猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

この素晴らしき世界

2019-10-31 00:20:55 | 日記
2000年のチェコ映画「この素晴らしき世界」。

1943年、第2次世界大戦下のチェコ。ナチス占領下にある小さな町にヨゼフ
(ボレスラフ・ポリーフカ)とマリエ(アンナ・シィシェコヴァー)の夫婦は住ん
でいた。2人は子宝に恵まれず、戦争で職まで失ったヨゼフはすっかりやる気
をなくしていた。ある日、2人の家にポーランドの収容所を脱走してきたユダ
ヤ人青年ダヴィド(チョンゴル・カッシャイ)が逃げ込んできた。彼はかつて親
しくしていたユダヤ人一家の息子。悩んだ末にダヴィドを家に匿う2人だった
が、この家にはマリエに横恋慕しているナチス信奉者のホルスト(ヤロスラフ
・ドゥシェク)が頻繁にやってくるのだった。ホルストは隠し事をしているよ
うな夫婦の様子に次第に疑いを抱き始める。

ヤン・フジェベイク監督作品。ナチスものだが、暗くはない。むしろユーモラ
スに描かれている。子供ができないヨゼフとマリエの夫婦は、2人で慎ましく
暮らしていた。ある日以前親しくしていたユダヤ人一家の息子ダヴィドが家に
逃げ込んでくる。収容所から脱走してきたのだ。家族は恐らく死んでいると言
う。ヨゼフとマリエは家の貯蔵庫に彼を匿うことにする。だがこの家にはヨゼ
フの友人でナチスシンパのホルストがしょっちゅう出入りするのだった。しか
も彼は妻子がありながらマリエに好意を持っていた。ヨゼフは表向きはナチス
協力者のふりをしてホルストと付き合っている。
登場人物たちのキャラクターがいい。子供ができるように聖母マリアに祈るマ
リエ、そんなことをしても無駄だと言うヨゼフ。知的なダヴィド。ヨゼフの前
でもマリエにベタベタするホルスト。だが皆戦争の中一生懸命に生きているの
だ。それは町の人々も同様である。この映画は、人間がとても愚かしく、でも
おかしく、愛すべきものだということを描いている。子作りの方法なんて、ヨ
ゼフが寛容を通り越して笑えた。あんなことがあるだろうか。ホルストがやっ
てくる度にヨゼフとマリエがハラハラしているのもおもしろい。
終盤で、ナチス協力者として捕らえられたホルストを、ヨゼフが医者だと名指
しする場面は感動的だった。ヨゼフの必死な姿が胸を打つ。本当にこの映画は
名作だと思う。いろんな映画賞を受賞している。ラストシーンも爽やかで感動
的だ。人々のささやかな生活をユーモアを交えて描いた素晴らしい人間賛歌で
ある。



良かったらこちらもどうぞ。ヤン・フジェベイク監督作品です。
幸福の罪



大好きなア・ラ・カンパーニュのタルト






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恋恋風塵

2019-10-24 22:01:06 | 日記
1987年の台湾映画「恋恋風塵」。

1960年代の終わりの台湾の山村。幼い頃から兄妹のように育った中学3年生の
少年アワン(ワン・ジンウェン)と中学2年生の少女アフン(シン・シューフェン)。
アワンは中学卒業と共に台北に出て、働きながら夜間高校に通う。1歳年下のア
フンも1年遅れて台北に出る。台北で働く2人は、強い絆で結ばれ、慣れぬ都会
暮らしの中お互いに助け合いながら、お盆の里帰りを何よりも楽しみにしてい
た。やがて時が経ち、お互いを意識し始めた2人だったが、アワンは兵役に就く
ことになる。アフンはアワンに毎日手紙を書くことを約束する。

ホウ・シャオシェン監督の瑞々しく切ない青春ラブストーリー。幼なじみの中
学生アワンとアフンは田舎で兄妹のように育った。やがてアワンは卒業し、台
北に働きに出て夜間高校に通う。1年遅れてアフンも台北に出る。アフンは洋裁
の仕事に就き、アワンは印刷所で働いていたがそこを辞め、オートバイでの配
達の仕事を始める。それぞれ友達もでき、皆で食事をしたりと慣れない都会暮
らしの中でもそれなりに楽しい日々を送る。だがアワンとアフンがお互いを意
識し始めた頃、アワンの元に兵役の通知が届く。
とてもピュアな青春映画だ。特に何も起きないので、観る人によっては少し退
屈になるかもしれないが、私は好きなタイプの映画である。山村や都会の片隅
の情景がいい。田舎の山の景色も、都会のネオンが輝く景色も、どちらもいい
のだ。何だか懐かしい気持ちになってくる。台北に出たアワンやその友人たち
はよくタバコを吸ったりビールを飲んだりしているのだが、台湾では10代でも
喫煙や飲酒は構わないのだろうか。それとも大人の真似をしているだけなのだ
ろうか。
アワンの祖父もいい味を出している。畑仕事をし、ちょっとおっちょこちょい
で、親切なおじいさん。ラストでアワンと祖父が語り合うシーンも好きだ。田
舎でも都会でも人々の関係が繊細に描かれていて、とてもいい映画だと思った。
アワンが兵役に就いている間のエピソードも、本当に何でもないのだが、若者
たちの日常の描写が良かった。でも兵役ってやっぱり暗い影を落とすものなの
だなあ、と思った。台湾の青春映画ってどうしてこんなに心に染みるのだろう。



良かったらこちらもどうぞ。ホウ・シャオシェン監督作品です。
ミレニアム・マンボ
フラワーズ・オブ・シャンハイ




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それでも夜は明ける

2019-10-19 22:24:56 | 日記
2013年のアメリカ・イギリス合作映画「それでも夜は明ける」。

1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認め
られた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモン・ノー
サップ(キウェテル・イジョフォー)は、妻子と共に幸せな生活を送っていたが、
ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオリンズに売られてしま
う。狂信的な選民主義者のエドウィン・エップス(マイケル・ファスベンダー)ら
白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を
失うことはなかった。やがて12年の月日が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤
廃を唱えるカナダ人労働者サミュエル・バス(ブラッド・ピット)と出会う。

南部の農園に売られた自由黒人のソロモン・ノーサップが、12年間の壮絶な奴隷
生活を綴った伝記を基にした映画で、第86回アカデミー作品賞を受賞した。自由
黒人のソロモン・ノーサップは、バイオリニストとして妻子と暮らしていたが、
ある日白人たちに騙されて奴隷として売られてしまう。彼は材木商のウイリアム
・フォード(ベネディクト・カンバーバッチ)に購入されるが、フォードは信仰深
く温和な性格で、ソロモンに目をかける。しかしそれを妬んだ農園の監督官ジョ
ン・ティビッツ(ポール・ダノ)に嫌がらせを受け、木に吊るされる。ソロモンの
命の危険を感じたフォードは、彼をエップスに売るが、エップスはフォードと違
って残忍な性格だった。
自由黒人や自由証明書といった言葉を私は知らなかった。ソロモンは妻子持ちで
比較的裕福な暮らしを送っていたようだ。当時の黒人にしては読み書きもできて
教養も高かった。ところが白人に騙されて奴隷として売られ、12年間も過酷な目
に遭うことになる。エップスは気に入らないことがあると奴隷を鞭で打つような
残酷な男だった。奴隷制度というのは何故できたのだろう。人間が人間を奴隷に
するなんて。当時の黒人は人間扱いされていなかったのだろうけれど。もっとも
大昔から白人の奴隷も存在していた。奴隷制度は人間の人格を侵害するものだ。
どれほど多くの人たちがその尊厳を踏みにじられてきたのだろう。
ソロモンは苦労の中でも希望を失わなかった。そしてカナダ人のバスに出会った
ことで運命が変わるのだ。これが実話だと思うと、胸が痛くなる。ソロモンの12
年間は返ってはこないのだ。何も悪いことなどしていないのにこんな過酷な目に
遭った人がいるなんて、本当に理不尽である。ソロモン役のキウェテル・イジョ
フォーや悪役のマイケル・ファスベンダーの演技も良かった。ラストはとても感
動的。おもしろかった。




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シークレット・ウインドウ

2019-10-14 22:18:39 | 日記
2004年のアメリカ映画「シークレット・ウインドウ」。

売れっ子作家のモート・レイニー(ジョニー・デップ)は、妻との離婚問題が
遠因でスランプに陥っていた。そんな彼の前に、「自分の作品を盗まれた」
とモートの盗作を告げる謎の男ジョン・シューター(ジョン・タトゥーロ)が
現れる。盗作したことを世間に公表しろ、と執拗な嫌がらせを受けるうち、
周囲で不可解な事件が続発し、モートは精神的に追い詰められていく。

スティーヴン・キングの小説「秘密の窓、秘密の部屋」の映画化。妻と別居
中の売れっ子作家モート・レイニーの前にジョン・シューターという男が現
れ、モートが自分の作品を盗作した、盗作を世間に公表しろと言う。最初は
相手にしないモートだったが、シューターが置いていった原稿を何気なく読
むと、それはモートの小説と結末が違うだけで、後はすっかり同じだった。
愕然とするモート。それ以降シューターはモートの前に度々現れるようにな
り、ある日モートの愛犬が殺される。モートはやがて、事件の黒幕は妻の新
しい恋人なのではないかと思うようになる。
原作は未読だが、なかなかおもしろかった。だが、オチが途中で読めてきて
しまうのが残念。でもそれでもラストはゾッとした。モートの犬が殺され、
知り合いが殺され、妻の家が放火され、盗作ではないという証拠の雑誌も焼
失してしまう。スティーヴン・キングらしい不穏な雰囲気が漂っていて引き
込まれる。キングの不気味な世界にジョニー・デップの演技がよく合ってい
たと思う。
結構おもしろかったのだが、これはやっぱりジョニーを見る映画。とにかく
かっこいい。髪型や眼鏡も似合っていたし、終盤の狂気に満ちた演技も良か
った。
ネタバレになってしまうかもしれないが、私はこの手の映画では「殺しのド
レス
」「エンゼル・ハート」「マシニスト」が特に好きである。




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ギルティ

2019-10-07 22:03:02 | 日記
2004年のドイツ・オーストリア合作映画「ギルティ」。

スウェーデンの閑静な別荘地で残虐な殺人事件が発生する。被害者は元刑事
で、引退して隠居していた男性だった。地元の刑事ジュセッペ(マシュー・
マーシュ)は捜査を開始するが、被害者と以前相棒を組んでいたという刑事
ステファン・リンドマン(トビアス・モレッティ)も管轄外ながら独自の捜査
を始める。被害者の娘ヴェロニカ(ヴェロニカ・フェレ)も駆けつける。ステ
ファンはやがて、被害者が第2次世界大戦中にナチスの親衛隊であった事実
を知ることになる。

スウェーデンを舞台にしたサスペンス・ミステリー映画。別荘である日老人
が惨殺される。彼は引退した元刑事だった。彼と昔相棒を組んでいた刑事ス
テファンは、管轄外だが捜査を始める。犯人の顔は最初から写っており、観
ている方にはわかるのだが、犯行の動機や理由はわからない。ステファンや
地元の刑事ジュセッペの捜査にも関わらず犯人像は浮かび上がってこない。
やがて第2の殺人事件が起きる。
ヨーロッパ映画らしい物語だと思った。被害者の元刑事は昔ナチスの親衛隊
で、改名していた。そしてステファンに何かを伝えようとしていた男も殺さ
れる。ナチスの亡霊たち(と言っても生きた人間だが)は今も存在しているの
である。ネットワークは続いているのだ。これからもこういう事件は起きる
のだろうと思った。
犯人役を名優マクシミリアン・シェルが演じているが、やはり素晴らしい演
技だった。ステファンとジュセッペの友情、ステファンの病気や家庭の問題
など、描写が良かった。ただ、ステファンが病気だという設定は必要だった
のだろうか。物語の中で生かされておらず、いらなかったのではないかと思
った。淡々と進行する地味な物語だが、正統派の刑事ドラマという感じでな
かなかおもしろかった。



gramのふわふわパンケーキ。おいしかった
(指が入ってしまった)



こちらはティラミスパンケーキ。






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