ビデオリサーチが、TBSドラマ「半沢直樹」の最終回(第10話)の視聴率を発表した。最終回の平均視聴率は42.2%で、松島菜々子がニヒルな家政婦を演じた「家政婦のミタ」を越えたことが分かった。まさしく、今世紀最高の視聴率を記録した「半沢直樹」は、多くの人の支持を得たドラマだということになった。単なる銀行と言う舞台だけではなく、社会とは?人間の生き方とは?組織人の価値観とは?友情とは?家庭愛とは?等の色んな側面を、実にリアルに訴えかけたドラマだったという思いがする。単なる社会組織である銀行というものだけを視点にとらえていたのでは、これほど多くの方の支持は得られなかっただろうと思う。見ていて、実に痛快だし、これほどグイグイ迫ってくるドラマを見たことがない。毎週、次回作を待ち焦がれていたことも、破格のドラマだったということなのである。次の展開が待ち遠しくてたまらない作品は、私の場合、「巨人の星」だった。まあ、これはスポ根アニメであったが、実にいい場面で終わり次を待ち焦がれたものだ。それと同じ感じを受けた。これほど次週を早く見たいと思ったドラマは皆無であった。次はどうなるのかなあ、と関心を持つことはあっても待ち焦がれるということは無かった。そんな意味では、実に数十年ぶりに待ち焦がれたドラマだったということになる。
「夏は最も視聴率が取れない魔の季節」という業界の常識を吹き飛ばし、記録的なドラマブームを作った今クール。『あまちゃん』が着火したドラマ熱に乗って、初回視聴率15%強の作品が半数を超え、なかでも『半沢直樹』は全話平均28.7%、最終回42.2%の驚異的な記録を残し、今世紀最高視聴率である『家政婦のミタ』(40.0%)超えを果たした。
なぜ『半沢直樹』は、今世紀最大のヒット作になったのか? 「視聴率や俳優の人気は一切無視!!」の連ドラ評論家・木村隆志が分析する。
今クールは、前回コラム「夏ドラマ全作品を初回視聴&ガチ採点!」で書いたように、こだわりのキャスティングや、「正義vs悪の真っ向バトル」を描いた作品が目立ったが、なかでも狙いが全てハマったのが『半沢直樹』。大ヒットには、5つの理由があった。
【ヒットの理由1 鮮度とエンタメ性】
“民放連ドラ初”の池井戸潤原作であり、「年に1本あるかどうか」のビジネス界を真っ向から描いた骨太作品で、視聴者に「これは他のドラマと違うぞ」という新鮮な印象を与えた。さらに視聴者の目を釘づけにしたのは、勧善懲悪を追求した演出。年代性別を問わず理解できる対立の図式や、半沢の大胆さ&躍動感を表現したカメラワークなど、リアリティよりもエンタメ性を重視した作品に仕上げた。
【ヒットの理由2 舞台系+意外な適役キャスティング】
堺雅人、香川照之に加え、石丸幹二や吉田鋼太郎ら演劇界の大スターを引っ張り出して、舞台役者らしい押しの強い演技を披露させた。さらに、統合失調症での休職歴がある同期の滝藤賢一、オネエ金融庁検査官の片岡愛之助、机バンバン小悪党上司の緋田康人、チンピラ風社長の宇梶剛士、愛人役の壇蜜など、演技力以上に適役重視で抜てき。事務所やスポンサーの力など制作側の都合ではなく、“作品と視聴者の利益重視を貫いた”ことが功を奏した。
【ヒットの理由3 “連続ドラマ”への回帰】
ここ数年、刑事モノなどの事件解決ドラマが半数を占めるようになり、他ジャンルの作品も安定した視聴率を取れることから、一話完結型の作品が増えた。ただそれらは、「いつでも気軽に見られる反面、数話見逃しても平気」なもので、愛着はそれほど持てない。一方、『半沢直樹』は、「続きが気になる」「リアルタイムで見たい」「翌日、職場や学校で話したい」という衝動を呼ぶ“連続ドラマ”らしい作品。一話完結型に飽きていた視聴者の支持を獲得した。
【ヒットの理由4 日曜21時枠の底力と親和性】
日曜21時は、「明日の仕事に備えて寝る前に」「遊びから帰ってきて」など、老若男女がそろってテレビを見る時間帯。さらに、55年超の歴史を持つTBS伝統枠で、ここ2年でも『JIN-仁』『南極大陸』『ATARU』『とんび』とヒットを連発している。特に他枠よりサラリーマンの視聴者層が多いとされ、半沢の姿を見て「明日から頑張ろう」と元気に、あるいは「ありえない」とツッコミを入れて楽しむ人が続出。また、ビジネス作品でもエンタメ性を高めることで、ふだんドラマの視聴率を支えている女性の心もガッチリつかんだ。
【ヒットの理由5 緻密な“クチコミ連鎖”戦略】
原作とは大きく異なる“人名タイトル”でインパクトを与え、「やられたら、やり返す。倍返しだ」のキャッチーな決めゼリフで、大量の口コミを獲得。決めセリフを「10倍返し」「100倍返し」と進化させるなどの二の矢もぬかりなし。さらに、悪役に一切の良心を持たせない、視聴後に誰かと話したくなるラストシーンなど、SNSが加速度的に盛り上がる工夫を重ねた。初回から一度も視聴率が下がらず完走したのは、「パソコンやスマホの画面を通して一緒に盛り上がりたい」というライブ感によるところも大きく、今後のドラマ作りに影響を及ぼしそう。
「100倍返し達成後の左遷」という結末に否定的な声も多いが、これは海外ドラマで定番の“クリフハンガー”という手法。視聴者の興味を引きつけたまま、その先をあれこれ想像させるもので、続編が内定している作品はこの手法が取られる。まだスタッフやキャストの確保ができていないため、「やります」とは言い切れないだけで、シリーズ化は確定だろう。
なるほど、実に緻密な分析である。「半沢直樹」の成功は、個人と言う小さな単位が、組織や社会でも大きな活躍ができるというところも大きかったと思う。所詮自分の力なんて・・・、なんて白けた世代に大きな活力を与えたんだと思う。高齢な人にも、若い人にもウケたこの作品は、色んな要素を持った素晴らしい作品だったと言えるのである。