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白夜の炎

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アメリカの教育体制-ハーバードビジネススクールの例/日経ビジネスより

2012-12-25 16:01:15 |  北米
 以下はハーバードビジネススクールについての記事。著者の入山氏はMBAのあり方として論じている。またHBSがアメリカの中で特異な存在であることも指摘している。

 ただ私としては、優れた実績を生みだす教育機関のあり方として紹介したい。


「 この連載コラムでは、筆者が先月上梓した『世界の経営学者はいま何を考えているのか(以下、『世界の~』と記載)』では書ききれなかった、「経営学のフロンティアの知」の興味深いトピックをいくつか紹介していきます。

 ただし前回と今回だけは、米国のビジネススクール事情をお話ししながら、「ビジネススクールはどうあるべきか」という少し大それたテーマについて、私見を交えて議論していこうかと思います。

 まずは前回のおさらいです。

― 米国の大学はおおまかにいって、少数の「研究大学」と多くの「教育大学」に分かれる。日本でも名の知られているような大学は、規模の大きい研究大学であることが多い。

― ビジネススクールの教授にも「研究中心の教授」と「教育中心の教授」がいる。上位のビジネススクール(=多くは研究大学のビジネススクール)では、研究中心の教授がマジョリティーを占める。

― 研究中心の教授は、経営学研究の世界で「知の競争」をしている。米国での知の競争とは、論文を優れた学術誌に載せることに他ならない。

― しかし、上位のビジネススクールでも少なくとも例外が2校ある。1つは「起業論の総本山」のバブソン・カレッジであり、そしてもう1つハーバード大学である。

 というわけで、今回はハーバード大学の話から入りましょう。

ハーバードにいる「第三の教授」

 言わずと知れた世界最高峰の「研究大学」であるハーバード大学ですが、この大学のビジネススクール(ハーバード経営大学院;以下、HBS)は、他の研究大学のビジネススクールと比べると特異な存在といえるのではないか、と私は考えています。

 まず、HBSの教授陣をみると、その中には「教育中心の教授」が少なからずいらっしゃいます(もちろん他の研究大学にも教育中心の教授はいるのですが、HBSはその比率がやや高いようにみえます)。

 もちろんこういった教授も、経営学教育の分野では一流の素晴らしい方々です。デイビッド・ヨッフィー教授などはその代表かもしれません。ヨッフィー教授は、企業分析の有名なケースをいくつも書いており、それは世界中のビジネススクールで教材として使われています。

 そしてそれに加えて、実はHBSには「第三のタイプの教授」がいるのです。

 それは、「『査読論文の数』という意味での研究業績はそれほど顕著ではないが、世界的に大きな影響を及ぼしている経営学者」としての教授です。

 他の学術分野―たとえば物理学や経済学―に知見のある方なら、このことには驚かれるかもしれません。なぜなら、(少なくとも米国では)一般に学術的な業績とは、学術誌に「査読論文」を掲載することに他ならないからです。

 「査読」とは審査のことです。学者が論文を学術誌に投稿すると、匿名の査読者(通常は同じ分野の研究者)が審査をします。その審査に通った論文だけが学術誌に掲載されるのです。このプロセスは、自然科学・社会科学のどの学術分野でもほぼ同じのはずです。そして、その分野に重要な貢献をもたらした査読論文を多く発表した学者が、「影響力のある学者」となるのが普通だと思います。

 経営学でも基本はこれと同様です。前回も述べたように、米国の上位の研究大学のビジネススクールにいる経営学者の重要な仕事は、厳しい審査プロセスを経て査読論文を国際的な学術誌に載せることです。

 にもかかわらず、その頂点にいるはずのHBSには「査読論文の業績はそれほど顕著ではないけれど、世界的にはとても有名な経営学者」がいるのです。
 そして、その典型がマイケル・ポーター教授なのです。

経営学界で頂点を極めたポーター教授の実績

 今年10月にフォーチュン誌に掲載されたマイケル・ポーター教授の現在を紹介する記事は、興味深いものでした。

 この記事では「地球上のどの経営学者よりも、世界中のエグゼクティブに与えた人物(筆者訳)」としてポーター教授をとりあげ、同教授のこれまでの功績、そして今も精力的に活躍されている姿を紹介しています。

 他方でこの記事では、「経営学界で頂点を極めた人物としては大きなパラドクス」として、ポーター教授がその39年間のキャリアで7本の査読論文しか学術誌に掲載していない事実も紹介しています。

 私のような駆け出しがいうのは僭越極まりないのですが、39年間で査読論文の数が7本というのは、米国の研究大学にいる学者としては極めて少ないといえます。(もちろん1本1本の影響力が大きいということかもしれませんが、それでも数として少ないことは間違いありません。)

 実はポーター教授だけではなく、『イノベーションのジレンマ』で有名な、同じHBSのクレイトン・クリステンセン教授も、アカデミックな意味で上位の学術誌への査読論文の掲載数は、私が知る限りそれほど多くありません。

 では、ポーター教授やクリステンセン教授は、学術誌への査読論文の掲載数が少ないにも関わらず、なぜこれほど「経営(学)に影響を与えた学者」とされるのでしょうか。

 これは私の認識ですが、ポーター教授やクリステンセン教授の大きな功績は、「黎明期の経営学に新しい考えを打ち出し、その時代を切り開いた」ということに加えて、何よりも「その研究成果を“一般の書籍”として発表して、ビジネスマンも含めた幅広い人々に影響を与えた」ことではないでしょうか。

 このフォーチュンの記事でも強調されているように、ポーター教授ほど近代経営学に影響を与えた偉大な学者はいません。そしてその影響は、学術論文以外の手段によるところが大きいのです。その著書である『競争の戦略』の引用数はとてつもない数になっていますし、MBAの授業で使われる経営戦略論の教科書は、今でも同教授が生み出したコンセプトや分析ツールから始まっているものがほとんどです。

 クリステンセン教授も同様です。実は『世界の~』でも書いたように、『イノベーションのジレンマ』は米国の経営学研究の世界ではそれほどには重視されていないのですが、それでもイノベーションを生み出すことに悩む世の実務家にこれほど影響を与えた本はないでしょう。

求められているのは、ポーターか、コグートか

 ここまでの話を整理しましょう。外部からみると同じように見えるかもしれない米国のビジネススクールの教授は、実はおおまかにいって3つのタイプに分けられるのです。

タイプ1:査読論文を学術誌に掲載することを主戦場とする経営学者(=上位のビジネススクールでは大半を占める)

タイプ2:教育中心の教授(=ヨッフィー教授や、バブソン・カレッジの教授などに代表される)

タイプ3:査読論文を学術誌に掲載するのではなく、一般書籍など別の形で経営学や実務家に幅広く影響を及ぼす経営学者(=ポーター教授や、クリステンセン教授など)

 そして「タイプ1」の教授に加えて、「タイプ2」の教授の割合も高く、さらには研究大学としては異例なことに「タイプ3」の教授までもが中心的存在として活躍しているのが、HBSなのです。その意味で私は、「HBS(だけ)をみてアメリカのビジネススクールと思うなかれ」と申し上げたのです。

 そして、私が『世界の~』を執筆しようと思った動機の1つもここにあります。

 たとえば、私の本の中で何度か登場するコロンビア大学のブルース・コグート教授は、世界中の「タイプ1」の経営学者がリスペクトする大研究者です。彼が国際学会で発表するといえば、それだけで会場は多くの学者たちで埋め尽くされます。

 しかしながら、このコラムを読んでいるみなさんの中で、コグート教授の名前をご存じだった方は果たして何人いるでしょうか。

 もちろん、たとえば最近では、『リバース・イノベーション(ダイヤモンド社)』を執筆したダートマス大学のヴィジェイ・ゴヴィンダラジャン教授のように、「タイプ1」の研究者として査読論文でも素晴らしい実績をおさめつつ、一般書籍を書かれている方もいらっしゃいます。しかし、やはり日本のビジネスマンのあいだでの知名度は、ポーター教授やクリステンセン教授にはかなわないのではないでしょうか。

 「タイプ3」の教授たちの素晴らしさはすでに世界中で知られています。しかし、ここまでお話ししたように、実はそういった方々は(それが良いことか悪いことかは別にして)米国の研究大学の中では少数派といえるのです。

 他方で『世界の~』で私が紹介しているのは、米国の上位のビジネススクールで大半を占めながら、日本のみなさんにはほとんど知られていない「タイプ1」の教授たちが、知の競争(=査読論文の競争)の世界で発表している研究の数々なのです。

3種類の教授のバランスがビジネススクールの命運を握る

 誤解のないようにしていただきたいのですが、私はどのタイプがいいとか悪いとか言っているのではありません。おそらくこの3タイプのいずれもがビジネススクールの発展に欠かせないのだと思います。

 たとえばビジネススクールは「専門職大学院」ですから、「タイプ2」のような教育に注力する教授の存在は、他の学部・大学院よりも重要でしょう。しかし、そこで語られることが学術的な根拠に基づかない経験則や逸話だけでは、果たしてそれが「経営の真理に近い」といえるのかわかりません。その意味でも、「タイプ1」の経営学者が社会科学的な方法で発展させている経営理論や事実法則を教育に還元して行くことは重要なはずです(少なくとも米国ではそう考えられています)。

 さらに経営学の「実学」としての役割を重視するなら、このような知見を広く世のビジネスマンに活用してもらう「実社会への啓蒙・貢献」も、ビジネススクールの役割の1つのはずです。その意味で「タイプ3」の教授の役割は他の学術分野以上に重要なのかもしれません。

 逆に言えば、この3タイプの教授の「バランス」をどうとるかは、ビジネススクールの位置づけや方向性を大きく左右するともいえます。ビジネススクールの第1の資産は、やはりそこにいる教授であると思うからです。

 たとえば、世界のビジネススクールを牽引しているのは今でもHBSである、ということに異論を唱える人は(少なくとも米国では)少ないでしょう。HBSの授業法は他のビジネススクールの多くの教員が参考にしていますし、世界中のビジネススクールでHBSが作成した企業分析のケースが授業に使われています。同校の教授陣が多数寄稿している『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌が世界中の多くの実務家に愛読されていることは言うまでもありません。

 あくまで私見ですが、HBSがなぜ今も「研究」「教育」「実業界への啓蒙」のいずれにおいても重要な存在であり得ているかというと、もちろんその伝統やネームバリューもありますが、それに加えて、「タイプ1」だけはなく、優秀な「タイプ2」や「タイプ3」の教授たちを豊富に揃えている、ということも大きいのではないか、と私は考えています。

 しかし、他のビジネススクールがおいそれとその真似をできるかというと、それはなかなか難しいのかもしれません。3つのタイプの教授をバランスよく揃えるにはやはり潤沢な資金が必要ですし、ある程度の組織の変革も必要になってくるからです。

 さらに前回申し上げたように、そもそも米国の研究大学は大学間で熾烈な「知の競争」をしています。特にAAUに所属している大学はそのステータスを守らなければならないのですから、(ハーバードのようにどうやってもAAUから落ちそうにない大学を別とすれば)やはりビジネススクールとしても査読論文の業績が期待できる「タイプ1」の教授を重用するのは自然のなりゆきとえいます。(注:AAUについては前回記事を参照してください。)

日本のビジネススクールはどうあるべきか

 さて、最近は日本でも社会人教育の一環としてビジネススクールが定着しつつあるようですが、ここでもその実態は多様であるように私にはみえます。

 たとえば国立大学のビジネススクールは優れた「経営学者」を教授陣に並べているところが多いようにみえますし、他方で私立大学や民間のビジネススクールの中には実務家出身の教授を揃えたところもあります。そしてこういった多様性を背景として、日本のビジネススクールのあるべき姿も議論されているようです。

 他方で、「これこそがビジネススクールである」として正解を断言するのは、実はなかなか難しいのではないでしょうか。なぜならこれまで見てきたように、ビジネススクールの本場といわれている米国でさえ、その実態は多様なのですから。

 このコラムをお読みいただいたみなさんには、「米国でもビジネススクールのありようは混沌としている」という実態を分かっていただいた上で、日本のビジネススクールのあり方をいま一度考えてみられるのも有用かもしれません。

 さて、これでビジネススクールの話は終わりです。次回(私が無事に締め切りを守れば1月15日)からは、米国を中心とした海外の「タイプ1」の経営学者たちが推し進めている興味深い研究トピックを紹介していきます。今のところ、次回は「『経営ビジョン』って、本当に意味があるのか」という話題を紹介しようかと思っています。

 みなさん、どうぞよい年をお迎えください。」

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121214/240999/?P=1

NRA(全米ライフル協会)副会長・ウェイン・ラビエールの過去の言動

2012-12-22 16:04:17 |  北米
 全米ライフル協会副会長のウェイン・ラビエール氏が、幼稚園での銃乱射事件を受けて、「全米に武装警官を配置すべき」と発言したことに対しては、ニューヨークのブルームバーグ市長等からも「アメリカから安全な場所をなくすことだ」との批判を受けているが、以下の2007年の記事を読むと大変な人物であることがよくわかる。そして共和党という党やブッシュ・ジュニアの政権の性格もよくわかる。

 そしてこの時点ですでに民主党も深くNRAの影響下に置かれていたようだ。今回オバマがどのように指導力を発揮するのか見ものである。

 それにしてもアメリカは、白人=共和党(保守派)=銃規制反対=宗教保守・ゲイ反対・中絶反対・多様な文化の尊重反対

 というグループと、白人・アフリカ系・ヒスパニック・アジア系=民主党=(?銃規制支持)=宗教的寛容・ゲイ容認・中絶容認・多様な文化の尊重というグループに見事に分断されている。

 しかし共和党を支える階層は、リッチだが広がりがなく、権力・軍事力思考で、自ら将来に向けての様々な選択肢を狭めてしまっている。この党はこのままで存続可能なのだろうか?


「米の銃ロビー、権利を守る戦いに備える――フィナンシャル・タイムズ

2007年4月21日(土)23:32

(フィナンシャル・タイムズ 2007年4月17日初出 翻訳gooニュース) アンドリュー・ワード


 ミズーリ州セントルイスで4月14日、全米ライフル協会(NRA)のウェイン・ラピエール副会長は年次総会で演説し、全米各地から訪れた代表団に向かって「われわれを待ち構える嵐に備えるように」と呼びかけた。

 ラピエール氏がこのとき「嵐」と呼んだものは、民主党支配の議会が銃ロビーに与える脅威、そして来年の大統領選でホワイトハウスが敵の手に落ちてしまうかもしれないという脅威のことだった。

 まさかこの演説から2日後、あまりにも悲惨な形でこの「嵐」が実際にやってくるとは。ラピエール氏が予想できたはずもない。

 バージニア工科大学のキャンパスで16日、32人が射殺された。この惨事によって、銃規制の問題は米国政治の一大争点として、再浮上。そして米国の強力な銃ロビーは、守りに入ることを強いられた。

 米国の世論調査はいつでも、大多数の米国民は銃規制の強化を求めているという結果を出す。たとえば昨年のギャラップ社調査によると、56%が銃規制強化を支持していた。16日の悲劇を受けて、この規制強化の支持率はさらに増えるはずだ。

 一方で、銃器類を所有する米国民は推計8000万人。この人たちにとって、銃を所有するということは、大切な憲法上の権利なのだ。

 報道されているNRA年次総会の演説によると、ラピエール副会長は銃所有者に向かって「武器を携行する権利」を制限する動きに抵抗するよう呼びかけた。「自分の自由は絶対安全だと断言できる銃保有者はひとりもいない」と副会長は訴えたという。

 NRAは、米国で最も強力な政治圧力団体のひとつだ。会員数は400万人以上で、年間予算は1億8000万ドル(約212億円)。共和党が約10年間にわたってホワイトハウスと連邦議会を支配できたのは、NRAの力に拠るところが大きい。NRA以外でNRA並みの影響力をもつ団体は、保守系キリスト教団体のみだという意見もあるほどだ。

 NRAは2000年大統領選に先立つ段階ですでに、ジョージ・W・ブッシュ氏との親密さを強調。ブッシュ氏当選のあかつきには「執務室からNRA活動を展開する」と豪語していた。

 NRAは、米政治に圧倒的な影響力をもつ。ウエストバージニアやテネシーなど、大統領選の行方を決め得る農村地域の州で、実態とはかけ離れた巨大な力を誇っていることが理由のひとつだ。

 ブッシュ大統領は2000年に僅差で当選した。その勝利に不可欠だった得票をもたらしたのが、ウエストバージニアやテネシーなど、NRAが圧倒的な影響力をもつ諸州だった。2000年のあの選挙後に開かれたNRA総会でラピエール氏は会員を前に、「アル・ゴアはホワイトハウス入りしなかった。それはみなさんのおかげです」と宣言したものだ。

 共和党を支持してきたおかげで、NRAはたくさんの恩恵を受けてきた。共和党政権と議会は、銃所有者と銃製造業者の権利を強化するための施策を次々と導入してきたからだ。

 ブッシュ大統領の共和党政権がまず最初にやったことのひとつは、銃器購入の際の身元確認の記録を24時間以内に廃棄するよう連邦捜査局(FBI)に命じた大統領令。この身元確認の記録を使って、政府は銃所有者リストを作るのではないかと、NRAは強く懸念していた。その懸念に、ブッシュ政権は応えたのだ。

 ブッシュ政権はさらに、国際的な銃器密輸に対抗するための国連措置について、その実効性を弱める対応を重ねた。また連邦議会は、銃を使った暴力事件について銃器メーカーの製造者責任を問わない法律を作って銃器メーカーを守った。さらには半自動小銃を規制する法律は失効させるに至った。

銃ロビーにとって最大の勝利と言えるのはおそらく、米国民が「武器を保有・携行する権利」を保障した連邦憲法修正第2条の政府解釈だろう。ブッシュ政権はこの条文について、最も広義の拡大解釈を、政府として後押しした。

 この修正第2条は銃所有の権利について一定の規制を容認しているものだというのが、過去何十年にわたり継承されてきた連邦裁判所の解釈だった。

 条文の文言は「自由な国家の安全にとって規律ある民兵組織は必要であるから、市民が武器を保有し、また携行する権利は、これを侵してはならない」というもの。つまり条文前半で言う「規律ある民兵組織」を維持するからには、市民の銃所有権に一定の規制を加える権利が政府にはある、という解釈だ。

 しかしブッシュ政権の最初の司法長官、ジョン・アシュクロフト氏は、長年の裁判所解釈を覆し、NRAの解釈を支持。憲法が保障する銃所有の権利は、国家から派生するものではなく、あくまでも市民個人に属するものだというのが、NRAの解釈だ。そして連邦高裁も今年3月になって初めて、NRA式のこの広義の条文解釈を採用。30年間にわたり首都ワシントンン特別区で拳銃所持を禁止してきた法律について、違憲判断を下すに至った。

 しかし昨年11月に民主党が上下院で多数党となった時、ほとんどの保守系利益団体は、自分たちが世論のムードとずれてしまっていることに気づいた。NRAも同様だった。世論の流れとずれてしまった結果、NRAが後押しする有力な共和党議員の多くが落選した。バージニア州のジョージ・アレン、モンタナ州のコンラッド・バーンズ、ミズーリ州のジェームズ・タレントなどがそうだ。

 では16日の悲劇を受けて、民主党が真剣に銃ロビーと対決しにいくのかというと、どうもはっきりしない。過去2回の大統領選でアル・ゴアとジョン・ケリーが敗北した、その要因のひとつに銃規制の問題があった。その記憶が、民主党に傷跡を残しているのだ。それだけに民主党の多くは、銃所有者にそっぽを向かれるような厳しい規制法を支持するのをためらうはずだ。政治アナリストたちはそう見ている。

 下院司法委員会のジョン・コンヤーズ委員長(民主党)は11月の中間選挙の前に、「拳銃を禁止するいかなる法案も支持しないし、下院本会議に送らない」と約束している。

 民主党全国委員会のハワード・ディーン委員長は銃規制について、規制の程度は州レベルの政策で決定すべきだと主張。つまり同じ民主党でも、都市部の州で出馬する候補たちは規制を支持する一方で、農村・山間部の州で出馬する候補は規制に反対できるようにするべきだと主張してきた。ディーン委員長のこの戦略によって、11月の中間選挙では銃所有に同情的な民主党候補が大勢、当選を果たした。そしておかげで、民主党は銃規制を支持する党だと言う伝統が、さらに弱まる結果となった。

 NRAのラピエール副会長は大会で、民主党に気をつけろと警告した。しかしNRAは実際には民主党との関係を粛々と築きあげている。たとえば11月の中間選挙では、銃所有を支持する民主党候補58人をNRAとして支持した。またNRAの政治献金総額のうち民主党に対する献金は、2002年には6%にしか過ぎなかったが、2006年には倍増し、13%に達している。

 民主党の脅威をこうやって手懐けることに成功した今、銃ロビーにとって目下の最重要課題は、誰が2008年大統領選の共和党候補になるかだ。主要候補とされるジョン・マケイン、ルディ・ジュリアーニ、ミット・ロムニーの3人はいずれも、程度の差こそあれ、何らかの銃規制を支持している。それだけにNRAは今、ブッシュ政権時代に確立した足場が、共和党の次期大統領によって失われてしまうのではないかと気にしているのだ。」

http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20070421-01.html

米中は何を話しているのか?/王岐山・オバマ大統領と会談

2012-12-21 18:30:03 |  北米
 王岐山が訪米。オバマと会談。

 新政権としての基本的考え方を伝達するとともに、懸案事項に関する意見交換を行ったのだろう。

 尖閣をめぐるアメリカの考えも含まれるかもしれない-面倒なことは後回しにしている可能性もある。

 しかし中国は軍事力を直接行使しなくとも、経済や外交の様々な局面で、日本の首を締めあげることは可能だ。

 そうしてくる可能性は高いとみておいた方がいいだろう。


「王岐山副首相、オバマ氏と会談 米中関係構築へ

2012年12月21日 18時19分

 【北京共同】中国外務省は21日、訪米した王岐山副首相が20日、ホワイトハウスでオバマ大統領と会談したと発表した。中国の習近平指導部発足後、政治局常務委員のメンバーがオバマ氏と会談したのは初めて。習新指導部は本格的に2期目のオバマ政権との関係構築に乗り出した。

 オバマ氏は「習総書記との会談を期待する」と述べ、中国指導部との対話に意欲を表明。「強力、率直で成果の多い米中関係を2期目も構築する」と述べた。

 王副首相は「新しい大国関係」を築くべきだと強調。両国閣僚らによる「米中戦略・経済対話」など対話の仕組みを強化したい考えを示した。」

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012122101001781.html

アメリカの新国務長官は誰か-人事に見えるアメリカの方向性

2012-12-13 16:47:26 |  北米
 以下はロイターのサイトから持ってきた、クリントン国務長官の後任人事をめぐる議論。

 この議論の中におのずからアメリカの姿勢-とくにアジアに対するそれ―が浮かび上がっている。

「[ニューヨーク 19日 ロイター] 減税失効と歳出の自動削減開始が重なる「財政の崖」を目前にバランスを保とうとしている米国では、次期国務長官の人事をめぐっても大きな議論が交わされている。

2期目を迎えるオバマ政権では、財務長官や国防長官、運輸長官、証券取引委員会(SEC)委員長、中央情報局(CIA)長官も顔ぶれが一新するとみられる。「財政の崖」が間近に迫るなかで失業率も高止まりし、貧富格差は拡大する一方だが、最も議論に上がる人事は、ヒラリー・クリントン現国務長官の後任が誰になるのかということだ。

これは主として、有力な後任候補としてスーザン・ライス氏の名前が挙がっていることが要因だ。民主党の外交政策アドバイザーを長年務めたライス氏は、過去4年にわたり国連大使を務めている。各種報道によれば、オバマ大統領は次期国務長官としてライス氏を指名したい意向のようだ。一方、共和党はライス氏を後任として受け入れない構えを見せている。

リビア東部ベンガジで米総領事館が襲撃された事件では、ライス氏は当初、自然発生的なデモの結果だと公の場で発言。この発言をめぐり、同氏は国務長官の正式指名を受ける前から共和党による激しい非難の対象となっている。

では、オバマ大統領はどうすべきか。ライス氏を指名すれば不要な戦いを強いられることになる。ライス氏がどれだけ有能な人物だとしても、国務長官への就任が承認されるかどうかは分からない。超党派による交渉が最も重要とされる現在、政治問題化された候補者を後任に据えるのは難しいだろう。

共和党側からは、ライス氏よりもジョン・ケリー上院議員(民主)の方が好ましいとの声も聞こえてくる。それは当然だろう。ケリー氏が国務長官に指名されれば、マサチューセッツ州では上院議員のポストが1つ空き、11月の選挙で敗れた共和党のスコット・ブラウン氏が再び議席を狙うことになるだろう。それはオバマ政権にとって高すぎるリスクとなる。

こうした状況を背景に、今は「サプライズ候補」について考えをめぐらせるのが流行している。ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、トム・フリードマン氏は、次期国務長官候補として教育長官のアーン・ダンカン氏を挙げている。ダンカン氏は確かに「サプライズ人事」には適した人物だが、クリントン氏の後任として最も重要な2つの要素で経験がないため、荒唐無稽なアイデアと言えるだろう。

 では、2つの要素とは何か。それらは、国務長官としてのクリントン氏の功績を特徴づける分野だ。この2分野を熟知していることは、国務長官として承認されるための必須条件と言える。

1)アジアへの軸足移行

クリントン氏とオバマ大統領は、米国にとって最大の脅威は中東でなく、中国の周辺国への影響力拡大と経済大国としての台頭だと認識した。中国が当面は「フレネミー(友人を装う敵)」であり続け、米中関係が悪化に向かう可能性は極めて高い。

中国が成長を続け(そして米国がアフガニスタンの混乱から脱すれば)、対中政策は米国にとって最優先課題となるだろう。クリントン氏は既にそこに向けた準備を始めており、次期長官はそれをさらに進めなくてはならない。

2)経済国家戦略

米国にとっての最大の脅威は安全保障問題にではなく、世界経済にあることはますます明らかになりつつある。クリントン国務長官はこのシフトを明確にするために相当な時間と努力を費やしてきた。

特に米国の景気回復が思うように進まない中では、国家資本主義が雇用や世界経済への影響という点で対抗軸となる。次期国務長官はこれを踏まえ、国家資本主義の影響を最小限に抑え、米国企業への投資を確保し、国家資本主義による自由市場経済への侵入を防ぐめ、他国の指導者と交渉を重ねる必要がある。

次期国務長官候補のダークホースを挙げるとすれば、ジョン・ハンツマン前駐中国大使がいる。ハンツマン氏は中国大使として称賛を浴びた人物で、国務長官に必要とされる2つの要素で同氏の右に出る候補者はいないだろう。

ハンツマン氏はオバマ大統領の指名を受けて中国大使に就任し、過去にはユタ州知事や企業の最高経営責任者(CEO)を務めた経歴がある。中国の外交チャンネルに精通しており、これは米国債の最大の保有国でありながら「敵対者」でもある中国との外交を進めていく上で有利になる。さらに、州知事と企業トップとしての経験は、必ずしも米国に友好的ではない世界経済での舵取りを任せられるだけの要件を満たしている。

オバマ大統領は「閣僚に少なくとも1人は共和党員を確保する」と過去に明言しており、共和党のハンツマン氏が国務長官に就任すれば、その約束は守られることになる。

私はハンツマン氏が国務長官のポストを得ると予想しているのではない。ただ、彼は優れた長官になる可能性が高いと思っている。誰が後任になろうとも、その人物はクリントン氏の卓越した功績をたどることになる。オバマ大統領による人事のうち、最大の効果をもたらしたのがクリントン氏であることに疑問の余地はない。

ライス氏やケリー氏も優秀な後継者にはなるだろう。しかし、彼らの指名が支持を得られない場合、または既成概念にとらわれない候補者を指名する場合は、アジアに強いハンツマン氏に目を向けるべきだ。

*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。」

http://jp.reuters.com/article/jpeconomy/idJPTYE8BC02L20121213?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0

米国における出生率低下と女性/ロイター日本語版のコラムから

2012-12-12 14:04:45 |  北米
 先進国の合計特殊出生率が軒並み低下、あるいは低水準で推移するなか、アメリカだけは高いレベルを維持してきた。

 その要因の一つは移民女性の活発な出生率だったが、今それも低下しつつあるという。

 日本経済の低迷は少子高齢化にもかかわらず、移民を受け入れてこなかったため人口が減っていることにあると-個人的には-考えているが、アメリカもそちらに向かうのか。

 さらに中所得国でも同様の傾向が見えるという。

 女性がおかれている状況を改めて見直す観点から書かれた以下のリポートは大変興味深いのでぜひどうぞ。

「コラム:米国での出生率低下、その脅威とジレンマ       2012年 12月 11日 17:49
                                          By Chrystia Freeland

[ニューヨーク 6日 ロイター] 

 不安か共感か。社会的変化の触媒としてより強力に働くのはどちらだろうか。富裕国や中所得国で暮らす女性たちは間もなく、この問題を試す社会実験に参加することになるだろう。世界の多くの場所で出生率が低下しているからだ。

人口動態はほどなく、政治の最優先課題に駆け上がることになるはずだ。そこでは、女性、母親、経済について、これまでとはまったく違う新しい考え方が求められる。

そうした変化の要因の1つは、言うなれば米国で生まれた。なぜなら米国はこれまで長い間、西欧やロシア、中国などでの出生率低下を第三者的に眺めてきたからだ。元気で精力的な米国は、人口減少の傾向に逆らってきた。

しかし先週、2011年の米国の出生率が過去最低に落ち込んだことが明らかになった。女性1000人当たりの出生数を示す総出生率は4年連続で下がり、63.2となった。

重要なのは、これまで米国の人口増を支えていた移民女性の出生率低下が顕著なことだ。調査機関ピュー・リサーチ・センターの分析では、米国で生まれた女性の出生率は2007─10年に6%低下した。移民女性に限ると14%の低下となっており、特にメキシコ系移民では23%の落ち込みだ。

これは米国にとっては大きな変化だ。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を表す合計特殊出生率は昨年は1.89となり、他の先進国の水準に一歩近づいたことになる。

シンガポール公務員研修大学(CSC)のジョエル・コトキン氏が最近行った調査では、米国の合計特殊出生率は、ギリシャの1.54、イタリアの1.48、スペインの1.5など、欧州の水準にじわじわと近づいている。日本やシンガポールなどアジアの富裕国では、出生率の低下はさらに急激だ。またベトナムが1.89、ブラジルが1.9になるなど、中所得国や貧困国の多くでも、人口減少が起こるとされる水準(人口置換水準)の2.1を下回るところまで出生率は下がっている。

こうした数字、とりわけ米国の最近の低下は、文化的悲嘆の大合唱を招いている。例えばコトキン氏は出生率の低下について、地域社会や自己犠牲といった伝統的な価値観より自由や個人の幸福などを重んじる新たな社会組織の形態───「ポスト家族主義」の中心的特徴だとみている。

こうした文化的批判の多くは偶然ではなく男性によるものだが、出生率低下の核心部分を見落としている。それは他でもなく、女性の意思によるものという点だ。出生率が低下している国では、女性は3つの決定的な事実に直面しているのだ。

まず第1に、女性は自分たちの妊娠出産について、歴史上かつてないほどの力を手に入れている。第2に、かつて子育て支援の役割を担っていた家族や地域社会の強い絆は、産業化や都市化によって断ち切られている。第3に、女性を取り囲む経済状況は大きく変わっている。出生率が低下している国に住む女性は、出生率が高かった前の世代や、今も高水準を維持している国の女性に比べ、裕福な傾向にある。しかし、こうした変化は、中高所得国の中階級女性の生活を特徴づけるいくつかの重要な点を覆い隠している。

彼女たちは、中流階級としての家族の生活を守るために働く必要があり、かつてないほど仕事をしている。また彼女たちが暮らす社会では、自分たちの子どもの将来を安泰にするためには、多大な時間と金を投じることが求められる。

そして特に欧州と米国では過去10年、とりわけリセッション入りしてからは間違いなく、世帯収入はおそらく頭打ちか、わずかに増えただけだ。

しかし多くの女性にとって、子どもは最も喜ばしく、最も贅沢な消費財というのが真実だ(私自身も3児の母親であることを打ち明けておこう)。彼らは時間的にも金銭的にも高くつくため、中高所得社会では少なからぬ寂しさとともに、欲しいだけの子どもを持つ余裕がないとあきらめる女性が増えている。

ここに不安と共感の問題が持ち上がってくる。過去数十年、フェミニストたちは、女性が母親であり現代社会の参加者であるための方策を求めてきた。しかし、それはしばしば「女性問題」として片付けられてきた。

女性たちは今、自分たちの子宮で意思表明しているのだ。我々は間もなく、我々の社会の将来が、そして人類の未来が、この窮状への集団的解決策を見つけることにかかっていると気付き始めるだろう。

*著者クリスティア・フリーランドは、トムソン・ロイター・デジタルの編集者。前職では英フィナンシャル・タイムズの米国編集責任者などを歴任。」

http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE8BA04320121211?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0

バラク・オバマの再選に寄せて

2012-11-07 17:11:36 |  北米
 バラク・オバマが再選された。彼に対する反対は様々にあった。医療保険改革。財政赤字。雇用創出。・・・

 ティーパーティーなどが勢いづいたのも、財政赤字反対といったことがきっかけだったと思う。

 しかし最も深刻だったものは、そして決して表立って語られなかったのは、オバマに対する人種的偏見だったと思う。

 客観的に見れば、彼は破たんしたアメリカ経済を崩壊の淵から救い出し、自動車産業と銀行業を再建し、見捨てられていた未保険者に手を差し伸べたのである。

 どう考えても優れた業績である。

 そしてそのことを認められない-黒人が自分たちの「指導者」で、しかも優れているという事実-人々が、ティーパーティーその他に、財政問題等を旗印に掲げて集ったのであろう。

 実際ティーパーティーのメンバーに有色人種の姿はまれであった。

 ただ同時にこういったことも感じる。

 女性の社会進出についても同じことを考えざるを得ないのだが、黒人が大統領になり、女性が国務長官として辣腕をふるうのは、間違いなくアメリカ社会の変化を物語っているが、同時にそれはエリート層が多様化したということであり、女性の政治参加、黒人など有色人種の政治参加が、政治そのものの質を、かつて考えられたような理想に向けて変化させたかといえば、決してそうはなっていないということである。

 エリート層は多様化したし、エリートに様々な人々が参加できるようになった。

 しかしエリートが支配する世界というものは厳然として存在し、継続し続けているのである。

パクスアメリカーナ後の世界/イアン・ブレマー、インタビュー(日経ビジネス)

2012-11-01 16:57:44 |  北米
「指導国が存在しない「Gゼロ」という世界の到来を指摘したのが2011年1月。近著『「Gゼロ」後の世界―主導国なき時代の勝者はだれか』では、今後、アジアと中東で衝突や紛争が増えると警告している。尖閣諸島を巡る日中の対立もそうした流れの1つか。

ブレマー:残念ながらそうだ。10年前ならこうした問題は発生しなかった。中国が自国の利害をむき出しにするほどまだ大国になっていなかったからだ。日本の言うことに耳を傾けざるを得なかった。
中国は自国の利害をあらわにする

 だが毎年、日本より格段に速いスピードで成長し、経済力、技術力、軍事力など力をつけるに従い、中国は今後、ますます自分たちの利害をあらわにするだろう。こんな状況にもかかわらず、世界的な指導力を発揮できる国はもはや存在しない。よってアジアでは、日中だけでなく、様々な衝突が増えていく。そして、それは地域の経済成長に打撃を与えることになる。

 今回の尖閣諸島を巡る衝突は、タイミングも最悪だった。重慶市共産党委員会書記だった薄熙来氏の失脚というスキャンダルに加えて、9月上旬には習近平国家副主席の動静が2週間も途絶えるなど、政権移行を前に国民の関心を国内問題から何とかそらせたい中国政府にとっては絶好の機会となった。

 ただ、日中の衝突は遅かれ早かれ不可避だった。尖閣諸島問題は資源問題というより、「象徴的な問題」であることを強調しておきたい。中国は南シナ海でもベトナムなどと資源を巡って、深刻な問題を抱えている。だが、中国全土で反ベトナムのデモが広がったりはしない。なぜか。

 日中間には教科書を含め、歴史認識の違いといった問題が存在する。だが、それ以上に中国にとっての日本は様々な意味で微妙な存在だからだ。

日本は敵に回してよい国

 まず、経済大国世界2位の中国が追う1位の米国と、3位の日本は同盟関係にある。米中の間には、共通の利害が多く存在するが、信頼関係は全くない。日中も同様で、利害は多いが信頼はない。中国は米国が日本と組んで、中国の台頭を抑え込もうとしていると見ている。それは必ずしも真実ではないが、中国がそう感じるのも分からなくはない。

 加えて中国にとって日本は、今や米国にとってのロシアのような存在に変質したことを認識すべきだ。

 米国のマイケル・マクフォール駐ロシア大使は今年1月、モスクワに赴任した初日に「自分は民主主義の信奉者であり、ロシアの反プーチン勢力の味方だ」との趣旨の発言をした。米政府は、ロシア政府を最初から怒らせるような人物だと分かって送り込んでいる。それほど今の米国はロシアを重視していない。敵に回してもよいとの判断で、中国の日本の位置づけも同じだ。

 一方、中国は米国とは「問題を起こしたくない」と考えているため、衝突することがあっても米国からの輸入品の通関を遅らせたりはしない。

 クリントン米国務長官も訪中の際、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世や人権の問題にほとんど触れない。米国にとって資金力豊富な中国は最重要国との認識からだ

 米大統領選の共和党のミット・ロムニー候補は当選したら初日に中国を「為替操作国」に認定すると発言しているが、万一当選してもそうはしない。彼も、中国が米国にとっていかに大切な国か認識しているためだ。

そうした中国と日本企業はどうつき合えばいいのか。

ブレマー:日本企業は、中国以外の地域にも投資を振り分ける「チャイナ・プラス・ワン」の戦略の必要性を認識していると言ってきた。だが実際には多くの企業が中国の市場規模の大きさゆえに依存度を高めてきたのが実態だ。
 中国は日本にとって将来的にも様々な利点を持つが、世界の主たる市場の中では最もリスクが大きい。ほとんどの日本企業がそうした前提でつき合っていないことが問題だ。

米中関係は悪化、日本企業に試練

 私は今後、米中関係は悪化していくと見ている。その場合、日本は選択をせざるを得なくなる。だが、事実上、選択肢はない。歴史的にも軍事的にも政治的、文化的にも圧倒的に米国と深い関係にあるからだ。つまり、日本も、日本企業も中国との関係で難しい舵取りを迫られることになるだろう。

米下院情報特別委員会が10月8日、中国の大手通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)に対して、安全保障上の理由から米政府及び米企業は一切取引すべきでないとの報告書を発表した。日本企業への影響はどうか。

ブレマー:米中は既にサイバー問題を巡っては戦争状態にある。それだけに議会が、米国の多くの大企業と取引がある華為技術について国益上、安全保障上、問題があるとしたことは非常に重要で、当然、日本企業にも影響は及ぶ。
 米政府が前回、「安全保障上の問題」として日本に対応を迫ったのは2010年だ。核開発を進めるイランに対する制裁措置として、日本がイランで進めるアザデガン油田開発からの撤退を求め、実際に日本企業は撤退した。

 つまり、日本は中国が想像以上にリスクが高い国であると認識し、それは日中間に見解の相違があるからだけではなく、米国の同盟国だからだという点を理解する必要がある。

 米中の間では今後、経済に関連する重要な問題で合意に至れないケースが複数出てくるだろう。その場合、日本企業は米中の狭間でそのとばっちりを受けることになる。

 こうした中で参考になるかもしれないのは、20世紀後半に存在した2つのタイプの多国籍企業だ。1つは「コカ・コーラモデル」だ。米コカ・コーラは現在、204カ国で毎日18億杯のコーラを販売するまさにグローバルブランドの構築に成功した企業だ。

 一方、対局のモデル企業が米防衛大手ロッキード・マーチンだ。従業員の95%は米国におり、売上高の80%は米国防総省向けで、残りは米国の同盟国向けだ。防衛分野では世界一だが、全くグローバル企業ではない。

 金融危機以降、金融機関の「大きすぎて潰せない」問題が浮上したが、この言葉が最初に使われたのは1970年代。米国の安全保障にとって不可欠であるロッキードに対してだった。

 指導力を発揮できる国が存在せず、世界1位と2位の経済大国がその運営方法や価値観を巡り全く異なる考え方をしている以上、多国籍企業は自社がこの2つのモデルの間のどの辺りを目指すのかを考える必要が出てくる。

 多くの米企業も中国で苦い経験をしているが、中国に進出した日本企業が高速鉄道の技術供与を巡って経験した事態を考えればなおさらだ。今後、日本の重工業や通信関連の分野では、欧米と緊密に連携しながら事業展開を進める企業が出てくるはずだ。

 グローバル化が進めば世界は平和になり、市場は世界的に広がるかに思われたが違う。Gゼロの世界では常に世界の地政学的な変化や動向に注意を払う必要がある。特に新興国は長期的に見た場合、先進国ほど政治が安定していない。一部の国は政権を握り続けることができないかもしれず、他国との関係もいつ変わるか分からない。

ドイツの譲歩でユーロ崩壊せず

欧州では債務危機に対応すべく銀行監督一元化や財政統合に向けた議論が始まった。ユーロは存続するか。

ブレマー:ユーロは崩壊しないし、欧州は銀行同盟、財政統合に向けて動く。ドイツは日々、小刻みに譲歩を重ねている。そのスピードは欧州周辺国や米国、市場が求めるほど速くない。だが、ドイツ国民やオランダ、フィンランドが受け入れられる範囲で少しずつ前進しており、これら中核国が納得できるスピードで前進することが大事だ。
 ただ、欧州が近いうちに経済成長を取り戻すことはない。そのため、周辺国では極右がさらに台頭し、そのことが各国政府の正当性を危うくするだろう。よって、銀行同盟が設立され次第、周辺国の救済に動く方がいい。

 ギリシャを除き、ユーロ圏加盟国は残る。ギリシャは離脱するかもしれないが、その場合、追い出されるのではなく自ら出ていくことになるだろう。ドイツがそれを許すのは銀行同盟を設立してからだろうが、ギリシャ経済の規模は限られるため、離脱しても周辺国に波及するリスクは低い。

米中東戦略の後退は日本のリスク

シリア、イランをはじめ中東情勢も深刻さを深めている。

ブレマー:まず、イスラエルのネタニヤフ首相がイランへの攻撃も辞さないと何度も発言しているのは、核開発を進めるイランに対し各国の経済制裁の手を緩めさせないのが狙いだ。米国が攻撃をする気がない以上、イスラエルが単独でイランを攻撃することはない。
 むしろ警戒すべきは、制裁で追い込まれたイランが予想もしないテロのような反撃に出たりした場合、米国がそれに対応せざるを得なくなって、軍事衝突に至るといったケースだ。

 ただ、米国はここ数年、「シェールガス革命」により天然ガスの一大産出国に変身しつつあり、今後、中東の原油に依存する必要性がなくなる可能性が浮上している。そうなれば米国にとっての中東の戦略的な位置づけは必然的に後退することになる。

 シリア情勢が現在、日々悪化の一途をたどっているのも、欧州諸国がユーロ危機の対応に追われ、米国が「世界の警察官」としての指導的役割を果たさなくなりつつある中、いわば権力の空白状態が生じているからだ。

 既にその空白を巡りシリアはサウジアラビア、イランなどによる代理戦争の様相を呈しており、米国不在によるこうした中東の混迷は今後、一層深まる。中東の原油に依存する日本にとっては間違いなくマイナスに影響するだけに、エネルギーを巡る戦略の再構築を求められよう。

日経ビジネス2012年10月29日号137~139ページ
-Gゼロ時代、日中の衝突不可避- より」

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20121025/238570/?P=1

尖閣問題に関するアメリカの一つの見解

2012-10-23 18:34:05 |  北米
「日中が軍事衝突する可能性はあるか 尖閣問題、中国の今後の出方は
    ――米戦略国際問題研究所(CSIS)・上級研究員  ボニー・グレイザー氏に聞く


中国国内の反日デモは抑え込みの方向に向かったが、尖閣諸島周辺海域ではいまだ中国の海洋監視船・漁業監視船が活動を続けており、緊張は去っていない。中国は今後どう出てくるのか。米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(Center for Strategic International Studies,CSIS)の上級研究員で、中国の外交・安全保障を専門とするボニー・グレイザー氏に聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)


米政府の外交・安全保障政策に大きな影響力を持つシンクタンク、戦略国際問題研究所の上級研究員で、中国の外交・安全保障が専門。米国政府機関へのコンサルティング経験も多数。


――最近、米国議会の公聴会で証言されていましたね。

 中国と南シナ海について公聴会があり、そこで証言しました。9月12日のことです。

――日中関係は今ひどい状態になっていますが、尖閣諸島のことで中国は激しく日本に抗議をしています。

 ずっとフォローしています。中国の外務省のステートメントも読みました。中国の外務副大臣は、あるシンクタンクで尖閣諸島問題についてスピーチをしました。非常に詳細に語り、とても興味深かったです。彼は、日本政府が石原都知事と共謀したと、日本政府を痛烈に非難しました。尖閣諸島を購入し国有化するための口実を探したと言うのです。

 中国は実際、かなりタフな立場を取っています。これはある意味で、中国は強い国であるという認識があるからです。国家間のパワーバランスにおいて、中国の方が日本よりも地位が上であるというのが、現在の中国の立場です。中国は、日本を中国よりも弱い国と考えています。

 1週間ほど前、中国の一流シンクタンクの専門家と話しました。蒋介石が権力の座についていた第二次世界大戦後、中国は非常に弱かった。だから尖閣諸島について、当時の現状を受け入れざるを得なかった、しかし今は違っており、我々は強い。主権国家と権利のために立ち上がらなければならない、と彼は言っていました。

 この発言は非常に重要で、今の中国の立場をはっきり表しているものだと思います。ですから中国は引き下がりません。島の周辺のパトロールをますます強化するでしょう。もし日本が次のステップ、つまり軍事化として、島に軍隊を配備しようとすれば、中国はそれを抑止しようとします。

 私は緊張を緩和する方法はあると思います。それには時間がかかりますが、中国は、日本が中国から見て挑発的なことをしないと考えられれば、鎮静化すると思います。

アメリカの尖閣問題に
対する立場を十分に認識

――日中が軍事衝突する可能性は低いですか。

 非常に低いです。なんだかんだ言っても、中国は、アメリカが非常に一貫した立場をとってきたことを十分認識しています。

 それは1996年にカート・キャンベル国防次官補、2004年と2005年にはリチャード・アーミテージ国防副長官、そして2010年にクリントン国務長官によって明言されています。尖閣諸島は日米安保条約第5条によってカバーされています。当時のアーミテージ国防副長官は、もし中国が尖閣諸島を日本から奪うようなことがあれば、それは白か黒かはっきりした問題だ、と言いました。日米安保条約によってアメリカは日本を守る義務があり、そのことは中国も認識していると思います。

 そのような状況でなくとも、中国は武力を使いたいとは思っていません。中国は近隣諸国から、平和に台頭していると思われたいのです。

 もちろん中国の関心の中心は、体制を強化し、経済力、軍事力を強化することです。中国は近隣諸国に、脅威と思われるような方法で軍事力を使いたいとは思っていません。なぜなら、そうすれば地域にあるすべての国を、アメリカに委ねてしまうことになるからです。ですから、中国は慎重です。

――それでも日中間で軍事衝突になれば、中国はどのような行動に出るでしょうか。もし日本が勝利を収めれば、さらに激しい対立になるでしょうか。

 具体的なシナリオがない状態でその質問に答えることは非常に難しいですね。軍事衝突は、どのように始まるでしょうか。日本が、中国が反撃しないといけないような挑発的行動に出るのでしょうか。軍事衝突が勃発するシナリオはいくつもありますが、いずれも日本の利益にもならないし、中国の利益にもならないし、アメリカの利益にもなりません。中国人の中には、日中間の緊張が高まるとアメリカの利益になるという人がいますが、それはナンセンスです。アメリカは日中間が良好な関係であることに深い関心を持っています。

――例えば、日本が軍艦を尖閣諸島周辺に送れば、それはかなり挑発的な行動になるかもしれません。そうなると小さな軍事衝突が起きるかもしれません。

 それはあり得ますが、中国が尖閣諸島を占拠することはないでしょう。その確率は非常に低いです。

 中国の監視船が日本の海上保安庁と衝突する事故が起きることは想像できます。もちろんそういう事故が起きれば、さらに大きな衝突になる可能性はありますが、2国間でそれを阻止しようと努力する可能性の方が高いです。

 中国の武力と外国の武力が衝突する事故は過去にもありました。例えば、2001年に中国の戦闘機とアメリカの偵察機が空中衝突しました(海南島事件)。そういう事故が起きたら、すぐに高いレベルの指導者たちが関心を持って、事態が打開されなければなりません。一般的に言うと、国家のリーダーたちは賢いので、理由もなく戦争することは望まないと思っています。」

http://diamond.jp/articles/-/25011

ハリウッドがシェールガス反対

2012-10-15 10:53:21 |  北米
「シェールガス開発に激しい反対運動 「水圧破砕」めぐり米エンタメ界
産経新聞 10月14日(日)15時12分配信

拡大写真
ショーン・レノンさん(写真:産経新聞)
 日本では昨年3月に発生した東日本大震災で東京電力福島第1原子力発電所が大事故を起こして以来、反原発運動が活発ですが、米国ではいま、エンタメ業界が中心となって、最近、米国内で産出量が急増している新エネルギー「シェールガス」の開発に対する激しい反対運動が起こっています。

【フォト】 シェールオイル試掘成功 豊富な海洋資源 「国産エネ」急務

 「シェールガス」とは、頁岩(けつがん)(=シェール)という地中の固い岩盤層に閉じ込められた天然ガスのことで、これまでのガス田ではない場所から生産されることから「非在来型天然ガス資源」と呼ばれています。米国では昔から有望なエネルギーとして知られていましたが、2000年以降、地下深く井戸を掘り、ガスが閉じ込められているシェール層に高圧の水圧をかけて割れ目を入れる「水圧破砕」と呼ばれる掘削・採取技術を確立。生産コストが一気に下がったため開発ブームが起きているのです。生産量の急増により、液化天然ガス(LNG)の安定供給と価格安定にも大きく貢献しています。

 そのため「シェールガス」には経済成長を大きく促す力があるとの期待が高まっており、オバマ政権は「国産エネルギーの増強」を掲げ開発を推進しています。日本でも原発停止で代替火力発電用のLNG輸入が急増していることから、大きな期待と注目が集まっています。ところがこの一見、良いことずくめの「シェールガス」に、元ビートルズのジョン・レノンさんの息子で、ミュージシャンのショーン・レノンさんが真っ向から意を唱えたのです。

 8月27日付米紙ニューヨーク・タイムズは、父ジョンがニューヨーク州で購入した農地を含む環境が「シェールガス」の開発で破壊されるとのショーンさんの寄稿を掲載。これが大きな波紋を広げました。寄稿によると、この農地はニューヨーク州デラウエア郡の北端にあり、父ジョンと母オノ・ヨーコさんがショーンが生まれる前に趣味で酪農を楽しむため購入したのだそうです。ところが数カ月前、突然、地元の高校でガス会社が開発計画の説明会を行い「水圧破砕」でガスを生産し、一帯にパイプラインも張り巡らせることが明らかになりました。

 この計画に、農家を中心とする地元住民のほとんどが反対しましたが「会社側は意に介さず、計画を実行するようだった」(ショーンさん)ことから、ショーンは「シェールガス」について自分で調べました。その結果、「水圧破砕」では化学薬品を大量に使うことから「クリーンなエネルギーといわれているが、ガス井戸1カ所につき、有害物質を含む1900万リットルもの水が必要な真に汚いエネルギーだ」と指摘。また「生産開始から20年以内に漏れるメタンは二酸化炭素の105倍も強力な温室効果ガスだ」とし、地球温暖化にも悪影響があると断言しました。

 専門家からは採掘に伴い地震を誘発する可能性も指摘されているうえ、「水圧破砕」で使った水は大量の化学薬品を含んでいるため、火を近づけると燃えるといいます…。さらにショーンさんは「この農場一帯の水の汚染がニューヨーク州全体の水の汚染に直結する」と記し、「われわれの水や生活、地球を次世代に残すため、すべての『水圧破砕』に反対する」と訴え、アンドリュー・クオモ州知事に、ニューヨーク州での開発計画の見直しを訴えました。既にヨーコさんはクオモ州知事に7月「水圧破砕と呼ばれる方法で簡単に金儲けしようとする人々が米国の将来を台無しにしようとしています」との内容の書簡を送っています。

 ショーンさんはヨーコさんとともに「シェールガス」開発のための「水圧破砕」に反対するアーティスト団体を設立。8月29日にニューヨークのマンハッタンで設立会見を行いましたが、8月31日付米誌タイム(電子版)によると、この団体は元ビートルズのポール・マッカートニーさんとリンゴ・スターさんのほか、米人気女性歌手のレディー・ガガさん、女優のグウィネス・パルトロウさん、アン・ハサウェイさん、ユマ・サーマンさん、男優のヒュー・ジャックマンさん、アレックス・ボールドウィンさんら計約180人ものスターの賛同者を集めるなど、力を増しています。

 そして、この反対運動がさらに広がりそうな出来事が起こりました。10月7日付米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)によると、人気ハリウッド・スター、マット・デイモンさんが主演する米新作映画で、12月28日に全米公開される「約束の地」(ガス・ヴァン・サント監督)が、「水圧破砕」による環境や人体への悪影響について描いているとして、エネルギー業界が猛反発していると報じたのです。米の映画情報オンラインデータベース「IMDB」などによると、この映画は、デイモンさん演じるガス会社のセールスマンが「シェールガス」の採掘権を得るため、米東部ペンシルベニア州の農村を訪問した際、人生を変える出来事を体験するという物語で、デイモンさんは共同で脚本も執筆しています。

 WSJに対し、米国独立系石油協会の代表者、ジェフ・エシェルマン氏は「この種の映画が表現しようとする内容に対処せねばならない」と怒りましたが、映画の配給元であるフォーカス・フィーチャーズのジェームズ・シェイマス経営最高責任者は「まだ誰も見ていない映画に対し、すでに反対のキャンペーン運動が組織されていることにとても驚いています」と困惑混じりにコメントしました。また、この映画に出資している社会派ドキュメンタリー作品専門の映画・テレビ番組制作会社「パーティシパント・メディアLLC」の経営最高責任者ジム・バーク氏はWSJに「この映画は、国民の健康と安全のための透明性と規制の重要性を描いています」と石油業界に1歩も譲らない姿勢を見せています。

 しかしこの映画について、ひとつ気になることがあります。産油国で知られる中東アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ政府が一部出資するファンドが制作資金を融通しているのです。このファンドは過去にも「パーティシパント・メディアLLC」が手掛けた複数の作品に投資しており、今回の映画への投資についてもWSJに「作品のジャンルや主題は気にしていない」とのんきに話しています。とはいえ「シェールガス」の大ブームで安い天然ガスが市場を席巻し、石油業界の収益を大きく圧迫している米国内の状況を考えると、この映画にアブダビ政府が関わっている事実は注目に値します…。いずれにせよ「シェールガス」の開発が自然環境などに与える悪影響について、今後世界中でさまざまな論議が起こりそうです。(岡田敏一)」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121014-00000519-san-bus_all

アメリカが見る韓国大統領選挙/マイケル・グリーン

2012-10-13 16:41:45 |  北米
「【中央時評】韓国大統領選を眺める米国の視点
2012年10月13日11時45分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版] comment16hatena0
米国でも大統領選挙の真っ最中だが、米国のアジア観測筋は韓国の大統領選に大きな関心を見せている。その観点を要約してみよう。この文章は科学的な調査を根拠にしたものではなく、米国政府やロムニー共和党大統領候補陣営の見方を反映したのでもない。オバマ大統領、ロムニー候補など誰であっても、韓国の新しい大統領と2国的・地域的・世界的な問題を扱う機会を歓迎するだろう。韓国大統領候補に対する米国の観測筋の観点は、少なくとも特定の候補を好んだり嫌ったりするものではないという点を基本前提とする。

朴槿恵(パク・クネ)候補はワシントン政界に広く知られていて、彼女を支援する対外政策補佐官もよく知られている。朴候補が執権すれば、現政権の政策を修正し、南北対話を推進するだろうが、これは本質的に米国の利益とは衝突しないと判断される。

米国の関心は、非核化の進展と平和および安保の増進のため2国間で調整された政策から抜け出し、韓国政府が突然、北朝鮮に物質的な補償をすることで米国を驚かせたり、米国の外交政策を損なわせたりしないかだ。朴槿恵候補は盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領政権が度々そうだったのとは違い、米国を驚かせたりはしないという相当な信頼がある。

朴候補の中国に対する立場に対しては多くの人が心配している。オバマ候補であれロムニー候補であれ、中国“封鎖”政策はしないはずで、中国と韓国を含む米国の同盟国の間の関係が良くなるのを否定的に見たり、ゼロサムの観点では考えないだろう。しかし米国はアジアで微妙な戦略ゲームを繰り広げていて、その目標は中国が国際的基準に基づいて行動するよう誘導し、民主主義国家間に分裂を追求しないようにすることだ。こうした脈絡で見ると、最近の韓国・日本の葛藤は米国にとって大きな悩みだ。

中国と関係改善意思を見せる朴候補の立場に対し、米国人は肯定的だ。ただ、中国側が意図的かどうかに関係なく、日本や米国との距離を置くのに悪用しないことを前提とする。一部の観測筋の間では、朴候補が中国に対して好意的な立場を見せるのは自分が親米的だという期待値のためにそうなのか、それともそれとは関係ないものかをめぐり、意見が分かれている。

文在寅(ムン・ジェイン)候補は朴候補ほどワシントンには広く知られていない。釜山(プサン)に住んでいたため、韓国を訪問する米国人と接触が少なかったのだろう。しかしブッシュ-盧武鉉当時に勤務した米当局者は、当時の青瓦台(チョンワデ、大統領府)の多くの核心関係者が米国を刺激しようとした当時、文候補が安定的かつ実用的な立場を見せたことを記憶している。また盧武鉉政権の初期、韓米同盟が脆弱だった事実から貴重な政治的・戦略的教訓を得たという期待感もある。

しかし一部の観測筋は、文候補陣営が主張する南北経済連合と平和協定主張に対して不安感を抱いている。そういうものは大統領選挙の公約にすぎず、実行過程で適切に調整されれば問題はない。しかし文候補が対北朝鮮政策をどのラインまで推進するかについて正確に知る人が米国にはいない。

安哲秀(アン・チョルス)候補は米国政府の関係者や学者の間でほとんど知られていない。安候補に直接会った人がほとんどいないうえ、安候補の補佐官さえも候補の立場をそれぞれの形で説明している。南北和解と平和体制、核問題の平和的解決を強調する安候補の立場はあいまいで、文候補と朴候補の中間ライン程度と考えられる。

安候補が反米的だという予想は全くないが、彼の政策および政治経験不在により米国の予想から外れることが発生したり、政策調整に困難が生じることがあるという懸念が一部ある。オバマ大統領が述べたように、政治指導者が選挙キャンペーンの情熱から抜け出し、政府運営者の姿勢を備える過程は容易なことでないからだ。その一方で、安候補の事業家としての経歴は米大統領と実用的かつ生産的な関係を生み出すのに役立つと判断される。

3人ともに好感を与える候補で、米大統領が注目するほどの指導者だ。韓米両国は転換期を通過している。オバマ大統領が米大統領選で勝利しても国務長官は代わるだろう。各候補が具体的な政策を出していない状態とはいえ、米国と意見交換をするのは早いほどよい。

両国間で相手を驚かせることがあってはならない。対北朝鮮政策で顕著に立場の違いが生じれば、両国政府は相手の立場を排撃するよりも、相互補完的になるように努力するという原則の下で動く必要がある。

マイケル・グリーン米戦略国際問題研究所(CSIS)日本室長」

http://news.livedoor.com/article/detail/7038893/

目も当てられない共和党候補たち/ニューズウィーク日本語版より

2012-08-31 17:36:16 |  北米
「 11月の米大統領選に向けた共和党全国大会で8月29日、副大統領候補に指名されたポール・ライアン下院予算委員長。思慮深い人なら彼の指名受諾演説を聞いて、こんな感覚に陥ったのではないか――自分はビンの中に閉じ込められていて、人々に警告しようと大声で叫んでも誰にも聞こえない。

 ライアンのつく大ウソは、国民の共感を呼んでいる。人々がきちんと真実を聞き入れられれば、ライアンとミット・ロムニー大統領候補の共和党ペアを選んだりはしない、と私たちは言い続けてきた。でも実際は、そう単純にはいかない。

 ライアンは、ゼネラル・モーターズ(GM)の経営破綻をオバマ大統領のせいにするが、実際はブッシュ前政権時代に既にほとんどの工場が閉鎖され、大量の失業者が出ていた。また、メディケア(高齢者医療保険)の予算カットを批判しているが、これもライアン自身が下院予算委員長としてまとめた予算だ。こうしたあらゆる問題をめぐる彼の歪曲ぶりは誰が見ても明らかで、めちゃくちゃだ。

 しかし私たちはもう気付いているはずだ。人間というものは、自分が持っている世界観の中でしか事実を認識できないのだ、と。

「真実」は無視し、相手を攻撃し続ける戦略

 だから、ライアンとロムニーの作り話を信じている有権者の多くに、「その話は間違っている」と説得できる可能性は非常に低い。有権者はオバマ支持とロムニー支持に二分されており、誰に投票するか決めていない浮動層はほとんどないと言っていいくらいだ。

 今回の大統領選は論理ではなく、感情で勝者が決まるだろう。選挙の行方は投票率しだいだ。だからライアンとロムニーは、毛ほどの迷いもみせず、声を張り上げ、徹底的に相手を攻撃する戦略を取っている。本人たちも認めているように、「真実」は彼らの選挙戦を勝利に導く力にはならない。

 ライアンは、アメリカ国債の格付けが下がりそうだと嘆く。ただしそれは彼ら共和党が、連邦政府の債務上限の引き上げに反対を続けているせいだ。保守派市民運動ティーパーティーの高齢者たちが、オバマケア(公的医療保険)には不当な政府介入として猛反対しながら、高齢者向けの公的医療制度については「私のメディケアに手を出すな!」と金切り声をあげるのと同じだ。しかしこの偽善ぶりはこの先変わらないだろう。私たちも、変わると期待するのはやめるべきだ。

 私たちはどちらを選択するのか。聖書をすべての基本とし、科学や理性、論理、真実を否定する共和党のロムニー&ライアン候補か。実りのない交渉に力を入れ過ぎるきらいはあるが、少なくとも今は真っ当に戦っているオバマ大統領か。

 変えられないものを変えようとする、その努力を私たちはやめられないだろう。とにかく自分と同じ考えの人々に、選挙のことを真剣に考え、投票に行ってもらう――そう働きかけるしかない。

© 2012, Slate」

共和党候補の基盤は、白人人種差別主義者たち?

2012-08-31 12:42:58 |  北米
 以下の話が本当ならば、ロムニー時事の共和党支持者は、白人の人種差別主義者の集団であり、彼らの「アメリカ」とは、白人・キリスト巨との国家以外あり得ないと思うが、如何。

「『2016──オバマのアメリカ』という映画をご存知だろうか。私はほんの24時間前、米共和党全国大会に出席していた俳優のジョン・ボイトから初めてこの映画のことを聞かされた。

「あらゆる人が『2016』を観るべきだ」と、ボイトは言った。「ただの党利党略映画じゃない。これは真実そのものなんだ」

 この映画を監督したディネシュ・デスーザが訴える「真実」はシンプルだ。オバマはケニア人の父から受け継いだ反植民地主義的で反資本主義的で反キリスト教的な「夢」のために、アメリカを破壊しようと突き進んでいる──。

 デスーザはニューヨークのキリスト教の大学キングス・カレッジの学長。オバマ批判で知られる保守派の政治評論家でもある。

 彼が監督した90分のこの映画は、オバマの知人などのインタビューやデスーザのナレーションで構成されるドキュメンタリー。目的は、オバマの大統領としての行動の裏にある本当の目的を暴くことにある。そのためデスーザはオバマの人生を3年以上にわたって追跡。父バラク・オバマ・シニアを知る人々にもインタビューを行っている。ほとんど会ったこともないのに、若きオバマに最も大きな影響を与えた人物──それが父だった、というわけだ。

 デスーザは過激な表現は用いていない。だが、彼の言う反資本主義とはつまり「共産主義」。反キリスト教は「イスラム教」で、反植民地主義は「反白人主義」ということだ。簡単に言えばこの映画は、「過激な共産主義ムスリムで白人嫌いのオバマがアメリカを乗っ取ろうとしている」と訴えている。

ドキュメンタリーでは異例の大ヒット

 今秋に大統領選を控え、オバマと共和党のミット・ロムニー候補が支持率で拮抗する中、この映画はかなり過激なスローガンだ。

 デスーザ自身はインド出身で、自分は人種差別主義者ではないと強調している。自分とオバマとは肌の色がほぼ同じだ、と彼は言う。とはいえ、彼の映画は有権者の人種的、政治的な恐怖を見事に呼び起こすような出来栄えだ。

 8月27日に開幕した共和党全国大会の会場では、『2016』がいかに素晴らしい出来だったかと熱く語り合っている記者たちの姿も見られた。

 たしかに作品はプロの仕事と言える完成度で、洗練されていて興味深く、説得力があった。興行的にも成功しており、公開された先週末の興行収入ランキングではドキュメンタリー映画としては異例の7位にランクインした。もちろん、保守派の論客たちからは素晴らしい「洞察力」だと絶賛された。

 いまや映画のメッセージは保守派だけでなく一般の人々にも浸透しつつある。オバマの支持者が映画の主張を受け入れるとは思えないが、オバマに批判的な人たちにとっては新たな攻撃材料になることだろう。

「2008年の時点では、われわれはオバマを分かっていなかった」と、映画の中では語られている。「今では分かる。2016年のアメリカを支配するのはアメリカンドリームか、オバマ・ドリームか」

 2016年には、この映画が保守派の単なる妄想だったのか、真実を描いたものだったのかも明らかになるだろう。

From GlobalPost.com特約」

だったら自分が養ってきた右翼・保守派を黙らせたらどうでしょうか。

2012-08-16 17:53:01 |  北米
 アーミテージら「知日派」が日中韓の緊張を緩和すべく、日本に対する提言を行っている。

 内容はともかく、そもそも日本の右翼保守派を戦犯容疑ら開放し、利用し、その後継者を育ててきたのはアメリカ自身だ。

 彼らを黙らせるなり、あるいは日本の暴力団を使うなりして「沈黙」させたらいかがでしょうか。


 なお、日本政府ニ歴史問題をめぐる現実を直視すべきだと言っている点はもっとも。

 クリントン国務長官は「従軍慰安婦」はcomfort woman 等ではなく sexual slaveだと言っていますが、その通り。

 日本政府は自身が民主的な人権を守る国だというのなら、人権の観点から従軍慰安婦問題に関して自らの過去をさばくことが必然である。

 石原等右翼は、レイプと殺害を繰り返した旧日本銀の軍人そのものであり、その連中がアメリカの庇護下で日本を再び破局的な無法者国家にしようとしている。

 彼らは本来裁判の被告席にたつべきであり、その上で処刑されるべき輩であろう。

「アメリカ政府で要職を務めた日米関係の専門家が、同盟強化に向けた提言をまとめ、地域の安定には、日米に加え韓国との協力関係が不可欠だとして、アメリカは歴史問題を巡る日韓のあつれきの解消に努めるべきだとしています。

この提言をまとめたのは、ブッシュ政権で国務副長官を務めたアーミテージ氏ら、12人の日米関係の専門家です。

専門家たちは、日本の現状について、「一流国家であり続けたいのか、それとも二流国家に転落してしまうのかの決断が迫られている」と厳しい見方を示し、幅広い分野での提言を行っています。

このうちエネルギー分野では、中国や韓国などが原子力発電を続けるなか、日本に遅れをとる余裕はないとして、安全性に十分配慮しながら原発の再稼動を進めるべきだと提言しています。

さらに安全保障の分野では、中国軍の活動の活発化に対応するため、アメリカ軍と自衛隊が協力して、南シナ海で無人偵察機による監視活動を行うことなどを提言しています。

また、歴史問題を巡る日本と韓国のあつれきについては、地域の安定には日米韓3か国の協力関係が不可欠だとして、アメリカが両国間のあつれき解消に向けて外交的な努力を行うべきだと提言するとともに、日本も問題を直視すべきだと促しています。」

(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120816/k10014310201000.html)

マリッサメイヤーを支えるエリート集団

2012-07-30 10:21:37 |  北米
 ヤフーの新CEOとなったまりっさ・メイヤーについて紹介したものの、内容はそのリッチな生活スタイルについてだったので(→http://blog.goo.ne.jp/baileng/e/26948fca15ab023c3e173ddab5f27a53)、今回はその仕事・人材育成に関する話題を紹介する。

 「グーグルの「社員番号20番」として知られたマリッサ・メイヤーが、先日ヤフーの新CEOに就任した。数々の難問を抱える同社だが、なかでも有能な管理者と製品開発者をどう集めるかは、新CEOにとって緊急を要する課題のひとつである(その点についてはみんなの見方が一致している)。

ヤフーでは優秀な人材が払底しかかっている。もっとも優秀な技術者は他社に移り、近年では有望な新人の数もますます減っている。あのメイヤーでも、こうした人材流出に歯止めをかけ、再び優れた頭脳を集めることは難しいだろう。そんな疑問の声も上がっている。

しかし、メイヤーにはこの問題を解決するための彼女しか持ち得ない強みがある。彼女は過去10年にわたって、あらゆる技術分野で最高の才能を持つ開発者やプロダクトマネージャーたちをまとめる長老的な存在であった。彼女には、グーグルのリーダー養成プログラム「アソシエイト・プロダクト・マネージャー」(以下APM)に選ばれた、突出した才能の持ち主たちが付いている。

メイヤーは、このプログラムをゼロから作りあげた。それだけでなく、彼女はこのプログラムで指導的役割を果たし、その役目を手放すことは決してしなかった。この幹部育成プログラムは、グーグル在職中に彼女が手がけた重要な仕事のひとつだった。そして今、彼女はその成果の一部を収穫することになるかもしれない。

APMには「アソシエイト」という控えめな肩書きがついているが、この名前にだまされてはいけない。APMは、グーグルの新人たちがもっとも就きたがるポストであり、テクノロジー業界の新たなスターを生み出すインキュベーションシステムだ。「APMプログラムはグーグルのコアバリューの1つで、私はそのメンバーの一人が将来のCEOになってほしいと思っている」。グーグルで現在会長職にあるエリック・シュミットはかつてそう述べていた。

APMの「卒業生」のなかには、次のような人材がいる。たとえば第一期生のひとりであるブライアン・ラコウスキーは、スタンフォード大を卒業後すぐに同社で働き始め、クロームブラウザ開発チームの主要なリーダーとなり、現在はクローム部門のヴァイスプレジデントになっている。第2期生のウェスリー・チャンは、グーグルツールバーを成功に導き、その後グーグル・アナリティクスやグーグルボイスの開発に携わった。彼は現在、同社のヴェンチャーキャピタルであるGoogle Venturesで新たな投資先を探している。そのほか、Google Mapsの開発で名を上げたブレット・テイラーも初期のAPM出身者のひとり。彼はその後グーグルを去って、仲間とFriendfeedを立ち上げ、さらにフェイスブックに加わって、この春まで同社のCTOを務めていた。

すべてのAPM出身者がこれほど輝かしい功績を残しているわけではないが、彼らは基本的にエリートと見なされている。グーグルには、2年間のAPMプログラムに参加している社員が常に40人以上いて、このプログラムが始まった2000年代前半から数えれば、すでに300人以上のAPM出身者がいることになる。

そしてこれらのAPM出身者たちをつなぐのが、APMの生みの親であり、メンバーたちのロールモデルで、かつメンター役も務めたマリッサ・メイヤーというわけだ。

 メイヤーがこのプログラムを発案したのは2002年のこと。当時グーグルは、同社の独特の企業文化の中で力を発揮できるプロダクトマネージャーを探し求めていた。彼らが求めていたのは、上司のような存在ではなく、優秀なプログラマーたちと連帯感を持ちながら働くことができるチームのリーダーだった。また、グーグルのプロダクトマネージャーは、技術的問題を理解し、データに基づいた強力な主張と抜け目のない心理学的なアプローチを手に、自らの考えをチームに広めるような人物が理想的とされていた。しかし、マイクロソフト出身のプロダクトマネージャーやMBA取得者など、別の場所で経験を積んだ人材は、グーグルのやり方を理解せず、自らの価値観をチームのメンバーに押しつけようとしていた。

そこでメイヤーはAPMのアイディアを思いついた。APMのイメージは、大学でコンピューターサイエンスを専攻した、学校を出て間もない、もしくは卒業後に職について18か月以内の新人を雇うというもの。理想的な応募者は、技術的才能があるが完全なプログラミングギークというわけでもないような人物。APMは対人的な能力とビジネスセンスを兼ね備えた人物である必要がある。ざっくりいえば、彼らは企業内起業家ということになる。APMに選ばれるには、ハーヴァード大の入学試験が霞むほどたくさんの面接を突破しなくてはならない。そして、選ばれたものはグーグルの最深部、本当に重要なプロダクトのチームに入ることになる(たとえば、最初のAPMとしてラコウスキーが任されたのは、まだ動き始めたばかりのGmailの開発プロジェクトだった。ちなみにラコウスキーはメイヤーがグーグルを去った後、APMプログラムの運営を引き継いだという)。

かつてメイヤーは「われわれはAPMのメンバーにかなり大きな責任を与える」と話していたことがある。「彼らがそれにうまく対処できるかどうかを見るためだ」(メイヤー)。またグーグルはAPMに選ばれた社員に、経営幹部の仕事も手伝わせる。例えば、上級幹部が参加するミーティングで議事録をつくったり、将来性十分と思われる製品についての資料を作成したり、といったタスクである。

同プログラムはこれまで大きな成功を収めてきた。ARM出身の社員たちはグーグルが進める多くの重要なプロダクト開発で、不可欠な役割を果たしてきており、その分野はアプリ開発から検索、広告関連まで、多岐にわたる。同プログラムが成功したことから、グーグルはプロダクト以外のチームリーダーを育てるための別のプログラムも始めた。マーケティングAPM(以下、MAPM)と呼ばれるこのプログラムは、APMに比べてまだ知名度で劣るものの、決してとるに足らない存在というわけではない。例えば、グーグルを去ったあとInsatagramを創業したケヴィン・シストロームは、このMAPM出身者である。

このAPMでいつも変わらなかったのは、メイヤーの存在である。プログラムを取り仕切っていたのは彼女のスタッフだった。メイヤー自身が検索関連製品の責任者からローカル関連サーヴィスの責任者に移動になった2011年以降も、その点は変わらなかった。メイヤーとうまくコミュニケーションがとれないと、APMにはなれなかった。候補者選定に際して行われる数多くの面接で、最後に待ち構えているのがメイヤーとの面接だった。そして通常は彼女が最終的な判断を下していた(彼女は面接の席で候補者に「あなたが大好きな製品をひとつ挙げてみて」と訊ねていた。正しい答えなどない質問だった。同時に、情熱を込めて自分の好きな製品について話さなければ、面接には合格できなかった)。

APMに選ばれた者には、マイヤーがメンター兼相談役となった。彼女は、頭がおかしくなるほど多忙なスケジュールの合間を縫って、APMのメンバーと話をする時間を設けていた。またAPMでなにか問題が生じれば、彼女は舞台裏からその解決を図ろうとした。

APMでは2年間のプログラムが半分を過ぎたあたりで、メイヤーが引率役となって、海外の拠点を回るツアーが実施された(私も2007年のツアーに同行したことがある。この時は東京、北京、バンガロール、そしてテルアビブを回った。今年のツアーではジャカルタにも立ち寄るという)。このツアーは参加メンバーにとって絆を深める体験となる──メンバー同士の絆、そしてメイヤーとの深い絆がここでつくられる。

 APMの出身者は、プログラム修了後もメイヤーと連絡を取り続けるものが多い。時々彼女と会ってキャリアについてのチェックをしたり、新たな仕事への移動を考えているときに彼女と相談したりする。こうしたことは、APM出身者がグーグルを辞めた後でもあるという(APM出身者のなかで、他社に移ったり、自分で起業したりする者が少なくないのも驚くことではない。APMに選ばれるには大きな野心と独立心が必要だが、そうした心的傾向を持つ人間は、往々にして大企業内で働き続けることには向いていない)。

つまり簡単にいうと、こういうことになる。マリッサ・メイヤーには、シリコンヴァレーのなかでも最も才能溢れる300人以上の人材をカヴァーするネットワークがある。そのなかには、いまだにグーグルで働いている者もいれば、フェイスブックやドロップボックスに移った者、あるいはOptimizelyのような生きのいいヴェンチャーを自分で立ち上げた者もいる。しかし、いまどこで働いていようと、彼らはみなマリッサ・メイヤーの親衛隊……見方によっては、そういうこともできる。

だから、一部のAPM出身者がヤフーで働き始めたとしても不思議はない。さらに、それぞれのAPM出身者には独自の人的ネットワークもあり、そのなかに有望な候補者がいれば、そのことをメイヤーに知らせるということも考えられる。メイヤーがヤフーのCEOを引き受けることが決まった後、まず出した電子メールのひとつがAPM出身者全員にあてたものだったが、それも極めて自然なことだった(彼女はそのメールのなかで、自分の移籍を知らせ、そして今後も連絡を取り続けることを約束したという)。このメールでメイヤーはAPM出身者に、全員がとても特別な家族の一員であることを思い出させた。

そんな家族の何人かをヤフーという新しい家に迎えられることは、おそらくメイヤーにとっても嬉しい出来事となるだろう。

TEXT BY STEVEN LEVY
PHOTO BY MARZIAH KARCH
TRANSLATION BY 中村航

WIRED NEWS 原文(English)」

(http://wired.jp/2012/07/26/marissas-secret-weapon-for-recruiting-new-yahoo-talent/)