マライヤで「アンダーバテン」が確立し、ハンググライダーは更にアスペクトレシオを高め、ダブルサーフェースも大きくなり、瞬く間に三角形の「ロガロ翼」から、ブーメラン型のハンググライダーと、ほぼ現在と外形が変わらない形状にまで進化してしまいました。
それ以後は、性能をあげようとアスペクトレシオをあげても、既にそれが限界へと来ていたので、ハンドリングや高速性能に悪影響が出てしまい、結局、良いグライダーにはならなかったのです。
そこで次に出てきた技術的進化は「VG」でした。
VGはご存知のように、飛行中にセールの張りを変えて滑空比や高速性能を変えるものです。
それでは、なぜVGがグライダーの性能を変えるかというと‥。
ハンググライダーは、コントロール性を出すにはセールがある程度緩んでいなければいけません。これを「ビロー」というのはご存知ですよね。
しかし、コントロール性が良好な状態のセールは、翼の迎角が中央部と翼端でずいぶん違いがあるため、翼としてはあまり効率が良く働かないのです。
翼は、最も効率よく働いてくれる「角度」が存在し、なるべくその角度で飛行する方が滑空比が上がります。
VGは、飛行中セールを張ることにより、なるべく翼の多くの領域を、その一番効率の良い角度に近づけ、性能をあげているのです。
このVGは、私が調べた範囲では、市販機に最初に登場したのは、アメリカのUPが作った「コメット」というグライダーだったようです。
この機体は1981年、日本の別府で行われたハングの世界選手権に参加しており、面白いことに、当時VGは「空力操縦装置」とみなされて、クラス2、つまり固定翼に分類されていたそうです。
VGはその効果が大きく、瞬く間に他のハンググライダーに装備されるようになりました。
しかし、中にはウイルスウイングのように、ずっと後まで採用しなかったメーカーも存在しました。
その理由は、ハンドリングが最もよくなるセールの張りにすると、結局、その位置が最良滑空になったため、装備として必要ないと考えたからです。
おそらく、当時のハンググライダーは、VGはもちろんその効果は認められていたものの、スパーもまだ細く、VGを張っても翼が剛性負けしてしまい、現在のように劇的な性能向上は感じにくかったのでしょう。
VGが付いたことにより、ハンググライダーはまた進化しましたが、ここでも困った問題が出てきました。
それは「ピッチ安定」です。
この連載の初回でもご説明しましたが、翼の前の部分と後ろの部分の角度差が大きいほどピッチ安定は向上します。
VGはその角度の差を少なくする機構ですから、当然ピッチ安定は無くなってきます。
しかし、その問題をうまく解決したのは「ラフラインのセッティング」でした。
そして、このとき確立したラフラインのセッティングは、実は今のツノなしグライダーでも生かされています。
次回はそれについてご説明します。