猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

幻滅

2023-05-04 21:57:10 | 日記
2021年のフランス映画「幻滅」を観に行った。

19世紀前半。恐怖政治が終わり、フランスは宮廷貴族が復活し、自由と
享楽的な生活を謳歌していた。文学を愛し、詩人として成功を夢見る田舎
の純朴な青年リュシアン(バンジャマン・ヴォワザン)は、彼を愛する貴族
の人妻・ルイーズ(セシル・ド・フランス)とパリに駆け落ちする。だが、
世間知らずで無作法な彼は、社交界で蔑まれ笑いものにされる。生活のた
めに何とか新聞記者の仕事を手にしたリュシアンだったが、先輩格で世渡
りのうまいエティエンヌ・ルストー(ヴァンサン・ラコスト)に「金のため
なら魂を売らないといけない」と言われる。先輩や同僚たちに感化された
リュシアンは、当初の目的を忘れ欲と虚飾と快楽にまみれた世界へと堕落
していく。

フランスの文豪オノレ・ド・バルザックの「人間喜劇」の1編、「幻滅-
メディア戦記」を映画化。アングレームの薬屋の息子であるリュシアン・
シャルドンは、詩人として成功することを夢見ていた。アングレーム社交
界の女王であるルイーズ・ド・バルジュトンは彼の才能を認め、支援をし
ていた。リュシアンは貴族として振る舞うように、母方の名字「ド・リュ
バンプレ」を名乗っていたが、やはり貴族になり切れる訳ではない。文芸
に関する興味が希薄な田舎の社交界を抜け出し、リュシアンとルイーズは
パリに駆け落ちする。だが結局ルイーズは庶民の出であるリュシアンの貧
しさと未熟さに愛想を尽かす。
リュシアンは彼のことを知っている者には「薬屋の息子のくせに」と見下
される。ただ1人、文壇の期待の新星と呼ばれる作家のナタン(グザヴィエ
・ドラン)だけが彼に共感を示した。金に困ったリュシアンはビストロで
給仕の仕事を見つける。そこで知り合ったジャーナリストのエティエンヌ
にリュシアンは自分を売り込む。芸術を批評する仕事に憧れるリュシアン
にエティエンヌは「俺の仕事は株主を裕福にすること。この世界では人に
恐れられるか、無視されるかだ」と言う。
エティエンヌに気に入られ、出版社の大物、ドリア(ジェラール・ドパル
デュー)が主催する会に連れて行かれるが、そこにはナタンも来ていた。
エティエンヌに仕向けられ、リュシアンはつい、ナタンの新作を読んでも
いないのに酷評し、彼を傷つける。王党派に対する自由派の新聞の編集者
は、広告主へのへつらいと、どぎつい文体で論争を起こし世間の注目を煽
ることしか頭になかった。覚えのいいリュシアンは、早速ある大衆演劇の
批評を頼まれる。その劇に出演していたまだ10代の女優、コラリー(サロ
メ・ドゥワルス)と恋に落ちたリュシアンは、彼女と一緒に暮らすように
なる。当時の女優は売春婦あがりだったり、売春婦を兼ねていたりしてい
たようだ。
自由派の新聞「コルセール・サタン」紙でエティエンヌが編集長を務める
元、リュシアンはでっちあげの記事を書き続ける。その胸には、彼のこと
を見下した貴族たちへの復讐が渦巻いていた。200年も前の物語とは思え
ないほど、違和感がなく、現代に通じるものがある。各新聞社のメディア
戦略やフェイクニュースや読者を惹きつける煽り。こんなに昔からマスメ
ディアの嘘や虚飾は横行していたのだ。リュシアンは詩人としては成功し
なかったが、新聞の批評家としては成功した。でもそれはリュシアンと恋
人のコラリーの人生を堕落させるだけだった。
貴族の衣装や社交界の様子や室内の装飾品などは素晴らしかった。ラスト
近くでナタンがリュシアンに「僕はずっと君のことを友達だと思っていた
よ」と言うシーンは良かった。そして、これからリュシアンはどうなるの
だろう、と思わせられるラストシーンもとても良かった。バルザックは読
んだことがあるが、この「人間喜劇」は未読である。200年後にも通じる
物語を書いたバルザックはやはり天才だったのかな。



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コメント (2)
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