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レーダー照射問題・技術解説

2013-04-24 13:54:59 | 軍事
「射撃管制用レーダーを「照射してない」とシラを切れるのか?

防衛省技術研究本部 元・射撃管制研究室長の外園博一総務部長に聞く

酒井 康治

今年1月30日、中国の艦船が日本の護衛艦に向け「照射した」ことによって、にわかに注目を浴びることとなったキーワード、「射撃管制用レーダー」。その目的は、読んで字のごとく相手に狙いを定め、攻撃を加える態勢を整えること。しかし中国側は、いまだそのレーダーの照射自体を認めていない。テクノロジー勝負の高度な“電子戦”が日々繰り広げられている時代、3キロといわれる至近距離での照射について、“シラ”を切ることはできるのか。防衛省技術研究本部の元・射撃管制研究室長で、現・総務部長の外園博一氏に、射撃管制用レーダーの“正体”について聞いた。
(聞き手は森永輔、酒井康治)

(外園博一(ほかぞの・ひろかず)
防衛省技術研究本部総務部長(工学博士・電気工学専攻)。1957年生まれ。80年慶応大学工学部電気工学科卒業、83年同大大学院理工学研究科電気工学専攻修士過程修了、92年同大大学院理工学研究科電気工学博士課程修了。81年4月防衛庁技術研究本部入省、同年8月同本部第3研究所、94年装備局開発計画課、96年同局航空機課誘導武器室等を経て、98年4月技術研究本部第3研究所射撃管制研究室長。その後、技術研究本部第2研究所センシングシステム研究室長、防衛省技術研究本部企画部企画課長、同省経理装備局システム装備課長、同局技術計画官、同省技術研究本部航空装備研究所システム研究部長等を経て、2011年8月現職)

中国の艦船から海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に向けて「射撃管制用レーダー」が照射されたという報道があり、緊張が走りました。中国側の主張は「照射していない」ということですが、その真偽を判断するには、「射撃管制用レーダー」がいかなるものなのか、その“正体”をもう少し詳しく知る必要があると思います。

外園博一部長(以下、外園):それではまず、「レーダー」がどういうものかについて説明しましょう。簡単に言うとレーダーというのは、指向性を持ったアンテナから電波を放射し、その方向にある物体から反射された電波をアンテナで受信することで、その物体までの方位と距離を測定する装置です。「Radio Detection and Ranging」を略して「Radar」と呼んでいます。測定できるのは方位と距離ですが、3次元で見るので高さも測れます。電波は光速で進みますから、行って返ってくる時間に光の速度をかけて2で割れば、目標物までの距離が分かります。方向は機械式の回転するアンテナであればその向きで、電子式のアンテナであれば電波を出した向きによって電気的に分かります。


軍用レーダーで使うのは「光波」と「電波」

いわば電波のキャッチボールみたいなものですね。そうなると、どんな「球」を投げるのか、つまり電波の種類がポイントとなってきます。

外園:ええ、その通りです。我々が軍用として扱うのは電波と光波の2種類です。どちらも電磁波ですが、それぞれ「波長」という波の長さによって分類されます。名前から分かるとおり、波長には長いものから短いものがあり、短い方は例えば赤外線や可視光のような光の領域になります。その電磁波を出す方式と受ける方式が、電波と光波では大きく違います。光の場合は蛍光灯やランプ、あるいはレーザーのような方式で発光させ、基本的に鏡やレンズで入ってくる光を集めます。一方、電波は送信装置を使って放射し、アンテナで受けます。このようにエンジニアリング的に構成が異なるので、我々は光波と電波を大別して考えています。

 そこで波長ですが、長いものは主に通信、そしてラジオ放送やテレビ放送といった用途に使われます。そして比較的波長が短くなってくると、レーダーのような用途にも使われるようになります。さらに電波を軍用に絞って見ていくと、一般的に使われるIEEE(米国電気電子学会)の呼称で、周波数ごとに「L帯(1G~2GHz)」「S帯(2G~4GHz)」「C帯(4G~8GHz)」「X帯(8G~12.5GHz)」「Ku帯(12.5G~18GHz)」「K帯(18G~26.5GHz)」「Ka帯(26.5G~40GHz)」というふうに分類されます。その中で、レーダーは主に「L」から「Ku」辺りの帯域を使用しています。


目的は「目標の方向と距離を正確に捉えること」

なぜ、レーダーはそうした帯域を使うのですか。

外園:電波の性質から判断して、この辺りの波長が小さな目標の方向と距離を正確に捉えられるというのが一番の理由です。通信を行うだけなら目標に届けばいいのですが、レーダーの場合は物体からの反射を捉えないといけません。また、距離と方位と高さを探るには、比較的波長が短い方が捉えやすいのです。

波長が10メートルとか長くなると、目標物を通り越してしまうとか……。

外園:「回折」といって電波が回り込むような現象が起こります。例えば、東京タワーから送信されたテレビ電波は、東京タワーが見えなくても届きますよね。あの電波も反射はあるのですが、テレビ電波は障害物を回り込むので遠くの家でもテレビが映るのです。また短波を使えば地球の裏側と通信できるのですが、それは上層部にある電離層に反射するくらいの長さの波長だから可能なのです。この回折や電離層での反射という現象は通信にとってはいいのですが、レーダーで使用すると「これはどこから返ってきた電波なんだ?」ということになってしまいます。

 さらに波長は届く距離にも関係してきます。長くなれば遠くまで届きますし、短いと届く距離が短くなります。大気中には様々なチリや雨滴、雲、霧などが存在し、ちょうどそれらの粒子のサイズと同じくらいの波長の電波がぶつかると、そこで「散乱」という現象が起こります。その結果、電波があちこちに飛んでいってしまうので、短い波長の電波は遠くまで届かなくなるのです。逆に10メートルのような長い波長の電波では、そんな大きなチリなどは浮かんでいませんからね。雲の粒子も結構大きいのですが、長い波長だと通り抜けます。しかし、短い波長だと粒子にぶつかって通り抜けにくくなります。ほかにも電波や光波には「吸収」という現象もあるので、大気中の粒子だけですべてが決まるわけではないのですが、ごく大まかな考え方として、このように捉えていただければと思います。

届く距離や直進性などを考慮して、目標物を正確に捉えるのに最適な波長の電波をレーダー用として選んでいるわけですね。

外園:はい。全般的に比較的短い波長のものがレーダー用として使われます。さらにレーダーの中でも、目的に応じて周波数帯が変わってきます。民間利用だと航空路を監視するものや、船舶レーダー、おなじみの気象レーダーなどがあります。最近では波長の短いミリ波を使った、自動車の衝突防止用レーダーなどもあります。これは「V帯」辺りの電波を使っています。前方車両との衝突防止なので、それほど遠くまで届かせる必要はありませんから。

「X帯」と「Ku帯」「Ka帯」のところに、「ミサイルシーカー」というのが出てきますが。

外園:ミサイルシーカーというのは射撃管制用レーダーとは違って、ミサイルに搭載した光波もしくは電波のレーダーのことで、「ミサイル誘導装置」とも呼んでいます。これで目標までの距離と方向を把握し、ミサイル自身で目標を追いかけることができます。シーカーも含めて、我々が研究開発の対象としているのは、主に「L帯」から「Ka帯」になります。


射撃管制用レーダーで使用する電波の周波数

電波とレーダーの概要が分かったところで、いよいよ射撃管制用レーダーとはいかなるものなのか、説明していただけますか。

外園:ご承知の通り、その目的は射撃を行うため、正確に目標を捉えることです。電波としては、比較的波長の短い「S帯」「C帯」「X帯」辺りを使います。弾やミサイルを撃つための情報を得るレーダーですから、捉えなければならない距離がある程度長くなるので、ミサイルシーカーよりも電波の波長は長めになります。

射撃管制用レーダーの中で、「L帯」や「S帯」「X帯」といった周波数の使い分けはどうなっているのですか。

外園:一般論ですが、「L帯」や「S帯」は比較的遠くまで見渡すことができますが、我々が「分解能」と呼ぶ方位や距離を正確に捉える能力は、「X帯」に比べて悪くなります。これらは目的に応じて、どれを搭載するか変わってきます。

 もう1つ大きなポイントが、アンテナのサイズです。同じ利得(アンテナから得られる電波の強度)を得ようとした場合、波長の長い方がアンテナが大きくなります。ですからミサイルシーカーなどは、より正確に目標を捉えるという目的もありますが、小さなアンテナで済む短い波長の電波を利用します。仮に「S帯」のアンテナをミサイルに積もうとしても、ミサイル自体を大きくしなければならず、現実的ではありませんね。

1つの艦船は、波長の異なる射撃管制用レーダーをいくつも搭載しているものなのですか。

外園:射撃管制用レーダーの場合、艦によって種類が異なるのが一般的です。1つの艦がやみくもに「S」「C」「X」の3種類のレーダーを全部搭載していることはないと思います。レーダーのためだけに艦が存在するわけではありませんから、管制対象の武器システムに応じて最適なものを搭載するという考え方が基本です。しかし、射撃管制用レーダーも進化しています。新しいものだと遠距離は「C」で見て、近くや低空などを「X」で見るといった使い分けをしています。ただしこれだけ帯域が異なると、1つのアンテナや送信装置ですべてをカバーするというわけにはいきませんから、アンテナなどは周波数ごとに別のものを搭載することになります。

 アンテナや電波の送受信装置は別ですが、入ってきた信号の処理は同じ装置で行うケースが増えてきています。あくまで射撃管制“用”レーダーですから、それだけでは射撃管制はできません。レーダーで得られるのは目標の位置情報だけなので、そのデータを後ろの「コンバット・ディレクション・システム(戦闘指揮統制システム)」に入力し、そこが最適な射撃管制を実施する、という流れになります。

 これで対艦も対空も両方対応しています。ちょうど海上から空に向けた半球の空間を探索するような格好ですね。またミサイルだけでなく、シーカーを搭載していないロケット弾についても射撃管制は行います。

これで、どれくらいのエリアを監視することができるのですか。

外園:艦船が搭載する艦対空ミサイル場合、例えば「エリアディフェンスSAM(Ship-to-Air Missile。地対空ミサイルの場合はSurface-to-Air Missile=艦隊防空ミサイル。広範囲に展開する艦隊全体を守るため、射程距離が長い)」とか「ポイントディフェンスSAM=個艦防空ミサイル(各艦が個別に自衛のために使用するので、比較的射程距離は短い)」などで違ってきますが、射程距離が長いものだと数十キロメートルから約百キロメートルあります。ですから、それ以上の範囲を射撃管制用レーダーもカバーしています。

レーダーを照射されれば「それは分かります」

さて、いよいよ核心に迫っていきたいと思いますが、この射撃管制用レーダーで使用している周波数帯、波長というのは、世界の軍隊で共通なんですか。

外園:技術的合理性という面で考えれば、自ずとこの辺りの帯域に決まってくると思います。米国だけ違う、あるいは中国だけは別、ということはありません。仮に違いがあったとしても隣合う帯域で異なる、例えば日本が「C帯」で見ているところを、他国が「X帯」で見ているといった程度でしょう。その程度のズレはあるかもしれませんが、いずれにしても、何か別の目的でこの帯域の電波を使用するということはあまり考えられません。

ということは、射撃管制用レーダーを照射されたとしたら、技術的には明らかに「分かる」と考えていいですね。

外園:ええ、一般論で言えば分かります。

どんな周波数で照射されたかも分かると思うのですが、例えば「C帯」で照射されたとして、それが船舶用のレーダーかもしれませんよね。

外園:あくまで一般論ですが、射撃管制用レーダーかどうかを認識するポイントとしては、まず「波長」があります。そして電波の「当て方」です。射撃管制用レーダーはミサイルを正確に予想会合点(ミサイルと目標物が将来ぶつかる場所)に導くため、照射に「常続性」があります。つまり短い間隔で繰り返し電波を当て続けるわけです。船舶用レーダーの場合、頻繁に照射を繰り返さなくてもある程度の間隔で海上をざっと調べればいいので、常続性が大きく問われることはありません。あとは射撃管制用レーダーの信号処理が何種類かあるのですが、もう少し微細なパルスの当て方などを調べれば分かります。

 さらに各国の軍隊は相手がどういった電波を使っているのかデータを収集・分析していると考えられます。我々も電波に関して、そうした様々なデータを集めています。

そこまで調べ上げているのなら、「照射してないよ」とシラを切られれば、「何言ってんだ?」といった感覚でしょうね。


「射撃管制用レーダーを判別するポイントは、波長と電波の当て方。電波に関するデータ収集などの日頃の活動も重要です」と外園部長

外園:我々はその部署にいないので、そこはなんとも……。あくまで技術的な一般論という見地に立てば、「射撃管制用レーダーを照射されれば、分かります」ということです。当然、技術とは別に、オペレーション上、どのように判断するかということはあります。

撃たれるかもしれないという緊迫した状態、高度な判断を問われる状況下において、「この電波は何だろう?」というのはまず考えにくいですよね。

外園:繰り返しになりますが、技術的な一般論からいえば、射撃管制用レーダーを照射されれば、わかると思います。


「ロックオン」された状態だったのか?

よく「ロックオン」と言われますが、射撃管制用レーダーを照射されたことは、すなわちロックオンになるのですか。

外園:いいえ、それは違います。射撃管制用レーダーにはモードがいくつかあって、照射したからといって、即ロックオンというわけではありません。射撃管制用レーダーも最初は目標がいるのかどうか、「捜索」しなければなりません。その段階では先ほどの常続性はあまりなく、間欠的に広い範囲に電波のビームを振りながらスキャンします。そして目標を発見したら、それを精密に追尾しなくてはなりませんから、目標に対して集中的にビームを向けます。その結果、しっかりと目標の航跡を捉えられるようになった状態に移行したことを「ロックオン」と言うのです。

 現在のデジタル化された射撃管制用レーダーだと、捜索ビームを出しながら目標を追尾できます。捜索中に目標が発見されればレーダースコープに目印が示されますが、それは単に“いる”というだけです。その際、自動モードにしておけば、目標を発見した時点でそこにビームを集中し、追尾モードに切り替わります。目標を発見した場合、ロックオンするかどうかの勧告を出して、オペレーターが操作することもある(半自動モード)でしょうし、レーダースコープを見ている人が手動で目標にビームを集中させる(手動モード)といったこともあるでしょう。

 いずれにせよロックオンされたらシステムがどんどん動きますから、その先はすぐわずかです。発射勧告が上がり、受諾すれば弾が発射されます。

 逆に自分の艦が追尾ビームを当てられてロックオン状態になっていれば、そこに集中的に電波を浴びていますから、警告が出て、対抗手段を取れるような仕組みが出来上がっています。これはあくまでシステム上の話で、そこからの行動については、go‐no‐goの判断ということになります。

ロックオン状態ではなく、捜査用のビームでも照射されると「あっ、射撃管制用レーダーを出してるな」というのは分かりますか。

外園:それは分かります。こちらが照射する場合、電波は行って返っての2倍の距離なのでパワーも必要ですが、照射される場合は半分の距離で済みます。行って返っての電波を検知できるくらいの能力があって、それが半分でいいのですから、照射される方が分かりやすいのです。

今回、中国に照射されたというのは、ロックオンされたということでしょうか。

外園:状況からすると、そういうことなのでしょう。ただ、今回は距離が3キロメートルほどといいますから、相手を目視できるほどの距離ですよね。また、一般的に自分たちの電波も秘匿しないといけないので、“秘蔵っ子”のレーダーの電波の種類を探知されるように、そのような至近距離で出し続けるというのは、あまり考えられません……。そこはオペレーションの問題になりますが。

海上自衛隊が自動モードに設定しておけば、逆にこちらが中国の艦船に対してロックオンするということもあり得ますよね。

外園:実際にどういうモードがあり、どういう設定になっていたかは分かりませんが、自動ということであれば原理的にあり得ます。ただ、通常オーバーライト機能もありますから、違うと判断したらすぐに取り消せます。


大切なのは「レーダーリソース」の振り分け方


(インタビューは、防衛省技術研究本部 電子装備研究所 センサ技術研究部 レーダ研究室の平野誠室長も同席して行われた)

1つのレーダーでいくつのターゲットに同時にロックオンできるかというのは、その射撃管制システムの能力によるわけですよね。

外園:それについては秘中の秘です。現在のアンテナは機械式でぐるぐる回すのではなく、平面上にたくさんのアンテナを並べて電波のビームを出す方式なので、基本的には多目標捜索、多目標追尾となっています。

電波のビームの形状と言いますか、出し方はどうなっていますか。

外園:それはもう色々です。ビームの形は電子的に任意に作り出せますから。捜索の繰り返しをどれくらいの速さで行うかとか、目標をいくつ捉えたいかなど、状況によって様々に変わるのです。我々は「レーダーリソース」と呼んでいるのですが、これはレーダーの出力にレーダーの送信時間を掛けた数値で、ハードウエアの性能の最大値で決まります。このレーダーリソースをどう振り分けるか、どういうふうにビームを振って捜索するかがポイントとなります。例えばあるターゲットにこれくらいの時間照射して、こちらにはこの程度当てて……とやっていった総和がレーダーリソースです。これをどう割り振って捜索するかというのも、各国ノウハウがあります。

平野誠室長:レーダーリソースはレーダーの設計によります。前提として目標を捉えるには、十分な電波を照射しなくてはなりません。非常に遠くの目標を見るのに、短時間ピュッと電波を出しただけでは、弱い電波を少ししか受信できません。その場合はしばらく照射し続けて受信信号をかせがなければなりませんし、目標によっては短い間隔で集中的に当てないといけないケースもあるでしょう。

外園:レーダーリソースの割り振りについては相手の脅威目標、目標の距離や、動き、速さ、どれくらいの精度で予測するかなどを検討しながら設計します。最近はどれくらいの電波が返ってくるのか、つまりターゲットがステルスなのか非ステルスなのかについても考慮しなくてはいけません。ステルス機に対しては電波をたくさん照射しないと、返ってきませんから。この辺りをどう設計するかは、各国ともシステム開発者の腕の見せ所ですね。

 その一方で、レーダーリソースそのものを上げる研究も重要です。より強いパワーで、より連続的に照射できる送信器を作る技術についても、各国しのぎを削っています。さらに、「デジタルビームフォーミング」というのですが、どういう電波のビームの形状を作るかが大切です。民間の飛行機だと決められたルートを飛びますが、戦闘機の場合は突然現れて、次の瞬間、どこかへ行ってしまうこともあり得ます。そういった目標にきちっと電波を当てるために、デジタル処理で最適なビームを形成する必要があるのです。

日本ではレーダーはどのような企業が手がけているのですか。

外園:防衛の分野では東芝、NEC、三菱電機、富士通です。技術的には世界に冠たるものだと思います。


ステルス性能はどこまで上げれば完璧か?

先ほどのステルスですが、技術的にはどこまで進んでいるのでしょうか。

外園:防衛省技術研究本部では、戦闘機ではないのですが「先進技術実証機」という日本独自のステルス機を2009年から開発を始め、2014年の飛行実証を目指している段階です。

 一口にステルスと言っても、様々な技術の複合で難しいものがあります。まず、「電波吸収体」という、使用する素材や塗料などで電波を吸収してしまう技術があります。そして「形状ステルス」というのがあります。これは電波の反射を減らしたり、あらぬ方向へ反射させたりしてレーダーで捉えにくくするのです。そうは言っても航空機の場合、ただ電波の反射だけを考えて形状を決めては飛ばなくなります。空力性能を保ちながら、ステルス性のある形状にするのが難しいところです。航空機は外板の境目にリベットというびょうを打って留めるのですが、それだけでも電波を反射してしまいますから、製造段階から外板形状を含めて考える必要があります。

リベットみたいな小さなものでもマズいのですか……。

外園:局所的にはエンジンに空気を取り込むインテークなどは反射体です。内部でエンジンのファンが回っているので、電波をものすごく跳ね返します。その場合は「ステルスインテークダクト」と言って、ファンが見えないようにダクトを曲げて作る方法があります。そこに電波が入っても、反射した電波が外へ出ていけないようにするわけです。コックピットも、中は雑然としていますから、それらが電波を跳ね返してしまいます。ですから、風防にコックピット内部に電波を通さないような特殊な反射体をコーティングして、別な方向に反射させてしまうのです。このようにステルスは様々な技術をどう複合させるかがカギを握ります。

完全なステルス性というのは実現できないのですか。

外園:何をもって完全なステルスというのかにもよりますが、「ステルス性をどこまで高めればいいのか」ということが重要になると思います。

 まずステルス性が高いというのは、目標に近づかないと見つけられない、すなわちレーダーで探知できる距離が短いということですよね。その際、ステルス性を示す値としてRCS(Radar Cross Section=レーダー反射断面積。この値が小さいほどステルス性が高い)というのがあって、さらにレーダーの探知距離をはじき出す数式があるのですが、仮にRCSを10分の1に下げたとしても探知距離が10分の1になるわけではありません。探知距離はRCSの4乗根に比例するので、約6割弱程度にしかなりません。かなりがんばってステルス性を上げても、レーダーが探知できる距離はそれほど詰まりませんから、どの程度までステルス性を高めるかの見極めが大切ですね。

どこまで高めればいいのですか。

外園:どこまでいけばステルスは完璧かというのは難しいのですが、どの程度までレーダーで探知されるレンジを下げたいかということですよね。これがまた設計の妙ということになります。射撃管制用レーダーを相手に考えれば、ステルスによって「撃つ機会」が無くなればいいのです。要するに、もし発見されたとしても、発射までにかかる時間と、ミサイルが飛んでいく時間がありますが、その2つの時間までに射撃管制の網を抜けられればいいわけです。とは言え、相手の射撃管制用レーダーの能力と、射撃管制のやり方、ミサイルの性能などが複雑に絡み合ってくるので、最適な答えを導き出すのは一筋縄ではいきません。


“直径10センチの金属球”に匹敵する最新鋭ステルス戦闘機

ちなみに、ステルス機の性能はどこまできているのですか。


「ステルスに対して最適な答えを導き出すのは、本当に一筋縄ではいかないのです」
平野:米国の第5世代戦闘機「F-22」のレーダー反射断面積が、0.01平方メートルとか0.001平方メートルとか言われています。昔は1平方メートルを切るだけでも「ステルス機」と呼ばれていました。

それは、どれくらいすごいのですか。

外園:照射した電波が、見た目が0.01平方メートルの金属球から返ってくるのと同じくらいです。F-22は13~14メートルの翼があって、全長も20メートル近くありますが、それが直径10センチくらいの金属球が浮いているのと同程度だということになります。そんなのが遠くを飛んでいるのですから、優れたレーダーであってもいかに見つけにくいかということです。

それでは、まず見つかりませんよね。捉えるにはどうすればいいのでしょうか。

平野:電波の出力を上げて、ビームを目標方向に絞って集中させてしっかり見る。そうすると、見つかると言われていますが……。

外園:レーダーの送信パワーを上げるのはそう簡単ではありません。パワーはレーダーの素子に直結していますから、2倍にすれば値段も2倍になります。アンテナモジュールはかなり高価なもので、発熱もしますからなかなか大変です。

ステルス対策に何か決め手のようなものはあるのでしょうか。

外園:1つの考え方として、「バイスタティック・レーダー」というのがあります。これは、ステルス機に当たった電波は別の方向に跳ね返されるので、それを別の所にあるアンテナで拾うという発想です。つまり、電波を出す側と受ける側が異なるのです。通常は電波を出す側も受ける側も同じですから、「モノスタティック・レーダー」と言います。ステルス形状と言っても、正面からだと捉えにくくても、横から見ればもっと電波が返ってくるということもあります。バイスタティックなら、これを捉えることができると考えられています。ただ、我々も研究段階で実用化には至っていません。

バイスタティック・レーダーは何が難しいのですか。

外園:電波の信号処理は、ただ受信するだけではなく、ものすごく高い精度で時間や距離、自分の位置をつかんでおかないといけません。その上で、別のレーダーとの同期を取るのが難しいのです。互いのレーダーがばらばらな動きをしていたのでは、返ってきた電波を拾うことができません。遠くにいながら、送信側も受信側も同じ目標を見るような連携動作が重要です。さらに、通信量も膨大になりますからその処理もあります。

平野:「レーダーのネットワーク化」と言われていますが、考え方としてはあっても、世界で実現しているところはまだないと思います。それくらい難しいのです。

「矛盾」の例えではありませんが、現状、レーダー技術とステルス技術のどちらが進んでいるのですか。

外園:航空機のステルス技術のレベルは、レーダー技術とかなり拮抗していると思います。対抗手段をとらないと、従来のままでは対空戦闘は厳しくなるかもしれませんね。


軍用レーダーが目指す、3つの進化の方向性

今後、軍用のレーダー技術はどのように進化していくのでしょうか。

外園:まず1つ目が、アンテナの送信素子の高性能化です。ハイパワーで耐久性があり、高効率といった素子を目指しています。効率が悪いと発熱がすごく、どんどん冷却しなくてはなりません。空冷ならまだいいのですが、水冷式にするとかなり重くなります。素材としては、従来は主にガリウムヒ素(GaAs)系の半導体を素子に使用していたのですが、これがガリウムナイトライドという窒化ガリウム(GaN)を使った素子によって、高効率化が図れるようになってきました。この素子をレーダーに搭載できるようになると、電力負荷が下がるので、今のままで出力を上げることができます。つまり、一種のステルス対策にもなり得るということです。

そのレーダー素子はもう実用化されているのでしょうか。

平野:まだ開発中です。出力はあっても、安定的に出し続けることができるのかなど、半導体の技術者たちが熱心に研究している段階です。ガリウムヒ素は技術が確立されていて、数ワットから数十ワットの出力で大丈夫です。一方、ガリウムナイトライドだと数百ワットというレベルの強力な電波が出ていくので、それをいかにコントロールするかが難しいところです。

外園:2つ目が、信号処理です。先ほどのデジタルビームフォーミングに加え、レーダーの反射波に含まれた背景雑音をいかに除去するかという問題があります。さらに軍用レーダーだと、相手から妨害をかけられる恐れがあります。妨害には相手からフェイクの電波を出されるというのもありますが、直接妨害で、強力な電波を浴びせて飽和させるという方法で攻めてくるケースもあります。それらを除去するアルゴリズムの開発も、信号処理の技術が力を発揮する分野です。

 そして3つ目が、やはりレーダーのネットワーク化ですね。1つのレーダーだけでは、どうしても能力が限られてしまいます。複数のレーダーでネットワークを構築して、高いアンテナの利得を得る「MIMO (Multi-Input Multi-Output)」の技術を確立することが今後の課題と言えます。

 従来はここにデジタル技術という4つ目のテーマがありました。射撃管制用レーダーは射撃する前、そして射撃中もどんどん計算を終わらせていかないといけません。ですから、高負荷なリアルタイム信号処理に耐え得るCPU(中央演算処理装置)やDSP(デジタル信号処理)ボード、A/D(アナログ-デジタル)変換器などが不可欠で、その部分がネックでした。しかし、現在は民生技術が上がってきているので、防衛技術でリードしなくても済むようになりました。

レーダー技術に関して、先進国と呼ぶならどこの国でしょうか。

外園:米国、日本、英国、仏国……辺りでしょうか。送信モジュールのパワーや信号処理のアルゴリズムが優れています。ただ、日本もそうした国々と比肩していると思います。だいぶ前になりますが、航空自衛隊の「F-2」という戦闘機で国産のレーダーを積んだのですが、そのレーダー技術は米国から随分と欲しがられましたね。

それでも「照射していない」とシラをきれますか?

最後にもう一度確認ですが、射撃管制用レーダーで「ロックオン」するというのは、常続性という電波の照射方法がポイントになってきますよね。その際、ここからがロックオン、そうじゃなければロックオンされていない、という明確な境界線のようなものはあるのでしょうか。


「相手はロックオンしたとは言わないが、データが取れれば技術的合理性に基づいて判断することは可能」
外園:まず、射撃管制用レーダーを照射する側から言うと、システム的にロックオンというステータスがきっちり確立しますから、明確な境界線はあります。常続的に電波を照射して追尾を始めており、後は武器システムの方に信号を送るだけという状態になります。射撃管制用レーダーは、ロックオンのステータスを維持するためのビームを当て続けます。

 逆に射撃管制用レーダーを照射されている側からすると、捜索用として浴びている電波が急に常続的になったとします。では、それがロックオンの境界線を越えたかどうかという点については、日々のデータ収集・分析活動を通じて判断することになります。

それだと、照射した側はロックオンしたのに、当てられている側がロックオンされていないと判断することもあり得ますし、またその逆もあり得る……。

外園:そこは判断するシステムをどう設計するかにかかっています。国によっては、ロックオンの境界線を下げるところもあるでしょうし、慎重な国は境界線を上げるということもあるでしょう。

そうなると、“状況証拠”としてはロックオンだけど、照射した相手が「ロックオンしてない」とシラを切り通す“余地”も残されていると。

外園:相手は「ロックオンしたよ」とは教えてくれないので、やはり日々の活動からこちらがどれだけの情報を持っていて、それをどれくらいのクオリティーで判断できるかというのが問われます。もし詳細なデータが取れたなら、それを持ち帰って詳しく調べることで、技術的合理性に基づいてロックオンされたかどうか詰めていくことが可能です。そういう意味では、今回の「照射」は、貴重なデータを手に入れたことにもなると思います。

どうもありがとうございました。」

http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130411/246499/?P=1

「海自艦へのレーダー照射、中国共産党が指示」/産経新聞より

2013-04-24 11:45:40 | 軍事
「海自艦へのレーダー照射、中国共産党が指示 「砲身向け威嚇」も許可

産経新聞 4月24日(水)7時55分配信

領海侵犯した中国公船の23日の動き(写真:産経新聞)

 尖閣諸島(沖縄県石垣市)北方海域における中国海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦へのレーダー照射が、中国共産党中央の指示によるものだったことが23日、分かった。複数の日中関係筋が明らかにした。党中央から威嚇手段の検討を指示された中央軍事委員会が、レーダー照射に加え、「火砲指向」も提示。党中央はいずれも実施を許可していた。海自側は、レーダーに続き火砲も向けられれば中国側の攻撃意図を認定せざるを得ず、一触即発の事態となる恐れもあった。

 関係筋によると、党中央が軍事委に対し、海自への威嚇について検討するよう指示したのは1月14日。

 これに先立つ1月5日、安倍晋三首相が尖閣諸島周辺での領域警備で対抗措置を強化するよう指示。具体的には、領空侵犯機が無線警告に従わない場合、空自戦闘機が曳光(えいこう)弾で警告射撃を行い、海軍艦艇が領海付近に進出してくれば、それまで28キロの距離を置いていた海自艦艇が3キロまで接近することに改めた。

 こうした日本政府の対応に中国側は強く反発。党中央が威嚇の検討を指示した14日には、人民解放軍の機関紙「解放軍報」が、作戦立案を担う総参謀部が全軍に「戦争の準備をせよ」との指示を出していたと報じた。

 党中央による軍事委への指示は、「日本を威嚇する方法はないか」という内容。加えて、「日本の出方を試す必要もある」との意図も伝えた。

 これに対し、軍事委は「海上であれば艦艇が日本の艦艇に射撃管制用レーダーを照射するか、火砲の砲身を向けることが考えられる」と回答した。

 党中央はこれを認め、実施時期と場所、手順については艦艇の「艦長判断」に委ねる方針も示した。

 中国の国防方針は党中央→軍事委→軍四総部-の流れで決まり、関係筋は「照射も通常の指揮系統で決定された」と指摘する。

 海軍艦艇が1回目のレーダー照射とみられる挑発に出たのは、党中央の指示から5日が経過した1月19日。このとき中国フリゲート艦と海自ヘリの距離は数キロ。2度目はフリゲート艦と海自艦艇の距離が約3キロで、フリゲート艦の艦長は接近してきた護衛艦に威嚇で応じたとみられる。

【用語解説】レーダー照射事件

 1月30日に中国海軍のジャンウェイII級フリゲート艦が海自護衛艦「ゆうだち」に射撃管制用レーダーを照射。日本政府は、1月19日にもジャンカイI級フリゲート艦が護衛艦「おおなみ」搭載のヘリコプターに照射した疑いが強いとみている。中国外務省は「日本の捏造(ねつぞう)」と否定したが、安倍晋三首相は「認めて謝罪し、再発防止に努めてほしい」との認識を示した。」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130424-00000088-san-pol