ユーロスペースで「ヴァタ~箱あるいは体~」を見てきました(この映画館での上映は終了しています)。
マダガスカルの死生観に魅せられた日本人監督が撮影した映画です。高校時代からマダガスカルの音楽に魅せられてきた亀井岳監督は、この映画を全編マダガスカルロケで、マダガスカル人のキャストのみで製作しています。ちなみにヴァタとはマダガスカル語で「箱」あるいは「体」を指しています。そして、この映画では「箱」には楽器の箱、遺骨を入れる箱の二つの意味があるようです…(以下、ネタバレ気味です)。
少年タンテルが出稼ぎ先で亡くなった姉ニリナの遺骨をルールにのっとって持ち帰るよう長老に命じられ、付添の3人の男たちとともに旅に出ます。無事に遺骨を故郷に持ち帰ることができれば、ニリナは「祖先」になることができるということなのですが…。4人は楽器を鳴らし、歌を歌いながら旅を続けます。実はこの4人は全員、音楽経験があり、なかでも離れ小屋の親父役のサミーはマダガスカルを代表するミュージシャンとして「大海原のソングライン」にも出演しています。彼らは途中、出稼ぎに行ったまま行方不明になった家族を探すルカンガの名手・レマニンジに遭遇します。4人ははたして遺骨を無事に持ち帰ることができるのか、はたまたレマニンジは家族を見つけることができるのか…。
映画はロードムービー風の展開ですが、後半になってマジックリアリズム的な要素も加わり、どことなくアピチャッポン監督の映画も彷彿とさせます。マダガスカルの美しい自然、現地の素朴な人々…さながら現地を旅しているような気分になりました。独特の色彩も音楽も素晴らしい。そして、この映画では音楽が重要な役割を果たしています。音楽はマダガスカルの死生観とも重なります。楽器は箱でその中には記憶があり、箱を通じて死者とも会えるのだと。マダガスカルでは、人生は永遠に続き、死はその通過点に過ぎないのだそうです。そして、音楽によって祖先と交わるのだと。ラストに焚火を囲んで生者と死者が共に歌い踊ります。トランス状態に入ったような演奏と踊りが圧巻でした。やはり生と死は地続きにあるのかもしれません…。
世界にはまだまだ見たこともない風景や聴いたことのない音がたくさんある…日本からマダガスカルは遠いですが、映画のおかげでこうしてかの地の光や音を感じることができます。映画って本当に世界に開かれた窓ですね…。