サリンジャーの戦争体験を生かした作品群のうちのひとつです。
戦争映画(ハンサムな主人公がカッコよく死んで、きれいな恋人や市長や時には大統領までが出席している盛大な葬式が執り行われます)がいかに嘘っぱちで、実際のヒーローは、ぶさいくで背が低くて声も悪く、まわりから少しもヒーロー扱いされず、特に女の子には絶対にもてないタイプだと、強く主張します。
18歳だと偽って16歳で入隊して、まわりのタフそうな大人たちに囲まれて、途方に暮れていた新兵だった主人公に優しくしてくれたそんなもてないタイプだった上官(その時は見習曹長で、後に戦死する時には曹長に昇進しています)の死を告げた手紙を、妻に読んで聞かせます。
曹長は、下着姿で泣いている少年に、ハンカチにくるんであった自分のたくさんの勲章(中には、少年でも知っているようなすごい勲章もありました)を下着のシャツに全部つけさせて、その上に上着を着させると、まだ外出許可がもらえない少年のために、あっという間に外出許可を取ってくれて、映画(チャップリン物)とレストラン(自分は少しも食べずに、少年にたらふく食べさせてくれます)へ連れて行ってくれます。
その時、曹長は手ひどい失恋中(好きだった赤毛の女の子(映画館で偶然出会ってしまいます)が他の奴(おそらくハンサムなかっこいい男)と結婚してしまったばかりです)だったにも関わらず、少年にやさしくしてくれたのでした。
曹長は、日本の真珠湾攻撃の時に、無謀にも食堂の大型冷蔵庫に隠れてしまった二等兵三人を、みんながとめるのも聞かずに安全な退避壕から出ていってて救った時に、ゼロ戦に機銃掃射されて無残な姿で戦死します。
サリンジャー自身は、著書の写真で見るように長身でハンサムな、ホールデン・コールフィールド(「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(その記事を参照してください)の主人公)のように女の子たちにもてたようなのですが、こうした女の子たちには絶対もてない、でも「男の中の男」のような登場人物(例えば、「笑い男」(その記事を参照してください)の団長)が大好きなようです。
この作品では、さらに仕掛けがあって、こうした話を聞いて泣いてくれるようなありきたりでない女(妻のこと)と結婚するべきだと強く主張して、男性読者たちを二重にしびれさせます。
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サリンジャー選集(2) 若者たち〈短編集1〉 |
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荒地出版社 |