猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

赤い闇 スターリンの冷たい大地で

2020-08-27 23:48:53 | 日記
2019年のポーランド・イギリス・ウクライナ合作映画「赤い闇 スターリンの
冷たい大地で」を観に行った。

1933年。若くして元英国首相ロイド・ジョージの外交顧問で、アドルフ・ヒト
ラーに直接取材した経験も持つジャーナリストのガレス・ジョーンズ(ジェーム
ズ・ノートン)には、是が非でも解き明かしたい疑問があった。世界恐慌の嵐が
吹き荒れる中、何故ソ連だけが経済的に繁栄しているのか。莫大な国家予算の資
金源は何なのか。フリーランスの記者としてモスクワを訪れたジョーンズはスタ
ーリンへのインタビューを試みるが、外国人記者の取材活動はソ連当局に厳しく
制限されていた。友人である記者の不可解な死にも疑念を募らせたジョーンズは、
全ての謎の答えがウクライナに隠されていると知り、当局の監視をすり抜けて汽
車に飛び乗る。やがて凍てつくウクライナの地に降り立ったジョーンズが目の当
たりにしたのは、極度の飢えに苦しむ民衆の姿だった。

実在のジャーナリスト、ガレス・ジョーンズの命を懸けた告発を描いた、アグニ
ェシュカ・ホランド監督による実録映画。若きジャーナリストのガレス・ジョー
ンズは、アドルフ・ヒトラー率いるナチスの台頭に危機感を覚えていた。ヒトラ
ーに取材を行った経験がある彼は、この危険な過激思想に染まった指導者が新た
な世界大戦を引き起こすのではないかという懸念を抱き、イギリスはソビエト連
邦のスターリンと組むべきだと考えていた。しかし、ジョーンズには大きな疑問
があった。世界中に恐慌の嵐が吹き荒れているというのに、何故ソ連だけが経済
的に繁栄しているのか。スターリンの莫大な国家予算の資金源は何なのか。
まだ27歳のウェールズ出身のジャーナリストが単身モスクワを訪れるが、モスク
ワへ発つ前に国際電話で連絡を取った友人の記者が強盗に殺されたということを
知る。しかしジョーンズは友人の死を不審に思う。友人は何かを掴んでいたので
はないか。ジョーンズの行動がサスペンスフルに描かれていてとてもおもしろく、
画面から目が離せない。当時のソ連では外国人記者の活動は困難を極めたらしく、
監視されたり連行されたり投獄されたり、最悪処刑もあったそうだ。そんな状況
の中ジョーンズは監視の目をかいくぐり、謎を解く鍵が隠されているとされるウ
クライナへ向かう。そこで彼が見た光景は、この世の地獄だった。
「ホロドモール」という言葉を私は知らなかった。これはウクライナ語で「飢餓
による殺人」という意味で、1932年から1933年にかけてウクライナでは大規模
な飢饉が発生したが(発生と言ってもそれは人為的なものだ)、当時ソ連はひた隠
しにし、国外ではなかなか実態が知られなかったという。ジョーンズが見た、1
個のミカンに目の色を変える人々、雪の中あちこちに転がる凍死者や餓死者の死
体、兄の死体の肉を食べる幼いきょうだいたち、子供たちが歌う奇妙な歌。本当
に衝撃的で凄惨な状況である。スターリンは何百万人もの人々を虐殺しているの
だ。
ジョーンズは妨害工作に阻まれ孤立無援になりながらも真実を世界に伝えた。ラ
ストでジョーンズについてのテロップが出るが、それもまた衝撃的なものである。
ジョーンズの功績は現在のジャーナリストたちの真実を追求する精神の支えにな
っているのだと思いたい。この映画をスクリーンで観られて良かった、と思った。


良かったらこちらもどうぞ。アグニェシュカ・ホランド監督作品です。
オリヴィエ オリヴィエ
ソハの地下水道


一昨日こちらは最高気温が37.3℃になり、今年1番の暑さでした。もう~たまり
ません冷房をつけていても暑いです皆様コロナだけでなく熱中症にもお気を
つけください。




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サニー/32

2020-08-22 22:44:45 | 日記
2018年の日本映画「サニー/32」。

冬の新潟のある町で、24歳の誕生日を迎えた中学校教師の藤井赤理(北原里英)
は、柏原(ピエール瀧)と小田(リリー・フランキー)に誘拐されてしまう。山麓に
ある廃墟に赤理を監禁した2人は、かつて「犯罪史上最もかわいい殺人者」と呼
ばれ世間を騒がせた少女サニーの狂信的な信奉者で、赤理のことをサニーだと言
い張る。赤理が「私はサニーじゃない」と言っても彼らは聞き入れない。赤理に
好みのドレスを着せ、サニーを神格化する者が集うインターネットの掲示板に動
画や写真をアップしていく柏原たち。赤理は必死に脱出を試みる。

実際に起きた事件に着想を得た、白石和彌監督によるサスペンス。仕事も私生活
もパッとしない中学校教師の赤理は、24歳の誕生日にケーキを買って帰路につ
いていた。ところが自宅の前で2人の男に拉致されてしまう。そして廃墟に赤理
を監禁した男たち、柏原と小田は、赤理のことを子供の頃に殺人を犯し「犯罪史
上最もかわいい殺人者」と呼ばれているサニーだと主張する。赤理がどんなに自
分はサニーじゃないと言っても聞かない。やがてサニーを神聖化している男女た
ちが廃墟に次々にやってきて、サニーと会えたことを喜ぶ。
物語の前半と後半で雰囲気が違ってくる。前半はサニーと間違えられて監禁され
た赤理が訳のわからない状況の中で正気を失っていきながらも、何とかして脱出
しようとするサスペンスなのだが、後半は「何これ?」というような展開になる。
突拍子もない展開というか、はっきり言っておもしろくないのだ。赤理はピラピ
ラしたドレスを着せられ縛られ、インターネットの掲示板にその姿をアップされ
る。そしてサニーの信奉者たちはそれを見て歓喜の書き込みをする。
インターネットの時代だからこその映画だなあと思う。やがて廃墟に集まった者
たちは仲間割れをし、殺人に発展していくのだが、どうしてそうなってしまった
のかがよくわからない。意味不明、突っ込みどころが満載である。赤理のあの変
貌ぶりも何なのだろう。そして残念だったのが、子供の頃のサニーがかわいくな
いこと。もっとかわいい子役を使って欲しかった。とても史上最もかわいい殺人
者という感じではない。
白石和彌監督は「凶悪」や「孤狼の血」がすごくおもしろかったので期待したの
だが、本作は期待外れだった。


起きたばかりでボーっとしているノエル。ベルはまだ寝ています。

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フロム・ヘル

2020-08-18 22:13:09 | 日記
2001年のアメリカ映画「フロム・ヘル」。

1888年のロンドン。残虐な連続娼婦殺人事件が発生し、フレッド・アバーライン
警部(ジョニー・デップ)が捜査に当たる。彼は数年前に妻子を失くして以来心を閉
ざし、アルコールとアヘンの中毒に陥っていた。アバーラインは捜査の過程で出会
った赤毛の美しい娼婦メアリー(ヘザー・グラハム)と惹かれ合うようになる。アバ
ーラインはメアリーの協力を得て事件を追うが、捜査は思わぬ妨害もあり遅々とし
て進まない。

有名な「切り裂きジャック」事件を題材としたミステリー・サスペンス。かなり史
実に忠実に作られているらしいが、現在に至るまで未解決の事件なので、核心部分
はフィクションと言えるだろう。1888年のロンドンで、赤毛の美女メアリーと仲
間の娼婦たちは身を売ってなんとか生きていた。ある夜、仲間の1人が何者かに襲
われ喉をかき切られて殺されてしまう。更に立て続けに犠牲者が出る。娼婦ばかり
を狙った連続殺人事件はロンドンの人々を恐怖に陥れる。
アルコールとアヘンの中毒であるアバーライン警部が捜査の指揮を執るが、彼はメ
アリーと惹かれ合うようになる。一向に犯人が捕まらず、次々と犠牲者が出る状況
に、ロンドン市民たちは不満を募らせる。切り裂きジャックの犯行は動機も目的も
不明だった。しかし犯行にはメスのような刃物が使用されていることや、被害者の
何人かは臓器を持ち去られていたことから、犯人は解剖学に詳しい者であるとされ、
医師犯行説が浮上する。これは今でも推測されていることである。
19世紀末のロンドンの街並みや人々の服装などがリアルに再現されている感じで、
映画の雰囲気は良かった。犯人は娼婦たちに「ブドウをあげる」と言って近づいて
いるのだが、当時ブドウはかなりの高級品だったようだ。娼婦たちがわずかな日銭
を稼いで生活している様子がかわいそうだった。メアリー役のヘザー・グラハムも
美しいが、ジョニー・デップの美貌も印象的である。ジョニーは昔を舞台にした映
画が似合うと思う。他にも19世紀や18世紀を舞台にした作品に出演しているが、
とても雰囲気が良かった。
切り裂きジャックの事件は未解決だとわかっているので、あ~映画ではこういう結
末にしたんだな~という感じ。ジャックの正体も犯行の動機も未だに解明されてい
ないが、この事件は現代でも人々の興味を惹きつけ、想像を駆り立てるものなのだ
と改めて思った。




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アングスト/不安

2020-08-13 22:27:24 | 日記
1983年のオーストリア映画「アングスト/不安」を観に行った。

殺人を犯し刑務所に入っていた男(アーウィン・レダー)は、仮出所した途端に
人を殺したい衝動に駆られ、家族3人が住む家に侵入する。

1980年にオーストリアで実際に起きた凶悪事件の実録映画。1983年製作の映
画だが、そのあまりの過激さや異常さから当時本国オーストリアでは1週間で
上映打ち切りになり、他のヨーロッパ各国では上映禁止、日本でも公開はされ
ておらずビデオが発売されたのみといういわくつきの映画である。製作から
37年の時を経て初めての日本公開ということで楽しみにしていた。
事件の犯人であるヴェルナー・クニーセクという人は面識もない老婦人を射殺
し、服役していた。1980年、就職活動のために3日間の仮釈放を許された彼は、
再び人を殺したくてたまらなくなり、ある家に忍び込む。その家には車椅子に
乗った障害のある息子がいた。そして後に帰宅した母親と娘とその息子を次々
に惨殺した。
ヴェルナー・クニーセクは老婦人殺害で逮捕された時、医師が「サディストで
あり精神異常だが精神病ではない」という診断を下していた。責任能力はある
ということだ。私も、この人は生まれつきサイコパスの性質を持っていたのだ
ろうと思った。子供の頃から素行が悪く、動物虐待をしていたというのだから。
生育環境のせいだけではないと思う。強盗目的などではなく単に人を殺すこと
が好きなのだ。病気ではなく、生来の精神異常というかサイコパスの人は存在
すると思う。
主演のアーウィン・レダーの演技がすごい。大きな目をギョロギョロさせて、
サイコパスの雰囲気を漂わせており、いかにも野に放たれた狂人という感じだ。
一家3人を殺害するシーンは本当に緊迫感と狂気に満ちていて、すさまじい熱
演である。映画はセリフがとても少なく、ナレーションや犯人のモノローグと
並行して展開していくのだが、一瞬たりとも目が離せない。犯人がカフェでソ
ーセージを食べているシーンは印象的だ。あんなに異様な雰囲気の男が手づか
みでソーセージを食べていたら、そりゃお店のマダムも他のお客も不審に思っ
てジロジロ見るだろう。
公開された当時上映中止になったくらいの映画なので、「本物の異常映画」と
か「トラウマ級の衝撃度」などと宣伝文句がついているが、そこまでグロテス
クな作品ではない。今だったら普通に公開されていただろうと思うくらい、衝
撃的でもない。でもとにかくおもしろいのだ。異常殺人鬼の心の闇を覗くこと
ができた気がする。間違いなく傑作だと思う。ヴェルナー・クニーセクは終身
刑を言い渡され、現在も収監中だということである。




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ナイト・オブ・シャドー 魔法拳

2020-08-08 21:48:55 | 日記
2019年の中国映画「ナイト・オブ・シャドー 魔法拳」。

妖怪の世界から人間たちを守っていた結界が破れ、妖怪たちが人間界へ押し
寄せる。彼らを捕えるため人間界に送り込まれた妖怪ハンターのプウ・スン
リン(ジャッキー・チェン)は、作家を装いながら、「陰陽の筆」の力を使っ
て邪悪な妖怪たちを封印していく。ある時、2人の美しい女妖怪が少女たち
を誘拐するという事件が発生。弟子のヤンフェイ(リン・ボーホン)と共に捜
査に当たっていたプウは、謎の男チュイシャ(イーサン・ルアン)から女妖怪
の1人シャオチン(エレイン・チョン)の悲しい過去を聞かされる。

ジャッキー・チェン主演のファンタジー・アクション。作家として活動しな
がらも実は凄腕の妖怪ハンターであるプウ。村の少女たちが美しい女妖怪に
誘拐されるという事件が起き、無理矢理弟子になったヤンフェイと共に捜査
を始める。このヤンフェイがおっちょこちょいであまり役に立たないのがお
もしろい。プウには妖怪(良い妖怪?)の部下が何人かおり、彼らはかなり活
躍してくれる。CG感満載なのだが、かわいい。
中盤までは邪悪な妖怪退治の話だが、後半は雰囲気が変わってきて、ラブス
トーリー中心になる。謎の男チュイシャは元は蛇の妖怪だったが現在は人間
になっており、女妖怪の1人シャオチンは元は人間だったことがわかる。そ
して2人は昔から愛し合っていたのだった。そのことをチュイシャが話して
いる時に中華風のアニメーションが流れるのだが、それがとてもロマンチッ
クで風情があって良かった。
ジャッキーのアクションは控え目。というより、ほぼない。ジャッキーもも
うお年だからか、若い俳優たちに見せ場を譲ってあげているような感じがし
た。でも笑顔やコミカルさは健在。特にセリフ回しがおもしろかった。ワイ
ヤーアクションがふんだんに使われているのは中華圏の映画だなあと思った。
ジャッキーらしいアクションが観たい人には物足りない映画だが、妖怪退治
とか、人間と妖怪の純愛とか、「犬夜叉」の世界観みたいで私はおもしろか
った。




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