現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

井上乃武「「批評性」と「文学性」」

2019-02-20 08:57:54 | 参考情報
 日本児童文学学会の第51回研究大会で、発表された研究発表です。
 ナンセンスファンタジー作家の小沢正が、1966年に書いた「ファンタジーの死滅」(その記事を参照してください)という論文と、彼の代表作『目をさませトラゴロウ』におけるファンタジー観の問題について考察しています。
 発表者は、ファンタジーを現実の対応物と考えることに、違和感があるそうです。
 また、この発表では、テーマと異なるキャラクターの動きについても考えてみたいと思っているそうです。
 発表者が、小沢正の「ファンタジーの死滅」という評論に興味を持ったのは、その中に出てくる未完成という言葉からです。
 「ファンタジーの死滅」では、「子どもを発見したからこそ、ファンタジーが発生した」と主張していると、発表者は述べています。
 そして、「子ども」も「ファンタジー」も、近代あるいは近代が生み出した諸制度によって規定されているとしています。
 レジュメで引用した岡田淳のファンタジーは、小沢のファンタジー論の影響を受けていると、発表者は言っています。
 発表者の発表に対する熱意は伝わってくるのですが、時間配分ができてなくてすごく早口にレジュメを全部話そうとして、けっきょく尻切れトンボに終わってしまいました。
 質疑のときに発表出来なかった部分も触れられるように助け舟を出したのですが、その意図も理解できなかったようで答えもまとまっていませんでした。
 レジュメも、先行論文をよく調べてあって力作なのですが、小沢の論文や作品およびいろいろな先行論文からの引用が多く、発表時間に対してあまりにも長すぎてまとまりがありません。
 レジュメとは別に、発表用に要点をパワーポイントでまとめて説明するなどの工夫が必要だったと思います。
 以下は、レジュメの内容です。
1.はじめに
 岡田淳の「扉のむこうの物語」を引用して、「未完成」というタームを強調しています。
2.「ファンタジーの死滅」の概要
A.ファンタジーの由来(その背景)もしくは「子どもと文学」批判
B.「一つが二つ」論・<一つの物を二つにする機械>について
C.ファンタジー小説の限界(と可能性)について
3.「ファンタジーの死滅」の問題
A.「ファンタジーの死滅」についての言及
B.「子どもと文学」をめぐる問題
C.時代状況の影響
D.「まちが かわる日のうた」(注:「小沢の代表作「目をさませトラゴロウ」の巻末に掲げられた歌です)の解釈
E.テクスト内在的なファンタジー児童文学の可能性
4.「目をさませトラゴロウ」の問題
A.初出時の収録作品
B.前提としての「自己同一性」「子どもの自立性」というテーマが存在
C.「はじめに」の問題
D.「一つが二つ」
E.「食う」ことによる自己同一性イデオロギーの破壊
F.「目をさませトラゴロウ」の問題
5.ファンタジー児童文学の可能性について
6.おわりに――いぬいとみこ「木かげの家の小人たち」をめぐる二通りの空想
A.「小人たちの物語」へ:天沢退二郎「二つの掟――いぬいとみこ作『木かげの家の小人たち』論――」
B.「人間たちの物語」へ:長谷川潮「小人像は中途転換した」
「まちが かわる日のうた」
 発表者があげてくれた先行論文は、それぞれ重要なものばかりですので、非常に参考になりました。

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