脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

優勝、フロックではないこの力 -vs三洋洲本-

2011年09月12日 | 脚で語る奈良クラブ
 関西リーグがいよいよ再開。奈良クラブは、後期第12節ということで先週の天皇杯1回戦で敗戦を喫した三洋電機洲本と三木防災陸上競技場にて対戦。7-0という圧倒的なスコアで完勝。Div2を優勝して以来2年ぶりとなるリーグ優勝で、Div1は昇格してから2年目にして初優勝。昨季の王者からリーグ王者のタイトルを奪取することに成功した。

 

 5月にリーグ戦の前期で五色にて戦い、初めて三洋洲本から白星を挙げた奈良クラブ。8月には、この日と同じ三木防災のスタジアムで、「奈良県選抜」と「兵庫県選抜」として対戦。0-2のビハインドからアディショナルタイムに追いつき、PK戦では日野の大活躍もあって勝負には勝った。しかし、この2勝を遥かに忘れさせてくれる強さを取り戻して、昨季の王者は先週奈良クラブの前に立ちはだかった。雨の橿原でのあの敗戦は、1-3というスコア以上に、昨季JFL入替戦まで進んだ三洋洲本の屈強さを見せつけてくれた。それはまるで「お前らの実力なんてフロックだよ」と訴えるかの如きものだった。

 
 この大一番で檜山が大活躍を見せてくれた。

 1週間後の再戦となったが、やはり脳裏にはこの天皇杯での敗戦がすぐに想起され、順位こそ奈良の方が上であるものの、逆に「挑戦者」という形は否めなかった。選手たちのメンタルに三洋洲本に対する変な苦手意識が植わっていないか少し心配にもなったが、こんな考えが全く杞憂だと思わせてくれるのに時間はかからなかった。
 奈良クラブは、先週の天皇杯で矢部が負傷し、この試合では蜂須賀が5試合ぶりの先発で中盤に入った。選手層の薄さもあるが、結果的に大幅なテコ入れなど不要。この日は選手たちの気迫が違った。まず9分に辻村剛が易々と先制点となるシュートを決める。先週は立ち上がりの同じ時間帯に先制点を許し、試合の流れに大きく響いた。序盤から不安定な入り方をする悪癖がここ最近では目立っていたため、この先制点は序盤からチームを上昇気流に乗せてくれた。4分後には、蜂須賀がエリア手前左手から左足で豪快にシュートを決める。これでかなり楽になったが、33分には再び辻村剛がGKとの1対1を制して3点目を決めた。前半を3-0で折り返せるとは良い意味で想定外だった。

 
 前半、チームに勢いをもたらした辻村剛。
 さすが関西Div2の得点王。得点力は非凡。

 とにかく面白いようにパスが繋がる。相手のプレッシャーが緩いわけではないが、先週の三洋洲本に比べると少し元気が無いようにも思えた。しかしながら、先週の天皇杯でもシュート数では15対8と奈良クラブが上回り、決定機はいくらでも作れていた。ポストやバーに3本ほど嫌われた場面があったが、もしかしたら「運」の有無ということで、あの敗戦は片付けられるのかもしれない。それぐらいの勢いでパスワークの精度に圧倒的な差を見せて、後半も奈良クラブは得点を重ねていった。
 後半開始直後に檜山がシュートを決める。牧との完全に息の合ったパスコンビネーションで三洋洲本の守備陣を崩した。この4点目が既に試合を決めたといえるが、ピッチの中で走る選手たちは更にゴールを渇望する。後半に入ってギアが全開になってくるいつものサッカーはこの試合でも健在。ダイレクトパスがこれほど相手エリア前で繋がれば負けることはない。83分には、途中出場で右サイドの高い位置でプレーしていた浜岡が檜山の折り返しを中央で決め5点目を奪う。88分には同じく途中出場の黒田も今季初得点となるシュートを決めた。アディショナルタイムに入ってラストワンプレーというところで檜山がとどめの7点目を決めて試合は終了。初のDiv1優勝を派手な得点劇で締め括った。

 
 今ではすっかり古参選手だが、蜂須賀は今季最高のプレー。
 待ちに待った今季初得点を決めてくれた。

 先週の試合を振り返ると、「気迫」という言葉でしか勝因を分析できないような見事な大勝劇。そして同時に最後までワクワクさせてくれたエンターテイメントとしても最高の試合だった。浅野や成瀬という主力選手が帰還して昨季のメンバーが復活した三洋洲本にこの完璧な試合運びは、一体リーグ戦以外の夏の苦戦の連続は何だったのかと悩ましくさせてくれると共に、これから「地域決勝」というチーム未踏の舞台へと挑戦する強い意志表明にも思えた。ピッチで戦う選手の誰もがJFLを目指してプレーしている。一つ一つのプレーでもう一つ上のレベルを意識してやってくれているようだった。「今年はチームのほとんどが仕事を変えたり、生活水準を落としてまでサッカーに賭けていたので、自分の中では優勝して当然やし、正直なんの驚きもありませんでした。」と辻村剛が公式でコメントを残しているように、皆がここでのサッカーに人生を懸けている。その結果が気持ちとして、プレーとして最大の結果をもたらしたのだろう。本当にサポートする側として敬意を表すると共に、選手たちを労いたい。

 
 奈良クラブの司令塔としてパスワークの中心に君臨する李。
 ノッている時のキープ力は凄まじい。

 さて、2試合を残しての優勝を果たしたが、来月は全社出場を逃したチームにとっては公式戦の激減する期間となる。勝負はここからだ。リーグ戦は「無敗」に拘って残り試合に挑んで欲しいし、これ以上のブラッシュアップを地域決勝までに求められる。正直、リーグで戦っているどのチームよりも強豪が集まるこのカテゴリー最大の舞台。全国の強豪クラブと比較しても、3年前の府県決勝を勝ち上がった際のような突出した強さはここでは期待できないだろう。どれだけ「勝利」に拘れるか、この試合のようなメンタルを発揮して挑んでいかなければならない。


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5 コメント

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まずは (王寺サポ)
2011-09-13 11:18:24
無事優勝決定、および地域決勝出場決定を心から喜びたいです。チーム体制変更で挑んだ今シーズン、ひとまず最小限の結果は残せてよかったです。辻村選手のコメント、今年はチームの強化費が増えた一方で選手個々の生活水準は低下してたのですね…。そんな中頑張ってきた選手たちに改めて敬意を評したいです。
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Unknown (yoshi:D5)
2011-09-14 12:53:54
>王寺サポさん

コメントありがとうございます。

やはり午前練習をこなすチームになったことで、選手たちもサッカーに徹しながら厳しい生活を過ごしていると思います。戦績もそうですが、同時に選手の生活をきちんとサポートしていけるクラブ体制を作っていくのがこれから課題でもありますね。
ひとまず、リーグ優勝できてほっとしていると思いますが、きっちり残り2試合をいつも以上に内容にこだわってやって欲しいと思います。
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JFL (王寺サポ)
2011-09-15 22:41:58
選手の生活レベルですが、JFLの他チームでは今の奈良クラブのようなスタンス(午前に練習+午後から仕事)のチームは少ないのでしょうか?やはりプロ契約に近いスタンスのチームが多くなるのですか?
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Unknown (yoshi:D5)
2011-09-16 00:44:51
>王寺サポさん
コメントありがとうございます。

JFLでも夜間練習のチームは多いですよ。
例えば、近場でしたらMIOびわこ草津などは夜間の練習で昼間に選手たちは仕事をしているようです。
しかしながら、全員とはいかないまでも、プロ契約を多数揃えるJリーグ予備軍のチームも多いのは事実。これら両方の特色を持ったチームが群雄割拠しているのがJFLです。しかもかなりレベルが高い。ちなみに奈良クラブが2年連続で煮え湯を飲まされている佐川印刷は、企業チームながら午前練習を行っていますね。
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雇用情報 (王寺サポ)
2011-09-16 07:41:30
詳細ありがとうございました、やはりJFLとなるとサッカーのレベルだけでなく選手の雇用契約の面も進化してるのですね。プロチームに至るまでの過程が如何に大変か痛感しました。
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