現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

青春デンデケデケデケ

2024-05-11 10:44:37 | 映画

 1991年に直木賞を受賞した芦原すなおの青春小説(その記事を参照してください。現在でしたら、児童文学のヤングアダルト物にジャンル分けされるでしょう)を、大林宣彦が監督した1992年の映画です。
 1965年の3月の高校入学前の春休みから、1968年2月の大学受験のために上京するまでの、丸々3年間の高校生活を、エレキバンド(リードギター、サイドギター、ベース、ドラムという非常にオーソドックスな構成です)結成から文化祭での演奏会までを、きっちりと描いています(メンバーを集めて、バイトで楽器を買い、練習場を確保し、合宿へも出かけます)。
 原作もそうですが、登場人物は、主人公を中心とした4人のバンドメンバーを初めとして、技術サポートしてくれるエンジニア志望の友だちや応援してくれる女の子たちなどの高校生たち、メンバーの家族や先生などの彼らを支えてくれる大人たちまで、かなり風変わりな人もいますが基本的にはみんないい人たちで、一種のユートピア小説の趣があります。
 日本が高度成長時代で、まだ現在よりも未来の方が良くなると信じられたころなので、こうした青春時代は一種の通過儀礼のようなもので、多くの人たちの共通の想い出ととして残っています。
 私は、主人公たちよりも5年遅い1970年から1973年が高校時代なので、すでにエレキブームは去っていましたが、こういった雰囲気が日本中の至る所にあったことは、実体験として理解できます。
 映画化にあたって、原作者の望みどおりに、こうした地方都市を舞台にした青春映画(故郷の瀬戸内海を舞台にしたいわゆる尾道三部作(「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」)など)を得意にしていた大林宣彦が監督をしたので、原作の舞台である香川県観音寺市に長期ロケをして、地元の言葉や風物を生かした作品になっています。
 出演している男の子たちや女の子たちも、みんな当時の地方都市の普通の高校生のような子ばかり(新人が多かったようです)で、その後主役級の俳優になったのは白井清一役の浅野忠信ぐらいでしょう。
 一方で、大人の出演者は大林作品の常連の役達者がそろっていて、つたない(それが魅力なのですが)高校生たちの演技をしっかりサポートして、作品の完成度を高めています。
 原作の発表された1991年や映画化された1992年はバブル崩壊の真っ只中なのですが、人々の心の中にはまだまだ高度成長時代とそれに続く安定成長時代の雰囲気が続いており、そういった意味では、舞台になった1960年代の高度成長期とかろうじて地続きにあったので、私も含めて当時の読者や観客には受け入れやすかったのかもしれません。
 特に、地方都市である観音寺市は、バブルの影響も少なく、撮影当時も1960年代の雰囲気を多く残していたそうなので、その風景も魅力の一つだったと思います。

コメント
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