猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

2020-03-26 22:37:43 | 日記
2018年のフィンランド映画「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」
を観にいった。

年老いた美術商のオラヴィ(ヘイッキ・ノウシアイネン)は、何よりも仕事を優先
してきた。家族も例外ではなかったが、長年音信不通だった娘に頼まれ、問題児
の孫息子・オットー(アモス・ブロテルス)を職業体験のため数日預かることに。
そんな時、オークションハウスである1枚の肖像画に目を奪われる。長年の経験
からひと目で価値ある作品だと確信したが、絵には署名がなく、作者不明のまま
数日後のオークションに出品されるという。「あと1度だけでいい、幻の名画に
関わりたい」という思いでオットーと共に作者を探し始めたオラヴィは、その画
風から近代ロシア美術の巨匠イリヤ・レーピンの作品といえる証拠を掴む。画家
の命とも言える署名がないことだけが気がかりだったが、落札へ向け資金繰りに
奔走するオラヴィ。そんな折、娘親子が自分の知らないところで大きな苦労をし
ていたことを知る。

フィンランドの有名監督クラウス・ハロによるヒューマン・ドラマ。「絵には何
故署名がないのか」というミステリー要素もあって、とてもおもしろかった。小
さな店を経営している老美術商のオラヴィは、商売がうまくいっておらず、店を
畳もうと考えていた。ある時長年音信不通だった娘から電話がかかってきて、孫
息子のオットーを職業体験のため預かって欲しいと頼まれる。問題児のため他で
は無理なのだと言う。渋々引き受けたオラヴィの元にオットーは現れる。
オラヴィの妻が生きていた頃は娘親子と交流があったようだが、今ではすっかり
疎遠になっていた。オットー(15歳くらい?)は問題児とは言ってもそんなに悪い
子ではない。スマホやタブレットを使いこなし、ハンバーガーが好きな現代っ子
だ。オットーはオラヴィにすぐに馴染み、店番などをするようになる。そんなあ
る日オラヴィはオークションハウスで1枚の肖像画と出会う。男性が描かれたそ
の絵には署名がなく、作者不明だが、オラヴィは名画だと確信する。そしてオラ
ヴィとオットーは図書館の図録を見て必死に絵の作者を探す。やがて彼らはその
絵がロシア美術の巨匠イリヤ・レーピン作の「キリスト」だということを知る。
オットーが「あの絵はイエス様だったんだ!」と言うシーンは感動的。
私は残念ながらイリヤ・レーピンを知らないのだが、絵画がとても好きなので、
映画の中でたくさんの絵を観られて嬉しかった。オラヴィはレーピンの絵を1万
ユーロで落札するが、払うお金がない。店のものを売ったり、友人たちから借り
たりしてもあと少し足りなかった。オラヴィが1万ユーロを工面できないことに
驚いた。商売をしていて、そのくらいのお金が用意できないものだろうか。銀行
では担保がないからと断られ、オラヴィは娘にお金を貸して欲しいと頼むが、そ
のことでやっと回復しつつあった娘との関係がまた悪化してしまうのだ。
終盤は本当に感動的だ。絵に署名がなかった理由もオットーの協力により判明す
る。老人が店を畳む前にどうしてもやりたかったこと、そして現代っ子の孫が思
いがけなく優秀な助手として活躍したこと、祖父と孫の間に信頼関係が生まれて
いったことなど、見どころはたくさんあった。オラヴィ役のヘイッキ・ノウシア
イネンの演技が素晴らしかった。オラヴィが暮らすヘルシンキの古い街並みも素
敵で、とても好きなタイプの映画だった。




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フライト・ゲーム

2020-03-21 21:52:00 | 日記
2014年のアメリカ映画「フライト・ゲーム」。

ニューヨーク発ロンドン行きの旅客機に、警備のため搭乗した航空保安官ビル・
マークス(リーアム・ニーソン)。しかし、離陸直後、ビルの携帯電話に「1億
5000万ドル送金しなければ、20分ごとに機内の誰かを殺す」との匿名の脅迫
メールが届く。やがて1人目の犠牲者が出てしまい、ビルは乗客を拘束して荷
物や携帯電話を調べるが、手がかりは見つからない。2人目、3人目と犠牲者が
続く中、やがて犯人の指定する口座がビルの名義だと判明。ビル自身にも疑惑
の目が向けられてしまう。

旅客機の中を舞台にしたサスペンス・アクション映画。航空保安官のビルは、
過去のある出来事が原因で酒に溺れ、心は荒みきっていた。一般客を装いニュ
ーヨーク発ロンドン行きの便に乗り込んだビルは、普段と変わらない様子で任
務を開始した。ところが、ビルの携帯電話に差出人不明のメールが入る。その
メールには「指定の口座に1億5000万ドル送金しなければ、20分ごとに機内
の誰かを殺害する」と記されていた。
ただのいたずらとは思えない内容に危惧の念を抱いたビルは、独自に捜査を開
始するが、次々と犠牲者が出てしまう。しかも、指定された口座の名義人はビ
ルであり、それが公になったことで味方であるはずの国土安全保障省や乗務員、
乗客からも彼自身が犯人なのではないかという疑いをかけられてしまう。
誰が犯人なのか全く予想がつかず、ハラハラドキドキしておもしろかった。ビ
ルはアルコール依存症で、そのことをニュースで報道されてしまい、テレビを
見た乗客や乗務員たちから疑われてしまう。何より送金の指定口座がビルのも
のなのだ。皆ビルの捜査に協力しようとせず、ビルは孤立無援の中で闘わなけ
ればならなくなる。それでも信用してくれる乗客や乗務員も出てきて、ビルは
彼らと共に捜査を続行する。
飛行機という密室の中での犯罪というのが怖い。空を飛んでいるので逃げ場が
ないのだ。誰もが怪しく見え、ビルは一瞬たりとも気を緩められない。やがて
起きる機内での爆発や銃撃戦は迫力満点。リーアム・ニーソンも頑張った。彼
はこういう役が似合うなあ。サスペンスフルで見応えのある映画だった。


中華系カフェの台湾アフタヌーンティー。台湾スイーツは見た目もかわいくて
おいしかったです。

コメント (4)
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アド・アストラ

2020-03-17 23:35:09 | 日記
2019年のアメリカ映画「アド・アストラ」。

地球外生命体の探求に人生を捧げ、宇宙で活躍する父(トミー・リー・ジョーンズ)
の姿を見て育ったロイ(ブラッド・ピット)は、自身も宇宙で働く仕事を選ぶ。しか
し、その父は地球外生命体の探索に旅立ってから16年後、地球から43億キロ離れ
た海王星付近で消息を絶ってしまう。時が流れ、エリート宇宙飛行士として活躍す
るロイに、軍上層部から「君の父親は生きている」という驚くべき事実がもたらさ
れる。更に、父が進めていた「リマ計画」が、太陽系を滅ぼしかねない危険なもの
であることがわかり、ロイは軍の依頼を受けて父を捜しに宇宙へと旅立つ。

ブラッド・ピット主演のSF映画。エリート宇宙飛行士ロイの父親は、地球外生命
体の探索に行ったまま行方不明になっている。既に死んだものと思われていたが、
「生存している可能性が高い」とロイは軍上層部から聞かされる。そして父が進め
ていたリマ計画というものが、太陽系を滅ぼしかねない危険なものであることもわ
かり、ロイは父を地球に連れ戻すよう命令される。
とてもスケールの大きな映画だ。かなり未来を描いているようで、月や火星に基地
があり、火星で生まれ育ち地球に行ったことがない人たちもいる。ロイは父が行方
不明になったことをきっかけに他者とうまく関係を築けない性格になっており、妻
とも別れていた。ロイの人生は他者を拒絶する孤独なものであり、父もまたそうだ
った。
やっぱり私はSFは苦手だなあ。予告を見ておもしろそうだと思ったのだけれど、よ
くわからないシーンが多かった。ただこの映画はSFであると同時に人間ドラマでも
あり、父と子の絆が描かれているので、その点ではおもしろく観ることができた。
ただ人が死にすぎると思った。あんなに次々と人が死ぬのは観ていて辛くなる。そ
れに軍上層部の非情さ。簡単にロイやロイの父を見捨てようとするのもひどいと思
った。
結末は私が想像していたものとは違って切なかった。ただロイは自分のこれまでの
人生を見つめ直し、他者を拒絶するのをやめようという気持ちに変わるので、それ
は感動的だった。この映画のテーマは孤独からの脱却なのかもしれないと思った。
ブラッド・ピットの演技は良く、とてもかっこよかった。




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屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ

2020-03-12 22:37:36 | 日記
2019年のドイツ・フランス合作映画「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」を観に
いった。

第2次世界大戦前に生まれ、敗戦後のドイツで幼少期を過ごしたフリッツ・ホンカ
(ヨナス・ダスラー)。彼はハンブルクにある安アパートの屋根裏部屋に暮らし、夜
になると淋しい男と女が集まるバー「ゴールデン・グローブ」に足繁く通い、カウ
ンターで酒をあおっていた。フリッツが女に声をかけても、鼻が曲がり、歯がボロ
ボロな容姿のフリッツを相手にする女はいなかった。フリッツは誰の目から見ても
無害そうに見える男だった。そんなフリッツだったが、彼が店で出会った娼婦を次
々と家に招き入れ、ある行為に及んでいたことに、常連客の誰1人も気づいていな
かった。

1970年代のドイツに実在した連続殺人犯フリッツ・ホンカについて描いたサスペ
ンス映画。狭い屋根裏部屋に暮らし、孤独な生活を送っていたホンカは毎晩のよう
にバーに通っていたが、客の女性に酒を奢ろうとしても、その醜い容姿から「あん
な不細工は無理」といつも断られていた。そんなホンカを相手にしてくれるのは年
を取った娼婦たちだけであり、また彼女たちの方でもそれは同様だった。ホンカは
娼婦を家に招き入れ、一緒に酒を飲み、気に入らないことがあると暴力を振るった。
それは老娼婦たちにしか強気になれないアル中のホンカの姿だった。
まずホンカの醜さに驚く。あんな男に酒を奢られても、そりゃ断るだろうなと思う。
ホンカの相手をしてくれるのはアル中の老娼婦たちだけだが、彼女たちも醜く太っ
ていて、あれで仕事ができるのだろうかと思うくらいだ。バーで孤独な者同士が結
びついていたのだろう。
ホンカの生い立ちは不幸で、親の愛情を知らずに孤独に育ったようだが、映画では
そういったことには触れずに、中年になったホンカの日常が淡々と描かれている。
ホンカの殺人はとてもずさんである。計画性も何もなく、突発的に殺害し、死体を
バラバラにする。いくつかはゴミとして捨てるが、残りは面倒くさくなって家の壁
に放り込んでしまう。
そして、ホンカを演じたヨナス・ダスラーの変貌にも驚かされる。彼はまだ23歳
で、とても美青年なのだ。特殊メイクってすごいなあと思う。顔だけでなく体つき
や体の動かし方など、中年にしか見えない。まさに熱演である。老娼婦を演じたお
ばちゃん女優たちも頑張った。エンディングでホンカの裁判のシーンや実物の屋根
裏部屋が出てくるが、本物そっくりに再現されている。壁いっぱいに貼られたポル
ノ写真はホンカの人格を表しているのだと思った。おもしろい映画だった。

スウェーデン出身の名優マックス・フォン・シドーが亡くなった。「エクソシスト
」「ペレ」「偉大な生涯の物語」など良かったなあ。他にもこの人の出演映画はい
くつか観たことがある。素敵な俳優さんだった。ゆっくりお休みください。




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私の知らないわたしの素顔

2020-03-07 22:15:05 | 日記
2019年のフランス映画「私の知らないわたしの素顔」を観にいった。

パリの高層マンションに暮らすクレール(ジュリエット・ビノシュ)は50代の美しき
大学教授。彼女にはリュド(ギヨーム・グイ)という年下の恋人がいるが、ある日あっ
さりと振られてしまう。クレールはリュドの周辺を探るためにFacebookを開くが、
これが全ての始まりだった。「24歳のクララ」に成りすました彼女は、彼の友人で
ルームメイトでもあるカメラマンのアレックス(フランソワ・シビル)とFBでつなが
り、チャットを始める。だが、アレックスと「クララ」が恋に落ちてしまったことで、
事態は思わぬ方向へ展開していく。

ジュリエット・ビノシュ主演の心理サスペンス。物語はクレールが精神分析医のボー
マン(ニコール・ガルシア)に促され、自分の話を始めるところから始まる。大学で文
学を教えているクレールは、長年連れ添った夫と離婚し、息子2人と暮らしているが、
息子たちはクレールのマンションと元夫の家を行き来している。息子たちが元夫の家
で過ごす週末は、クレールは年下の恋人リュドとの逢瀬を楽しんでいたが、ある日振
られてしまう。Facebookでもリュドに承認拒否されたクレールは、24歳のクララと
いうアカウントを作り、リュドの動向を探るために彼の友人のアレックスに近づく。
そしてチャットを続けるうちに、クレールはアレックスに、アレックスは「クララ」
にはまっていく。
女性としての旬を過ぎ、老いに向き合わざるを得ないクレールの心情を、ジュリエッ
ト・ビノシュがとても繊細に演じている。アレックスに顔が見たいと言われ、それを
拒否できなかったクレールは適当な若い女性の写真を送るが、それによってアレック
スはますますクララを好きになってしまう。クララに成り切ったクレールもアレック
スへの想いは募るばかりだ。メールで電話で、お互いを求めるようになってしまうが、
会いたいというアレックスの要望に応えられないクレールは苦悩する。
私には他人に成りすまして誰かとつながるというのは理解できない。違う自分を演じ
ることで楽しさもあるのかもしれないが、結局虚しさが残るのではないだろうか。ク
レールのボーマン医師への話と現実の状況が並行して物語は進行していく。冷静沈着
なボーマンはクレールが抱える心の傷を探っていく。この2人のやり取りがとてもい
い。
前半は心理サスペンスだが後半は心理ドラマという感じになってくる。クレールの離
婚に関するエピソードにはとても同情する。恩を仇で返されるというのはこういうこ
とを言うのだろう。その話をボーマンにした時のクレールの涙には胸が痛くなる。ク
レールは徹底的に痛めつけられていたのだ。SNS時代だからこその映画だと思う。私
たちの日常に潜む落とし穴というのか。そしてとてもフランス映画らしい映画だと思
った。おもしろかった。




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