猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

メグレと若い女の死

2023-03-30 22:14:59 | 日記
2022年のフランス映画「メグレと若い女の死」を観に行った。

1953年、パリ。ある日、モンマルトルのヴァンティミーユ広場で、
シルクのイブニングドレスを着た若い女性の刺殺体が発見される。血
で真っ赤に染まったドレスには5ヵ所の刺し傷があった。この事件の
捜査に乗り出したメグレ警視(ジェラール・ドパリュデュー)は、遺体
を見て複雑な事件になると直感する。遺体の周囲に身元を特定できる
ものはなく、手掛かりとなるのは若い女性には不釣り合いなほど高級
なドレスのみ。被害者の素性とその生涯を探るうちに、メグレ警視は
異常なほどこの事件にのめり込んでいく。

ジョルジュ・シムノン作の推理小説「メグレ警視シリーズ」を映画化。
名匠パトリス・ルコントの8年ぶりの最新作である。ある日シルクの
イブニングドレスを着た若い女性の血塗れの遺体が発見される。遺体
に所持品は残されておらず、事件の目撃者も、彼女が誰なのか、どん
な女性なのかを知る者もいない。メグレ警視は、身元不明の彼女がど
うして殺されなければいけなかったのか、彼女はどんな人生を送って
きたのかを明らかにすべく、捜査を進めていく。
ミステリーなのだが、人間ドラマの側面もあり、おもしろかった。遺
体の身元がわかってくるにつれ、歪んだ人生を送っている人々の異常
な生活が明るみに出る。それはパリという都会における死角なのだっ
た。やがて遺体の女性のバッグが見つかるが、中身はハンカチに安物
の口紅。イヤリングは真珠の粗悪品、下着はチェーン店の品物、履き
潰したハイヒールなど、どれもが高級なシルクのドレスとは不似合い
なものばかりだった。
そして、女性の直接の死因は刺されたことによるものではなく、首を
絞められたことによるものだと判明する。メグレ警視は次第に女性の
身元に近づいていくが、やり切れない思いになっていく。メグレ警視
は妻ととても仲が良く、2人の間には娘がいたらしいということもそ
れとなくわかってくる。恐らく娘は生きていたら死んだ女性くらいの
年齢なのではないだろうか。メグレ警視は死んだ娘と女性を重ね合わ
せて見ていたのかもしれない。
物語は、夢を抱いてパリに出てきた若い女性たちが、やがて孤独、現
実の厳しさ、貧困などで希望を打ち砕かれていく様子が描かれており、
痛ましく感じる。メグレ警視は小説の中で「身長180cm、体重100k
g」となっており、名優ジェラール・ドパリュデューは適役だと思う。
でも彼は100kgを超えていると思うので、少しやせた方が健康のため
にはいいのではないか。映画は1950年代の雰囲気がとても良かった
し、やっぱりフランスの昔の刑事はコートに帽子だなあ~と思った。


良かったらこちらもどうぞ。パトリス・ルコント監督作品です。
髪結いの亭主
仕立て屋の恋
イヴォンヌの香り
ハーフ・ア・チャンス
ぼくの大切なともだち



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2023-03-25 22:25:16 | 日記
2015年の韓国映画「罠」。

ソヨン(キム・ミンギョン)と夫のジュンシク(チョ・ハンソン)は結婚5年
になるがまだ子供に恵まれていなかった。2人は愛し合っていたが、ソヨ
ンが流産をしたことがきっかけで、ジュンシクが勃起不全になっていたの
だった。ある日ソヨンはジュンシクを旅行に誘う。SNSで離島にあるサ
ンマル食堂というところの料理が絶品だと知り、夫婦は離島へ向かう。山
の中の一軒家の食堂に辿り着くと、そこはソンチョル(マ・ドンソク)とい
う店主と、妻のミンヒ(ジ・アン)が経営しているようだった。ソンチョル
はミンヒに対して横柄で高圧的な態度を取り、口が利けないというミンヒ
はおとなしく従うだけで、夫婦は異様な雰囲気を感じる。

マ・ドンソク主演のスリラー映画。実話がベースになっているらしい。ソ
ヨンとジュンシクの夫婦は、流産をきっかけに夫のジュンシクがソヨンと
関係を持てなくなってしまっていた。ソヨンは夫の愛情は感じているが、
子作りができないことに焦りを抱いていた。そんな時、ソヨンはSNSで「
病院でも治せない病気を治します」という宣伝を見つけ、そのサンマル食
堂へ行くことを決心する。旅行へ行こうというソヨンの誘いにジュンシク
は賛成するが、ソヨンはその目的は話していなかった。
フェリーで離島へ向かうが、携帯電話も圏外のその山の中はイメージと違
っており、ソヨンは少し後悔し始める。目的のサンマル食堂にようやく着
くと、そこは夫婦が経営しているようで、他に客はいなかった。店主のソ
ンチョルは2人を歓迎し、おいしい料理を食べさせると言う。ソンチョル
は妻のミンヒに横柄な態度を取るが、口が利けないというミンヒは奴隷の
ように従っていた。ソンチョルは「ミンヒは妹だ。あいつは俺が育ててや
ったのに恩知らずで、島を出ようとしたから舌を切り取った」と言う。
笑えないジョークにソヨンたちは驚き、ソンチョルの異様な雰囲気にソヨ
ンは夫に帰ろうと言うが、夫はソンチョルに地鶏の水炊きが絶品だと勧め
られて注文する。そしてジュンシクは水炊きに大満足し、酒もたくさんふ
るまわれ、帰るタイミングを失くしてしまい、ソンチョルに泊まっていく
ように言われる。翌朝夫婦は帰ろうとするが車が故障しており、修理工が
島を出ており、翌日にならないと帰らないため、もう1泊するようソンチ
ョルに勧められる。そして夜、ソンチョルにそそのかされたジュンシクは
ミンヒと関係を持ってしまう。
実話ベースというがどの辺りが実話なのだろう。すごく気持ちの悪い映画
だった。酒にムカデなどの虫が入っていたり、孵化前の卵を食べさせよう
としたり、とにかくソンチョルが悪趣味で不気味。そしてソヨンはずっと
不安を感じているのに、ジュンシクはのん気というか鈍いのが呆れてしま
う。マ・ドンソクが怖い。元々いい人を演じてもヤクザに見えてしまう俳
優なのに、本気でサイコパスの殺人鬼を演じているのだからそりゃあ怖い。
これはマ・ドンソクの怖さを見る映画。割とおもしろかったが、ラストが
あっけないのがちょっと残念。ミンヒは兄に虐げられていても、兄のこと
が好きだったのだろうか。


ガシガシ


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Winny

2023-03-21 00:29:10 | 日記
2023年の日本映画「Winny」を観に行った。

2002年、データのやりとりが簡単にできるファイル共有ソフト「Winny」
を開発した東大大学院特任助手の金子勇(東出昌大)は、その試用版をイン
ターネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」に公開する。公開後、瞬く間に
シェアを伸ばすが、その裏では大量の映画やゲーム、音楽などが違法アッ
プロードされ、次第に社会問題へ発展していく。違法コピーした者たちが
逮捕される中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑で2004年に逮捕
されてしまう。金子の弁護を引き受けることとなった弁護士・壇俊光(三
浦貴大)は、金子と共に警察の逮捕の不当性を裁判で主張するが、第一審
では有罪判決を下されてしまう。

ファイル共有ソフト「Winny」を開発した金子勇氏が、著作権法違反幇
助の容疑で逮捕された経緯と、彼の弁護団が逮捕に対する不当性を訴えて
警察・検察側と全面対決し、無罪を勝ち取った裁判の行方を描いた作品。
私はコンピューターのことはほとんどわからないので、「Winnyって何?
」「金子勇って誰?」という具合なのだが、東出昌大目当てに観に行った
この映画、おもしろかった。ファイル共有ソフトとか言われてもさっぱり
わからないが、インターネットの世界ではかなり画期的なものだったよう
だ。
金子氏は自分が開発されたものが違法に利用されるとは思っていなかった
のだろう。それが突然逮捕となって、金子氏も弁護団もとても理不尽に思
う。物語の中で弁護士が言っていたが、「金子さんはそこに山があったか
ら登っただけ」だったのだろう。生粋の研究者というかコンピューターオ
タクの人だと思う。子供の頃から電器屋の店先に置いてあるパソコンをい
じっていた、オタク少年がそのまま大人になったような人だ。弁護士たち
も金子氏の逮捕の不当性を強く感じ、刑事事件のスペシャリスト・秋田真
志弁護士(吹越満)を主任弁護士に迎える。
キャストが皆とても良かった。金子氏役の東出昌大は「何か太ってる?」
と思ったら役作りのために18kgも増量したそうだ。天才プログラマーを
ひょうひょうと好演していると思った。壇弁護士役の三浦貴大の若い熱血
弁護士役も良かったし、主任弁護士役の吹越満の存在感もすごい。渡辺い
っけい、吉岡秀隆といったベテラン実力派も脇を固めていて、なかなか骨
太の社会派ドラマに仕上がっていると思った。Winny事件の裁判と並行し
て、愛媛県警の裏金問題が描かれているのだが、こちらは私はよくわから
なかった。
弁護団の事務所には、金子氏を応援する2ちゃんねるの住人たちを中心に
銀行口座開設の要望があり、弁護士費用の支援金が集まっていたという。
金子氏は2ちゃんねるの住人たちに支持された人だったんだなあ。金子氏
は2006年に京都地方裁判所で有罪判決が下され、罰金150万円を言い渡
されるが、2008年に大阪高等裁判所で逆転判決を経て、2011年に最高
裁で無罪が確定した。けれども2013年に急性心筋梗塞で42歳の若さでこ
の世を去っている。短い生涯の中で、金子氏が裁判に費やした7年間は何
だったのだろう。研究者たちの夢を、オタク少年たちの夢を摘み取らない
世界であって欲しい、と思った。


アフターヌーンティーに行きましたいつもデザートばかり食べている
ので、今回はお食事をとてもおいしゅうございました

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ひとくず

2023-03-15 22:01:28 | 日記
2019年の日本映画「ひとくず」。

母親の恋人から虐待を受け、母親からは育児放棄されている8歳の少女・鞠
(小南希良梨)。ガスも電気も止められた家に置き去りにされた鞠の元に、あ
る日、様々な犯罪を繰り返してきた男・金田(上西雄大)が空き巣に入る。幼
い頃に自身も虐待を受けていた金田は、鞠の姿にかつての自分を重ね、自分
なりの方法で彼女を助けようと、鞠を虐待していた母親・凛(古川藍)の恋人
を殺してしまう。一方凛も実は虐待を受けて育ち、そのせいで子供との接し
方がわからずにいた。金田と凛と鞠の3人は、不器用ながらも共に暮らし始
め、やがて本物の家族のようになっていく。

「劇団テンアンツ」を主宰する俳優の上西雄大が監督・脚本・主演などを務
め、児童虐待をテーマに描いたヒューマンドラマ。
様々な犯罪を重ねてきた金田はある夜アパートの1室に空き巣に入るが、そ
こには電気もついていない部屋でぽつんと座っている少女がいた。金田は「
電気代払ってねえのか」と話しかけ、一目で育児放棄されているとわかるそ
の少女にかつての自分を重ね合わせる。その日から金田はその少女・鞠の元
に通い、面倒を見てやるようになる。やがて鞠の母親・凛の恋人が鞠を虐待
しているところに遭遇し、金田は男を殺してしまう。
万人受けするタイプの映画ではないと思うが、いい映画だった。子供の虐待
シーンなどは目を覆いたくなるほど。でもこういった現実は実際にあるのだ。
自らも虐待を受けて育った金田は鞠のことを放っておけなくなる。鞠はずっ
と学校に行っておらず、担任教師が児童相談所の職員を連れて訪れるように
なるが、鞠は玄関を開けずに金田と一緒にいる。そのくらい金田になついて
いた。鞠は金田のことを「泥棒のおじさん」と呼んでいたが、「いちいち泥
棒ってつけなくていいんだよ」と言われ、金田のあだ名であるカネマサと呼
ぶようになる。
凛も目の前で自分の恋人を殺し、やたらと娘の世話を焼いている金田を最初
は変に思うが、次第に心を開いていく。金田が凛に「お前、親にかわいがら
れてないだろ」と言うシーンは印象的だった。同じ経験をしている金田には
わかるのだ。金田は本当に鞠には面倒見が良く、一緒にラーメンを食べに行
った時もお椀を別に持ってきてもらい、それに麺を移して食べさせるなど、
まるで親のようである。ある日金田は鞠の胸の辺りにひどい火傷の痕がある
ことを知り、何とかして傷を治してやりたいと思うようになる。
凛が「子供のかわいがり方がわからない」と泣くシーンは印象的ではあるが、
自分も子供の時虐待されたからと言ってもやはりそれは言い訳だと私は思う。
みんな子供ができた時、子供のかわいがり方なんて誰かに習う訳ではない。
本能的なものではないかと思う。それができないのはその人の責任だと思う。
監督、主演の上西雄大はちっともハンサムではないし、いかにも劇団主宰者
といった雰囲気の人だけど、金田の役によく合っていた。考えさせられる映
画だった。




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プライベート・ライアン

2023-03-06 19:53:37 | 日記
1998年のアメリカ映画「プライベート・ライアン」。

1944年。連合軍はフランスのノルマンディー海岸に上陸するが、多くの
兵士たちが命を落とした。激戦を生き延びたミラー大尉(トム・ハンクス)
は、最前線で行方不明になった落下傘兵ジェームズ・ライアン二等兵(マ
ット・デイモン)の救出を命じられる。ライアン家は4人の息子のうち3人
が相次いで戦死しており、軍上層部は末っ子のジェームズだけでも故郷の
母親の元へ帰還させようと考えたのだ。ミラー大尉と彼が選んだ7人の兵
士たちは、1人を救うために8人の命が危険にさらされることに疑問を抱
きながらも戦場へと向かう。

スティーヴン・スピルバーグ監督が、第2次世界大戦時のノルマンディー
上陸作戦を題材に、極限状況に置かれた兵士たちの絆と生き様を描いた戦
争ドラマ。とても有名な映画だが観たことがなくて、この度初鑑賞した。
タイトルの「プライベート」というのはアメリカ陸軍の階級名称で、原題
の「Siving Private Ryan」は「兵卒ライアンの救出」という意味。
壮絶な戦闘の後、ノルマンディー上陸作戦を成功させたアメリカ軍だった
が、ドイツ国防軍の激しい迎撃にさらされ多くの戦死者を出してしまう。
そんな中、アメリカ陸軍参謀総長ジョージ・マーシャル(ハーヴ・プレスネ
ル)の元に、ある兵士の戦死報告が届く。それは出征したライアン家4兄弟
のうち3人が戦死したというものだった。残る末子ジェームズ・ライアン
も「敵地で行方不明になった」という報告が入り、マーシャルはライアン
を保護して本国に帰還させるように命令する。
とてもおもしろかったのだが、170分という長さや衝撃的なシーンの多さ
から、観て非常に疲れる映画だった。戦争映画は割と観ている気がするが、
ここまで戦争のリアルさを描いた作品はそうないかもしれない。もちろん
私は戦争のリアルを知らないのだが。ノルマンディー上陸作戦も名前だけ
は知っていたがどういうものかは知らなかったので、調べた。最初の方で
腕を吹き飛ばされた兵士が、もう片方の手でその腕を拾うシーンや、内臓
がほぼ出てしまっている兵士が「ママ…」と言っているシーンはグロテス
クで悲惨だった。
ミラー大尉役のトム・ハンクスの演技が素晴らしい。ミラー大尉は以前の
経歴を公表しておらず、謎多き人物なのだが(兵士たちの賭けのネタにさ
れるほど)、次第に告白していく過程がおもしろく、特にジェームズ・ラ
イアンとの会話は胸に残る。この作品の当時20代だったマット・デイモ
ンもかわいく見える。ミラー大尉が選んだ救出メンバーも戦死していき、
どうしてこんな犠牲を出してまでライアン二等兵を助け出さなければなら
ないのだろう、と思って観ていたのだが、当時のアメリカ陸軍には「兵役
により戦闘任務に参加している家族が複数人戦死した場合、最後に生存す
る息子を保護する」という「ソウル・サバイバー・ポリシー」制度があっ
たのだという。だから3人の兄が戦死しているジェームズは、絶対に助け
なければならなかった。
そんな制度のことは知らなかった。でも息子4人が出征して、3人も戦死
してしまった両親の悲しみはいかばかりだったろうかと思う。そしてど
この国にもそんな親たちはいたのだろう。冒頭で老人になったジェーム
ズが墓参りをして涙を流すシーンがあり、それはラストシーンからつな
がっているのだ。その流れはとても感動的だった。この世から戦争がな
くなることを心から願う。




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