猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

ファミリー・ディナー

2024-05-29 21:29:12 | 日記
2022年のオーストリア映画「ファミリー・ディナー」。

太っていることに悩む10代の少女・シモーネ(ニーナ・カトラ
イン)は、著名な料理研究家で栄養士のおば・クラウディア(ピ
ア・ヒアツェッガー)に健康的なダイエットを手助けしてもら
うため、イースターの休暇を利用して彼女の家を訪ねる。しか
しおばの食事指導は思いのほか過激で、更にいとこのフィリッ
プ(アレクサンダー・スラデック)はシモーネを敵視して嫌がら
せを繰り返し、得体の知れないおばの新しい夫・シュテファン
(ミヒャエル・ピンク)の存在もシモーネを不安にさせる。イー
スターの祝祭が近づくにつれ、美しい料理に彩られた食卓は悪
夢へと変わっていく。

体型にコンプレックスを抱える少女が料理研究家のおばの家で
体験する、悪夢のようなイースターの祝祭を描いたホラー。太
っていることに悩む少女・シモーネは、本も出版している料理
研究家で栄養士のおば・クラウディアの家をイースターの休暇
に訪れる。ダイエットの助言をしてもらうためだ。クラウディ
アはシモーネが自分の本をかなり読み込んでいるのを知り、真
面目にやるのなら手伝うと約束する。
早速クラウディアはシモーネにダイエットを行い、食事は一切
与えなかった。「まずデトックスしなきゃ。体の中の悪いもの
を出すのよ」と言う。そしてクラウディアと夫のシュテファン
はイースターに向けて断食中で、クラウディアの作ったおいし
そうな料理を食べるのはいとこのフィリップだけだった。シモ
ーネは空腹に耐えながら水だけを飲む。冒頭から不穏な空気が
漂い、とても暗い雰囲気。家の庭には薪が高く積まれており、
もしかしてこれは「ウィッカーマン」のような映画?と思った
が、そうではなかった。
アメリカのホラー映画と違ってテンポが悪く、何も起きない時
間が長く続くので、少し退屈である。フィリップが何故あんな
にシモーネに悪意を向けているのかもよくわからない。シュテ
ファンはフィリップを狩猟に連れていくが、内向的なフィリッ
プはあまり気が進まなさそうだ。シモーネもついていく。フィ
リップが撃ったウサギを、シュテファンは「食べるなら苦しま
せるな。早くとどめを刺せ」と言うがフィリップにはできない。
結局シモーネがウサギの首を切って死なせる。シモーネはおと
なしいが度胸のある少女のようだ。
シモーネの体重は順調に減っていき、クラウディアと共に喜ぶ。
しかしシモーネが母親と電話で話した後、シモーネのスマホが
見当たらなくなる。登場人物は4人だけという閉鎖的な映画で、
セリフが少ないのでそれぞれが何を考えているのかよくわから
ない。シモーネも終盤で過激なダイエットに根を上げて家に帰
ろうとするものの、それをやめた理由もよくわからない。ラス
トシーンもどう受け取っていいのか今ひとつわからない。大体
イースターはあんな悪魔崇拝のようなものではないのだが。終
始不気味な雰囲気の映画だったが、私は割と好きである。



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人間の境界

2024-05-24 21:49:00 | 日記
2023年のポーランド・フランス・チェコ・ベルギー合作映画「人間
の境界」を観に行った。

幼い子供を連れたあるシリア人家族は、ベラルーシを経由してポーラ
ンド国境を越えれば、ヨーロッパに入ることができるという情報を信
じて祖国を脱出する。しかし亡命を求めてポーランド国境の森まで辿
り着いた彼らを待ち受けていたのは、武装した国境警備隊だった。一
家は国境警備隊に非人道的な扱いを受けてベラルーシへと送り返され、
更にベラルーシではポーランドに向けて再び強制移送される。

シリア人難民家族、支援活動家、国境警備隊の青年など複数の視点か
ら描き出す群像劇。監督はポーランドの名匠アグニエシュカ・ホラン
ド。ポーランド政府は2021年9月、EU諸国への亡命を求める人々で
あふれるベラルーシとの国境付近に非常事態宣言を発令。ベラルーシ
から移送される難民を受け入れ拒否した上強制的に送り返し、ジャー
ナリスト、医師、人道支援団体らの立ち入りも禁止した。入国を拒絶
された難民たちは国境で立ち往生し、極寒の森をさまよい、死の恐怖
にさらされた。
こういうことが行われていたのは知らなかった。難民の問題は世界で
大きな問題となっているが、具体的なことは知らない。この映画では
数組のシリア人家族やアフガン女性などが亡命を求めてポーランド国
境を訪れる。ところがそこにいたのは武装した国境警備隊だった。ど
んなに怖かっただろうかと思う。国境警備隊は彼らに暴行し、迫害を
し、非人間的な扱いをし、笑っている。どうしてこんな人たちがいる
のだろうか。同じ人間だと思えないのだろうか。
子供たちを連れたシリア人のバシール(ジャラル・アルタウィル)は父
親(モハマド・アル・ラシ)と違って神に祈ることもしない。森に残さ
れて絶望しているのだ。子供たちは無邪気にアフガン女性から英語を
習ったりしているが、こういう環境下では大人の方が辛いだろう。人
道支援団体のユリア(マヤ・オスタシェフスカ)たちも命がけである。
ユリアは1度警察に捕まり、裸にされて検査されるという非人道的な
扱いを受ける。そして支援団体が頑張っても、人は死んでいく。彼ら
にはどうにもできない日常的な死がそこにはある。
国境警備隊のヤン(トマシュ・ヴウォソク)は任務に誇りを持っている
が、一方で辞めたいという気持ちもある。彼の妊娠中の妻も辞めて欲
しいと思っている。しかし結局は自分の任務を全うするしかできない。
ヤンのもどかしさも痛いほどわかる。寒さに凍え暴行され死んでいく
人々の姿を見るのは本当に辛い。何故彼らがそんな目に遭わなければ
ならないのだろう。悲しいシーンは胃が痛くなる。平和な国に生まれ
たことを心から感謝したくなる。アグニエシュカ・ホランド監督は女
性ながら骨太の社会派作品を撮る人だ。今観るべき1本だと思う。


良かったらこちらもどうぞ。アグニエシュカ・ホランド監督作品です。
オリヴィエ オリヴィエ
赤い闇 スターリンの冷たい大地で
ソハの地下水道


ノエル大あくび













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ふたりのマエストロ

2024-05-19 21:51:51 | 日記
2022年のフランス映画「ふたりのマエストロ」。

ドニ・デュマール(イヴァン・アタル)は指揮者としてパリのクラ
シック界で脚光を浴びているが、彼の父でベテラン指揮者のフラ
ンソワ(ピエール・アルディティ)は息子の活躍を素直に喜べずに
いた。ある時、フランソワの元にミラノ・スカラ座から音楽監督
就任の依頼の電話がかかるが、その一方でドニはスカラ座の総裁
から呼び出され、フランソワへの依頼がドニへの依頼の誤りだっ
たと知らされる。夢にまで見ていたオファーに浮き足立つ父に、
その真実をどう伝えるべきか、ドニは苦悩する。

指揮者の父子が最悪の依頼間違いをきっかけに互いの心と向き合
う姿を描いた人間ドラマ。パリの華やかなクラシック界でそれぞ
れ指揮者として活躍する父フランソワと息子ドニ。2人の間には
ライバル意識があり、ドニが権威あるヴィクトワール賞を受賞し
ても、フランソワは素直に喜ぶことはなかった。ある日フランソ
ワの元に、世界最高峰のミラノ・スカラ座の音楽監督への就任を
依頼する電話がかかってくる。ドニは父の成功を素直に喜べずに
いたが、翌日、今度はドニがスカラ座総裁から呼び出しを受ける。
実は就任を依頼されたのはドニで、フランソワへの連絡は総裁の
秘書のミスだったのだ。父に真実を伝えなければならずドニは苦
悩する。
とてもフランス的な物語。同じ指揮者である父と息子がライバル
意識を持っていたり、ドニには恋人がいるが元妻がマネージャー
を務めており、仕事に関しては元妻を信頼していたりと、フラン
スの個人主義をよく表していると思った。ドニの息子のマチュー
(ニルス・オトナン=ジラール)も父と祖父が指揮者で自らもピア
ノを習っているのに、「僕は音楽はやらないよ。料理の道へ行く
」と言うところなど、フランスらしいサバサバさが窺える。
そしてドニの両親は未だに結婚していないのだ。これもフランス
の「事実婚で事足りる」という社会的、文化的な面を表していて
興味深い。フランソワはスカラ座の話が来た時点で妻に「結婚し
て一緒にミラノに行こう」とプロポーズするのだが。とにかく色
んなところがフランス的でおもしろい。
クラシックの名曲がたくさん聴けるのもいい。それだけでも観る
価値はある。ワンシーンだけだが、ドニがパソコンで小澤征爾の
指揮を観ているシーンも嬉しい。1つ気になったのが、ドニは恋
人と一緒にスカラ座へ行くが、恋人のヴァイオリンの腕前で大丈
夫なのだろうかというところ。あまりうまくなかったように見受
けられるのだが…。ラストは圧巻で感動的。大団円というのはこ
ういうのを言うのだろう。とてもいい映画だった。



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幼い依頼人

2024-05-14 21:23:07 | 日記
2019年の韓国映画「幼い依頼人」。

ロースクールを卒業した後、就職に失敗し児童福祉館に臨時で
就職した弁護士のジョンヨプ(イ・ドンフィ)は、継母(ユソン)か
ら虐待されている姉のダビン(チェ・ミョンビン)と弟のミンジュ
ン(イ・ジュウォン)に出会う。その後法律事務所に就職した彼は、
ダビンの鼓膜が破れ、更にミンジュンが死んだことを知る。ダビ
ンが弟の殺害を自白したことに衝撃を受けたジョンヨプは、彼女
の弁護を引き受けることにする。

2013年に韓国で実際に起こった漆谷(チルゴク)継母児童虐待死
亡事件を基にしたサスペンス。ロースクールを卒業して出世の道
を突き進むはずだったジョンヨプは何度も就職に失敗し、姉の勧
めで臨時に児童福祉館に就職する。ある日、継母から虐待を受け
ている10歳のダビンと7歳のミンジュンの姉弟に出会うが、さほ
ど深刻に考えていなかった彼は、また来るという言葉だけを残し
て去る。数日後、法律事務所に就職したジョンヨプは電話を受け
ダビンの鼓膜が破れたことを知る。ジョンヨプは継母からダビン
を引き離そうとするが、かえって誘拐犯扱いをされ、その後弟ミ
ンジュンの死に加え殺人の被疑者とされたダビンを見て衝撃を受
ける。ジョンヨプは真実を明らかにするため、ダビンの弁護士に
なることを決意する。
世界中のあちこちで起きている児童虐待事件。何故10歳の少女
は弟殺害で容疑者にならなければならなかったのか。ジュンヨプ
は法律事務所に就職し損ねたため、児童福祉館であまりやる気も
ないまま働いていた。そんな時父親の後妻から虐待を受けている
姉弟と知り合う。ジュンヨプは携帯電話の番号を渡して、何かあ
ったら電話するように言っただけだった。しかし事態はジュンヨ
プが考えているより深刻だった。
姉弟が継母にひどい虐待を受けていることを知ったジュンヨプは、
彼らを助けるために奔走するが、弟のミンジュンは死んでしまい、
姉のダビンが被疑者となってしまう。ダビンが自供したと報道さ
れるが、ジョンヨプは信じられない。ニュースなどでよく韓国で
は容疑者をマスコミが取り囲んで取材しているシーンを見るが、
10歳の子供にまでそれをするのだろうか。マスコミは「ダビン
さん、何故弟を殺したんですか!」と叫ぶ。いくら容疑者とはい
え小学生にである。
ダビンのクラスメイトで同じアパートに住む少年・ムンジョン(
ソ・ジョンヨン)の存在がいい。彼はダビンが継母から暴力を受
けている時ジョンヨプに電話をかけ、「ダビンが殴られてる!」
と伝える。ジュンヨプはダビンの家に走り、ダビンを助け出して
姉の家に避難させる。その後をムンジョンが泣きながらついてく
るのだが、そのシーンは胸に迫るものがあった。それにムンジョ
ンはダビンが無実である証拠を持っていたのだ。
ジョンヨプ役のイ・ドンフィは眼鏡が似合って、ハンサム過ぎな
いのがいい。そしてダビン役やムンジョン役の子役たちがとても
うまい。更に継母役のユソンの憎たらしいこと。あんなに怖い顔
で怒鳴られたら、子供たちは恐ろしいだろう。継母は本当にあん
な人だったのだろうな、と思った。悲しく、やり切れない映画だ
が、観る価値は充分にあると思う。イ・ドンフィの走る姿が印象
に残っている。


アフタヌーンティーに行きました。大変おいしゅうございました。

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マンティコア 怪物

2024-05-09 21:11:28 | 日記
2022年のスペイン・エストニア合作映画「マンティコア 怪物」
を観に行った。

ゲームデザイナーとしてモンスターのキャラクターを創作している
青年・フリアン(ナチョ・サンチェス)は、パーティーで美術史を学
ぶディアナ(ゾーイ・ステイン)と出会い、ミステリアスな彼女に惹
かれていく。ある日、隣の家から助けを呼ぶ子供の声が。見ると火
の手が上がり、閉じ込められている少年・クリスチャン(アルバロ
・サンス・ロドリゲス)を救ったフリアンだったが、以来パニック
発作に悩まされるようになり、やがて彼は自身の抱える秘密が原因
でマンティコア(怪物)を作り出してしまう。

マジカル・ガール」のカルロス・ベルムト監督が人間の心の闇を
描いた心理サスペンス。「マジカル・ガール」が非常におもしろか
ったので、期待して観に行ったが、やはりとてもおもしろかった。
ゲームデザイナーの青年・フリアンは同僚の誕生パーティーで美術
史を学んでいるというディアナと出会う。聡明でミステリアスな彼
女にフリアンは惹かれていく。ある日フリアンは自宅で作業中に隣
の家から火があがっているのを見る。助けを呼ぶ子供の声を聞いて、
夢中でクリスチャンというその少年を助ける。煙を吸ったフリアン
は救急隊に診察され、大丈夫だと言われるが、夜になって呼吸が苦
しくなり病院へ行くが失神してしまう。医師からはパニック発作だ
と言われ抗不安薬を出される。
フリアンとディアナは近づいていく。ディアナは2年前に脳卒中を
起こした父親の介護をしていると言う。しかしディアナがフリアン
の家を訪れている時、父親が亡くなったという電話が入る。フリア
ンは父親の葬儀に顔を出し、ディアナから感謝される。フリアンと
ディアナは仲良くなっていくが、フリアンはある秘密を抱えており、
悩んでいた。その秘密は普段は表面に出さないように隠していたが、
火事で吸った煙のようにフリアンの心の中でくすぶっていた。
ディアナの容姿があまりかわいくないのだが、これには理由があっ
て、あーそういうことなのねと納得させられる。フリアンの秘密は
反社会的だが、それでもフリアンがかわいそうに思えてくる。彼は
一線を超えまいと必死なのだ。そしてディアナの方も何だかおかし
い。出会い方からして不自然だし、まさか全部ディアナが仕組んだ
こと、と考えるには無理があるか。物理的に不可能だ。「マジカル
・ガール」でもよくわからないシーンがいくつかあったが、この監
督はそういう作風なのだろう。
そして予想だにしていなかった驚きのラスト。ディアナも秘密を抱
えていたのだ。それはフリアンの秘密と似て非なるものだ。でも同
じ次元のものかもしれない。ラストシーンの後のフリアンとディア
ナの行く末を考えると、ゾッとする気もするしホッとする気もする
し、複雑である。これはとても怖い映画なのかもしれない。カルロ
ス・ベルムト監督は大変な日本オタクで、「マジカル・ガール」は
日本人が観ると楽しめるはずだ(コメディではないが)。この「マン
ティコア 怪物」にも寿司だのウナギだの伊藤潤二の漫画だのが登
場し、日本オタクぶりは健在。スペインの人が伊藤潤二を知ってい
るんだなあ。



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