goo blog サービス終了のお知らせ 

白夜の炎

原発の問題・世界の出来事・本・映画

日韓関係の遠近法 /浅羽祐樹 ・比較政治学より

2016-01-27 13:06:17 | アジア

「「基本的価値を共有していない」というのは本当か

2015年、日韓両国は1965年に国交を正常化してから50周年を迎えた。「共に開こう 新たな未来を」と謳われたが、「史上最悪の関係」という評価が一般的だった。首脳会談だけでなく外相会談も開催できないという異常な事態が続き、相手に対する感情も下げとどまっていた(内閣府「外交に関する世論調査」)。さらに、その原因を互いに「反日」「右傾化」に帰せ、自らを省みようという姿勢に乏しい(言論NPO「第3回日韓共同世論調査結果」)。

そんな中、安倍晋三首相と朴槿恵大統領は、3年半ぶりの日韓首脳会談を行った。日中韓サミットの脇でようやく実現し、昼食すら一緒にしないという略式のものだったが、慰安婦問題の「早期妥結」に向けて交渉を加速させることで一致するなど、少なくとも政府間関係はある程度「正常化」した。

40周年のときは、韓流・日流ブームの真っただ中で、日韓関係は今後、「体制共有」から「意識共有」へと進化していくと期待されていた(小此木政夫編『韓国における市民意識の動態』慶應義塾大学出版会、2005年)。しかし、「10年経つと山河も変わる」という韓国のことわざのように、自由民主主義や市場経済など政治経済システムや、米国との同盟を主軸とする外交安保政策など、「体制をめぐる意識の離反」が顕著である。

産経新聞前ソウル支局長に対する刑事告訴は、「基本的価値の共有」という日韓関係に関する規定が外交白書などから削除される引き金になった。しかし、ソウル中央地裁は、「韓国も民主主義体制である以上、言論の自由は広く保障されるべきであり、公人に対する場合は、悪意や極めて軽率な攻撃で顕著に相当性を失っていない限り、名誉棄損における違法性が阻却される」という大法院(韓国最高裁)の先例どおり、無罪を言い渡した。

もちろん、そもそも検察による告訴自体に無理があり、「マイナスがゼロに戻っただけ」という評価もある。慰安婦問題で支援団体とは異なる「第3の声」を伝えようとした朴裕河教授(『帝国の慰安婦―植民地支配と記憶の闘い』朝日新聞出版、2014年)も名誉棄損の嫌疑で刑事告訴され、初公判を控えている状況には何も変わりがない。

「言論・出版の自由」(第21条第1項)や「学問の自由」は(第22条第1項)、当然、韓国憲法でも保障されている。異論の許容や多様性の保障は、単に選挙が定期的に行われているだけではなく、実質的な競争、ひいては人権が保障されるという自由民主主義体制の根幹を成している。もちろん、日本においても全く同じことが当てはまる。

日韓それぞれにおける自由と民主主義の程度について、国境なき記者団、フリーダムハウス、ワールド・ジャスティス・プロジェクトなど国際スタンダードに基づいて比較すると、ほぼ同じ水準である。日本政府による規定とは別に、フェアに評価する姿勢が重要である。たとえば、報道の自由は、国境なき記者団の指標では、両国とも「顕著な問題(noticeable problems)がある」と指摘されていて、日本(61位)は韓国(60位)よりも順位が低い。

この「自由なき民主主義(illiberal democracy)」という問題は、特に新興民主主義国の韓国(崔章集(磯崎典世ほか訳)『民主化以後の韓国民主主義―起源と危機』岩波書店、2012年)において、「権威主義体制への転換」には到らないまでも、「民主主義体制の後退」として理解されている。

日本でも、「民主主義の再生」が問われる中、「民主主義ってなんだ?」に対して「これだ!」と断定する傾向が一部で見られる。しかし、そもそも民主主義には様々なパターン(アレンド・レイプハルト(粕谷祐子・菊池啓一訳)『民主主義対民主主義―多数決型とコンセンサス型の36カ国比較研究[原著第2版]』ミネルヴァ書房、2014年)があるし、さらに、民主主義だけで十分なのか、という疑問がある。むしろコール(叫ぶ/要求)すべきなのは、「あれもこれも!」だし、「民主主義も自由主義も!」であるはずだ。

民主主義だけでなく自由主義も、代議制民主主義体制に欠かせない基本的価値である。いくら民意を反映して権力を創出したとしても、権力相互間で牽制させることで均衡が保たれない限り、「多数派の専制」によって少数派の人権が侵害されかねない(待鳥聡史『代議制民主主義―「民意」と「政治家」を問い直す』中公新書、2015年)。日韓それぞれでいま問題になっているのは、明らかに、後者である。

民主主義と自由主義、政治と法、議会と司法の関係は、国や時代によって異なるが、基本的には憲法で規定されている。日本の場合、最高裁判所は国会の立法裁量を広く認め、法令の違憲審査に消極的であるが、「憲法の予定している司法権と立法権との関係」(最高裁「選挙無効請求事件/最大判平27.11.25」)は決して静態的なものではない。

このダイナミズムは、韓国を理解する上で、躓きの石になっている。産経新聞前ソウル支局長の件でも、そもそも検察は大統領(府)の意向を汲んで刑事告訴を行い、外交部も裁判所に対して善処を求めるなど、「行政からの司法の独立」が疑問視された。韓国憲政史においては、過去清算のためにはときに遡及法も厭わないが、これも、まずはどういうロジックになっているのか、内在的に理解する必要がある。


どのように慰安婦問題で「妥結」するか

安倍首相と朴大統領は日韓首脳会談で、慰安婦問題の「早期妥結」に向けて交渉を加速させることで一致した。安倍首相としては、国交正常化時に日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」(第2条第1項)という従前の立場を堅持しつつ、「戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去」(首相官邸「戦後70年総理談話」)について、アジア女性基金と同じように、「人道的見地」からは何らかの措置を改めてとることを表明したことになる。

他方、就任以来、「慰安婦問題の進展」を日韓首脳会談の条件にしてきた朴大統領にとって、「解決」ではなく「妥結」というかたちに応じたのは画期的である。「法的責任」「国家賠償」を求める支援団体が厳に存在し、世論を圧倒する中で、国内外で合意が可能なウィンセットは歴代韓国政府としても限られていた。

今回、程度はともかく、日韓双方が譲歩したということである。問題は、こちらがさらに譲歩すれば相手も同じように報いるという確証を互いに持てるか、である。「何度も蒸し返された」という不満がある日本は、「今度こそ最後だ」という保証を求めている。在韓日本大使館の前に支援団体が設置した少女像を撤去するのは、そのための方法の一つだが、韓国政府が国内調整に主体的に動いてはじめて可能になる。

逆に、日本政府も、韓国政府だけでなく、広く韓国国民から「心と精神」の両方を勝ち取る手立てを工夫する必要がある(渡辺靖『文化と外交―パブリック・ディプロマシーの時代』中公新書、2012年)。その際、「謝罪する国家」という英文専門書の表紙がワルシャワ・ゲットーで跪くブラント独首相の写真であることに留意したい。

もっとも、たとえ慰安婦問題が「妥結」したとして、「日韓歴史認識問題」(木村幹著、ミネルヴァ書房、2014年)の火種はなお残る。

朴大統領は2017年3月からの新年度に向けて、「正しい歴史教科書」という国定の歴史教科書の編纂に着手した。「正しい歴史認識」はこれまで日本に対して要求してきたが、韓国内でも「正史」を通じた「正しい国家観」を確立することを目指すというのである。賛否は真っ二つに割れていて、保守層や高齢層ほど賛成が高い(世論調査機関「リアルメーター」による「世論調査結果」2015年10月22日)。

日韓間で争点になりうるのは、「日帝強占期」の評価である。「日本という帝国主義によって強制的に占領されていた期間」という意味で、1910年の韓国併合条約や、父である朴正煕大統領による日韓国交正常化に対する法的評価と直結する。日本は「正当性はともかく、合法・有効」、韓国は「そもそも不当・不法・無効」をそれぞれ主張したが、最終的には「もはや無効(already null and void)」(日韓基本条約第2条)というかたちで双方「妥結」した。

他にも、国際的には法的主体として扱われたことがない「3・1運動によって建立された大韓民国臨時政府」(大韓民国憲法前文)の実態についてどのように描かれるのかも焦点である。1919年の時点で「建国」ということになると、1948年8月15日は「政府樹立」にすぎず、現在の憲法の「法統」(大韓民国憲法前文)、さらには「法源」は、この「抗日」の歴史に由来することになる。

それでなくても、大法院(韓国最高裁)は、この憲法前文に裁判規範性を認め、「日帝強占と直結する私人の不法行為」に関しては個人請求権が日韓請求権協定で消滅していないという法的立場を示し、それに基づいて下級審が複数の日本企業に対して賠償を命じる判決を下している。いずれも控訴・上告されていて、うち3件は大法院に係留中であるが、日本企業の敗訴はほぼ確実である。他方、憲法裁判所は、日韓請求権協定そのものが合憲かどうか争われた件で、「却下」決定を下すことで、日韓関係を成立させ、50年間持続させてきた枠組みが根底から覆されるという最悪の事態は回避した(憲法裁「2009憲バ317」「2011憲バ55」2015年12月23日)。

そもそも「1965年体制」は、50年前の条約や協定だけで成り立っているのではない。その後、総理談話や共同声明など日韓両国による外交実践が積み重ねられてきている。日韓請求権協定も、「完全かつ最終的に解決された」で結ばれているではなく、「解決されたこととなることを確認する」と続いている。この「確認」の積み重ねを双方思い起こしたい。

そうでないと、「最初から何もしていない」という批判や、「もう何もする必要はない」という強弁だけがまかり通ってしまうことになる。いずれも、日韓50年の歩みを全体として理解できておらず、つり合いが悪い。診断を誤ると、当然、処方も効かず、症状を悪化させかねない。

1965年体制は依然として日韓関係を支える枠組みとして有効であり、それを前提にして諸課題に対処していくのが現実的である。1945年以前に対する歴史認識だけでなく、1965年の国交正常化以降、特に1990年代における取り組みに対する歴史認識の食い違いも顕著である。河野談話、村山談話、アジア女性基金など、それなりに「確認」を重ねてきたことをいま一度「確認」するべきである。「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯」に関する検証は、「河野談話作成からアジア女性基金まで」を対象にしたが、アジア女性基金というかたちで韓国政府も当時「妥結」していた点が浮き彫りになっている。

問題はむしろ戦略的利害を共有してるかだ

歴史認識問題で韓国が国際世論に訴求する姿勢に対して、日本では「告げ口外交」「ジャパン・ディスカウント」として理解する傾向がある。しかし、より深刻なのは「逆告げ口外交」で、「韓国は中国に傾斜している」という日本の認識と、「日本がそのように米国に喧伝している」「中国傾斜論は日本による米韓離間策にすぎない」という韓国の認識との間のギャップである。

韓国の中国傾斜(論)をどのように評価するか。

中国の抗日戦勝70周年軍事パレードに朴大統領が「西側」の首脳として唯一参加したことで、「レッドラインを越えた」という評価(たとえば鈴置高史・木村幹の対談「ルビコン河で溺れ、中国側に流れ着いた韓国」日経ビジネスオンライン)が一気に広まった。朴大統領は、人民解放軍の「空母キラー」を習近平国家主席と一緒に観閲する反面、在韓米軍によるTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の配置には同意していない。THAADは本来、北朝鮮のミサイルから韓国を防衛するためのものだが、中国は「黄海の奥深く、北京まで射程にとらえる」として反対し、韓国に対して受け入れないように露骨に圧力をかけている。

韓国政府は米韓首脳会談で「中国傾斜論を払拭できた」と自負している。しかし、オバマ大統領から「声を上げろ」(ホワイトハウス「米韓首脳会談後の共同記者会見」)とはっきりと要求された南シナ海問題で依然として中国を名指しせず、「航行の自由」と「紛争の平和的解決」という原則を繰り返すだけである。後者は、環礁の埋め立てがすでに完了している中では、「力による一方的な現状変更」を黙認することになりかねない。

問題は、法と規範に基づくリベラルな国際秩序を守護しようとするのか、それとも、挑戦を容認するのか、ということである。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉の妥結を受け、オバマ大統領は「中国のような国にグローバル経済のルールを決めさせない」と断言した(ホワイトハウス「TPPに関する大統領声明」)。韓国は、日米とは異なり、中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)にも加わった。

中国の台頭というグローバルな構造変化に対して、世界各国が対応を迫られている。日韓関係の変容もその中で生じていて、「もはや米中関係の従属変数にすぎなくなった」という見方さえある。そこまで極端ではなくても、「日韓」関係は単独の二国間関係としてはもはや捉えきれず、「日米」「日中」、「米韓」「中韓」、何より「米中」という他の二国間関係や、「日米韓」「日中韓」「韓米中」などマルチの関係との中に位置付けなければ何も分からないことだけは明らかである。つまり、「一次方程式」ではなく、「高次連立方程式」として問いを立ててはじめて、解くことができるし、解いても意味があるというわけである。

こうした中、日本は米国との同盟を強化し、抑止力を強めることで対応しようとしている。他方、韓国は米国との同盟を堅持しつつも、中国との関係を多方面で深めている。この「韓米中」「安米経中(安保は米国、経済は中国)」という路線は、ここ3年間の朴政権下で一層鮮明になっていて、「安中(安保も中国)」「韓中米」に変わるのではないかというシミュレーションすら行われている(鈴置高史『朝鮮半島201Z年』日本経済新聞出版社、2010年;Sue Mi Terry, Unified Korea and the Future of the U.S.-South Korea Alliance, A CFR discussion paper, December 2015, Council on Foreign Relations)。

「韓米中」の中では「日米韓」というより「米日韓」が後退するのはむしろ当然である。「中国傾斜」は「日米韓に対する裏切り」として非難したり落胆したりするのではなく、グローバルな構造変化に対する日韓それぞれの認識や対応の相違として冷静に理解するべきである。その上で、それを所与の条件として、日韓関係を再定立すればいい。「日米韓」において「日韓」はかつて「擬似同盟(quasi-alliance)」や「事実上の同盟(virtual alliance)」とも評価されたが(ヴィクター・D・チャ(船橋洋一監訳・倉田秀也訳)『米日韓 反目を超えた提携』有斐閣、2003年;Ralph Cossa, “U.S.-Japan-Korea: Creating a Virtual Alliance,” PacNet, 47, 1999)、今や日本にとって「準同盟」はオーストラリアと言われている。

3年半ぶりの日韓首脳会談が開催されたのも、日中韓サミットというマルチ会合の場だった。次回は安倍首相がホストすることになっているが、2016年5月には伊勢志摩サミットも予定されている。バイ(二国間関係)を動かすには、他のバイやマルチとの連動がより有効な場合がある。

日中韓サミットの開催を確実にすれば、朴大統領の初来日と2度目の日韓首脳会談はおのずと織り込み済みになる。韓国がそうであったように、日本も、中国との関係を進めることで「日中韓」や「日韓」を動かそうとするのは間違いない。

「日中韓」はマルチの枠組みの中で制度化が低く(大庭三枝『重層的地域としてのアジア―対立と共存の構図』有斐閣、2014年)、「北朝鮮の核問題」についても一つの声を上げることができない。今のところ、「日中韓」はPM2.5の対策など機能的協力くらいでしか有効でないかもしれないが、バイの会談を進めるモメンタムにはなっている。

「日米韓」も、中国をめぐっては齟齬が目立つが、少なくとも北朝鮮の核問題に関しては、一致した立場をとることができる。「日韓」では霧散したGSOMIA(軍事情報包括保護協定)も、対北朝鮮に限定して、米国を介在するというかたちでは実現した。

このように、日韓関係の変容は、基本的価値を共有しなくなったから(だけ)でも、歴史認識問題が決着していないから(だけ)でもない。むしろ、グローバルな構造変化に対する認識に日韓間でギャップがあり、政策的対応に違いが生じているからで(も)ある。つまり、問題なのは、日韓両国が基本的価値というよりも戦略的利害を共有しているのか、ということである。

たとえ慰安婦問題が「妥結」したとしても、この戦略的齟齬はそのまま残る。むしろこれまで「カバー(擬装)」されていて見えなかったことが誰の目にも明らかになる。その意味では、「中韓歴史共闘」や「韓国の中国傾斜」も、中国による「対『米日韓』離間策」やその結果として理解すべきかもしれない。

いずれにせよ、これが日韓国交正常化50周年を迎えた日韓関係における「新常態(new normal)」である。ようやく首脳会談が開催され、長年のしこりが解消されたとしても、「日韓友好」という「正常」に戻るというわけではない。変わりゆく遠近感をそのまま描く方法や受けとめる姿勢が問われている。

知のネットワーク – S Y N O D O S -」

http://synodos.jp/international/15834

加速する韓国籍離れ /統一日報より

2016-01-25 14:12:34 | アジア

 日本国籍への帰化を選択する在日韓国人の増加が止まらない。在日韓国・朝鮮人の数は2015年(6月末時点)に50万人を下回った。子どものため、民族意識の低下など帰化の理由はさまざまだ。帰化により在日韓国人社会を離れる人も後を絶たない。民団は対策として帰化者の囲い込みや、「同胞の社会教育」を掲げている。(康敬瓚)

 法務省の発表によると、2015年6月末時点で、韓国・朝鮮籍の人数は50万人を割り、49万7707人と集計された。近年、年間約6000人以上の在日韓国・朝鮮人が日本国籍を取得しているのが現状だ。
 千葉県在住の在日韓国人2世Kさんは2015年5月に家族5人で日本国籍を取得した。帰化の話を切り出したのは子どもだったという。
 「日本で生まれて育ち日本の学校に通っているのに、なぜ韓国人なのか」。今年高校を卒業する長男の言葉に、Kさんは反論できなかったという。ほかにも海外旅行に行った際に、友人と別の入国手続きゲートになったことで居心地の悪さを感じた子どもから国籍変更を提案され、一家全員で帰化したケースもある。
 子どもの都合、あるいはお願いで。これが国籍変更の動機で最多だという。
 帰化した側の心情は複雑だ。日本国籍を取得したことで、在日韓国人社会とは距離を置かなければならないと考える人も多い。それはどこかに「裏切った」という後ろめたさがあることと無関係ではない。
 日本国籍を取得した東京都在住の60代男性は帰化後、民団や韓国関連の活動から一切手を引いたという。自分だけではなく、子どもたちも含めてだ。「帰化したことを同胞に知られることが恥ずかしい」と胸の内を明かした。在日韓国人社会への思いはあるものの、堂々と参加しづらい気持ちが先に立つ。
 国籍を変えたことで、韓国人コミュニティーとの紐帯が途切れたと感じる人も多い。在日韓国人は、若い世代になればなるほど韓国語ができない人が増える。韓国についてほとんど知らない人もいる。国籍だけが韓国人としてのアイデンティティーを維持する動機だという人は意外にも多いのだ。その人たちが日本国籍を取得した結果、自然とコミュニティーとは距離をおいていたのだ。
 在日韓国人を代表する団体の民団は、帰化者の増加をどのように見ているのか。民団がいう「在日同胞」の中には、帰化した人も含まれている。民団はそのような「日本国籍を取得したが、民団の活動に協力的、あるいは関心がある」帰化者の囲い込み活動を展開している。訪問活動の際に、帰化者の家を優先的に回っているのもその一環だ。
 民団がそれ以上に重視するのが「同胞の社会教育」だ。各地域のコミュニティーで在日韓国人の子どもたちに韓国を体験させ、同じ韓国籍の子どもたちとの触れ合いを推進するものだ。
 民団中央本部の河政男事務総長は「子どもの時に韓国を見せ、韓国を感じてもらうことが大切だ」と語る。子どもの時に体験を積ませ、韓国人としての意識をもってもらえれば、将来帰化をしても在日韓国人社会への関心や協力を得られると捉えている。
 東京都在住の30代の在日韓国人の男性は、高校生の頃に道民会の韓国訪問活動に参加した。在日韓国人と触れ合う初めての機会だった。その後在日韓国人とは無縁の生活を送っていたが、20代後半になって在日同胞の関連団体に転職。高校生の頃の体験が頭の片隅に残っていたからだ。
 選択肢が増え、価値観が多様化する中で、帰化への流れは加速すると見られている。さらに門戸を広げるとともに、韓国国籍を持つ「メリット」を提示していくことも民団には求められる。」

http://news.onekoreanews.net/detail.php?number=80002&thread=04

見えてきた日本の新たな姿/田中宇より

2016-01-25 12:50:35 | アジア
「日本はこれまで、対米従属以外の戦略を全く持たない国だった。私が知る限り、日本政府が対米従属以外(対米自立)の戦略をわずかでも持った(検討した)のは、1970年代に米国が覇権構造の多極化をめざした時に米国の勧めで日本政府が作った防衛の対米自立策「中曽根ドクトリン」と、2009ー10年の鳩山政権が米中と等距離外交をめざし、結局は官僚機構につぶされた時の2つだけだ。その後、現在の安倍政権にいたる自民党政権は、官僚機構(外務省と財務省)の傀儡で、対米従属一本槍に戻った。

 だが昨年の後半から、安倍政権は、従来の対米従属の国是から微妙に外れる新しい戦略を、目立たない形ながら、次々ととり始めている。それらは(1)日豪での潜水艦技術の共有化、(2)従軍慰安婦問題の解決によって交渉が再開された日韓防衛協定や北朝鮮核6カ国協議、(3)安部首相が新年の会見や先日のFT(日経)のインタビューで明らかにした日露関係改善の試み、(4)中国の脅威を口実とした東シナ海から南シナ海に向けた自衛隊の諜報活動(日本の軍事影響圏)の拡大、などである。 (Japan's Abe calls for Putin to be brought in from the cold) (日韓和解なぜ今?)

 (1)については、昨年11月に配信した記事「日豪は太平洋の第3極になるか」で詳しく書いた。この記事は、有料記事(田中宇プラス)として配信したが、日本国民の全体にとって非常に重要な事項なので、例外的にこのたび無料記事としてウェブで公開した。まだ読んでいない方は、まずこの記事を読んでいただきたい。 (日豪は太平洋の第3極になるか)

 上記の記事の後ろの方に書いた、11月末に日本政府が南氷洋での調査捕鯨を再開して豪州を激怒させた件は、その後、豪州政府が日本政府に、捕鯨再開は潜水艦の発注先を決める際の判断要素にならないと知らせてきた。豪州が、日本と潜水艦技術を共有する気になっていることをうかがわせる。12月中旬には、豪州のターンブル首相が急きょ、日帰りで日本を訪問し、安倍首相と会っている。この訪日も、日豪が潜水艦技術を共有して接近しそうな感じを漂わせている。 (Japan's whaling `separate' from submarine bid) (Malcolm Turnbull's flying visit to Japan to include 'special time' with Shinzo Abe)

 豪州の通信社電によると、米政府の高官は、豪州が潜水艦を独仏でなく日本に発注することを望んでいる。その理由として米高官は、日本の潜水艦の技術の高さを挙げているという。だが私から見ると、より大きな要点は「技術」でなく「国際政治(地政学)」だ。日豪が米国を介さずに軍事協調を強めていくという、米国勢(軍産複合体でなく多極主義者)が昔から希求してきたことが、豪州の潜水艦の日本への発注によって実現していく点だ。豪州の関係者も、日本に発注されそうだと言っている。発注先は半年以内に正式決定される。 (Japan subs 'superior' US believe: adviser) (Japan bid favorite as Canberra mulls decision)

 (2)の日韓関係については、1月4日に無料記事として配信した「日韓和解なぜ今?」に詳しく書いた。慰安婦問題の解決は、日韓安保協定の締結と、北朝鮮核廃棄(棚上げ)に向けた6カ国協議の再開という、2つの動きへの布石となっている。日韓安保協定は、日韓が別々に対米従属してきた従来の状況を、日米・日韓・米韓が等距離の協調関係を持つかたちに転換していく流れであり、日韓の対米自立のはしりとなる(この流れを止めるため、日韓の対米従属派が慰安婦問題で日韓対立を扇動した)。 (日韓和解なぜ今?)

 6カ国協議が達成されると、米朝、南北(韓国と北朝鮮)、日朝の和解につながり、日本と韓国の対米従属を終わらせる。日韓が慰安婦問題を解決した直後から、中国と韓国が6カ国協議の準備を進めていることが報じられる一方、きたるべき協議での自国の立場をあらかじめ強化するかのように、年明けに北朝鮮が「水爆実験」と称する核実験を挙行した。1月11日には、韓国政府の6カ国協議担当者が、日米や中国の担当者と相次いで会合する予定と報じられている。 (北朝鮮に核保有を許す米中) (South Korea says chief nuclear envoy to meet U.S., Japan, China counterparts)

 1月11日に配信した「北朝鮮に核保有を許す米中」で「北朝鮮に核の完全廃絶を迫るのでなく、北がこれ以上の核開発を棚上げすることを協議の目標とすべき」という米国のペリー提案が採用されていくのでないかと書いた。ペリー案と同期するかのように、1月15日には北朝鮮の国営通信社が「(米国が)朝鮮戦争を終わらせる和平条約を(北と)締結するなら、見返りとして、もう核実験をしない」とする北の政府の声明文を報道した。北は「ペリー案をやるなら乗るよ」と言っているわけだ。 (North Korea Would End Nuclear Testing for Peace Treaty, End to US Military Drills)

 しかしペリー案は結局、試案の域を出ないかもしれない。北が核を棚上げ(隠匿)するだけで廃棄しない状態を6カ国協議の「成功」として受け入れることを、米国や日本は拒否すると予測されるからだ。代わりの案として打ち出された観があるのが、韓国が1月22日に選択肢として提起した、北朝鮮抜きの「5カ国協議」だ。 (SKorea calls for 'six-party talks minus NKorea')

 これは一見すると「中国を巻き込んで北に厳しく制裁し、困窮させて核を廃棄させる」という無謀な強硬策だが、もう少し考えると「北に核を廃棄させ、米朝や南北・日朝が和解して、冷戦型(対米従属諸国vs反米諸国)の東アジアの国際政治関係を、多極型の等距離な協調関係に転換する」という6カ国協議の順番を逆転し「先に5カ国の関係を冷戦型から多極型に転換していき、その間に北の核問題を解決し、最終的に米朝・南北・日朝が和解して北を多極型システムに取り込む」という新シナリオの提案に見えてくる。

 北朝鮮以外の5カ国(米中露日韓)の中で、関係が悪いのは、日韓と日露、米露と米中だ。だが、米中露は国連安保理の常任理事国であり、報じられる印象と裏腹に、世界運営上の相互連絡は十分にとっている。米露と米中は「大人の関係」といえる。逆に、現状が「子供の関係」でしかなく、今後の協調関係をゼロから構築していかねばならないのが、日露と日韓だ。6カ国または5カ国の協議によって東アジアの国際政治システムが冷戦型から多極型に転換していく際に、早く開始せねばならないのが、日韓と日露の関係改善であり、だからこそ、昨年末に日韓が慰安婦問題を解決したり、(3)の安倍政権による対露関係改善の模索が行われているのだと考えられる。

 安倍首相は1月17日に報じられたFT(日経)のインタビューで「G7は中東問題の解決にロシアの協力が不可欠だ。(ウクライナ危機以降、G7諸国とロシアの関係が悪化し、G7+ロシアとして作られたG8は事実上解散しているが)G7の議長として自分がモスクワを訪問するか、東京に招待する形でプーチンと会いたい」という趣旨の表明をしている。G7議長とか中東問題といった目くらましをかましているが、要するに、日本国内の合意形成が困難な北方領土問題を迂回して、日露の協調関係を手早く構築したい、という意志表明だ。 (Japan's Abe calls for Putin to be brought in from the cold)

 安倍は、ロシアを評価する一方で、中国の領海的な野心を非難している。だが、中国政府の経済政策は賞賛しており、対立点を軍事安保面に限定している。安倍はまた、アジア太平洋地域の将来像を米国と中国の2大国だけで決めるのはダメだとも述べている。要するに、米中だけでなく日本も、アジア太平洋の地政学的な将来像の決定過程に入れてくれ、と言っている。これは、従来の対米従属の日本の姿勢から、かなり逸脱している。 (Shinzo Abe aims his next arrow at the global stage)

 この点において、今回の(4)の日中対決と(1)の日豪亜同盟の話がつながってくる。安倍の「米中だけでアジア太平洋のことを決めるな、日本も入れろ」という要求は「第1列島線以西は中国、第2列島線以東は米国、その間は日本の影響圏だ」という日豪亜同盟の考え方と一致している。 (日豪は太平洋の第3極になるか)

 そして安倍政権は、2つの列島線の間に日本の影響圏を作っていく具体策として、米国の依頼を受けて南シナ海での中国の動きを監視する自衛隊の軍事偵察網を作ることや、中国包囲網の一環としてフィリピンとの軍事関係を強化することを通じて、東シナ海から南シナ海にかけての2つの列島線の間の海域に、日本の軍事諜報システムを拡大しようとしている。 (Japan PM Abe's cabinet approves largest defence budget)

 日本政府は軍事予算を急増しているが、主な増加分は、中国敵視を口実とした、2つの列島線の間の海域での軍事的な影響圏の構築に使われている。日本にとって、中国との対立は、きたるべき多極型世界において自国の影響圏を創設するための口実として使われている。日本に挑発され、中国が最近、尖閣沖に武装船をさかんに送り込んできている。だが、日中が戦争することはない。中国は、日本が2つの列島線の間を占めることを黙認するだろう。日本の影響圏がある程度構築されたら、日中は再び和解するだろう。 (Japan's far-flung island defense plan seeks to turn tables on China) (Japan says armed Chinese coastguard ship seen near disputed islands) (China steps up incursions around disputed Senkaku Islands)

 国民的には「平和憲法を持つ日本には、領土と領海を超えた地域での軍事的な影響圏の拡大など要らない」と考える人が多いかもしれない。それが政府の政策になるなら、2つの列島線の間の地域は、日本でなく、中国の軍事影響圏になっていく。いずれ米国は第2列島線、つまりグアム以東へと軍事撤退し、その後の空白をぜんぶ中国が埋めることになる。日本は明治以前の、小さな孤立した島国に戻る。2つの列島線の間の地域は、今のところ、米中で将来像を決めていない「空白地域」だ。安倍政権は「空いている地域で、日本がもらって良いものなのだから、もらって当然だ」という考え方なのだろう。

 この件での国家的な意志決定が、今後、国民的な議論や選挙のテーマになることは、多分ない。民意と関係なく、国家の上層部だけでひそかに決められていき、報じられることもないだろう。私の「日本は、2つの列島線の間を、日豪亜同盟として影響圏にするだろう」という予測は、今後もずっと陰謀論扱いされそうだ。とくに日本の左翼リベラルの人々は、私がこの話をするたびに、聞きたくないという感じで何もコメントせず無視する。

 今回の記事の(1)から(4)は、いずれも米国から依頼されて日本が動いている感じだ。しかし、日本がこれらのことを進めていくと、対米従属の体制からどんどん外れていく。米国の戦略は、隠れ多極主義的だ。

 日本が豪州や韓国、ロシアと協調関係を強め、2つの列島線の間が日本の影響圏になっていくと、北朝鮮をめぐる状況が今のままでも、在日米軍の海兵隊がグアムに撤退する話が再燃するだろう。日本が、国際的な影響圏を持つような大国になるなら、防衛を米軍に依存し続けることはできない。沖縄の基地問題は、従来のような「左」からの解決でなく、日本が影響圏を持つことで在日米軍が出ていくという「右」からの解決になるかもしれない。」

http://www.tanakanews.com/160123japan.htm

漢代の皇帝陵から世界最古の茶葉

2016-01-24 15:29:56 | アジア
「漢代の皇帝陵から世界最古の茶葉

2016年01月21日
 中国・陝西省にある前漢の景帝(在位:紀元前156年~同141年)の墓、陽陵の副葬品の中にあった茶葉が現存する世界最古のものであることがこのほど確認された。この成果は英科学専門誌「ネイチャー」系の電子科学誌「Scientific Reports」で発表された。

 チャイナ・ウオッチが21日、西安発新華社=共同電で報じた。陜西省考古研究院の専門家の楊武站氏によると、同省考古研究院が中国科学院に調査を依頼した結果、判明したという。陽陵の封土の東側にある外蔵坑からはこれまでに、陶製の動物俑のほか、腐食した木箱に入った多数の小さな銅印、イネ、アワの種子などが見つかっている。このため、陜西省考古研究院は2008年末、腐食・炭化し、肉眼での識別が困難になった有機物を中国科学院に渡し、分析を依頼した。

 中国科学院はこれを受け、質量分析法で木箱の中の有機物の表面の絨毛の間にある小さな結晶を調べた。すると、これらが茶葉であり、すべて新芽で、最高級品だったと判明したという。」

http://www.spc.jst.go.jp/spcdaily/201601.html_71192263.html#13

秦の都確認/人民日報

2016-01-20 15:11:38 | アジア
「2世代にわたる努力が実り、考古学者が秦漢櫟陽城遺跡(陕西省西安市)で初めてはっきりと「櫟陽」の文字が刻まれた陶器が出土しただけでなく、法家思想を基に秦の国政改革を進めた「商鞅変法」の発生地で有名な「秦の都」の櫟陽を発見したことを確認した。これらは秦の都の発展史や秦漢時代の社会、歴史、文化などを研究するための重要な資料となる。写真は秦漢櫟陽城遺跡で発掘作業を行なう考古学者(携帯電話で2015年12月29日に撮影)。新華網が伝えた。(編集JK)

「人民網日本語版」2016年1月19日」

→(写真あり) http://j.people.com.cn/n3/2016/0119/c94660-9006081.html?urlpage=0

韓国の葛藤 - 軍国と民主

2016-01-15 11:24:19 | アジア
 韓国は民主化前後で大きく現代史を切ることができる。1987年6月29日、盧泰愚大統領の時発表された宣言により、韓国は民主的な選挙に基づく文民政権が定着することとなった。

 以後金泳三、金大中、ノ・ムヒョンと民主化推進側の政権が続くこととなった。

 これらの政権は国内においては軍事独裁政権のもとでの犠牲者の名誉回復・実態解明を進めた。そのことは韓国現代史の見直しにもつながり、それは即ち韓国という国をどのように位置づけ直すか、つまり国家アイデンティティーの見直し、あるいは再確立という問題に進んだ。

 そのことは軍事独裁政権時代の対外関係、とりわけ対日関係の見直しにもつながり、それが憲法裁判所の判断、て問えば慰安婦問題を含む個人請求権について、改めて日本政府と交渉すべき、といった判決である。

 しかしイ・ミョンバク政権になると揺り戻しが始まる。対北政策がうまく進まず、北の核開発が進行するという状況のもと、対北強硬路線をとる保守派政権が復活する。その後を受けた現在のパク・クネ政権ではさらなる保守派・右派の台頭・復活の傾向が見られる。

 現代史の評価でも、民主化勢力への評価に基軸をおいた評価から、歴代保守・軍事政権の「現実的」政策への再評価が見られる。

 ここにあらわれているのは、韓国の中にある二つの国家像のぶつかり合いである。一つは反共イデオロギーを纏う保守・財界が目指す国家像。もう一つは民主化勢力-その運動を支えたのは労働組合、学生運動、様々な市民運動等である-が目指す国家像である。

 前者はもちろん民族主義的・国家主義的であり実態としては新自由主義的な資本の利益追求型である。同時に反共・反北であり、中国に対しても警戒心が強く、そして親米的だといえよう。

 後者の場合、広範な市民層を背景に成立してきたが、反共のような統一的イデオロギーはなく、資本の組織性も欠いている。しかし経済的利害に関しては、社会主義指向のイデオロギーは基本的に欠けているため、新自由主義的資本主義の担い手になってきており、その点では実は保守政権と大差はない。より平等な社会配分を求めるといった程度の違いである。

 最も大きな違いは反共や親米をこえて民族の統一、南北の融和を求める姿勢が強いことであり、それは共産主義イデオロギーではないが統一指向の民族主義イデオロギーといった性格を帯びているように思われる。

 この性格は対日関係では、関係見直しの強力な推進力となってきた。同時にそれが民族主義的性格を帯びているが故に、日本の右翼・民族主義成功を刺激し、日本の右傾化の助けになるという側面ももっている。これは特にノ・ムヒョン政権以降顕著である。

 そしてこの点は保守政権復活後も継承されている。とくに対日関係見直しは、パク・クネ政権になっても強く、特に政権が積極的に様々な対日関係見直しに言及してきただけに、より鮮明になっている。

 これに対して日本国内の状況は、民主党政権崩壊後、安倍右翼政権をとどめる政治勢力の欠落。その背景としての国内世論の右傾化といった状況で、韓国との対立姿勢のみ顕著になっている。

 日本では敗戦後も主な政治勢力がそのまま残存し、アメリカの庇護-日米安保体制-のもとで今日まで継続してしまい、その結果国際的な進展に併せた人権・民主化の動きにも遅れをとるに至っており、そのことが上記の状況の背景にある。

 民主化後の国家アイデンティティー再確立に苦しむ韓国。旧態依然の国家像にしがみつく日本。

 超大国化したものの、内政・外政に課題を抱える中国。

 それぞれの困難を克服するための協調的な行動が本当は一番必要なときである。

「慰安婦犠牲者に対する韓国政府の背信 <外交的癒着>」/永遠の東アジア平和のために、より

2016-01-04 16:13:45 | アジア
「慰安婦犠牲者に対する韓国政府の背信 <外交的癒着>


 2015年12月28日、韓国と日本の外務長官は、突然、そして性急に、「慰安婦」問題の「解決」を宣言した。日本の総理大臣個人のお詫びとともに賠償のための基金を作るというものだった。

 日本の外相は、「『慰安婦』問題は、当時の軍の介入の下に数多くの女性の名誉と尊厳を深く傷つけた事件」であるという点を認める。また、生存している46名の慰安婦ハルモニを支援するための基金の立ち上げのために、10億円の出資を約束した。

 これについて、韓国の慰安婦ハルモニたちの運動団体は、今回の合意が「背信」であり「詐欺」であると強く反発している。あるハルモニは、会見の場で泣いた。野党の政治家たちは外交部長官の委任を要求した。駐韓日本大使館前では抗議のデモが行われた。

 日本の活動家の団体である「従軍慰安婦のための韓国協議会」は、今回の合意は「衝撃的」だとして、次のように語った(訳者注:これは、韓国の挺身隊問題対策協議会の尹美香常任代表のコメントだと思われる)。

 「今回の合意は、韓国にとっては屈辱的外交である…慰安婦ハルモニと韓国国民の願いを徹底的に裏切った外交的癒着に過ぎない…このことで(慰安婦問題に関する)去る25年の進展がすべて無駄になった」

 元慰安婦であり積極的な活動家である李容洙ハルモニもまた、今回の合意を非難した。「犠牲者をまったく考慮していない合意だ。私は全面的にこれを受け入れない」と糾弾した。

 慰安婦ハルモニたちは、どうしてまだ満足できないのだろうか?世界のメディアは(今回の合意を)称賛しており、米国務省はすぐさま歓迎し、広報に乗り出しているのに。表面的には、今回の合意は合理的なもののように見える。(日本が)謝罪の書簡とともに、慰労金または賠償金を提供するからだ。この問題は70年にもなり、何の合意もないよりも遅ればせながら合意することが良いのではないか。慰安婦ハルモニたちは、それ以上何を望んでいるのか?

 この問題を正しく理解しようとするなら、歴史をもう少し深く見てみる必要がある。

歴史の真実が明らかになる
 いわゆる「慰安婦制度」というものは、1932年から1945年まで、大日本帝国の軍隊がアジア全域で-主に朝鮮、台湾など日本の植民地であった11の地域で-数十万人の女性を拉致および性奴隷に転落させた計画的かつ組織的な犯罪行為だった。この制度が始まって拡大していく過程で、初期には一部の職業的売春婦が動員されたこともある。しかし、すぐに女性に対する性搾取のための一種の産業システムとなり、膨大な規模になって、現代史上に類例のない大規模の性搾取へと発展した。「慰安婦制度」とは、(ナチの)ホロコーストによる大量虐殺に比肩する戦時の性搾取および虐待である。産業的規模の強姦工場、すなわち全面的かつ組織的で合理的な計算された(女性の)調達、監禁、拷問、虐待、性奴隷化、そしてテロが恣行されたのだ。

 戦争が終わった後、このような野蛮な歴史は、政策、政治、偏見の記録から完全に消された。歴史の記憶喪失を誘導するための陰謀だった。拷問と鞭打ち、(手足の)切断と連日の強姦―1日に最高50回まで―から生き残った慰安婦の女性たちのうち、一部は退却する日本軍の兵士に殺された。歴史学者は、日本軍慰安婦女性のうち生き残った率が25%程度だと推算する。戦場に投入された兵士、大西洋奴隷貿易によってアフリカからアメリカに連行された黒人奴隷の死亡率よりも高い。これは、「慰安婦」問題が20世紀史上最大の、認定されていない、さらには解決されていない虐殺行為であることを物語っている。 

 実際にどれほど多くの女性が拉致、徴発されたり、または騙されて、あるいはそのまま売られたのか、その数字を知る方法はない。報復を恐れた実行当局者たちがほとんどすべての記録を破棄したからだ。しかし、その数字は数十万に達するものと推算される。

 特に、慰安婦制度が日本政府によって体系的に計画、組織されて執行されたという事実には、疑問の余地がない。日本軍が占領したはるか彼方の植民地地域にまで連行するために、慰安婦の女性たちは、日本政府から旅券とビザを発給されていたからだ。慰安婦の女性は、日本の軍用艦船に乗せられて、日本軍の兵士の監視を受けて移動した。いわゆる「慰安所」は、日本軍の基地内、または近隣地域に設置され、おおむね日本軍当局が管理していた(一部は軍当局が民間業者に下請けをさせた)。また、軍医が女性を「点検」した。ある事例では、次のような生体実験に利用されることもあった。一人の女性が一日にどれだけ多くの強姦に耐えられるか?または、性病はどのように伝染し、どのように予防できるか?

 (第2次世界大戦当時)大日本帝国の会計指針によれば、慰安婦の女性は軍需品の一種として、使い捨ての「消耗品」として扱われた。ここにはまた、(慰安婦女性に対する)賃金の支給日、一般兵士と将校の慰安婦の使用日程などが記載されている。一部の人々は、慰安婦制度が民間のブローカーや事業家によって作られた自発的な「歓楽事業」だったと主張する。しかし、これらは、戦争当時の日本軍の調達システムがどのように運用されていたのかを見逃している。また、当時の日本政府がファシズム軍部独裁政権であり、物品の調達、分配、供給などの部門を政府が直接統制、管理していた統制経済であったという事実を無視している。米をはじめとするすべての生活物資、労働者、女性に至るまで、一定量を割り当てる政府の組織が発表すれば、植民地地域はこれに従わなければならなかった。

 去る70年間、日本政府は、(米国の支援と示唆を受けて)このような慰安婦制度の存在自体を否定してきた。生き残った少数の慰安婦女性は、(社会の)陰に隠れて、疾病と悪夢、言葉に表せない苦痛と羞恥を耐えねばならなかった。彼女たちのほとんどは、ひどい性的暴力によって不妊になり、ほとんどは自分の肉体がどうしてダメになってしまったのか、その秘密を墓場まで持って行った。そして1991年、たった一人の韓国人慰安婦女性が勇敢に名乗り出て、沈黙を破った。

 「一人の女性が生涯の秘密を話しした時、どんなことが起きたのか?世界の隠された真実が明らかになる。」

 詩人のミュリエール・ルーカイザーはこのように言う。金学順ハルモニがまさにその女性だった。彼女が姿を現して自分の人生を語った時、韓日間の歴史の中の隠された秘密が満天下に晒された。金学順ハルモニは、他の慰安婦ハルモニに自身の話を打ち明けて勇気を与え、これら慰安婦ハルモニたちは、徐々に前面に出てきて、日本を批判し始めた。ハルモニたちの声は、半世紀の間抑圧されてきた恥辱の沈黙と憤怒のために震えていた。

 「天皇に、私のところへ来て跪いて許しを乞えと伝えてくれ。私は謝罪を望んでいる。私たち全員に。」

 ある慰安婦ハルモニはこのように言った。ハルモニたちの声が大きくなるほど、犯罪の証拠も積み上げられていった。しかし、日本政府は、責任を免れるために、のらりくらりとするばかりだった。しかし、時間が経つにつれて、否定による負担が認定による当惑よりも大きくなっていった。韓国の親日派が傍観する間に、韓国政府が積極的に前面に立ち、ついに1993年、日本政府が責任を認めた。いわゆる河野談話がそれである。曖昧で、形式的で、生ぬるい謝罪だった。それも、国家首班ではない官房長官名義であった。

偽の謝罪、真の謝罪
 河野談話は、日本の国会が発表したものでも、国会の批准を受けたものでもなかった。したがって、法的効力を持つ公式謝罪ではなかった。それにも関わらず、日本では、(日本の)責任の認定に向かう重要な第一歩だという点で歓迎された。ある意味では、河野談話は、慰安婦問題を前向きに論議していく適切なきっかけではあった。当時、日本政府は、民間の賠償基金(アジア女性基金)の創設を支援し、慰安婦被害者に伝達する寄付金を集めた。

 当然、慰安婦ハルモニのほとんどは、このような(非公式的で法的効力のない)謝罪と慰労金を拒否した。彼女たちは、依然として真の謝罪を望んでいる。特に、慰安婦ハルモニたちは、常識と理想に基づいて、次のような措置を求めている。

○1932~45年に大日本帝国の軍によって性奴隷化が計画、組織、執行されたという点を全面的に認めること

○日本の国会が公式で法的効力を持つ謝罪をすること

○すべての犠牲者に対して、法的で全面的な賠償をすること

○慰安婦の女性の犠牲を記録し、日本軍の性奴隷化の歴史を保存するための記念碑を設立すること

○戦争犯罪に対して責任ある犯罪者を起訴、処罰すること

 これらの要求のうち、どれも(以前の謝罪を含めて)今回の合意で充足されていない。まず、慰安婦制度が日本政府の公式の政策であったという点を認めていない。軍部が「介入」したという漠然とした言及だけがあるだけだ。(慰安婦女性の)「苦痛と受難」に対する包括的な遺憾の表明があったのみで、その苦痛の原因は特定されていなかった。反面、河野談話にあった「強制」という単語は消えている。言い換えれば、安倍政権がしつこく主張してきたように、慰安婦の女性は自発的な娼婦であったという点を、間接的に認めたものだ。さらに安倍政権は、雀の涙ほどの金額(10億円)を寄付することで、直接的かつ法的な賠償の義務を回避した。これから日本の公式謝罪(国会で批准される)はないようだ。戦争犯罪に対する調査、犯罪行為者に対する処罰、戦争犯罪に対する教育は、はるか彼方に行ってしまった。特に、日本は、今回の「謝罪」とともに、(今回の合意が最終的で不可逆的だという理由で)韓国がこの問題をこれ以上問題提起できなくした。これから永遠に、韓国は、この問題に関して日本を批判できなくなった。おそらく(駐韓日本大使館前の)少女像は撤去されるだろう。今や、慰安婦問題は、安倍総理と岸田外相がうんざりするほど叫んできたように、「不可逆的に解決」した。

 人類の歴史上、強大国の政府が公式謝罪をしながら、事後の被害者による問題提起や批判を禁止した例はない。戦争犯罪と人道主義に反する犯罪には、いかなる制約も条件もあり得ない。これらの犯罪について沈黙を強要してもならない。ところが韓国政府は、まさにこのような前提条件に合意をした。このような全面的な降伏、これ以上の道徳および主権の放棄は、想像すらできない。このようなものが謝罪だとしたら-そして韓国がこれ以上の批判を提起できないとしたら-韓国は自ら主権国家であることを放棄したのだ。

 いったい、韓国政府は、なぜこのような話にもならない謝罪を受け入れなければならなかったのか?

狂気への回帰
 天動説を信じる限り、地球など惑星の軌道を正確に予測することはできない。太陽が太陽系の中心であるという点を認めなければ地球の動きを知ることができないように、「米国という太陽」の重力を認めなければ、韓国政治の不合理で退行的な行動を理解することはできない。このような点を念頭に置けば、次のような韓国政府の不合理で自己敗北的な行動の原理を理解できる。自虐的な貿易協定、自己破壊的な経済政策、そして環境、市民社会、経済の膨大な犠牲を払った軍事基地の建設など。今回の慰安婦に関する韓日の合意は、まさにこのような狂った政策の当然の帰結だった。

 去る10年間、米国は、アジア太平洋地域への回帰を準備してきた。去る150年間の米国は、いつでも太平洋を自分の独占的勢力圏(American Lake)として、太平洋周辺諸国を属国とみなしてきた。1882年の朝米相互通商条約の米国側代表であるシューフェルト提督は、次のような華麗で性差別的な問題文体で、米国の優位に対する確信を明らかにしている。

 「米国は新郎であり、中国、日本、朝鮮は新婦である…われわれ米国人は、『新郎が太平洋を渡ってこれら新婦のところにやって来たゆえ、今後いかなる商業的ライバルや軍事的競争者も、われわれの許しなしには太平洋を意のままに行き来できないことを明らかにする…東洋と西洋が太平洋で一つになることで、帝国に向かう(米国の)挑戦は終着駅に到着し、人類の力は絶頂に達する。』

 現代地政学の父であり英国の地理学者であるハルフォード・マッキンダー(米国のアルフレッド・セイヤ―・メーハンとともに)も、これと同様に、ユーラシア大陸を「中心地域(heartland)」「主軸国家(pivot state)」または「世界島(world island)の中心」と呼んだ。

 マッキンダーとメーハンの理論は、世界情勢を「大陸勢力」対「海洋勢力」の角逐と理解する。二人とも、世界を支配するためにはユーラシア大陸の中心を掌握しなければならない、と信じている。

 マッキンダーの表現を借りれば、「中心地域を支配する者が世界島を支配し、世界島を支配する者が世界全体を支配する」のだ。

 米国政府、学界、シンクタンク、そして軍部内の国際関係および地戦略的(geo-strategic)思想家たちは全員、自分が認めるか認めないかに関わらず、マッキンダーの息子である。アジアで中国が勃興する時点、マッキンダーの亡霊に憑りつかれて21世紀の米国の単一覇権の維持を夢見る米国の地戦略思想家たちは-ヒラリー・クリントンは彼らの代弁人だ-、迫り来る地政学的変化を感知して、その対策として「アジアへの回帰」を提出した。ヒラリーが2011年に<フォーリーン・アフェアーズ>に寄稿した「米国の太平洋世紀」がそれである。世界島の主軸国家(中国)に回帰しようというものだ。ヒラリーは次のように言う。

 「世界政治の未来は、アジアで決定されるだろう…米国はまさにその中心にいる…したがって、次の10年間、米国政治の最も重要な課題は、アジア太平洋地域に対する実質的な投資を-外交、経済、戦略、その他諸々-増大させ、米国の国益を確保することである…今や、アジア太平洋地域は、世界政治の舵取り役となった…アジア太平洋地域への戦略的旋回は、米国の世界的指導力を確保・維持するためのグローバルな努力が追求される、当然の目標である」

 アジアへの回帰が現実的に意味するところは、米国の軍事力の60%をこの地域に配置しているということだ。中国の地域的影響力を遮断するための措置である。このために米国は、中国周辺の米軍基地を首飾り型に配置している。公海戦などの攻撃的な軍事テキストを採択して、(中国を除く)アジア諸国との二国間、あるいは多国間の軍事協力および合同軍事訓練を実施しており、先端武器の搬入など、アジア地域全体を再軍事化させている。米国はまた、「航海の自由」「合同軍事訓練」などを口実に、(中国の海上輸送路の中心である)南シナ海で、中国に対して敵対的で好戦的かつ挑発的な軍事的緊張を作り出している。のみならず、マスコミを動員して、中国を限りなく悪魔化するやり方で情報および文化戦争を仕掛けている。(南シナ海の領土紛争に関連して)フィリピンを前面に出して中国を国連海洋法協約(UNCLOS)に提訴させた法律戦争、中国に対する封鎖と孤立、さらにはTPPという通商協定を通じた中国との経済戦争も展開している。

隷属の渦
 アジア回帰の中心は、韓国と日本の軍事・政治同盟を通じて中国に挑戦し、中国を封鎖したり脅迫して、必要とあれば打倒することだ。このような米国の作戦が成功を収めるためには、日本は「不沈空母」、韓国は「橋頭保」または「前進ルート」とならなければならない。万一、中国と全面戦になれば、韓国のすべての兵士と装備、軍事基地は、米軍司令官に指揮されることになる。一方、日本は、最近、平和憲法を無力化させ、世界のどこでも米国を助けて攻撃的な軍事作戦を展開できるように、日米軍事協定を改定した。韓国と日本の間の情報共有協定、そして両国のミサイル防御システムの相互運用性の確保もまた、(中国に対する)攻撃的前進戦略の一部だ。ところが、最近まで「慰安婦」問題をめぐる韓日の対立が、両国の効率的な軍事協力を妨げる障害物だった。米国の二つの核心的なパートナーが互いに対話もしない関係だと、アジアへの効果な回帰は期待できない。今やその障害物が消えたことで、「アジア回帰」は計画通りに進行するだろう。

 (就任後、対話を拒否してきた)韓日両国の指導者が初めて対話をしたのは、2014年3月だった。まさにオバマ大統領が斡旋した席だった。家長である米国が、仲の悪い兄弟に和解せよと命令したのだ。今回の慰安婦合意は、その命令の最終的な結果だった。二人の兄弟は家長の言葉を聞いて、経済、軍事などすべての分野での協力を妨げていた障害物を除去したのだ。その間、米国務省は、韓日の和解のために、公開・非公開で多くの努力をしてきた。時には両国をたしなめもし、時には失敗もした。いずれにせよ、米国はその望みを達成した。しかし、下手をすると、今回の成功を後退させることになるかも知れない。

 自国の便宜と地政学的な国益だけを追求すれば、決して文明化された政策を立てることはできない。同様に、歴史的な記憶喪失と道徳的破綻、そして強大国に対する一方的隷属は、災厄へと進む近道だ。韓国の現代史は、今回の合意が、50年前の対米隷属である朴正煕政権が推し進めた韓日協定の延長であることを物語っている。韓日の国交を正常化した1965年の協定は、不平等かつ非民主的で、大多数の国民の支持を得られなかった合意だった。この協定は、流血とテロの中で辛うじて維持されていた。

 軍事独裁者の朴正煕は、日本の関東軍に服務した親日分子だった。1965年当時も、今と同様に、中国に対する恐怖と嫌悪が米国のアジア政策を支配していた。米国務省の政策企画委員会のウォルト・ロストーは、韓国に圧力をかけて日本と国交を回復させた。近代化論の信奉者だった彼は、自身の著書の<経済発展段階論:非共産主義者宣言>に出てくるように、韓国と日本、そして他のアジア諸国の間に、強力かつ協力的で相互結合した資本主義ブロックを形成することによって、アジア地域に勃興する共産主義に対抗する要塞にしようとした。共産主義イデオロギーの拡散に抵抗する権威主義的な民族主義者は、誰であっても米国の支援を受けた。これらの国々は、ロストーの理論によれば、輸出志向的産業化に力を注ぐことで、「経済の跳躍(take off)」を成し遂げ、資本主義の優越性を証明しようとした。これを通じて、社会主義、輸出代替産業化、自主的経済を指向した(第3世界の)独立運動の挑戦を退けようとした。

 安倍現総理の外祖父である岸信介は、日帝時代の商工相を務め、朴正煕の助言者でもあった。韓日基本条約の締結を支援するために駆り出された岸は、自分の過去の部下であった朴正煕を説得して、1965年6月に韓日国交正常化を成就させた。その協定は、韓国側のすべての賠償要求を否定していた。韓国国民の抗議と憤怒が爆発し、朴正煕は戒厳令でもって対応した。韓日基本条約を通過させるために、数多くの人々が拘束され、拷問された。今、彼の娘が、またもまったく同じように、暗鬱な歴史に直面することになるだろう。

 一方、安倍政権は、凶悪なやり方で慰安婦問題を迂回した後、軍国主義に向かって突っ走っている。若干の見かけの変化を除いては、日本が放棄したものはほとんどない。謝罪すらもなかったし、メンツを潰されてもいない。むしろ、河野談話にある謝罪の表現を若干後退させた。その対価として日本は、ついに韓国政府を沈黙させ、これによって将来的に韓国国民をも沈黙させるだろう。今や日本は、ファシズムの復活と軍事化のためのすべての準備を整えた。去る半世紀、日本を支配してきた平和憲法も無力化させた。安倍は、過去の大日本帝国の復活を夢見る極右的、民族主義的、軍国主義的イデオロギーを信奉している。5億ドルの予算をかけて日本の歴史の汚点を除去しようとしている。また、日本の政治家と外交官は、過去と現在、未来の大日本帝国の栄光という夢に挑戦状を突きつける人は、誰であっても脅迫し、袋叩きにする。

 アジア回帰の成否に関係なく、米国が日本の軍国主義というパンドラの箱を開けたことは、痛恨の極みである。中国との戦争の危機の高まりは、どのような謝罪も役に立たない狂気の現れであるからだ。しかし、歴史は私たちに、想像できないことが実際に起きたとしても、決して驚くなと言う。慰安婦問題がまさにそうではないか。



朴インギュ:ソウル大学を卒業後、京郷新聞でワシントン特派員、国際部次長を経て、2001年にプレシアンを創刊。編集局長を経て2003年に代表理事に就任し、2013年にプレシアンが協同組合に転換すると理事長になった。南北関係および国際情勢に関する専門知識をもとに連載を続けている。」

http://east-asian-peace.hatenablog.com/entry/2016/01/04/125624

従軍慰安婦に関する韓国憲法裁判所の判決 3

2016-01-01 01:56:07 | アジア
「5.本案に関する判断

ア.この事件の協定関連の解釈上紛争の存在

(1)この事件の協定第2条第1項は、「両締約国は、両締約国およびその国民(法人を含む)の財産、権利および利益並びに両締約国およびその国民の間の請求権に関する問題が、1951 年 9 月 8 日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定している。これと関連して合意議事録第2条(g)項は、上の第2条第1項でいう「完全かつ最終的に解決されたこととなる両国およびその国民の財産、権利および利益並びに両国およびその国民の間の請求権に関する問題には、韓・日会談において韓国側から提出された『韓国の対日請求要綱』(いわゆる 8 項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており、したがって、同対日請求要綱に関しては、いかなる主張もなしえないこととなることが確認された」と記載されている。



(2)この事件の協定第2条第1項の解釈と関連し、前にみたように日本政府及び司法府の立場は、日本軍慰安婦被害者を含む韓国国民の日本国に対する賠償請求権は、 すべて包括的にこの事件の協定に含まれ、この事件の協定の締結及びその履行で放棄されたか、その賠償が終了したというもので、反面、韓国政府は 2005 年 8 月 26 日、「民官共同委員会」の決定を通じて、日本軍慰安婦問題等のように日本政府等国家権力が関与した「反人道的不法行為」に対しては、この事件協定によって解決したと見られないので、日本政府の法的責任が認定されるという立場を表明したことがある。



(3)被請求人は、この事件の憲法訴願審判過程でも、日本はこの事件の協定により日本軍慰安婦被害者の日本国に関する賠償請求権が消滅したという立場である反面、韓国政府の立場は日本軍慰安婦被害者の賠償請求権はこの事件の協定に含まれていないというもので、これに対しては両国の立場に差異があり、これはこの事件の協定第3条の「紛争」に該当すると、繰り返し確認した。

また、この事件の弁論後提出した 2009 日 6 月 19 日付の参考書面でも、「韓国政府がまず『外交上の経路』を通して紛争を解決するとし、様々な外交上の方式の内…(訳者註:ママ)方式を選択したことは、韓国政府に幅広く認定される裁量権を正当に行使 者註:ママ)したもので、これもまたこの事件の協定第3条第1項の『外交上の経路』を通した紛争解決措置に当然含まれるもの」として、この事件の協定の解釈上の紛争が存在することを前提に、主張を展開した。

(4)従って、この事件の協定第2条第1項の対日請求権に、日本軍慰安婦被害者の賠償請求権が含まれるか否かに関する韓・日両国間の解釈の差異が存在し、それが上の協定第3条の「紛争」に該当するのは明白である。



イ.紛争解決の手続き
この事件の協定第3条第1項は、「この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする」と規定し、第2項は第1項の規定によって解決できない紛争は、仲裁によって解決するように規定している。即ち、上の諸規定は協定締結当時、その解釈に関する紛争の発生を予想し、その解決の主体を協定締結当事者である各国家に定めながら、紛争解決の原則及び手続きを定めたものである。

そうならば被請求人は、上の紛争が発生した以上、協定第3条による紛争解決手続きに従って、外交的経路を通して解決しなければならず、そのような解決の努力が尽きた場合、これを仲裁に回付しなければならないのが原則である。

従って、このような紛争解決手続きに進まなかった被請求人の不作為が、請求人らの基本権を侵害して違憲であるか否かを検討することにする。

ウ.被請求人の不作為の基本権侵害 作為の基本権侵害 作為の基本権侵害の可否

(1)先例との区別
憲法裁判所は、この事件の協定第3条第2項に従って仲裁要請をしなかった不作為が、違憲であると主張した事件(憲法裁判所 2000.3.30. 98 憲マ 206 仲裁要請不履行違憲確認事件)で、「この事件の協定第3条の形式と内容から見ても、外交的問題の特性から見ても、協定の解釈及び実施に関する紛争を解決するために、外交上の経路を通すか、でなければ仲裁に回付するかに関する韓国政府の裁量範囲は相当広いものと見るしかなく、従ってこの事件の協定当事者である両国間の外交的交渉が長期間効果を得られずにいるとして、在日韓国人の被徴用負傷者及びその遺族である請求人らとの関係において、政府が必ず仲裁に回付しなければならない義務を負わせられていると見るのは難しく、同様に請求人らに仲裁回付をしてくれと韓国政府に請求できる権利が生じると見ることも難しく、国家の在外国民保護義務(憲法第2条第2項)や個人の基本的人権に関する保護義務(憲法第 10 条)によったとしても、依然としてこの事件の協定の解釈及び実施に関する韓・日両国間の紛争を、仲裁という特定手段に回付して解決しなければならない政府の具体的作為義務と、請求人らのこれを請求できる権利は認定できない」と判示したことがある。

上の決定は被請求人が、この事件の協定第3条第2項の「仲裁回付による紛争解決」方法を取る義務があるのかに関するもので、第3条第1項で優先的に外交上の通路(訳者註:協定文は「経路 者註:協定文は「経路」)を通じた問題解決を模索するようにしているにもかかわらず、これを差し置いて第3条第2項の「仲裁回付方式による紛争解決」を図る被請求人の義務を、直ちに導き出せるかが問題になった。

しかし、この事件での争点は、被請求人がこの事件の協定第3条第1項、第2項による紛争解決に進むべき義務を負っているのかという点であり、特に第3条第1項では特定方式でない広範囲な外交上の経路を通した解決を規定しているので、この事件の協定の解釈に関する韓・日両国間の紛争が発生した現時点で、被請求人がこの事件の協定の解釈に関する紛争を解決するために、優先的に外交上の経路を通して解決を模索し、外交上の経路を通して解決をできない場合、仲裁回付に進むべき憲法的作為義務があるか否かである。

即ち、この事件の争点は、被請求人がこの事件の協定の解釈に関する紛争を解決するための多様な方法の内、「特定方法を取るべき作為義務」があるか否かではなく、「この事件の協定の解釈に関する紛争を解決するために、上の協定の規定に従った外交行為等をなすべき作為義務」があるか否かなので、上の先例の事案とは区別されると言うことだ。

(2)被請求人の裁量
外交行為は、価値と法律を共有する、一つの国家内に存在する国家と国民との関係を越えて、価値と法律を互いに異にする国際環境において国家と国家間の関係を扱うものなので、政府が紛争の状況と性質、国内外の情勢、国際法と普遍的に通用する慣行等を勘案して、政策決定をすることにおいて、幅広い裁量が許容される領域であることは否認できない。

しかし、憲法上の基本権は すべての国家権力を覊束するので、行政権力もやはり、このような基本権の保護義務に従って、基本権が実効的に保障されうるよう行使されなければならず、外交行為という領域も司法審査の対象から、完全に排除されると見ることはできない。特定国民の基本権が関連する外交行為において、前にみたことのように、法令で規定された具体的作為義務の不履行が、憲法上の基本権保護義務に対する明白な違反と判断される場合には、基本権侵害行為として違憲と宣言されなければならない。

結局、被請求人の裁量は、侵害される基本権の重大性、基本権侵害危険の切迫性、基本権の救済可能性、真正な国益に反するか否か等を総合的に考慮し、国家機関の基本権覊束性に当てはまる範囲内に制限されざるを得ない。


(3)不作為に因る基本権侵害の可否
(ア)侵害される基本権の重大性
日本軍慰安婦の被害は、日本国と日本軍によって強制的に動員され、その監視の下、日本軍の性奴隷を強要されたことに起因するもので、他にその例を発見することができない特殊な被害である。

日本軍慰安婦被害の特殊性は、国際社会は勿論だが、日本の裁判所によっても確認された。1994 年 9 月 2 日に公表された国連の NGO 国際法律家委員会の報告書と、1996 年2 月 6 日に公表された国連人権委員会「女性に関する暴力特別報告者」クマラスワミの報告書は、これを「軍事的性奴隷」と定義した。1998 年 8 月 12 日に 公表された国連人権小委員会の「戦時性奴隷制特別報告者」ゲイ・マクドガルの報告書は、日本軍慰安婦を強要した行為は「人道に関する罪」に該当する犯罪行為と断言した。2007 年 7 月、米国下院が採択した日本軍慰安婦決議案も、日本軍慰安婦を「日本政府による強制軍隊売春制度であり、残虐性と規模面から 20 世紀最大の人身売買犯罪」と規定した。そして 1998 年 4 月 27 日、 日本軍慰安婦問題に関する立法不作為責任を認定し、損害賠償を命じた日本の山口地方裁判所下関支部判決は、その被害を「徹底した女性差別・民族差別思想の表現であり、女性の人格の尊厳を根底から侵害し、民族の矜持を蹂躙するもの」と判断した。

日本国によって広範囲に恣行された反人道的犯罪行為に対して、日本軍慰安婦被害者らが日本国に対して有する賠償請求権は、憲法上保障される財産権であるのみならず、その賠償請求権の実現は、無慈悲に持続的に侵害された人間としての尊厳と価値、及び身体の自由を事後回復するという意味を有するものなので、その賠償請求権の実現を遮るのは憲法上の財産権問題に局限されず、根源的な人間としての尊厳と価価値の侵害と直接関連がある(憲法裁判所 2008. 7.31. 2004 憲パ 81, 判例集 20-2 上、91,100-101 参照)。


(イ)基本権侵害救済の切迫性
1991 年頃から最近まで、日本軍慰安婦被害者たちが日本の法廷で進行して来た3度の訴訟は、日本軍慰安婦被害者たちの賠償請求権が、この事件の協定によって消滅した等の理由で敗訴が確定した。

今や、日本の法廷を通した日本軍慰安婦被害者の司法的救済、若しくは日本政府の自発的謝罪及び救済措置を期待することは、事実上不可能になった。日本により軍隊性奴隷に追い込まれた第2次世界大戦が終わってから 60 年が遥かに過ぎ、被害者が日本を相手に訴訟を始めてからも 20 年余りが流れた。

一方、2006 年 3 月 13 日を基準として「日帝下日本軍慰安婦に関する生活安定支援法」の適用対象者 225 人の内、生存者は 125 人だったが、この事件の審判請求審理中にも相次いで死亡し、2011 年 3 月現在、政府に登録された日本軍慰安婦被害生存者は 75 人に過ぎず、この事件の請求人は本来 109 人だったのに、その間に 45 人が死亡し、64 人が生存しているのみである。さらに現在、生存している日本軍慰安婦被害者たちも皆高齢なので、これ以上時間を遅滞させた場合、日本軍慰安婦被害者の賠償請求権を実現することで歴史的正義を確立し、侵害された人間の尊厳と価値を回復することは、永遠に不可能になるかも知れない。

(ウ)基本権の救済可能性

被請求人は、仲裁回付手続きに進んだ場合の結果の不確実性等を考慮して、韓国政府が日本軍慰安婦被害者たちに対して経済的支援及び補償をする代わりに、日本国に金銭的な賠償責任を問わないことにしたと主張する。

侵害される基本権が重大で、その侵害の危険が差し迫っていると言っても、救済の可能性がまったくないとしたら、被請求人の作為義務を認定するのは難しいだろう。しかし、救済が完璧に保障された場合にだけ作為義務が認定されるのではなく、救済の可能性が存在することで足りるだろうし、この時、被害者たちが日本政府に対する賠償請求が、最終的に否認される結論が出る危険性も敢えて甘受するつもりであると言うのであれば、被請求人としては被害者たちの意思を充分考慮しなければならない。

2006 年国連国際法委員会によって採択され、総会へ提出された「外交的保護に関する条文草案」の第 19 条でも、外交的保護を行使する権利を有する国家は、重大な被害が発生した場合、特に外交的保護の行使の可能性を適切に考慮しなければならず、可能なすべての場合において、外交的保護への訴え及び請求される賠償に関する被害者たちの見解を考慮しなければならないことを、勧告的慣行として明示している。

ところで請求人らはこの事件の審判請求を通じて、被請求人の作為義務の履行を求めているので、被害者である請求人らの意思は明確であると言えるし、前で検討したこの事件の協定の締結経緯及びその前後の状況、女性に関する類例のない人権侵害に驚愕しながら、日本に対して公式的事実認定と謝罪、賠償を促している一連の国内外の動きを総合して見た時、被請求人がこの事件の協定第3条に従って紛争解決の手続きに進む場合、日本国による賠償がなされうるという可能性を、予め排除してはならない。



(エ)真に重要な国益に反するか否か
被請求人はこの事件の協定第3条による紛争解決措置を取りながら、日本政府の金銭賠償責任を主張する場合、日本側との消耗的な法的論争や、外交関係の不便を招来する怖れがあるという理由を掲げて、請求人が主張する具体的作為義務の履行をするのは難しいと主張する。しかし、国際情勢に関する理解に基づいた戦略的選択が要求される外交行為の特性を考慮するとしても、「消耗的な法的論争への発展の可能性」、若しくは「外交関係の不便」という非常に不明確で抽象的な事由を掲げ、それが基本権侵害の重大な危険に直面した請求人らに関する救済を無視する妥当な事由になるとか、若しくは真摯に考慮されるべき国益とみるのは難しい。

むしろ、過去の歴史的事実の認識の共有に向けた努力を通じて、日本政府をして、被害者に対する法的責任を果たさせることをもって、韓・日両国及び両国民の相互理解と相互信頼を深めさせ、これを歴史的教訓として、二度とこのような悲劇的状況が起きないようにすることが、真なる韓・日関係の未来を築く方向であると同時に、真に重要な国益に合致することと言えるだろう。


(オ)小結
被請求人のこの事件の不作為は、請求人らの重大な憲法上の基本権を侵害していると言える。


エ.小結論
憲法第10条、第2条第2項及び前文と、この事件の協定第3条の文言等に照らして見るとき、被請求人がこの事件の協定第3条に従って、紛争解決の手続きに進むべき義務は、憲法から由来する作為義務として、それが法令に具体的に規定されている場合と言えるし、請求人らの人間としての尊厳と価値及び財産権等、基本権の重大な侵害の可能性、救済の切迫性と可能性等を広く考慮する時、被請求人にこのような作為義務を履行しない裁量があるとは言えず、被請求人が現在までこの事件の協定3条に従って、紛争解決手続きを履行する作為義務を履行したと見ることはできない。

結局、被請求人のこのような不作為は憲法に違反し、請求人らの基本権を侵害するものである。


6.結論

そうだとすれば、この事件の審判請求は理由があるので、これを認容することにし、下記7.の通り、裁判官チョ・デヒョンの認容補充意見、下記8.の通り、裁判官李ガングク、裁判官閔ヒョンギ、裁判官李ドンフプの反対意見を除外した、残りの関与裁判官全員の一致した意見として、主文のように決定する。

7.裁判官チョ・デヒョン チョ・デヒョン チョ・デヒョンの認容補充意見

請求人らは日帝により強制動員され、日本軍慰安婦生活を強要された被害者として、日本国に対して損害賠償請求権を有するが、韓・日請求権協約によってそのような損害賠償請求権を行使するのは難しくなったと主張する。そのような損害賠償請求権の存否と範囲が、法院(訳者註:裁判所)の裁判手続きによって確定されなかったという理由で、請求人らの損害賠償請求権の侵害を主張する憲法訴願審判を拒否することはできない。


国家は日本軍慰安婦が日本国に対して有する損害賠償請求権を確認し、基本権として保障しなければならない(憲法第10条後文)。そうにもかかわらず、大韓民国政府は1965年 6月22日、韓日請求権協定を締結し、日本国から3億ドルを無償で受け取り、両国及びその国民間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたことを確認し、そのような請求権に関して、いかなる主張もできないこととすると約定した。

そして、日本国の裁判所は、このような韓日請求権協定により、請求人らは日本国に、日本軍慰安婦に関する損害賠償を請求できないと判断している。


このような協定によって、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権が消滅したかどうかの可否については、見解が分かれている。万一、韓日請求権協定が、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権を消滅させるのならば、請求人らの財産権を保障する義務を負う国家が、請求人らの財産権を消滅させる条約を締結したことになる。そして、韓日請求権協定が、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権を消滅させるものではないとしても、請求人らは、日本国に対する損害賠償請求権を行使することが、韓日請求権協定によって阻止されている。したがって、大韓民国は、請求人らの日本国に関する損害賠償請求権行使が、韓日請求権協定によって妨害される違憲的な事態を解消させるために、韓日請求権協定第3条に従って日本国を相手に、外交的交渉や仲裁手続きを推進する義務を負うと見るのが妥当である。


そして、このように大韓民国が日本国と締結した韓日請求権協定が、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権の行使を遮っている以上、そのような条約は請求人の基本権を侵害すると見ることもできるが、日本国の植民地統治に因って、大韓民国の国民が日本国に対して有する請求権を一括的に妥結するために、大韓民国政府が日本国から3億ドルを受け取って、国民の日本国に対する請求権を代わりに補償しようとしたものと理解するならば、そのような条約が憲法第37条第2項に違反すると断定するのも難しい。

ただし、そのように善意に理解しても、大韓民国政府は韓日請求権協定を締結して、日本国から無償資金3億ドルを受け取り、国民らが日本国に対して損害賠償請求権を行使できないように協定することで、日本国に対して損害賠償請求権を行使できなくなった国民らに対して、その損害を補償する義務を負うと見ざるをえない。

大韓民国は日本国から無償資金3億ドルを受けた後、1966年 2月19日、「請求権資金の運用及び管理に関する法律」を制定したが、被徴用死亡者の補償をしただけで、請求人らのような日本軍慰安婦は補償の対象に含まれなかった。そして、1993年 6月11日、「日帝下日本軍慰安婦に関する生活安定支援法」を制定し、日本軍慰安婦に生活安定支援のための一時金と、毎月の支援金を支給し、賃貸住宅への優先賃貸、生計給付、医療給付、看護人等を支援して来たが、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権をまともに満足させるほど、充分に補償したと見るのは難しい。

したがって、大韓民国は韓日請求権協定第3条に従って、日本国を相手に外交的交渉や仲裁手続きを推進し、韓日請求権協定の違憲性を除去する義務があるだけでなく、韓日請求権協定に因って、請求人らが日本国に対する損害賠償請求権を行使できなくなった損害を、完全に補償する責任を負うと宣言しなければならない。

そして、日本国を相手にした外交的交渉や仲裁手続きによって、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権行使の障害が解消される可能性は希薄で、請求人らにむなしい希望とそれがもたらす挫折と絶望の苦痛だけ抱かせる憂慮が大きいので、大韓民国が請求人らの日本国に対する損害賠償請求権を、完全に補償する義務があることを、より強調する必要がある。しかも、請求人らが皆高齢なので、請求人らに関する国家の補償措置は、至急実施される必要がある。



8.裁判官李ガングク、裁判官閔ヒョンギ、裁判官 裁判官李ガングク、裁判官閔ヒョンギ、裁判官李ドンフプの反対意見 ンフプの反対意見 ンフプの反対意見


私たちは、多数意見と異なり、韓国憲法上の明文規定や、いかなる憲法的法理によっても、「請求人らに対し、被申請人がこの事件の協定第3条で定めた紛争解決手続きに進むべき作為義務」があるとは言えず、請求人らのこの事件の憲法訴願は不適法と見るので、下記の通り反対意見を開陳する。

ア.憲法裁判所法 第 68 条第 1 項によると、公権力の行使だけでなく、公権力の不行使も憲法訴願の対象となりうるのだが、その公権力の不行使のせいで基本権の侵害を受けた者が、上の憲法訴願を提起する資格があるのだから、行政権力の不作為に対する憲法訴願は、公権力の主体に憲法から由来する作為義務が、特別に、具体的に規定され、これに依拠して、基本権の主体が行政行為ないし公権力の行使を請求できるにもかかわらず、公権力の主体がその義務を怠たる場合に限って許容される(憲法裁判所 1991.9.16. 89 憲マ 63, 判例集 3, 505, 513; 2000. 3.30. 98 憲マ 206, 判例集 12-1, 393, 401等参照)。

また、ここでいう「公権力の主体に憲法から由来する作為義務が、特別に、具体的に規定され」が意味するところが、憲法上明文で作為義務を規定していたり、憲法の解釈上作為義務が導き出されたり、法令に具体的に作為義務が規定されているの、3つの場合を包括していることも、やはり憲法裁判所で確立された判例である(憲裁 2004.10.28.2003 憲マ 898, 判例集 16-2 下、212, 219 参照)。

ところが、ここで留意すべきことは、憲法の明文規定上、憲法解釈上、法令上、導き出される公権力主体の具体的作為義務は、「基本権の主体である国民に対する」義務でなければならないということだ。そうであってこそ、「これに依拠して、基本権の主体が、行政行為ないし公権力の行使を請求できるにもかかわらず、公権力の主体がその義務を怠って憲法上保障された基本権を侵害された者」として、その侵害の原因となっている行政権力の不作為を対象に、憲法訴願を請求することができるからだ。

多数意見は、憲法第 10 条、第2条第2項、憲法前文中「3.1運動により建立された大韓民国臨時政府の法統を継承」するという部分と、この事件の協定第3条の文言を総合して、この事件被請求人の作為義務が「憲法から由来する作為義務として、それが法令に具体的に規定されている場合」に該当すると判断し、さらに被請求人が負う具体的作為義務の内容を、「この事件の協定第3条に従って、紛争解決の手続きに進む義務」と見なしたが、果たしてこのような解釈が妥当なのか、以下で具体的に検討する。

イ.まず、憲法第 10 条、第2条第2項、前文の規定自体、あるいはその解釈によって「憲法から由来する具体的作為義務」が認定されることはない。

国家と国民の権利と義務関係を規定した憲法の諸条項の中には、具体的で明確な意味で国民の基本権、その他の権利を付与する諸条項もあるが、開放的・抽象的・宣言的な文言で規定されており、憲法解釈や具体的法令等が媒介されてこそ、国家と国民間に拘束的な権利義務を発生させる諸条項もある。ところが「国民の不可侵の人権を確認し、これを保障する義務」を規定した憲法第 10 条、「法律が決めるところによって、在外国民を保護する義務」を規定した憲法第2条第2項は、後者の場合に該当するものであって、国家が国民に対し基本権の保障及び保護義務を負うという、国家の一般的・抽象的義務を規定しただけで、その条項自体から国民のための何らかの具体的な行為をなすべき国家の作為義務が導き出されるのではない。「3.1運動で建立された大韓民国臨時政府の法統を継承」するという、憲法前文の文言もまた同じだ。たとえ憲法前文が、国家的課題と国家的秩序形成に関する指導理念・指導原理を規定し、国家の基本的価値秩序に関する国民的合意を規範化したもので、最高規範性を有し、法令解釈と立法の指針になる規範的効力を有してはいるものの、それ自体から国家の国民に対する具体的な作為義務が生じることはない。

このように憲法第 10 条、第2条第2項、憲法前文から、国家の具体的作為義務と、そのような作為義務を請求できる国民の権利が導き出されないという点は、憲法裁判所の確立された判例でもある(憲法第 10 条、第2条第2項に関しては、憲裁 2000.3.30.98 憲マ 206, 判例集 12-1, 393, 402-403; 1998. 5.28. 97 憲マ 282, 判例集 10-1, 705,710, 憲法前文に関しては憲裁 2005.6.30. 2004 憲マ 859, 判例集 17-1, 1016, 1020-1021参照)。

従って、いくらこの事件の請求人らの基本権侵害状態が重大で切迫しているとしても、憲法第 10 条、第2条第2項、憲法前文だけに基づいては、請求人らに対し国家が何らかの行為をすべき具体的な作為義務を導き出すことはできず、結局、「具体的な作為義務が規定されている法令」が存在してこそ、これを媒介として国家の請求人らに対する具体的作為義務を認定しうるのであろう。

ウ.そうだとすれば、次に、この事件の協定第3条に規定された紛争解決手続きに関する条項が、上で述べる「法令に具体的に作為義務が規定されている」場合に該当し、「憲法から由来する作為義務」が導き出されるかに関して検討する。

(1)まず、法令に具体的に作為義務が規定されている場合での、「法令に規定された具体的作為義務」とは、「国家が国民に対し特定の作為義務を負う」という内容が、法令に記載された場合を意味すると見なければならない。なぜならば、行政権力の不作為に対する憲法訴願を請求するためには、規定された作為義務に依拠して、「基本権の主体が、行政行為ないし公権力の行使を請求できるにもかかわらず、公権力の主体がその義務を怠っている場合」に限って許容されるものなので(憲裁 2000.3.30. 98 憲マ 206,判例集 12-1, 393)、法令に規定される具体的作為義務は、「基本権の主体である国民に、国家に対して特定の作為義務の履行を要求できる権利を付与する内容」でなければならないからだ。これは国家が、上のような具体的作為義務を履行しないことに因って、基本権を侵害されたと主張する憲法訴願において、基本権侵害の可能性ないし因果関係を認定するためにも、当然要求される前提と言えよう。

基本的に国会が制定する法律や、国民に対し拘束力を有する行政法規に、具体的な権利を国民に付与する内容があるのなら、これは「法令に具体的に作為義務が規定された場合」に該当すると見ることができる。現在まで、憲法裁判所に提起された行政権力の不作為に対する憲法訴願審判は、ほとんどすべてが国内法令に国家の請求人に対する具体的な作為義務が規定されているのか、その義務に対する不作為があるのかが、争点の諸事件だったし、該当法令に、問題になった具体的作為義務が、行政権力の国民に対する羈束行為として規定されていたり、裁量行為として規定されているが公権力不行使の結果、請求人に対する基本権侵害の程度が顕著だ等の事由から、羈束行為として解釈しなければならない場合には、具体的作為義務が認定されたし(前者に関しては、憲裁1998.7.16. 96憲マ 246, 判例集 10-2, 283; 2004.5.27. 2003憲マ851, 判例集 16-1, 699,後者に関しては、憲裁 1995.7.21.94 憲マ 136, 判例集 7-2, 169 参照)、反対に純粋な行政庁の裁量行為として規定されている場合には、請求人に対する具体的作為義務が認定されないと判示することもした(憲裁 2005.6.30. 2004 憲マ 859, 判例集 171)。

だが、この事件の協定のような条約、その他の外交文書で、締約国が互いにこれこれの方式で紛争を解決しようという内容と手続きが規定されているなら、これは基本的に締約国当事者の間で、締約の相手方に対して(訳者追加:「責任を」?)負うことを前提に用意されたものなので、一定の義務事項が記載されていたとしても、締約国当事者が相手方国家に対して要求できるだけである。従って、「条約を根拠として、自国が相手方国家に対し取りうる条約上の権利義務を履行せよ」と、自国政府に要求できるためには、「そういう要求ができる権利を自国国民に付与する内容」の具体的文言が、該当条約に記載されていなければならないだろう。条約に、そのような内容の明示的文言がない以上、該当条約が国民の権利関係を対象にするという理由だけで、条約上定められた手続き上の措置を取ることを、自国政府に要求する権利は発生しないと見なければならない。

この事件の協定は、両国間、あるいは一国政府と他国国民間、両国国民相互間の、「財産、権利、利益、請求権」に関する問題を対象にしたが(この事件の協定第2条第1項)、この事件の請求人らのような慰安婦被害者たちに対する、日本国の賠償責任問題は、上の協定の対象に含まれていたか否かが明らかでないほど、一般的で、抽象的な文言で記載していて、その結果、実際に両国間の立場の差異に因って、請求人らの権利問題に関して、この事件の協定の解釈及び実施に関して、「紛争」が発生した状態だとは見ることができる。だが、さらに、この事件の協定で、関連国の国民にこの事件の協定第3条上の紛争解決手続きに進むことを要求できる権利を付与していない以上、請求人らの基本権が関連しているという理由だけでは、上の条約上、紛争解決手続きを履行せよと、自国政府に対して要求する具体的権利は認定できないと言えるだろう。

従って、この事件の協定内容に基づいて、多数意見が認定したことのような、国家の具体的作為義務を導き出すことはできない。この事件の協定第3条の紛争解決手続きに進めと、自国政府に対し要求できる権利を該当国の国民に付与する内容の文言が、この事件の協定のどこにも規定されていないからだ。だからと言って、憲法第 10 条、第2条第2項、憲法前文により、上の通り、具体的作為義務が直接認定されてもいないので、結局、この事件の協定と上の憲法規定を総合しても、この事件の請求人らに対する国家の具体的作為義務は導き出されない。
(2)次に、この事件の協定第3条が規定している内容自体に照らしてみる時、多数意見が言う「この事件の協定の解釈に関する紛争を解決するために、第3条の規定に従った外交行為をする作為義務」というものが、「具体的な」行為をしなければならない「義務」だと見ることもできない。

(ア)この事件の協定第3条は、「この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする」(第1項)、「1の規定により解決することができなかつた紛争は、いずれか一方の締約国の政府が他方の締約国の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から……からなる仲裁委員会に決定のため回付する」(第2項)と規定している。どの条項にも、紛争があれば「必ず」、外交的解決手続きに進まなければならいとか、外交的解決が膠着状態に陥る場合「必ず」仲裁手続きを申請しなければならないという、「義務的」内容は記載されていない。「外交上の経路を通して解決する」という文言は、外交的に解決しようという両締約国の間の外交的約束以上を意味するものだと解釈することはできない。「仲裁委員会に決定のため回付する」ということも、やはり「仲裁を要請する公文が受領されれば」回付されるわけだが、どの文言にも仲裁を要請しなければならないという、「義務的」要素が入っていると解釈するほどの根拠は発見できない。結局、第3条第1項、第2項のどこからも、外交上の解決手続きに進まなければならない「義務」、外交上の解決が出来なければ仲裁手続きに進まなければならない「義務」があるとの解釈を導くことはできない。

ところが多数意見は、このような解釈上の疑問点に対しては何の言及もなく、侵害される請求人らの基本権の重大性、基本権侵害救済の切迫性だけを根拠として、「被請求人に、このような作為義務を履行しない裁量があるということはできず」と判示しているが、国家間条約に記載された義務性さえない文言を、それに因って事実上影響を受ける国民が切迫した事情に置かれているという理由だけで、一方の締約国の政府である被請求人に対し、条約上の行為を強制することができる「義務」条項だと解釈してしまったことは、行き過ぎた論理の飛躍と言わざるを得ない。



むしろ、この事件の協定第3条に記載された紛争解決手続きに進む行為は、規定の形式と内容から見た時、両締約国の「裁量行為」と見ることが妥当と言うべきだろう。この事件の協定第3条を根拠に、在日韓国人被徴用負傷者たちの日本国に対する補償請求権に関する争いを、仲裁に回付すべき具体的な作為義務が国家にあると主張し、請求した憲法訴願事件で、憲法裁判所もまた、これを裁量行為と解釈したことがあり、その内容は以下の通りである。



『この事件の協定第3条は、この事件の協定の解釈及び実施に関する両国間の紛争は、まず外交上の経路を通して解決し、外交上の経路を通して解決できなかった紛争は、一方の締約国の政府が、相手国政府に仲裁を要請し、仲裁委員会の決定に従って解決するように規定しているが、「上の規定の形式と内容から見ても、外交的問題の特性から見ても、この事件の協定の解釈及び実施に関する紛争を解決するために、外交上の経路を通すべきか、でなければ仲裁に回付するべきかに関する、韓国政府の裁量範囲は相当広いと見る他なく」、従って、この事件の協定当事者である両国間の外交的交渉が、長期間効果が得られずにいるからといって、在日韓国人被徴用負傷者及びその遺族である請求人らとの関係から、政府が必ず仲裁に回付しなければならない義務を負うようになると見るのは難しく、同じ理由から、請求人らに仲裁回付をせよと、韓国政府に請求できる権利が生じると見るのも難しい』(憲裁 2000.3.30. 98 憲マ 206, 判例集 12-1,
393,402)。



多数意見は、上の先例は第3条第1項の「外交的解決義務」を差し置いて、第2項の「仲裁手続き回付義務」を履行しないことを根拠に憲法訴願を提起したものなので、「第3条全体に基づく紛争解決手続き履行義務」を問題と見なしているこの事件とでは、結論を異にすることができる、という前提から、上の先例とこの事件は区別されるとした。しかし、これは上の先例の趣旨を誤解したものだ。上の先例で、具体的な作為義務を認定しなかった主な根拠は、すでに見たように、この事件の協定第3条に基づく「外交的解決」や、「仲裁手続き回付」、 すべての「義務事項」ではなく、韓国の外交的「裁量事項」というところにあったと見るのが妥当であろう。

(イ)さらに、この事件の協定第3条が規定している「外交的解決」、「仲裁手続き回付」に、何らかの義務性があると見るとしても、それが「具体的な」作為を内容としているものと見るのも難しい。

「外交上の経路を通して解決する義務」とは、国家の基本権保障義務、在外国民の保護義務、伝統文化の継承・発展と民族文化の暢達に努力する国家の義務、身体障害者等の福祉向上のために努力すべき国家の義務、保健に関する国家の保護義務等と同様に、国家の一般的・抽象的な義務水準にしか過ぎない。このような国家の一般的・抽象的義務とは、それ自体が「具体的な」作為義務ではないので、たとえ憲法に明示的な文言として記載されていたとしても、国民が国家に対しその義務の履行を直接求めることができる「具体的な」作為義務に変貌しない。国民と国家の規範的関係を規律する根本規範である「憲法」に明示してあっても、これを根拠に国家に対してその義務の履行を求めることはできないのに、まして憲法より下位規範である「条約」に明示されているだけにもかかわらず、これを根拠に、条約の当事者でもない国民が、国家に対して義務の履行を求めることができる「具体的な」作為義務に変貌すると解釈することはできないのである。



また「外交的解決をする義務」とは、その履行の主体や方式、履行程度、履行の完結可否を判断できる、客観的判断基準を用意するのも大変で、その義務を不履行したのかどうかの事実確定が困難な、高度な政治行為の領域に該当するので、憲法裁判所の司法審査の対象になりはするものの、権力分立の原則上、司法の自制が要求される分野である。この事件の協定だけ見ても、国内の慰安婦被害者問題の深刻性と、これに反して、韓日間交流と協力を継続しなければならない韓日間の微妙な外交関係に照らしてみた時、どれほど外交的努力を尽せば履行したと言えるのか、この事件の協定が締結されてから現在まで 40 年余りが過ぎたが、初期に外交的解決努力をしたが現在は努力をしないでいるとか、請求人らが満足するだけの努力をしないでいるといって、外交的な解決義務の不履行になるのか、第2項の仲裁手続き回付義務は、それならばいつ頃発生すると見るべきか等、その履行の可否を判断する、いかなる明確な基準も発見できない。はたして、このような実質を持つ「外交上の義務」を、国民が国家に対しその履行を要求できる、「具体的な」作為義務と言えるのかということである。そして、履行内容が具体的なのかどうかは問わず、条約に記載されているという理由だけで、憲法裁判所が政府に漠然と「外交的努力をせよ」という義務を強制的に賦課させることは、憲法が政治的、外交的諸行為に関する政策判断、政策樹立及び執行に関する権限を担当している行政府に付与している、権力分立原則に反する素地もあるという点から、より一層問題にならざるを得ない。



エ.小結
したがって、憲法第 10 条、第2条第2項、憲法前文の規定、この事件の協定第3条に基づいては、この事件の請求人らに対し、国家がこの事件の協定第3条に定めた紛争解決手続きに進むべき具体的作為義務が発生するとは見られないので、被請求人が上の紛争解決手続きに進まないでいる不作為に因って、請求人らの基本権が侵害されたと主張する、この事件の憲法訴願審判請求は、不適法であり、却下されるべきである。

日本によって強制的に慰安婦として動員された後、人間としての人生を根こそぎ剥奪され、その加害者である日本国から人間的謝罪さえ得られないでいる、この事件の請求人らの切迫した心情を考えれば、大韓民国国民として誰もが共感せずにはおられず、何とかして韓国政府が国家的努力を尽くしてくれればという願いは、私たち皆が切実に思っている。だが憲法裁判所は基本的に、憲法と法律によって裁判をしなければならないので、裁判当事者が置かれている状況がいかに国家的に重大で、個人的に切迫しているとしても、憲法と法律の規定及びそれに関する憲法的法理を跳び越えることはできない。

この事件の請求人らが置かれている基本権救済の重要性、切迫性を解決できる法的手段を、憲法や法令、その他の憲法的法理によっても発見できないのなら、結局、彼女らの法的地位を解決する問題は、政治権力に任されているというしかなく、憲法と法律、憲法解釈の限界を越えてまで、憲法裁判所が被請求人にその問題の解決を強制することはできない。それが権力分立の原則上、憲法裁判所が守らなければならない憲法的限界なのである。

2011 年 8 月 30 日

裁判長 裁判官 李ガングク
裁判官 チョ・デヒョン、退任で署名捺印不能
裁判官 金ジョンデ
裁判官 閔ヒョンギ
裁判官 李ドンフプ
裁判官 睦ヨンジュン
裁判官 宋ドゥファン
裁判官 朴ハンチョル
裁判官 李ジョンミ

[別紙1]
請求人目録
訳者注
日本軍「慰安婦」被害者である 日本軍「慰安婦」被害者である 日本軍「慰安婦」被害者である64名の請求人の
名前、住民番号、住所(団体、事務所の住所)が記載されている 名前、住民番号、住所(団体、事務所の住所)が記載されている 記載されている。
[別紙2]

請求人代理人目録
1. 弁護士 車ジフン
2. 弁護士 韓テックン
3. 弁護士 金ジン
4. 法務法人チョンピョン 担当弁護士 沈ジェファン
5. 法務法人東西南北 担当弁護士 張ユシク
6. 法務法人ジャハヨン 担当弁護士 元ミンギョン
7. 法務法人 創造 担当弁護士 金ハグン
8. 法務法人ヘマル 担当弁護士 李ミンジョン
9. 法務法人トクス 担当弁護士 李ソクテ
10. 法務法人 トンファ 担当弁護士 チョ・ヨンソン
11. 法務法人 市民 担当弁護士 韓ギヲョンス
12. 法務法人 シンムンゴ 担当弁護士 チョ・ジェヒョン
13. 法務法人 ハンギョル 担当弁護士 朴ジュミン
14. 弁護士 金ガンウォン
15. 法務法人 三一 担当弁護士 崔鳳泰、李春姫、呉チュンヒョン、宋ヘイク、金インソク、チュ・ギョンテ、イム・ソンウ、 権ヨンギュ

日本語訳:李洋秀・岡田卓己
(市場淳子訳の「憲法裁判所決定『原爆被害者』全文」 訳の「憲法裁判所決定『原爆被害者』全文」 訳の「憲法裁判所決定『原爆被害者』全文」を参照した)

[出典] 20110830憲法裁判所決定「慰安婦」全文日本語訳0926版」」

従軍慰安婦問題に関する韓国憲法裁判所の判決 2

2016-01-01 01:54:16 | アジア
「(9)上のような一連の日本政府の措置及び態度は、被害者たちは勿論のこと、国際社会からも受け入れられなかった。
国連人権小委員会は、日本軍慰安婦問題に対して持続的な研究活動を遂行し続けて来たが、その最初の報告書である 1996 年 1 月 4 日付「クマラスワミ報告書」では、第2次大戦時強制連行された日本軍慰安婦に関する日本国の人権侵害は、明確に国際法違反という点を確認し、日本国に対して国家次元の損害賠償、責任者の処罰、政府保管中のすべての資料の公開、書面を通した公式謝罪、教科書改正等を勧告する6項目の勧告案を提示し、1996 年 4 月 19 日、 第 52 次国連人権委員会で上の報告書の採択決議があった。
また 1998 年 8 月 12 日、 国連人権小委員会(差別防止少数者保護小委員会)では、上のクマラスワミ報告書の内容を補強した、特別報告官ゲイ・マクドガルの日本政府の法的賠償責任、責任者処罰を骨子とする報告書が発表され、採択された。

上の「マクドガル報告書」では
① 慰安婦制度が性奴隷制だということを明らかにし、慰安所を強姦センター(rape center、rape camp)と規定して、強制性を浮き彫りにし、
② 日本の責任者処罰問題を強調して、生存戦犯の捜査を主張し、
③ 国連事務総長は、日本政府から少なくとも年2回以上進行事項の報告を受け、国連人権委員会高等弁務官は日本政府と協力して責任者の処罰及び適切な賠償のためのパネルを構成する等、国連の積極的な介入を要求し、
④ 生存者が高齢な点を考慮し、緊急で速かに日本政府の賠償がなされるべき、という点が強調された。

(10)以後、小泉、安倍政権等、日本の保守右傾化によって、日本軍慰安婦問題を教科書から削除し、河野談話まで修正しようとする動きが起こると、下に見るように個々の国家からも、これに対して断固たる対処が始まった。
米国下院は 2007 年 7 月 30 日、 満場一致で日本軍慰安婦決議案を採択したが、その主要内容は、
① 日本政府は 1930 年代から第2次世界大戦終戦に至るまで、アジア諸国家と太平洋諸島を植民地化し、戦時に占領する過程で、日本帝国主義の軍隊が強制的に若い女性を、慰安婦として知られる性の奴隷に作りあげた事実を、確実ではっきりとした態度で公式に認定し謝罪して、歴史的責任を負わなければならない。
② 日本政府は日本軍が慰安婦を、性の奴隷にして人身売買をした事実がないという、いかなる主張に対しても、はっきりと公開的に反駁しなければならない。
③ 日本政府は国際社会が提示した慰安婦勧告に従い、現世代と未来世代を対象に、おぞましい犯罪に関する教育をしなければならない、等である。
その後オランダ下院(2007 年 11 月 8 日)、カナダ連邦議会下院(2007 年 11 月 28日)、ヨーロッパ議会(2007 年 12 月 13 日)が、20 万人以上の女性を慰安婦に強制動員して犯した蛮行に関する、日本政府の公式謝罪と歴史的・法的責任の認定、被害者に関する補償、慰安婦強制動員の事実を現在と未来の世代に教育すること等を含む決議案を、次々と採択した。

(11)国連人権理事会は 2008 年 6 月 12 日、 日本の人権状況定期検討を通じて、日本軍慰安婦問題に対する各国の勧告と質疑を盛り込んだ実務グループ報告書を正式に採択し、国連B規約人権委員会は 2008 年 10 月 30 日、ジュネーブで、日本の人権と関連した実務報告書を発表し、日本政府に対して初めて日本軍慰安婦問題の法的責任を認定し、被害者多数が受け入れられる形態で謝罪することを勧告した。
(12)韓国でも、2008 年 10 月 27 日、日本軍慰安婦被害者名誉回復のための公式謝罪及び賠償を促す決議案が、全議員 261 人の内 260 人の賛成で国会本会議を通過し、2009年 7 月、大邱広域市議会を皮切りに 2011 年 3 月 現在、46 に達する全国の基礎(訳者註:日本の市町村に相当 註:日本の市町村に相当)・広域議会で日本軍慰安婦問題解決を促す決議を採択した。
また、大韓国弁護士協会と日本弁護士協会(訳者註:日本弁護士連合会) (訳者註:日本弁護士連合会) (訳者註:日本弁護士連合会)は、2010年 12 月 11 日、日本軍慰安婦問題に対し、
① この事件の協定の完全最終解決条項の内容と範囲に関する、両国政府の一貫性のない解釈・対応が、被害者たちの正当な権利救済を阻み、被害者たちの不信感を助長して来たことを確認し、
② 謝罪及び金銭補償を含む日本軍慰安婦問題の解決のための立法が、日本政府及び国会によって迅速に成立しなければならないことを確認する
内容の共同声明を発表した。
その諸決議及び声明は、ひとりの被害者でもまだ生きている時、日本政府が立法を通して問題を解決することを促しており、韓国政府にもより積極的な外交政策を取ること等を要求している。



4.適法要件に対する判断

ア.行政不作為に関する憲法訴願
行政権力の不作為に対する憲法訴願は、公権力の主体に、憲法から由来する作為義務が特別に、具体的に規定されており、これに基づいて基本権の主体が行政行為ないし公権力の行使を請求できにもかかわらず、公権力の主体がその義務を怠る場合にだけ許容される(憲法裁判所2000. 3.30. 98憲マ206, 判例集12-1, 393, 393-393)。
上で言う「公権力の主体に、憲法から由来する作為義務が特別に、具体的に規定されており」が意味するところは、
第一に、憲法上明文で公権力主体の作為義務が規定されている場合
第二に、憲法の解釈上、公権力主体の作為義務が導き出される場合
第三に、公権力主体の作為義務が法令で具体的に規定されている場合
等を包括していると見ることができる(憲裁2004.10.28. 2003憲マ898, 判例集16-2下,212, 219)。
イ.被請求人の作為義務
もし、公権力の主体に、上のような作為義務がなければ、憲法訴願は不適法になるので、この事件で被請求人に、上のような作為義務が存在するかを検討する。
この事件の協定は、憲法によって締結・公布された条約として、憲法第6条第1項に従って国内法と同じ効力を有する。ところで、上の協定第3条第1項は、「この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする」、同条第2項は、「1の規定により解決することができなかった紛争は、いずれか一方の締約国の政府が他方の締約国の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から30日の期間内に各締約国政府が任命する一人の仲裁委員と、こうして選定された二人の仲裁委員が当該期間の後の30日の期間内に合意する第三の仲裁委員または当該期間内にその二人の仲裁委員が合意する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員との三人の仲裁委員からなる仲裁委員会に決定のため回付するものとする」 と、それぞれ規定している。

上の紛争解決条項によれば、この事件の協定の解釈に関して、韓国と日本間に紛争が発生した場合、政府はこれに従い、一次的には外交上の経路を通して、二次的には仲裁によって解決するように述べているが、これが前で見た「公権力主体の作為義務が法令に具体的に規定されている場合」に該当するかを見る。

請求人らは、日帝によって強制的に動員され性的虐待を受け、慰安婦としての生活を強要された「日本軍慰安婦被害者」として、日本国に対して、それに因る損害賠償を請求したが、日本国はこの事件の協定によって、賠償請求が すべて消滅したとし、請求人らに対する賠償を拒否している反面、韓国政府は前に見たところのように、請求人らの上の賠償請求権は、この事件の協定によって解決したのではなく、まだ存続するという立場なので、結局、この事件の協定の解釈に関して、韓・日間に紛争が発生した状態である。

韓国憲法は、第10条で「 すべての国民は、人間としての尊厳及び価値を有し、幸福を追求する権利を有する。国家は、個人の有する不可侵の基本的人権を確認し、これを保障する義務を負う」と規定しているが、それゆえに人間の尊厳性は最高の憲法的価値であり、国家目標の規範として すべての国家機関を拘束し、よって国家は人間の尊厳性を実現すべき義務と課題を負わされていることを意味する。従って人間の尊厳性は、「国家権力の限界」として、国家による侵害から保護されるべき個人の防御権であるのみならず、「国家権力の課題」として、国民が第三者によって人間の尊厳性を脅かされる時、国家はこれを保護する義務を負う。

また、憲法第2条第2項は、「国家は法律が定めるところにより、在外国民を保護する義務を負う」と規定しているところ、このような在外国民保護義務に関して憲法裁判所は、「憲法第2条第2項で規定した在外国民を保護する国家の義務により、在外国民が居留国にいる間受ける保護は、条約その他の一般的に承認された国際法規と当該居留国の法令によって享受できる、あらゆる分野における正当な待遇を受けられるよう、居留国との関係において国家が行う外交的保護と、国外居住国民に対する政治的な考慮から、特別に法律で定めて施す法律・文化・教育、その他の諸々の領域での支援を意味するものである」と判示することにより(憲法裁判所1993.12.23. 89憲マ189, 判例集5-2,646)、国家の在外国民に関する保護義務が、憲法から導き出されるものであることを認定したことがある。

一方、韓国憲法は、前文で「3.1運動で建立された大韓民国臨時政府の法統」の継承を明らかにしているところ、たとえ韓国憲法が制定される前のことだとしても、国家が国民の安全と生命を保護すべき最も基本的な義務を遂行出来なかった日帝強制占領期に、日本軍慰安婦として強制動員され、人間の尊厳と価値が抹殺された状態で、長期間、悲劇的な人生を過ごした被害者たちの、毀損された人間の尊厳と価値を回復させるべき義務は、大韓民国臨時政府の法統を継承した今の政府が、国民に対して負う最も根本的な保護義務に属すと言えるであろう。

上のような憲法諸規定、及びこの事件の協定第3条の文言に照らしてみる時、被請求人が上の第3条に従って紛争解決の手続きに進む義務は、日本国によって強いられた組織的で持続的な不法行為により、人間の尊厳と価値を深刻に毀損された自国民らが、賠償請求件を実現できるように協力して保護すべき憲法的要請によるもので、その義務の履行がなければ請求人らの基本権が重大に侵害される可能性があるので、被請求人の作為義務は憲法から由来する作為義務として、それが法令に具体的に規定されている場合と言える。

さらに、特に、韓国政府が直接、日本軍慰安婦被害者たちの基本権を侵害する行為をしたのではないが、上の被害者たちの日本国に対する賠償請求権の実現、及び人間としての尊厳と価値の回復において、現在の障害状態がもたらされたことは、韓国政府が請求権の内容を明確にせず、「 すべての請求権」という包括的な概念を使って、この事件の協定を締結したことにも責任があるという点に注目するなら、被請求人にその障害状態を除去する行為に進むべき、具体的な義務があることを否認するのは難しい。

ウ.公権力の不行使

被請求人は、韓国政府がまず「外交上の経路」を通して紛争を解決するとしながらも、様々な外交上の方式の内、日本政府に対する金銭的賠償責任は問わない代わりに、韓国政府が慰安婦被害者たちに対し、経済的支援及び補償をする一方、日本政府に対してはより重要で根本的問題である、徹底した真相の究明、公式謝罪と反省、正しい歴史教育の実施等を持続的に要求し、国際社会から慰安婦に関する問題を持続的に提起する方式を選択したが、これは韓国政府に幅広く認定される外交的裁量権を正当に行使したものであり、この事件の協定第3条第1項の「外交上の経路」を通した紛争解決措置に当然含まれるものなので、公権力の不行使ではないと主張する。

しかし、この事件で問題になる公権力の不行使は、この事件の協定によって日本軍慰安婦被害者たちの日本に対する賠償請求権が消滅したか否かに関する、解釈上の紛争を解決するために、この事件の協定第3条の紛争解決手続きに進む義務の不履行を示すものなので、日本国に対する上の被害者たちの賠償請求権問題を度外視した外交的措置は、この事件の作為義務の履行に含まれない。また、請求人らの人間としての尊厳と価値を回復するという観点から見た時、加害者である日本国が誤ちを認定し法的責任を負うことと、韓国政府が慰安婦被害者たちに社会保障的次元の金銭を提供することは まったく違う次元の問題なので、韓国政府が被害者たちに一部生活支援等をしているからと言って、上の作為義務の履行と見ることはできない。

被請求人の主張によるとしても、韓国政府は、1990年代から日本政府に対して金銭的な賠償責任は問わないという方針を定めたし、韓・日協定関連文書の全面公開がなされた後にも2006年 4月10日、「日本側と消耗的な法的論争に発展する可能性が大きいので、これと関連して日本政府を相手に問題解決のための措置をしない」と関連団体へ回答したことがあり、この事件の請求が起こされた後に提出した書面でも、この事件の協定の解釈と関連した紛争に対しては何の措置も取らないという意思を、繰り返し表明したことがある。

一方、韓国政府は前に見たように、2005年 8月26日、「民官共同委員会」の決定を通じて、日本軍慰安婦問題はこの事件の協定によって解決したと見られないと宣言したことがあるが、これがこの事件の協定第3条の外交上の経路を通した紛争解決措置に該当すると見るのは難しく、仮に該当すると見たとしても、このような紛争解決の努力は持続的に推進されなければならず、これ以上外交上の経路を通して紛争を解決できる方法がないのなら、この事件の協定第3条に従って仲裁回付手続きに進まなければならないのに、被請求人は2008年以後日本軍慰安婦問題を直接的に言及しないだけでなく、これを解決するための、特に他の計画もないというのだから、どこから見ても作為義務を履行したとは言えない。


エ.小結
そうならば、被請求人は、憲法から由来する作為義務があるのに、これを履行せず、請求人らの基本権を侵害した可能性がある。
従って、以下では本案に進んで、被請求人が上のような作為義務の履行を拒否、または怠っていることが、請求人らの基本権を侵害し、違憲であるか否かに関して検討することにする。」 続く




従軍慰安婦問題に関する韓国憲法裁判所の判決 1

2016-01-01 01:51:10 | アジア
「韓国憲法裁判所決定「慰安婦」全文(2011年8月30日)
憲法裁判所 決定

【事件】   2006 憲マ 788 大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定第3条不作為違憲確認
【請求人】 別紙1. 請求人目録の通り
      代理人 別紙2. 請求人代理人目録の通り
【被請求人】外交通商部 長官 (訳者註:日本の外務大臣に相当 日本の外務大臣に相当 日本の外務大臣に相当)
      代理人 法務法人 ファウ

      担当弁護士 金ソンシク、黄サンヒョン、崔ユナ、朴シネ


主文
請求人らが日本国に対して有する日本軍慰安婦としての賠償請求権が、「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」第2条第1項によって消滅したか否かに関する韓・日両国間の解釈上の紛争を、上の協定第3条が定めた手続きに従って解決しないでいる被請求人の不作為は、違憲であることを確認する。


理由

1.事件の概要及び審判 事件の概要及び審判 事件の概要及び審判対象

ア.事件の概要
(1) 請求人らは、日帝により強制的に動員され性的虐待を受け、慰安婦としての生生活を強要された「日本軍慰安婦被害者」たちである。被請求人は外交、外国との通商交渉及びそれに関する総括・調停、国際関係業務に関する調整、条約その他の国際協定、在外国民の保護・支援、在外同胞政策の樹立、国際情勢の調査・分析に関する事務を管掌する国家機関である。
(2)大韓民国は 1965 年 6 月 22 日、 日本国との間に「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」(条約第 172 号、以下「こ
の事件の協定」とする)を締結した。
(3)請求人らは、請求人らが日本国に対して有している日本軍慰安婦としての賠償請求権が、この事件の協定第2条第1項によって消滅したか否か関して、日本国は上の請
求権が上の規定によって すべて消滅したと主張し、請求人らに対する賠償を拒否しており、大韓民国政府は請求人らの上の請求権は、この事件の協定によって解決したものではないという立場であり、韓・日両国間にこれに関する解釈上の紛争が存在するので、被請求人としてはこの事件の協定第3条が定めた手続きに従い、上のような解釈上の紛争を解決するための措置を取る義務があるにもかかわらず、これを まったく履行せずにいると主張し、2006 年 7 月 5 日、このような被請求人の不作為が請求人らの基本権を侵害し、違憲という確認を求める、この事件の憲法訴願審判を請求した。

イ.審判対象
この事件の審判対象は、請求人らが日本国に対して有する日本軍慰安婦としての賠償請求権が、「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」第2条第1項によって消滅したのか否かに関する韓・日両国間の解釈上の紛争を、上の協定第3条が定めた手続きに従って解決しないでいる被請求人の不作為が、請求人らの基本権を侵害するか否かである。
これと関連した上の協定の内容は、次の通りである。


[関連規定]
○ 大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定(条約 第 172 号、1965. 6.22. 締結、1965.12.18.発効)
大韓民国及び日本国は、両国及びその国民の財産並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題を解決することを希望し、両国間の経済協力を増進することを希望して、次のとおり協定した。


第1条
1 日本国は、大韓民国に対し、
(a)現在において1080億円(108,000,000,000円)に換算される3億アメリカ合衆国ドル(300,000,000ドル)に等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、本協定の効力発生の日から10年の期間にわたって無償で提供する。各年における生産物及び役務の提供は、現在において108億円(10,800,000,000円)に換算される3000万アメリカ合衆国ドル(30,000,000ドル)に等しい円の額を限度とし、各年における提供がこの額に達しなかつたときには、その残額は、次年以降の提供額に加算される。ただし、各年の提供の限度額は、両締約国政府の合意により増額されうる。
(b)現在において720億円(72,000,000,000円)に換算される2億アメリカ合衆国ドル(200,000,000ドル)に等しい円の額に達するまでの長期低利の貸付けで、大韓民国政府が要請し、かつ、3の規定に基づいて締結される約定に従って決定される事業の実施に必要な日本国の生産物及び日本人の役務を大韓民国が調達するところにおいて、充当される借款を、本協定の効力発生の日から10年の期間にわたって行なう。本借款は、日本国の海外経済協力基金により行なわれるものとし、日本国政府は、同基金が本借款を各年において均等に利用することができるのに必要な資金を確保することができるよう、必要な措置を執るものとする。
前記の提供及び借款は、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。
2 両締約国政府は、本条の規定の実施に関する事項について勧告を行なう権限を有する両政府間の協議機関として、両政府の代表者によって構成される合同委員会を設置する。
3 両締約国政府は、本条の規定の実施のため、必要な約定を締結するものとする。

第2条
1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年 9月 8日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなるということを確認する。
2 本条の規定は、次のもの(本協定の署名日までに各締約国が執った特別の措置の対象となったものを除く)に影響を及ぼすものではない。
(a)一方の締約国の国民で、1947年 8月15日からこの協定の署名日までの間に、他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益
(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって1945年 8月15日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄下に入れられたもの2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって本協定の署名日に他方の締約国の管轄下にあるものに対する措置、並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。


第3条
1 本協定の解釈及び実施に関する両締約国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決する。
2 1の規定により解決することができなかった紛争は、いずれか一方の締約国の政府が他方の締約国の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から30日の期間内に各締約国政府が任命する一人の仲裁委員と、こうして選定された二人の仲裁委員が、当該期間後30日の期間内に合意する第三の仲裁委員または当該期間内にその二人の仲裁委員が合意する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員との三人の仲裁委員からなる仲裁委員会に決定のために回付(訳者註:日本側協定文では「付託」) (訳者註:日本側協定文では「付託」) (訳者註:日本側協定文では「付託」)する。ただし、第三の仲裁委員は、両締約国のうちいずれかの国民であってはならない。
3 いずれか一方の締約国の政府が当該期間内に仲裁委員を任命しなかったとき、または第三の仲裁委員若しくは第三国について当該期間内に合意されなかったときは、仲裁委員会は、両締約国政府のそれぞれが30日の期間内に選定する国の政府が指名する各一人の仲裁委員とそれらの政府が協議により決定する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員から構成される。
4 両締約国政府は、本条の規定に基づく仲裁委員会の決定に服する。


第4条
本協定は、批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかにソウルで交換されるものとする。本協定は、批准書の交換日に効力を生ずる。

2.当事者らの主張

ア.請求人らの主張要旨

(1)日本国が、請求人らを性奴隷に追い込んで加えた人権蹂躙行為は、「醜業を行うための婦女子売買禁止に関する条約」、「強制労働禁止協約{国際労働機構(ILO)第29 号条約}」等の国際条約に違反するもので、この事件の協定の対象に含まれたことはない。この事件の協定によって妥結したのは、韓国政府の国民に対する外交的保護権のみであり、韓国国民の日本国に対する個人的損害賠償請求権は放棄されていないのである。
ところが日本国は、この事件の協定第2条第1項によって日本国に対する損害賠償請求権が消滅したと主張し、請求人らに対する法的な損害賠償責任を否認しており、 これに反して、韓国政府は 2005 年 8 月 26 日、日本軍慰安婦問題と関連し、日本国の法的責任はこの事件の協定第2条第1項によって消滅せず、そのまま残っているという事実を認め、韓・日両国間に、これに関する解釈上の紛争が存在する。

(2)この事件の協定第3条は、協定の解釈及び実施に関する韓・日両国間に紛争がある場合、外交上の経路や仲裁手続きによる解決方法を規定することにより、締約国に上の協定の解釈と関連した紛争解決の義務を負わせているから、韓国政府には上のようなこの事件の協定の解釈と関連する紛争解決のための作為義務がある。

(3)また、韓国政府としては、大韓民国臨時政府の法統を継承したことを明示している憲法前文、人間の尊厳と価値、及び国家の基本的人権保障義務を宣言している憲法第10 条、財産権の保障に関する憲法第 23 条、及びこの事件の協定の締結当事者として、行政上の信頼保護の原則に立脚した作為義務があり、憲法第 37 条第1項所定の列挙されていない基本権である外交的保護権に対応した外交的保護義務がある。

(4)ところが、韓国政府は、請求人らの基本権を実効的に保障できる外交的保護措置や、紛争解決手段の選択等、仲裁回付等の具体的な措置を取らないでいるところ、このような行政権力の不作為は、上の憲法諸規定に違反するものである。

イ.被請求人の意見要旨

(1)行政権力の不作為についての憲法訴願は、公権力の主体に、憲法から由来する作為義務が、特別に、具体的に規定され、これに依拠して、基本権の主体が、行政行為を請求できるにもかかわらず、公権力の主体がその義務を怠る場合に[のみ:訳者追加] 許容されるものだが、請求人らは、被請求人の不作為に因って侵害された自分たちの基本権が何なのかを指摘しないでいる。請求人らに対する不法行為と、その責任の主体は、日本政府であって韓国政府ではなく、政府の外交行為は広い裁量が許容されるので、この事件の協定に従った紛争解決のための国家の具体的作為義務は認定されない。
また、韓国政府は請求人らの福祉のために、力の限り努力しており、国際社会でこの問題を持続的に提起してきたことがあるので、この事件の協定第3条第1項に従った作為義務の不履行があったと見ることはできない。

(2)請求人らが主張する外交的保護権は、国際法上、他の国の不法行為に因って自国民が被った被害と関連し、その国民のために国家が自らの固有な権限として取る外交的行為、または、その他の平和的解決方式を言うのであって、その帰属主体は「国家」であるのみで、「個人」が自国政府に対して主張できる権利ではないので、憲法上の基本権とは言えない。
さらに、このような外交的保護権の行使の可否、及び行使方法に関しては、国家の広範囲な裁量権が認定され、この事件の協定第2条の解釈上からも、一方の締約国が協定の解釈と実施に関する紛争を、必ず仲裁委員会に回付すべき義務を負うものではないので、この事件の協定に従った紛争解決手段の選択は、国家が国益を考慮して外交的に判断する問題であって、具体的な外交的措置を取るべき法的義務があるとは言えない。


3.この事件の背景

この事件に関する判断をするための前提として、この事件の背景及び全体的経緯を、まず検討して見ることにする。

ア.この事件の協定

この事件の協定の締結経緯、及びその後の補償処理過程
(1)解放後、韓国に進駐した米軍政当局は、1945 年 12 月 6 日に公布した軍政法令第33 号で在韓国旧日本財産を、その国有・私有を問わず米軍政庁に帰属させ、このような旧日本財産は大韓民国政府の樹立直後である 1948 年 9 月 20 日に発効した「韓米間財政及び財産に関する最初の協定」で、韓国政府に移譲された。

(2)一方、1951 年 9 月 8 日、 サンフランシスコで締結された連合国と日本国との平和条約では、韓国に、日本国に対する賠償を請求できる権利が認定されなかったし、ただ上の条約第4条a項に、日本の統治から離脱した地域の施政当局及び住民と、日本及び日本国民間の財産上の債権・債務関係は、このような当局と日本間の特別約定で処理することを、第4条b項で日本は、前記地域で米軍政当局が日本及び日本人の財産を処分したことを有効と認定することを、それぞれ規定した。

(3)上の条約第4条a項の趣旨に従い、大韓民国及び大韓民国国民と日本国及び日本国民間の財産上の債権・債務関係を解決するために、1951 年 10 月 21 日の予備会談以後、1952 年 2 月 15 日、第1次韓・日会談本会議が開かれ、韓国と日本の国交正常化のための会談が本格的に始まって以来、7回にわたる本会議と、これにともなった数十回の予備会談、政治会談及び各分科委員会別の会議等を経て、1965 年 6 月 22 日、この事件の協定と漁業に関する協定、在日僑胞の法的地位及び待遇に関する協定、文化財及び文化協力に関する協定等、4つの附属協定が締結されるに至った。

(4)被請求人が提出した「請求権関係解説資料」によれば、第1次韓・日会談時(1952年 2 月 15 日~ 4 月 25 日)、韓国政府は「韓・日間財産及び請求権協定要綱8項」(以下「8項目」とする)を提示したが、これは、
1.韓国から搬出された古書籍、美術品、骨董品、その他国宝、地図原版及び地金、地銀を返還すること
2.1945 年 8 月 9 日現在、日本政府の対朝鮮総督府債務を弁済すること
3.1945 年 8 月 9 日以後、韓国から移替または送金された金額を返還すること
4.1945 年 8 月 9 日現在, 韓国に本社または、主な事務所がある法人の在日財産を返還すること
5.韓国法人または自然人の、日本及び日本国民に対する日本国債、公債、日本銀行券、被徴用韓国人の未収金、その他の韓国人の請求権を弁済すること
6.韓国法人または韓国自然人所有の日本法人株式、またはその他の証券を法的に認定すること
7.前記財産または請求権から発生した果実を返還すること
8.前記返還及び決済は、協定成立後即時開始し、遅くとも6ヶ月以内に終了すること
の8項目である。

(5)しかし第1次会談は、上の8項目の請求権主張に対応した日本側の対韓・日本人財産請求権主張で決裂し、以後、独島問題及び平和線問題に対する異見、「日本国による 36 年間の韓国統治は、韓国に有益なことだった」とする日本側首席代表久保田の妄言及び両国の政治的状況等から、第4次韓・日会談までは請求権問題に関する実質的議論が成り立たなかった。

(6)その後、8項目についての実質的討議が成り立ったのは、第5次韓・日会談(1960年 10 月 25 日~1961 年 5 月 15 日)だったが、8項目の各項に対する日本側の立場は、概ね、第1項に関しては、地金及び地銀は合法的な手続きによって搬出したものなので、返還の法的根拠がなく、第2、3、4項に関しては、韓国が所有権を主張できるのは、米軍政法令第 33 号が公布された 1945 年 12 月 6 日以後のものに限り、第5項に関しては、韓国側が個人の被害に対する補償問題を持ち出すことに強く反発し、韓国側に徹底した根拠の提示を要求、即ち、具体的な徴用、徴兵の人員数や証拠資料を要求するものだった。このように第5次会談の請求権委員会では、1961 年 5 月 16 日の軍事政変によって会談が中断されるまで、8項目の第1項から第5項までの討議が進行したが、根本的な認識の差を確認しただけで、実質的な意見の接近をみることには失敗
した。

(7)よって、1961 年 10 月 20 日、第6次韓・日会談が再開された後には、請求権に対する細部の議論は日程のみ消耗されるだけで、解決が遥遠だという判断の下、政治的側面からの接近が模索された。1961年11月22日、朴正熙・池田会談以後、1962 年 3月の外相会談では韓国側の支払い要求額と日本側の支払い用意額を非公式に提示することにし、その結果、韓国側の純弁済7億ドルに対して、日本側の純弁済7万4千ドル及び借款2億ドルという差異が確認された。

(8)このような状況で、日本側は当初から、請求権に対する純弁済にすると、法律関係と事実関係を厳格に調べなければならないだけでなく、38 度線の南に限定されなければならず、その金額も少なくなり、韓国側が受諾できなくなるだろうから、有償と無償の経済協力の形式を取って金額を相当程度に引き上げ、その代わりに請求権を放棄するようにしようと提案した。これに対して韓国側は、請求権に対する純弁済を受け取らなければならない立場や、問題を大局的見地から解決するために、請求権解決の枠の中で純弁済と無償支払いの2つの名目で解決することを当初は主張し、その後再び譲歩して、請求権解決の枠の中で純弁済及び無償支払いの2つの名目でするが、その金額を各々区分表示せず、総額だけ表示する方法で解決することを提議した。

(9)以後、当時の金鐘泌中央情報部長は、日本で池田日本首相と一度、大平日本外相と前後二度にかけて会談し、大平外相との 1962 年 11 月 12 日第2次会談時、請求権問題の金額、支払い細目及び条件等に関し、両国政府に建議する妥結案に関する原則的な合意を見て、具体的調整過程を経て第7次韓・日会談が進行中だった1965年 4月 3日、当時の外務部長官李東元と日本の外務大臣椎名との間で、「韓・日間の請求権問題解決及び経済協力に関する合意」が成り立ち、1965 日 6 月 22 日、名目を区分表示せずに、日本が大韓民国に一定金額を無償及び借款で支払うが、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益と両締約国及びその国民間の請求権に関する問題を、完全にそして最終的に解決することを内容とする、この事件の協定が締結された。



(10)その後、韓国政府は 1966 年 2 月 19 日「請求権資金の運用及び管理に関する法(1982.12.31. 法律第 3613 号で廃止)を制定して、無償資金の内、民間補償の法律的根拠を用意し、以後 1971年 1月 19日 「対日民間請求権申告に関する法律」(1982.12.31.法律第 3614 号で廃止)を制定して補償申請を受けたが、その対象は日帝により強制により徴用・徴兵された人の内、死亡者と、上の会談過程で対日民間請求権者として議論されて判かっていた、民事債券または銀行預金債権等を持っている民事請求権保有者に限定され、その後 1974 年 12 月 21 日 「対日民間請求権補償に関する法律」(1982.12.31.法律第 3614 号で廃止)を制定し、1975 年 7 月 1 日 から 1977 年 6 月 30 日 まで合計91 億 8,769 万3千ウォンを支給した。

(11)日本軍慰安婦問題は、この事件の協定締結のための韓・日国交正常化会談が進行した間、まったく議論されなかったし、8項目の請求権にも含まれず、この事件の協定締結後の立法措置による補償対象にも含まれなかった。


イ.日本軍慰安婦問題の提起と進行

(1)1990 年 11 月 16 日、韓国挺身隊問題対策協議会の発足と、1991 年 8 月、日本軍慰安婦被害者である金学順(1997 年 12 月死亡)の公開記者会見を通じて、日本軍慰安婦被害者問題が本格的に提起された。

(2)日本政府はそれに関する責任を完全に否認し、軍慰安婦を、民間の接客業者が軍に付き添って連れていた「売春婦」と認識していることを示唆する発言をしたが、当時中央大学教授だった吉見義明が 1992 年 1 月、日本の防衛庁の防衛研究所図書館で、日本軍が軍慰安婦徴集に直接関与した関係公文書6点を捜し出すと、その立場を大幅修正せざるを得なくなった。

(3)被害者の出現と関連資料の発掘、及び内外の世論に押されて真相調査に着手した
日本政府は、1992 年 7 月、慰安婦問題に関する政府の関与は認定したが、強制連行を
立証する資料はないという1次調査結果を公表し、1993 年 8 月 4 日、 第2次政府調査
結果と共に日本軍及び官憲の関与と徴集・使役での強制を認定し、問題の本質が重大な
人権侵害だったことを承認して謝罪する内容の、河野官房長官の談話を発表した。

(4)慰安所は 1932 年上海事変時、旧日本軍兵士によって強姦事件が多発し、現地人の反発と性病等の問題につながると、その防止策として日本海軍が設置したのが最初だった。日本軍は 1937 年 7 月から、中日戦争で兵力を中国へ多数送出し、占領地に軍慰安所を設置したが、1937 年 12 月の南京大虐殺以後、その数が増加した。これには軍人に「精神的慰安」を提供することで、いつ終わるか判らない戦争から離脱しようとする軍人の士気を振い立たせ、不満を収め、特に日本語を知らない植民地の女性を「慰安婦」として「雇用」することで、軍の機密が漏れる可能性を減らそうとする意図も含まれていた。
1941 年からアジア太平洋戦争中、日本軍は東南アジア、太平洋地域の占領地域でも軍慰安所を設置した。公文書によって確認された軍慰安所設置地域は、朝鮮、中国、香港、マカオ、フィリピン等、日本が侵略した地域である。日本軍慰安婦の数は8万から10 万、あるいは 20 万程度まで推定されており、その内 80%は朝鮮女性であったし、その他、日本軍慰安婦被害者の国籍は、フィリピン、中国、台湾、オランダ等である。

(5)これについて韓国政府は、1993 年 6 月 11 日、「日帝下、日本軍慰安婦に対する生活安定支援法(法律第 4565 号)」を制定し、日本軍慰安婦被害者たちに生活支援金を支給し始めたが、日本政府は日本軍慰安婦被害者に対する補償は、この事件の協定で既にすべて解決された状態だとして、新しく法的措置を取ることができないという立場を固守し、1994 年 8 月 31 日、軍慰安婦被害者たちの名誉と尊厳毀損に対する道義的責任として人道的見地から、個別的な慰労金や定着金を支給できるし、政府次元でない民間次元から、アジア女性発展基金の助成等を模索しようという立場を表明した。

(6)韓国、台湾等の日本軍慰安婦被害者たちと支援団体は、アジア女性発展基金の本質が日本政府の責任回避だと判断し、日本軍慰安婦被害者たちを正当な賠償の対象ではない人道主義的慈善事業の対象として見る基金に、早くから反対の立場を表明し、韓国政府は日本政府を相手にアジア女性基金の活動を中断することを要求したが、受け入れられないと、上の基金からお金を受け取らないという条件で、政府予算と民間募金額を合わせて上の基金が支給しようとした 4,300 万ウォンを、被害者たちに一時金として支給した。

(7)一方、金学順をはじめとした9人の日本軍慰安婦被害者たちは 1991 年 12 月 6日、 日本を相手にアジア太平洋戦争犠牲者補償請求をしたが、2004 年 11 月 29 日、最高裁判所で上告が棄却され、敗訴として幕が降りた。上の訴訟過程で、控訴審である東京高等裁判所は、原告らが安全配慮義務及び不法行為を根拠とした損害賠償債権を取得した可能性があるが、これはこの事件の協定第2条第3項の財産、権利及び利益に該当し、すべて消滅したと判示した。また 1992 年 12 月 25 日に提起された釜山軍隊性奴隷女子勤労挺身隊公式謝罪等請求訴訟でも、1審で一部勝訴したが控訴審で破棄され、最高裁判所で 2003. 3.25. 上告不受理決定が下された。さらに、在日韓国人・宋神道等が 1993 年 4 月 5 日 提起した軍隊性奴隷謝罪補償訴訟も、2003 年 3 月 28 日、最高裁判所で最終棄却され終結した。

(8)これに対し韓国政府は、2004 年 2 月 13 日、韓・日会談関連文書の公開を命じる判決に従って関連文書が公開されると、国務総理を共同委員長とし被請求人を政府委員とする「民官共同委員会」の 2005 年 8 月 26 日決定を通じ、この事件の協定はサンフランシスコ条約第4条を根拠とし、韓・日両国間の財政的・民事的債権・債務関係を解決するためのものであって、日本軍慰安婦問題等のような日本政府等、国家権力が関与した「反人道的不法行為」に対しては、この事件の協定によって解決したとは見られないので、日本政府の法的責任が認定されるという立場を表明した。

しかし日本政府は、下記に見る米下院の決議案採択、2008 年国連人権理事会定期検討会議の「慰安婦」問題の解決を促す各国の勧告と質疑を盛り込んだ実務グループ報告書の正式採択に対抗して、
① 河野談話を通した謝罪、
② この事件の協定を通した法的問題の解決、
③ アジア女性基金の活動等を通して、
日本軍慰安婦関連問題が完結したと主張した。」続く


慰安婦問題に関する日米間三ケ国の専門家の見解

2016-01-01 00:20:18 | アジア
ニューズウィークの記事より。

「 日韓関係で最大の懸案だった慰安婦問題を解決させるとした28日の合意について、その評価や今後の課題を日米韓の識者に聞いた。

■歩み寄り、対中関係改善にも

 《シーラ・スミス氏 米外交問題評議会上級研究員(日本政治・外交政策)》

 日韓両政府が合意にこぎ着けたのは、うれしい驚きだ。双方の立場には開きがありすぎて、妥協は難しいと思っていた。今年は国交正常化50周年であり、双方の指導者にとって年内合意が重要だったのだろう。

 合意内容には、建設的な外交の成果が見てとれる。安倍晋三首相にとっては、おわびの言葉と旧日本軍の関与を明言したことで保守派の反発を招く可能性がある。ただ、保守派の安倍政権だからこそ妥協できた面はあると思う。民主党政権では、より激しい反発を招いただろう。朴槿恵(パククネ)大統領も「最終的かつ不可逆的」という表現を受け入れた。韓国側としても、とても心地よいとは言えない内容だ。

 今後は、合意の実施に移る。両政府にとって簡単ではなく、批判も強まるだろう。悲観的になる必要はないが、手放しで楽観的でいられるわけでもない。韓国政府がソウルの日本大使館そばの慰安婦少女像の問題を完全にコントロールできるとは思えない。米国でも、韓国系住民グループによる慰安婦像の建設に対し、韓国政府が説得に動くのかどうか興味深い。

 今回の合意には、米政府は直接的な役割は果たさなかった。米国の圧力で両国が歩み寄ったという見方があるが、それは違う。少なくとも米政府の当局者たちは、最終的には日韓両国が和解しなければならない問題であり、米国が圧力をかけるのは筋違いだと見ていたからだ。

 日米韓、日中韓の二つの3カ国関係にとっても、合意の意味は大きい。安全保障上の懸案になっている日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結は、すぐには難しいだろうが、成り行きを見守りたい。日中韓では、韓国がより中立的な立場を取り戻し、関係改善に向かうだろう。これは米国にも有益だ。(聞き手・小林哲)

 ログイン前の続き    ◇

 専門は日本政治・外交政策。米コロンビア大学で博士号(政治学)を取得。ボストン大などを経て現職。東大、慶大、琉球大でも研究した経験がある。

■新財団は被害者の意見尊重を

 《鄭鉉柏氏 韓国・成均館大教授(歴史学)》

 今回の合意は、過去よりも多少進展があったが、法的責任が明記されていないのは残念だ。依然、被害者らが反発している点にも注目すべきだ。過去の歴史を清算する過程では、まず被害者の意見が重要だ。被害者たちの理解と納得、受け入れが先行しなければならない。

 韓国政府が少女像の移転について、被害者や女性団体との協議なしに外交交渉で議論して発表したことは正しくない。政府の一方的な交渉に対し、韓国の市民社会は怒っている。

 合意で日韓が新たに設立する財団を通じたお金の使い道は、まず被害女性たちの意見を聴き、それに従うべきだ。韓国政府は現在、被害者支援財団の設立を急いでおり、市民団体の反発を招いている。市民団体は、基金を使った財団について、適切ではない人々が起用され、政策が決められることを懸念している。

 女性団体は、「民族の恥を表に出すな」という韓国男性の圧力のなか、戦争による女性の人権侵害問題を国際社会に告発した。これは韓国社会が民主化したからこそ可能だった。

 韓国挺身隊(ていしんたい)問題対策協議会(挺対協)の運動が民族主義的な傾向を持っている、という評価は正しくない。すでに挺対協は、慰安婦問題が韓日間の問題だという認識を超え、世界各地の戦争や内乱の際に起きる女性暴力との闘いに、活動の中心を移しつつある。

 今回の慰安婦問題合意が高度の政治判断であることは事実だ。「年内妥結」を公言した朴槿恵大統領の功績を実現するためでもあった。米国の要求を受け入れた面もある。慰安婦問題という人権問題を、韓日政府がそのように政治的に利用したことを遺憾に思う。(聞き手・牧野愛博)

     ◇

 1953年生まれ。「韓国女性団体連合」「21世紀女性フォーラム」など女性の人権問題を扱った市民運動で長く活躍。86年から現職。現在、「市民団体連帯会議」や「市民平和フォーラム」の共同代表も務める。

■足りない被害者との対話、補う相当な努力必要

 《吉沢文寿氏 新潟国際情報大教授(朝鮮現代史)》

 慰安婦問題は、1965年の国交正常化時に日韓政府が置き去りにした戦争被害者の人権回復が根本だ。にもかかわらず、今回も両政府が元慰安婦の女性たちと対話した形跡はない。50年前、日米韓三国の「反共同盟」強化を優先し、政治家・官僚主導で合意を強行したことが今日の問題を招いた、という歴史的省察がなされていない。

 日本政府はアジア女性基金の反省を踏まえ、民間からの募金ではなく、日本の国家予算で事業を進めることを約束した。とはいえ、今回の日韓合意を意味あるものとするならば、被害者との対話など、足りない部分を補う相当な努力が必要だ。

 被害者が何よりも求めているのは金銭ではなく、誠意だ。韓国政府ばかりに説得を任せるのではなく、日本側もどのような事実に責任があるのかを、被害者に対して明確に伝える必要がある。この問題を真摯(しんし)に考えるなら、安倍首相は「代読」の謝罪ではなく、パフォーマンスと非難される覚悟で訪韓し、被害者に向かって自らの言葉で直接伝えてほしい。

 被害者に対して「これしかないから受け入れなさい」と言うことは、和解を強要するハラスメントになる。ソウルの日本大使館前の「平和の碑」(いわゆる少女像)の移転にメディアの関心が集まっているが、目障りだから消したいのではないかと受け取られれば、被害者の不信感は募るばかりだ。この問題を前面に持ち出すと、事業は進まなくなるだろう。(聞き手・武田肇)

     ◇

 朝鮮現代史専攻。日韓国交正常化の過程を研究し、近著に「日韓会談1965――戦後日韓関係の原点を検証する」がある。「日韓会談文書・全面公開を求める会」の共同代表。」

http://digital.asahi.com/articles/ASHD003SKHDZUHBI028.html?rm=841#Continuation

慰安婦問題決着に関するBBCの批判

2015-12-28 18:33:06 | アジア
"Japan and South Korea have reached a historic deal to settle the issue of "comfort women" forced to work in Japanese brothels during World War Two.

Japan offered an apology and will pay 1bn yen ($8.3m, £5.6m) to a South Korean-administered fund for victims.
The issue has long strained ties, with South Korea demanding stronger apologies and compensation for victims.
The agreement represents the first deal on the issue since 1965 and comes after both sides agreed to speed up talks.
The announcement comes after Japan's foreign minister Fumio Kishida arrived in Seoul for discussions with his counterpart Yun Byung-se.

After the meeting Mr Kishida told reporters that Prime Minister Shinzo Abe offered a heartfelt apology.
"Abe, as the prime minister of Japan, offers from his heart an apology and reflection for everyone who suffered lots of pain and received scars that are difficult to heal physically and mentally," he said.

South Korean activists for comfort women have been holding weekly demonstrations outside the Japanese embassy in Seoul
Japan will give 1bn yen to a fund for the elderly comfort women, which the South Korean government will administer
The money also comes with an apology by Japan's Prime Minister Shinzo Abe and the acceptance of "deep responsibility" for the issue

South Korea says it will consider the matter resolved "finally and irreversibly" if Japan fulfills its promises
South Korea will also look into removing a statue symbolising comfort women, which activists erected outside the Japanese embassy in Seoul in 2011

Both sides have agreed to refrain from criticising each other on this issue in the international community
Up to 200,000 women were estimated to have been forced to be sex slaves for Japanese soldiers during WW2, many of them Korean. Only 46 of them are still alive in South Korea.

Other women came from China, the Philippines, Indonesia and Taiwan.
Japan had previously acknowledged its responsibility for sex slaves in a 1993 statement by the then-chief cabinet secretary Yohei Kono.
Japan had also resisted giving greater compensation, arguing that the dispute was settled in 1965 when diplomatic ties were normalised between the two countries and more than $800m in economic aid and loans was given to South Korea.
A private fund was also set up in 1995 for the victims and lasted for a decade, but money came from donations and not from the Japanese government."

http://www.bbc.com/news/world-asia-35188135

慰安婦問題の「外交的決着」によせて

2015-12-28 18:12:33 | アジア
 個人的意見は以下の通り。

 慰安婦問題等歴史問題の本質は、日本側に於いては自らの加害の事実をどれだけきちんと理解し、反省に立って政治や外交の理念を再構築する所にあると思う。

 それができていなければ千回外交的決着を行っても、信頼は生まれないし、何より日本人自身まともな政治を実現できない。

 今回の外相会談では、慰安婦について旧日本軍の関与を改めて政府が確認し、「責任」があることを明言した点は進歩だが、慰安婦問題を引き起こした政治や軍のあり方の問題をきちんと総括し、それを政治に生かさなければ、全く無意味なこととなろう。

 最もこれだけではわかりにくいと思われるので、意味のある決着というものを考えてみたい。
 
 まず植民地支配と戦争に突き進んだ天皇制軍国主義国家の政治体制の問題点を徹底して明らかにする必要がある。市民的自由と権利-それは明治維新や自由民権で人々が求めたものだったが-を奪って作り上げられた明治国家は、市民をただ「臣民」として奴隷化し、都合よく産業と軍事に使える道具に転化した。

 それへの抵抗は「民本主義」運動-大正デモクラシー-や、左翼の革命運動となってあらわれたが、十分な成果を生むことなく、帝国主義的権益の拡大と軍事国家としての発展に、国民は巻き込まれ、そしてそれを誇りにするよう教育されるとともに、自らも誇るに至った。

 貧困に喘ぎながら帝国主義の「一等国家」を誇る国民のメンタリティーは、植民地支配を通じて形成されたタのアジアの人々、中でも朝鮮人や中国人への差別と偏見で代償された。

 慰安婦問題はこのような政治構造の中で生み出されたものである。

 真の慰安婦問題の解決とは、このような政治構造を徹底批判し、それに変わる政治を実現することだ。

 即ち人権と市民的自由を国内(まずは)で確立することを立国の基本に置き、労働者にまともな労働条件・生活条件を実現し、アジア諸国に対する見方を一変するため教育を徹底的に改変するとともに、意識を変えにくい中高年以上に対しても、テレビ・ネットや社会教育を通じて教育を徹底する。

 古い地域のしがらみという恊働組織を、人権の尊重と、そこでの個人の尊重に起訴を置いた市民的社会へ転換する。

 植民地支配の徹底批判とそこで形成された植民地主義的差別意識を自覚させ、それを克服する教育と実践が必要になる。

 これは国内では被差別問題や在日朝鮮人差別、そして女性差別や政敵少数は差別の克服につながるであろう。

 また労働者の連帯は当然のことであり、政府官僚による労働者敵視政策は大きく転換される必要がある。

 あれこれ書き出すときりがなくなるが、人が人らしく生きることができる社会、自分の言いたいことを自由に言える社会にすることが基本的な目標である。

 慰安婦を生み出した政治はそれと対極にあったのではなかろうか。

慰安婦問題に関する日韓外相記者会見/産經新聞

2015-12-28 18:06:26 | アジア
「 尹炳世外相 みなさまこんにちは。本日私は岸田外務大臣と会談を開き、日本軍慰安婦被害者問題をはじめとする両国間の懸案および関心事について深みのある協議を持ちました。まず年末の忙しい日程であるにもかかわらず、岸田外務大臣におかれまして、本日この会談のために訪韓してくださいましたことについて、感謝を申し上げたく思います。皆さまもご承知のとおり、韓国政府は韓日国交正常化50周年を迎えまして、両国間において核心的な過去の歴史的な懸案である日本軍慰安婦問題の早急な解決のために積極的に努力してまいりました。特に11月2日、韓日首脳会談においては朴大統領と安倍総理におかれまして、今年が韓日国交正常化50周年といった転換点にあたる年という点を念頭において、なるべく早期に慰安婦被害者問題を妥結するための協議を加速化しようという政治的決断を下してくださり、それ以降、局長レベル協議を中心として、この問題に対する両国間の協議を加速化してまいりました。

 昨日ございました12回目の局長レベル級協議を含めまして、これまでの両国間の多様なチャンネルを通じた協議の結果を土台に、本日岸田外務大臣と全力を尽くして協議をした結果、両国が受け入れうる内容の合意に達することができました。本日この場でその結果を皆さまに発表させて頂きます。

 岸田外務大臣におかれまして本日の合意事項に対して日本側の立場を述べられ、引き続きまして私の方から韓国政府の立場を発表させて頂きます。

 ◇

 岸田文雄外相 はい。まず、日韓国交正常化50周年の年の年末にソウルを訪問させていただき、尹炳世長官との間において大変重要な日韓外相会談を開催できましたことをうれしく思っております。

 日韓間の慰安婦問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、日本政府として、以下を申し述べます。

 (1)慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。

 安倍(晋三)内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。

 (2)日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒す措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心を傷の癒しのための事業を行うこととする。

 (3)日本政府は上記を表明するとともに、上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。

 あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

 なお、先ほど申し上げた予算措置については、規模としておおむね10億円程度となりました。以上のことについては、日韓両首脳の指示に基づいて行ってきた協議の結果であり、これをもって日韓関係が新時代に入ることを確信しております。私からは以上です。

 尹氏 次は本日の合意事項に対しまして、韓国政府の立場について私より発表させて頂きます。

 韓日間の日本軍慰安婦被害者問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、韓国政府として、以下を申し述べる。

 (1)韓国政府は、日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し、日本政府が上記(1)、(2)で表明した措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する。

 (2)韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体ととの協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する。

 (3)韓国政府は、今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

 以上をもちまして、韓国政府の立場について申し上げました。

 韓日、日韓国交正常化50周年である今年が過ぎ去る前に、岸田外務大臣とともに、これまで至難であった交渉にピリオドを打ち、本日この場で交渉の妥結宣言ができますことを大変うれしく思います。今後、このたびの合意のフォローアップが着実に履行され、厳しい忍耐の歳月を耐えてこられた日本軍慰安婦被害者の方々の名誉と尊厳が回復され、心の傷が癒やされることを心より祈念いたします。同時に、韓日・日韓両国間でもっとも困難で厳しい過去の歴史懸案であった日本軍慰安婦被害者問題交渉が仕上げられることをきっかけとしまして、新年においては韓日両国が新しい心でもって新しい韓日関係を切り拓いていくことが出来ることを衷心より祈念いたします。ありがとうございました。」

慰安婦問題に関する日韓外相会談に関する公式発表/日本国外務省

2015-12-28 18:02:04 | アジア
「1 岸田外務大臣

 日韓間の慰安婦問題については,これまで,両国局長協議等において,集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき,日本政府として,以下を申し述べる。

(1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。
 安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

(2)日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

(3)日本政府は上記を表明するとともに,上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で,今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
 あわせて,日本政府は,韓国政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。

2 尹(ユン)外交部長官

 韓日間の日本軍慰安婦被害者問題については,これまで,両国局長協議等において,集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき,韓国政府として,以下を申し述べる。
(1)韓国政府は,日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し,日本政府が上記1.(2)で表明した措置が着実に実施されるとの前提で,今回の発表により,日本政府と共に,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は,日本政府の実施する措置に協力する。

(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。

(3)韓国政府は,今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で,日本政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。」

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html