豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

遭難救助の費用

2007年04月04日 | 遭難と救助について考える
ネットで遊んでいてたまたま遭難救助の費用について触れた記事を見つけました。


JANJAN
山岳遭難、そのコストは?


2004年の2月に起きた関西学院大ワンダーフォーゲル部14名の遭難で、どのような救助費用が掛かったのかについて書かれています。



最初は「ふ~ん」という感じで読んでいたのですが、救助に出動したヘリコプターの機数と回数、そして民間航空のチャーター料に換算した場合の費用について書かれているところを見て、「えっ?」と思ってしまいました。


該当部分を引用します。

取材で確認できた各機のフライト回数は、救助活動の主軸として動いた福井県機の9回と自衛隊機の6回。富山県機は3回。石川県機については2日の捜索期間中、それぞれ1日に一回と仮定すると計2回。これらを全て合わせた20回のフライト時間をそれぞれ1時間と見積もり、民間の時間あたりの相場を掛けると約1,000万円。行政主導で行った捜索活動のフライトが1回1時間で済むはずはないから、限りなく数千万円に近い金額となる。

引用終わり


14名の救出と言えばたしかに大きな遭難なのですが、それでもヘリコプター飛ばしすぎのように感じるのです。

大長山は福井と石川県の境なので福井・石川の両県が所有するヘリコプターが飛ぶのは理解できますが、富山の防災ヘリや自衛隊機なども飛んでいるのです。そのフライトの合計が、記事によると20回となっています。

この内容の遭難救助がもし長野や富山など山岳事故が多発する県で発生したとしたら、これほどあちこちの県や組織からヘリコプターを要請して飛ばすことはないような気がするのです。

何年か前の11月初めに小屋閉めした山小屋のスタッフら100名が大雪で下山できなくなり、天候回復後も雪崩の危険性が高まったためにヘリコプターがバンバン飛んだ例がありますが、この時だって県警と民間のヘリコプターだけでやっています。

また前述のヘリコプター出動回数を元に、これを仮に民間でやった場合の費用をはじき出していますが、そもそも前提が間違っていると思います。民間だったら商売ですので、チャーター料がちゃんと回収できるかどうかを検討しなければなりません。つまり遭難者が金持っていて払えるのか、払う意志があるのか、確認を取るはずです。

ですから、対策本部だけの判断でヘリコプターを好き放題飛ばし、料金の請求は遭難者やその家族、なんてことはできないはずです。



ネットでこの遭難についてちょろっと調べてみると、救助費用について総額2000万円だとか5000万円だとか、いろいろ概算が出てきます。で、この数字をもとに関西学院大ワンダーフォーゲル部を批判している記事を見かけます。しかし、本当にこれだけ費用が掛かるのか、そしてこれだけ大騒ぎしてヘリコプターを飛ばしたり、福井県知事が自衛隊員が出動するような内容の事故だったのかについて、検討している記事は見かけません。(あるのかもしれませんけど)

大長山での事故では現地に対策本部が設けられ、警察だけでなく消防や地元市役所の担当者が大勢詰めて対応していたようですが、職員の超過勤務手当などの費用も「救助のコスト」に含まれてしまっています。知事の命令で出動した自衛隊員の手当も同様です。

一方、私が関わっているような、ささやかなレスキューでは、地元の市役所が登場するなんてことはまずありません。地元警察地域課の担当者が1~2人、我々や県警航空隊、消防署と連絡を取ったりする程度です。少々大きな事故でも、変わらないと思います。

当時現地にいてつぶさに状況を見ていたわけではないので、こんな批判は的はずれなのかもしれませんが、もうちょっとコンパクトにやれたのではないかと考えてしまいます。


当時この遭難は大きく報道され、いろいろと批判があったように覚えていますが、こういった行政側の遭難救助の体制についても検討すべき時期に来ているような気がします。


この遭難については深く調査していないので、いつかパート2を書きたいですね。


関連記事

遭難救助の費用
遭難救助の費用 その2
遭難救助の費用 その3
遭難救助の費用 その4


↑この記事が参考になる、面白い!と思ったらクリックしてください。ランキングサイトです。