現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

宮沢賢治「序」注文の多い料理店所収

2020-09-20 09:04:12 | 作品論

 大正十二年十二月二十日に書かれた、賢治が生前に発行した唯一の童話集の序文です。
 ここに書かれているのは、賢治がどのように作品の発想を得て、それを作品に仕上げて、それらの作品を読者に読んでもらった時に何を願っているかが、非常に素直に書かれています。
 作品の発想は自分の周辺に広がっている自然や社会から得て、それらをできるだけそのままに素直に作品に仕上げ(あるいは書かざるを得なくなり)、読者にとってそれらが何らかの役に立つことを心から願っています。
 本来の児童文学者ならば、誰もがこのような姿勢で、創作に取り組むべきでしょう。
 しかし、現実の児童文学の世界を眺めてみると
「本を出したい」
「本を売りたい」
 そういった、本来ならば二次的な創作の動機を前面に出して執筆している児童文学の書き手がなんと多いことか。
 その一方で、この序文を読んでみると、これ自体が一篇の非常に優れた作品であることにも気づかざるを得ません。
 そして、「詩心」とか、「童話的資質」といった、努力だけではどうにもならない事にも、同時に気づかされてしまいます。
 それは、以下に引用する末尾の文章だけでも明らかなことでしょう。
「けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。」
 

注文の多い料理店 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社

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