パナソニックの高級音響機器ブランド「テクニクス」が発売した1台160万円のレコードを再生するターンテーブルの売れ行きが好調だ。80万円の機種と合わせ、すでに100台以上売れた。往年の音楽ファンら中高年の富裕層を中心とする顧客だが、スマートフォンなどに音楽をダウンロードして気軽に楽しむ人が増える中、「耳だけでなく、肌でも音楽を感じられるのがスピーカーオーディオの魅力。テクニクスの音がさらに多くの人に届けば」と大きな期待を寄せている。(安田奈緒美)
© 産経新聞 提供 【ビジネスの裏側】160万円のターンテーブル テクニクスの最高位機種好調、肌で感じる音の力
かつては世界を席巻
「こんなに売れるなんて。それほど待ってくださっていたお客さまが多かったかと思うとうれしいですね」。こう話すのは、テクニクスの国内マーケティング担当の上松泰直さんだ。
昭和40年に誕生し、かつては世界を席巻したテクニクスブランド。看板商品となったのはレコードを再生するターンテーブルで、世界で累計350万台を売り上げ、ブランドを牽引(けんいん)した。
今年5月に発売されたターンテーブルの最高位機種「SL-1000R」(税抜き160万円)と「SP-10R」(同80万円)は発売後2カ月で計100台の受注を獲得。想定を大きく上回る売れ行きをみせた。
世界最高品質を実現
テクニクスは45年に、モーターで直接駆動する「ダイレクトドライブ」方式を世界で初めて採用した「SP-10」を発売した。従来品はモーターの回転をレコードが乗った皿の部分に伝えるのにベルトを使っていた。ダイレクトドライブ方式は直接駆動することで、回転し始めるまでの時間が短く、ベルトの摩耗もないのが特徴。より正確な回転を保つことで、高音質で音楽が聴けるようになった。
SP-10Rは、この世界初だったターンテーブルの復活版だ。また、SL-1000Rは、テクニクスブランドを統括するパナソニックの小川理子執行役員が「世界最高クラスのものが実現した」と胸を張るほどの出来で、往年のファンたちがこぞって飛びついた。
市場調査会社の富士キメラ総研(東京)の平成26年の調査によると、国内の音響機器市場はほぼ横ばいで推移している。その中でも好調なのは、ホームシアターシステムやヘッドホンなどで、1970年、80年代のオーディオ全盛期に主流だった音楽を聴くスタイルに必要なスピーカーやアンプなどは伸びていない。
ただ、テクニクスの上松さんは「スピーカーオーディオは耳だけでなく、肌で音楽を感じられるのが醍醐味。音の持っている力を、ヘッドホンから流れる音楽を聴くのになれた人にも楽しんでほしい」と訴える。
試聴用トレーラーも
テクニクスでは、実際に音を体験できる視聴室を東京と大阪に持つ。7月にはグランフロント大阪(大阪市北区)にある試聴室の来訪者が26年10月のオープン以来、5万人を突破した。
ターンテーブルからアンプ、スピーカー2台すべてをテクニクスの最高級モデルでそろえ、用意したレコード千枚とデジタル音源で、歌謡曲からロック、ジャズ、クラシックまで何でも聴かせる趣向。1日平均50人が訪れているという。5万人目の来訪者となった兵庫県尼崎市の男性(61)は視聴室の常連で「家では大音量で聴けないので、ここに来ては楽しんでいる。子供が独立したらリスニングルームを作りたい」と話した。
このほか、最高級モデルのセットを積んだテクニクス専用トレーラーも全国各地を走っている。音楽の聴き方が多様化する時代、テクニクスの挑戦が続いている。
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テクニクス 昭和40年、松下電器産業(現パナソニック)から生まれた高級音響機器ブランド。小型スピーカーからはじまり、高級オーディオ市場にも進出した。世界初のダイレクトドライブ式のターンテーブルは、音響機器ファンだけでなく、その精緻な機能で、DJらからも人気を集めた。一時期は電子オルガンなどもテクニクスブランドで発売、世界を席巻したが、市場の縮小などで平成22年に一旦、製品の生産を終了。愛好者の根強い人気もあり、26年に復活した。