることで父親の威厳を
示そうとするが、彼の粗暴さにうんざりしているアナとは口論が絶えな
い。酪農家である父オットーは病気と高齢のため弱っている。いくつも
の問題を抱えるマティアスは、元恋人のシーラとの情事を重ねるように
なる。一方地元のパン工場のオーナーから経営を任されているシーラは、
求人広告を出すが、村の働き手はよりよい報酬を求めて西ヨーロッパの
先進国へ出稼ぎに行っているため、やむなく外国人労働者を雇い入れる
ことにする。
やがて3人のスリランカ人が働き始めるが、彼らは合法的に雇われてお
り、勤務態度もとても真面目なのに、村のSNSには彼らを異端視した
不穏な書き込みが投稿されるようになる。「彼らがやるのは盗みと殺し
だ」「1人雇えばじきに群れになる」「イスラムのコミュニティを作る
前にルーマニアから追い出せ」(スリランカは仏教国なのだが)といった
過激な書き込みや、スリランカ人たちへの殺害予告まで見たシーラは不
安に駆られていく。やがて教会では、村人たちがパン工場に対する不満
を神父に訴え、外国人労働者の追放を訴える署名運動が始まる。
更にはシーラとスリランカ人たちが夕食を囲む部屋に、火炎瓶が投げ込
まれる事件が起きる。シーラが追いかけた犯人の3人組は、KKKを連想
させる白頭巾や動物の被り物で素性を隠していた。私はこのシーンを観
て、ついこの間観に行った「福田村事件」を思い出した。日本人が朝鮮
人と間違えられて日本人から虐殺された事件だ。きっとどこの国にもヘ
イトクライムはあるのだろう。小さな町や村の方が余計に。悲しい人間
の業である。
この村に滞在中だったフランスのNGO職員とシーラは外国人労働者を
擁護するが、人種や宗教や貧困などの問題が複雑に絡み合い、既に収拾
がつかなくなっていた。村人が「毎日食べるパンを彼らにこねて欲しく
ない」と言ったのが印象的だった。私はクリスティアン・ムンジウ監督
の「4ヶ月、3週と2日」がとても好きなのでこの映画も観たのだが、や
はりとてもおもしろかった。ルーマニアだけでなく、どこの国にでも起
きうるであろう犯罪をドラマチックに描いたムンジウ監督の手腕はさす
が。レンタルが始まったらまた観てみたい。
映画評論・レビューランキング
人気ブログランキング
新世紀」を観に行った。
クリスマス直前の冬。ドイツに出稼ぎに行っていたマティアス(マリン
・グリゴーレ)が暴力事件を起こしてルーマニア・トランシルヴァニア
の村に帰って来る。しかし疎遠だった妻アナ(マクリーナ・バルラデア
ス)との関係は冷え切っており、森でのあることをきっかけに口がきけ
なくなった8歳の息子ルディ(マーク・ブレニッシ)、病気で衰弱した高
齢の父オットー(アンドレイ・フィンティ)への接し方にも迷うマティア
スは、元恋人のシーラ(エディット・スターテ)に心の安らぎを求める。
ところがシーラが責任者を務める地元のパン工場が、スリランカからの
外国人労働者を迎え入れたことをきっかけに、よそ者を異端視した村人
たちとの間に不穏な空気が流れ出す。やがて、その些細ないさかいは村
全体を揺るがす激しい対立へと発展していく。
「4ヶ月、3週と2日」でルーマニア映画として初めてカンヌ国際映画祭
のパルムドールを受賞したクリスティアン・ムンジウ監督の最新作で、
社会派サスペンス。とても考えさせられるおもしろい映画だった。トラ
ンシルヴァニア地方と言えば、吸血鬼ドラキュラで有名だが、映画にド
ラキュラは全く関係ない。鉱山の閉鎖によってトランシルヴァニア地方
の村は経済的に落ち込んでおり、出稼ぎに行く者も少なくない。クリス
マス直前の冬、出稼ぎ先のドイツで暴力沙汰を起こしたマティアスは、
トランシルヴァニアの自宅へ帰って来る。しかし、妻アナは突然現れた
マティアスに冷ややかな目を向ける。8歳の息子ルディは、つい最近、
森で恐ろしい何かを目撃し、口がきけなくなっていた。
マティアスとアナは元々うまくいっていなかった。2人ともルディを愛
していたが、マティアスはルディを男らしく育てることで父親の威厳を
示そうとするが、彼の粗暴さにうんざりしているアナとは口論が絶えな
い。酪農家である父オットーは病気と高齢のため弱っている。いくつも
の問題を抱えるマティアスは、元恋人のシーラとの情事を重ねるように
なる。一方地元のパン工場のオーナーから経営を任されているシーラは、
求人広告を出すが、村の働き手はよりよい報酬を求めて西ヨーロッパの
先進国へ出稼ぎに行っているため、やむなく外国人労働者を雇い入れる
ことにする。
やがて3人のスリランカ人が働き始めるが、彼らは合法的に雇われてお
り、勤務態度もとても真面目なのに、村のSNSには彼らを異端視した
不穏な書き込みが投稿されるようになる。「彼らがやるのは盗みと殺し
だ」「1人雇えばじきに群れになる」「イスラムのコミュニティを作る
前にルーマニアから追い出せ」(スリランカは仏教国なのだが)といった
過激な書き込みや、スリランカ人たちへの殺害予告まで見たシーラは不
安に駆られていく。やがて教会では、村人たちがパン工場に対する不満
を神父に訴え、外国人労働者の追放を訴える署名運動が始まる。
更にはシーラとスリランカ人たちが夕食を囲む部屋に、火炎瓶が投げ込
まれる事件が起きる。シーラが追いかけた犯人の3人組は、KKKを連想
させる白頭巾や動物の被り物で素性を隠していた。私はこのシーンを観
て、ついこの間観に行った「福田村事件」を思い出した。日本人が朝鮮
人と間違えられて日本人から虐殺された事件だ。きっとどこの国にもヘ
イトクライムはあるのだろう。小さな町や村の方が余計に。悲しい人間
の業である。
この村に滞在中だったフランスのNGO職員とシーラは外国人労働者を
擁護するが、人種や宗教や貧困などの問題が複雑に絡み合い、既に収拾
がつかなくなっていた。村人が「毎日食べるパンを彼らにこねて欲しく
ない」と言ったのが印象的だった。私はクリスティアン・ムンジウ監督
の「4ヶ月、3週と2日」がとても好きなのでこの映画も観たのだが、や
はりとてもおもしろかった。ルーマニアだけでなく、どこの国にでも起
きうるであろう犯罪をドラマチックに描いたムンジウ監督の手腕はさす
が。レンタルが始まったらまた観てみたい。
映画評論・レビューランキング
人気ブログランキング